第一話 物語のはじまりはじまり
——20××年。世界は変わった。
何の前触れもなく、突然、それは現れた。
まるで神の気まぐれのように。
ある日、太平洋のど真ん中に、それはあった。
昨日までの地図にも、歴史のどの記録にも存在しなかったはずの巨大な大陸が、まるで最初からそこにあったかのように、悠然と広がっていた。
各国の政府は混乱し、学者たちは言葉を失い、軍はただ戸惑った。
GPSは沈黙し、衛星写真はありえない光景を映し出す。
「こんな馬鹿な……」
誰もがそう呟いた。
地盤隆起? そんな次元の話じゃない。
天変地異? それで説明がつくようなものじゃなかった。
だが、それは確かに「そこにあった」。
幻覚や錯覚なんかじゃない。
人が歩けるだけの地面があり、山があり、川があり、吹き抜ける風の匂いまで感じられる——確かな現実として、そこに。
当然、世界はすぐに動いた。
未知の大陸、未知の資源、未知の生命。
これが何なのか、何を秘めているのかを探るために、各国はこぞって先遣隊を送り込んだ。
国連主導の調査隊。
各国が誇るエリート研究者たち。
そして、軍の精鋭部隊——。
彼らは皆、期待と不安を胸に、その未踏の大地へと足を踏み入れた。
だが、それが悪夢の始まりだった。
最初の調査隊が上陸してから数日後、彼らは忽然と姿を消した。
最後に送られてきた映像を見た者は、皆、息を呑んだ。
——闇。
どこまでも広がる、地獄の底のような暗黒。
その闇の中から、“何か”が現れた。
鋭い爪を持つ巨躯。
蠢く触手。
炎を纏う獣。
人の形をしながらも、人ではない“異形”たち。
彼らは、先遣隊の人間たちを喰らい、引き裂き、踏み潰していった。
悲鳴が響く。
銃声が鳴り響く。
それでも、惨劇は止まらなかった。
そして、映像は唐突に途切れた。
——それが、彼らの最期だった。
この大陸には、人類の常識が通じない。
この大陸には、人類が未だかつて出会ったことのない脅威が存在している。
各国は事態を重く見て、最精鋭の部隊を送り込み、慎重に調査を進めた。
そして、その過程で驚くべき事実が判明する。
この大陸には“大穴”と呼ばれる巨大な裂け目が存在し、そこから無限に怪物たちが湧き出している。
それだけではない。
この大陸には、人類に似た異種族が住んでいたのだ。
彼らは言った。
「この大陸は、遥か昔から“迷宮”と繋がっている」
「そして、その迷宮の奥底から、果てしなく怪物たちが生まれ続けている」
彼らは長い年月をかけ、怪物と戦い続けてきた。
だが、迷宮の奥深くから絶え間なく現れる怪物を封じる術も、完全に殲滅する手段もなかった。
この戦いは、彼らの文明が誕生するよりも、遥か昔から続いていたという。
「……私たちだけでは、この戦いに勝つことはできない」
だからこそ、彼らは異世界からの訪問者——すなわち地球の人類に、救いの手を求めたのだった。
共通の脅威、迷宮の怪物たちに立ち向かうために。
世界の存亡を賭け、人類と異種族は手を取り合うことを決意する。
——それは、新たな時代の幕開けだった。
長き戦いの果てに、人類はこの大陸に都市を築き、迷宮の調査と攻略を日常としていった。
人々は富と力、そして名誉を求め、次々と迷宮へと挑んでいく。
そして、時は流れ——
かつて世界を震撼させたこの大陸も、今では冒険者たちの活躍の舞台となった。
大穴の奥深くには、未だ解明されていない神秘が眠り、数えきれぬ猛威が待ち受けている。
だが、それでも、人々は挑み続ける。
夢を見て。
未知を求めて。
名声を掴むために。
そして今日もまた、新たな冒険者たちが、大穴の闇へと足を踏み入れる——。