陶器の虫PT-34との戦闘
倒木を乗り越え、熊から身を隠し、カラスやワイバーンを追い払いながら進む途中で、マールスとテムジンはそれに出会った。
「何かいる……」
マールスが耳を澄ませた瞬間、闇の中から奇妙な音が響いた。
カサカサ……カサカサ……。
姿を現したのは、陶器のような光沢を持つ昆虫、蜘蛛の様な見た目のそれに対し二人は即座に距離を取る。
「PTー34(ファランクスタランチュラ)じゃねぇかやべえな。」
マールスが低く呟くと、機械の蜘蛛は鋭い足を鳴らしながらこちらに向かってきた。関節がギシギシときしむ音が、不気味な威圧感を放っていた。
「知っているのか?」
「……ああ古代遺跡に良くいる虫だ、まあいい見た目通りの固さと生命力だからな、切ろうと思うな。関節や装甲の隙間を殴って壊すって意識で戦え!」
そう言いながら、マールスは素早くマチェットを抜き、戦闘態勢に入る。
テムジンは曲刀を構え、低く構えた。
「壊す……か、まあわかった壊せば良いんだな。」
二人は同時に駆け出した。マールスはジャンプしながら、陶器の蜘蛛の関節を目がけてマチェットを振るう。刃は装甲の隙間にめり込み、火花が散った。テムジンは素早く足元を駆け抜け、前足のジョイント部分に曲刀を叩き込んだ。
しかし、陶器の蜘蛛は即座に反撃を仕掛けてくる。鋭利な足が空を裂き、テムジンの頬をかすめる。彼は地面に転がりながら距離を取った。
「速いな!!」
テムジンが叫ぶと同時に、足払いでマールスも地面に転がされた。
「だから言っただろ!」
マールスは体勢を立て直しつつ、再び突進。
テムジンも呼吸を整え、攻撃の隙を伺う。
地を這うのは、八本の細長い脚を持つ陶器の蜘蛛、それはまるで長い年月をかけて削られた白磁の器のように滑らな質感で、しかし動くたびに甲高い音と時折金属同士をぶつける様な音を鳴らす。
「マールス、お前が囮になれ!」
観察の後テムジンが短く叫ぶ。マールスはすぐに理解しマチェットで音を出しながら壊れた足側に回り込む。
蜘蛛の目のようなセンサーが自身に近寄るマールスを捉え、その鋭い足で襲いかかる。
「くそっ、やっぱりしつこいな!」
マールスが跳び退ると同時に、テムジンが動いた。彼は低い姿勢のまま、一気に陶器の蜘蛛の腹の下へと潜り、装甲の隙間を見極め渾身の力で曲刀を突き立てた。
「だが速いだけ、単調な動きじゃ俺には勝てねぇ!」
テムジンの一撃は、装甲の隙間を貫き内部の駆動機構ごと破壊す威力であり、引き戻す時に中身を引きずり出す勢いで振る。
蜘蛛の機械は一瞬硬直し、そのままガタガタと震えながら崩れ落ちた。最後に痙攣するように数度足を動かし、完全に沈黙する。
「ふぅ……倒したか。」
テムジンが息を整えながら呟くと、マールスが近寄り倒れた残骸を蹴った。
「ナイスだテムジン、しっかしこの威力なら慣れれば装甲ごと真っ二つに出来るんじゃないか?」
「いや、俺の武器が持たねえ、隙間に突きを繰り出し少し中身を引っ搔くのが一番効率が……」
「そんで?」
「なれ合いはしない、次が来ても同じように倒せる。」
チーチチ、そんなイタチ族特有の笑い声が森に響いた。
二人は一度周囲を警戒したが、追加の敵が現れる気配はない。マールスはPT-34の残骸をまじまじと見つめ、眉をひそめた。
「しかし、こいつがこんな場所にいるってのは妙だな。古代遺跡の番犬みたいなもんだから、テリトリーから離れることはないはずなんだが……。」
「誰かが意図的に動かした、ってことか?」
テムジンが問いかける。
「可能性はあるな。たまたま暴走したって線もあるが……この辺りの遺跡と言えば大きな人のダムぐらいか、ダムで何かが起きたのか?ま、今は深く考えても仕方ねぇ。とりあえず目的地を急ごうぜ。」
マールスは一度大きく息を吐き、気を取り直して歩き出した。テムジンもそれに続く。
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戦闘を終えた二人は、慎重に森を抜け、大河の国へと向かった。