川ヤクザと勇者
「勇者様にお越しいただいたのは他でもない、水不足の原因を調べて欲しいのじゃ。」
マールスは腕を組み、少し考え込んだ後、淡々と言った。
「ダムだろ。」
ウンババ長老の目が一瞬泳ぎ、口を開きかけて閉じた。やや間を置いてから、観念したようにため息をついた。
「……そうじゃ。」
テムジンが眉をひそめる。
「じゃあ、最初からそう言えばいいじゃねえか。」
「古代遺跡に関する依頼は高額になる、そうだろフンババ殿。」
フンババ長老は渋い表情を浮かべながら説明を続けた。
「遺跡に関わると分かれば、冒険者や探索者たちでは力不足、世界樹の勇者の依頼となればさらに高い報酬を要求される。だが、この国の財源には限りがある。そこで『水不足の調査』という依頼を出し、現場に行った者に実際の問題を見つけさせることで、自然と探索を進めてもらおうとしたのじゃ。」
「なるほどあくまで報酬は世界樹に払われる。そして現場に来た勇者は明らかにダムが原因な事から古代遺跡関連の依頼と勝手に判断するというわけか。」
マールスは雑煮の椀を置き、ゆっくりと頷いた。
「豊かな国なのに報酬を用意できないのは政治か、まあ、事情は分かった。黙っててやるこれから俺たちがこの国で行う事は見なかった事にしろ、個人的な事情で動く。」
「わかった。」
テムジンはマールスの言い回しに少し首を傾げる。
ウンババ長老はほっとしたように微笑み、深々と頭を下げた。
「感謝するぞ、勇者様。どうか、この大河の国を救ってくだされ。」
長老に見送られ、マールスとテムジンは後にする。
テムジンが口を開いた。
「さっきの何だ?」
「おう、これで河川の調査は無し、古代遺跡の探索に専念できる。川に原因があるなら連中自分らで調べるはずだからなカマかけて正解、想定の内容としちゃ最高俺たちゃ運が良い。」
「最初から古代遺跡が目的でこの依頼を受けたと、だが何で世界樹に報告しない?」
「勇者は給料制、俺たちの報酬は変わらねぇ。」
「支給品が変わるだろとか功績点は増えるだろとかそう言う質問じゃない、企みがあるんだろ俺を何に巻き込む?」
こんな偽善みたいな事をするのか?という表情で眺めるもマールスは答えず、足を速めた。
二人が歩く街並みは高床式の建物が並び、川の上に張り巡らされた木道が続いている。足元の板がわずかに揺れ、波紋が水面に広がった。
ふと、テムジンは気配を感じ、さりげなく後ろを振り返る。
編み笠をかぶった数人の男たちが、一定の距離を保ちながらつけてきていた。肩にはクロスボウ、腰には短剣。沈黙の中に漂う、わずかな緊張。
「……なあ。」
低い声でテムジンが言う。
「お前、何か裏があるんじゃねえか?」
マールスは表情を変えずに歩き続けた。
マールスは表情を変えずに歩き続けた。
「もちろんある。大河の国はここら一の農業地帯で同時に海運国家、チッチッ食料供給は為政者の統治者としての義務、この国は豪農の国、貴族とかの土地と違って金で買えるッチよ。」
そこに止まってる船に近づき話しかける
「ようそりゃ甘瓜か二キレくれ、俺たちゃ勇者でねあんたら正体も知ってる。チーチチ警戒すんな敵対する気はねぇよ、俺たちをあんたらのボスに会わせてくれよ。」
俺に甘瓜を一切れ投げてよこしたそいつは、心底悪い顔を笑顔で隠していた。
「彼らは川ヤクザ、まあ普段は船の荷物を積んだり下ろしたりしている。バックにいる商業系豪農との接触が目的、まあ権力者と犯罪まがいの事をする連中がつるんでいる所にお邪魔するだけッチよ。」
桟橋の下、地下通路から何処かの蔵に案内される。それなりの調度品に上座に座る覆面姿の複数人、合議制とかそんな感じかなと思いつつ武器を預け席に腰掛ける。
「フンババの長老から大河の水量減少の調査を依頼された、他の依頼は受けていない、世界樹の風音に誓おう。」
即座にそう言い慎重な顔をするマールス。
「言葉一つで……」
何か言おうとした一人を手で制し一人が話す。
「その誓い文は聞いたことがある信じよう、そして君たちに言わなきゃいけない事がある。水量減少の原因は古代遺跡だ、この国はそれを隠して君らに依頼した、この事を謝らせて欲しい。」
「謝罪を受け取ろう、世界樹も現地の事情に詳しく無い、警戒した態度を許して欲しい。しかし遺跡か……」
「遺跡だと何か不都合が?」
金額が変わることを知ってて、いやそこまで詳しくなくとも対応が変わる事を知って聞いてくる。
「この地域だとミレニアムダムは生きた遺跡だったはずだ、生きた遺跡の調査は勇者をしても危険でしてな、チチチ、お恥ずかしながら今の戦力では厳しいと言わざるおえない、元々適正の金額を支払われた依頼ではないですしどうしたものか。」
「おお成程、何度も質問して申し訳ありませんが……」
しばらくの質問と、改めて依頼を出した時はどの程度で勇者が来るのかなどを話し、一晩を豪華な屋敷で過ごしお土産までもらって見送ってもらった。
「次は川ヤクザだッチ。」
「元締めの豪農とは話しただろ、話って言っても下っ端に何の用があるんだ?」
「俺の異名は借金王、川ヤクザ共に借金してんのさ額は……、」
「なっ!?そんなに何に使ったんだ。」
「そ去年に今年の穀物を大量に購入していてな、先物取引ってやつさ、元々は新たな交易路を見つけて売りに行く予定で集めてたが今回の水不足で値段が上がり始めている。」
「あああの豪農等はこの水不足が続くかどうかを知りたかったってわけか。」
「今頃買い占めに動いてるはずッチから市場価格に影響がで始めるのが楽しみッチよ。」
「なるほどここで買った物を更に高値でここで売る、素人が新しい交易路を見つけて経理さっぴーて儲けを出すなんて博打よりかは確実だ。」
チッチッ、テムジン、あんたのつてがありゃ新しい交易路の目処が立つッチが、今はまぁ川ヤクザを味方につける方が大事だッチ。
「よおルイ・マンドラン、借金王が来てやったぞ。」
「誰だこの忙しい時にってマールスの旦那じゃ無いですか。」
金を貸す時は心底訝しげな顔をしていたカワセミ族の男も、こうして穀物で一山当てた男を前にしてはオベッカまで使い出すしまつ。
「ああ、ちなみにこれ去年に購入した穀物の手形、チーチッチッこれを見れば俺の返済の4倍ちょとって言うのはわかるな。」
「ああ勿論だ勇者の旦那、そしてそれをもう少し持って入れば更に値が上がることも。」
「おや、勇者来訪で値上がりは落ち着いて居るはずだが、聞いてたな。」
軽いやり取りを繰り返し本題を繰り出す。
「地上げとそのまま住民を雇って大規模農園を始めたい、場所は現在一番水量が減ってるこの地域、そしてこの手形を預ける、売るタイミングは教えるから更に倍の資金を利子なしで貸してくれ。」
「……、あーあそこで豪農らに話したのは嘘で遺跡の異変を解決しに行くと?」
「そうだ、異変解決の目処が立った時点で伝え蜂を送る。土地を貸すやり方は非効率だと思ってたんだ、そしてこの大規模農園の管理をあんたに任せたい、豪農に名乗りをあげようぜルイ・マンドラン。」