13 覚悟
第一ダンジョン基地に怪獣襲来を告げるサイレンが鳴り響いたのは、基地に到着した大輝たちが夕食を食べて一息ついた頃だった。
「たった今、基地司令部から通達があった。どうやら怪獣の群れがここへ向かっているらしい」
食後の重たい腹を抱えて宿舎の会議室に集まった大輝たちの前に立った檜垣が、基地周辺のマップと観測機が捉えた怪獣たちの映像を一同の前に展開する。
蟻だ。
大きさはおおよそ三〇メートル程度と怪獣の中では小さい方だが、とにかく数が多い。
草の根をかき分け樹木の迷宮を驀進するその姿は、まさに蟻津波といったところか。
空中に表示された3Dマップにも、全方位から基地に向かって押し寄せる怪獣のアイコンが所狭しとひしめいており、逃げ場のない絶望感が一同の頭上に重く垂れこめる。
「こりゃ……ちょっとヤバいんじゃないか……?」
リザ部長が額に冷や汗を浮かべて引き攣った笑みを浮かべた。
「ちょっとどころか、めちゃくちゃヤバい。基地司令部から学生のお前たちも防衛戦に参加するよう通達が下ったほどだからな」
「なっ!? 俺らはギリ戦えても一年坊は無理でしょう!? まだ入学して一ヶ月のヒヨッコどもっすよ!?」
「ロクに戦闘訓練も受けてないコイツらまで戦えって言うんすか! 方波見と佐々良なんてまだ自分のスキルも把握してねぇってのに!」
二年生のチンピラ先輩たちが口角泡を飛ばす勢いで抗議すると、檜垣は「落ち着け!」と大声で二人を黙らせた。
「そんなことは俺も向こうも分かっている! だが基地の総力を以てしても敵の数が圧倒的に多すぎるんだ! ……ヒヨッコだろうと頭数に入れねばならないほどにな」
「……っ、くそっ!」
檜垣に胸倉を掴まれウニ頭先輩が悔しげに吐き捨て押し黙る。
「……気になってたんですがね。この状況ならレールモンスターで包囲網を突破して基地を放棄して撤退でしょう、普通」
と、存外冷静なリザ部長が檜垣に疑問を投げかける。
「現在この基地にはS級指定の研究対象物が保管されているらしい。怪獣どもはどうやらそれにおびき寄せられたようでな。迂闊に本土に持ち込む訳にもいかないのでここで迎え撃つとのことだ」
「S級!? なんなんですかそいつは」
リザ部長が目を丸くして驚く。
ダンジョンで発見されたあらゆる物には、その貴重度や研究価値によってDからSまでランクが振り分けられている。
探索大綱が定めるところでは、S級採取物は国家戦力の半数を投入してでも死守しなければならないとある。
「さあな。俺にそこまでの情報は開示されていない。だが、上層部がこの基地を守り切るつもりでいるのは確かだ」
「増援は?」
「第二、第三、第四ダンジョン基地、それと新熊谷、釧路、広島からもそれぞれ四部隊ずつこちらに向かっている。増援が到着次第、内と外から挟み撃ちにして敵を撃滅する」
探索者の部隊はおよそ十人から十五人程度で編成されている。
RB一機の戦力はパイロットのスキルも含めて通常兵器換算で原子力空母三隻分とも言われている。
部隊長クラスともなればその力は戦略核にも匹敵するほどの大戦力だ。
「いよいよ総力戦ってわけかい」
「戦果を上げるチャンス。むしろ望むところ」
重い空気が垂れこめる中、常の澄まし顔を崩さず、華音が淡々と口を開いた。
その全身から静かに漲る闘気にチンピラ先輩たちも思わず息を呑む。
確かに絶体絶命の大ピンチだが、学内ランクを大きく上げるまたとないチャンスでもある。
これで燃えないような女なら大輝に試合など申し込んでいない。
「……えへっ、ま、的がこんなに……撃ち放題……イヒヒッ」
「仁菜たん殺る気マンマンやん。大勢でカチコミかけて来るたぁ気合い入っとるやんか。上等や、ブチのめしたるわ!」
まだ自分のスキルさえ把握していない仁菜と紗良までこれである。
可愛いのは見た目だけ。
後輩女子たちが全員血の気の多い戦闘狂だということをチンピラ先輩たちはすっかり失念していた。
「お前ら本当に分かってんのか!? 訓練じゃねぇんだぞ!」
「弾薬だって足りるか分かんねぇんだぞ!?」
「それでも、どの道逃げ場はないんです。皆で生きて帰るにはやるしかない……っ」
「「……っ」」
大輝の唸るような呟きに、今度こそチンピラ先輩たちは反論の言葉を見失った。
この一ヵ月、共に部活動に励んだおかげで大輝がこの中で一番臆病なのは二人も何となく察している。
その一番臆病な大輝でさえ恐怖を押し殺して覚悟を決めたのに、先輩の自分たちがいつまでも覚悟を決めずにいては示しがつかない。
「クククッ、言われちまったなお前ら」
「「部長……」」
「鋼の言う通りだ。どの道逃げ場はねぇんだ。だったら、名前売り込むチャンスと思ってやるしかねぇだろ。なぁに、ピンチの時はアタシが守ってやんよ!」
リザ部長がニィッと口角を凶悪に吊り上げ、二人の肩に腕を回す。
学内ランク二位の部長にここまで言わせて黙っていられるほど二人も臆病者ではなかった。
「……へっ、余計なお世話っすよ!」
と、ウニ頭先輩が肩に回された部長の腕を振り払い、
「俺らだって伊達に一年間アンタのしごきに耐えてねぇんだ! やってやらぁッ!」
続けて剃り込み坊主先輩が啖呵を切った。
「ハハハッ! 言うようになったじゃねぇか! それでこそアタシの後輩だ」
一年前ならきっと二人ともここまで言えなかっただろう。
なんだかんだ言いつつ最後まで部に残ってくれた後輩二人の成長を実感し、リザ部長は嬉しそうに目を細め二人の頭をクシャクシャ撫でた。
「全員、覚悟は決まったようだな」
生徒たちの顔を見渡し、桧垣が口を開く。
空中に投影されたマップに三本の仮想防衛ラインと青いアイコンが追加され、桧垣が作戦概要の説明に入る。
「お前たちの配置先はここ、第一ダンジョン基地だ。三本の防衛ラインが突破された場合、お前たちが文字通り最後の盾となる」
「……っ」
檜垣の言葉に大輝がゴクリと喉を鳴らす。
最後の盾。
つまり自分たちの元へ敵が来たら残りの戦力は自分たちだけということだ。
「幸い、何が起きてもいいよう完全武装して来たからな。基地の武器弾薬も借りられるとのことだし、防壁を上手く使えば応援が駆けつけるまではどうにか耐えられるだろう」
備えあれば憂いなしだ、と、苦笑した桧垣が表情を引き締め全員の顔を見渡す。
「俺からお前たちに与える命令はただ一つ。死ぬな。……必ず全員で生きて帰るぞ!」
「「「「「「「はいッ!」」」」」」」




