大河の国の水不足
川の流れが次第に大きくなり、水辺の気配が濃くなる。湿った風が頬を撫で、鳥のさえずりが心地よく響く。二人が茂みを抜けると、視界が一気に開けた。
眼前に広がるのは、巨大な大河。そしてそのほとりに築かれた、精霊と河童の住まう美しい都市だった。木々と水の調和が取れたこの国は、他のどこにもない独特の雰囲気を醸し出している。
「すげぇな……。」テムジンが思わず呟く。
大小さまざまな水路が街を巡り、水辺には浮かぶようにして建てられた家々が並ぶ。空にはカワセミや魚を狙う水鳥たちが舞い、河童たちが忙しなく行き交っていた。
そんな中、一人の老人が静かに近づいてきた。
「おぬしらが……勇者か?」
それは大河の国の長老、アオダイショウのフンババだった。彼の目は鋭く、それでいてどこか懐かしさを感じさせる温かみを帯びていた。
「そうだが、何で知ってる?」マールスが警戒しながら問いかける。
ウンババはゆっくりと頷き、口元に笑みを浮かべた。
「精霊の導きがあった、森から来る者は精霊が教えてくれる。世界樹に勇者の派遣を依頼してからそこまで時間は経っていないから不安だったが、まあ当たっていたなら良いじゃろう。」
そう言って笑うアオダイショウは、いたずらに成功した子供の様だった。
「さてお前ら、勇者様が来てくださったぞ。」
フンババの背後から、河童たちや精霊たちが続々と集まってくる。やがて歓声が湧き上がり、二人を迎える大きな歓迎の輪が広がった。
「おお、勇者様が来てくださった!」
「歓迎するぞ、遠き地よりの旅人よ!」
精霊たちが花を舞わせ、河童たちが楽器を奏でる。
精霊と河童たちに囲まれながら、マールスとテムジンは大河の国の中心へと案内された。
木々に囲まれた美しい水上の街を進むと、高床式の家々が整然と並び、その間を静かに川が流れていた。
水上には無数の小舟が浮かび、人々が器用に行き交っている。しばらく進むと一際大きな建物が姿を現した。
「ここが儂の屋敷じゃ。さあ、中へ入るがよい。」
フンババ長老が優雅にうなずくと、河童たちが二人の前で扉を開けた。
中は木と葉で作られた温かみのある空間で、奥の広間には立派な座敷が広がっていた。
二人が席に着くと、すぐに食事が運ばれてくる。
香ばしい湯気を立てる大きな椀に、トロリとした汁に浮かぶ穀物を使った雑煮が置かれた。
その隣には、薄く焼かれた煎餅のような焼き物が積まれ、箸で割るとパリッとした音が響く。
「これは、ここの名物か?」
テムジンが煎餅のような焼き物を手に取り、興味深げに眺めた。
「うむ、大河の恵みを活かした我らの主食よ。雑煮の穀物は川辺で育つ稲の一種でな、水の精霊の加護を受けて実る。焼き物は、穀物を挽いて練り、香ばしく焼いたものじゃ。」
フンババ長老が説明すると、マールスも一口雑煮をすする。
穀物の甘みと出汁の深い味わいが広がり、旅の疲れが溶けるような感覚に包まれた。
さらに、卓上には豊かな魚や野菜の料理が並ぶ。
川魚の塩焼きは皮がパリッと焼かれ、身はふんわりとしている。
水草や山菜を使った和え物は、爽やかな香りが広がり、噛むほどに旨味が染み出す。
「うまいな……!」
テムジンが満足そうに焼き物を齧りながら呟いた。
「気に入ったようで何よりじゃ。さあ、存分に食うがよい。」
フンババ長老の勧めに従い、二人は旅の疲れを癒すように食事を堪能した。
やがて宴が落ち着くと、ウンババ長老はゆっくりと口を開いた。
「さて……そろそろ、話をせねばなるまいな。」
マールスとテムジンは顔を見合わせ、箸を置いて長老の言葉に耳を傾けた。
「勇者様にお越しいただいたのは他でもない、水不足の原因を調べて欲しいのじゃ、詳しいはn……」
マールスは腕を組み、少し考え込んだ後、淡々と言った。
「ダムだろ。」