今日も今日とて俺は死ぬ
全身は血に塗れ反吐が出るような腐臭に男は一人、舌打ちをする。
辺りを漂う死臭の根源は己自身。
傷だらけの硬皮鎧に、先の折れた長剣。
地面に転がる瓶の破片は、男の持ち得る最後の探索道具がなくなった事を指し示す。
何故死んでいないのかと思える程に、男の体は傷だらけで襤褸切れのように成り果てていた。
肩は食い千切られ、太腿の肉は抉り取られ、脇腹からは臓物が零れ出そうとしている。
地面に転がる松明の火は爛爛と、男の影を洞窟の壁に焼き付けるかのように揺らめかせていた。
ヒュンッと暗闇から風を切る音がしたかと思えば、男の右腕を貫くかのような熱が走った。
いや、貫くかのようなではない。
実際に暗がりから放たれた一本の矢により、男の腕は貫かれた。
カランッと長剣が地面に転がり、ぽたぽたと土色一色の地面の上に新たな色どりを加える。
男の口から苦悶の声が上がるも、武器を取り上げられた探索者に出来ることは何もない。
出来ることはこれから来る死を受け入れる覚悟を決めるか、怪物達に蹂躙される前に、潔く自死を選ぶかだけだ。
しかし、男は違った。
男の顔は来る死に恐怖をしていない。
狂っているわけでもない。
諦めているわけでもない。
ただ純粋に目の前の暗がりから現れる怪物達をどのようにして殺すかだけを考え、ギラギラと輝いていた。
怪物達が暗がりから現れる。
それぞれの得物を武器に、命知らずにも自分たちの住処へと入り込んだ愚かな人間という餌を求めて姿を見せる。
純然たる数の暴力。圧倒的戦力差に持たざる者が叶うはずもない。
男は右腕から真っ赤な血液を滴らせながら、怪物達を睨みつけた。
「リトライだ」
その一言。
たった一言をこの世に残して、男は死んだ。