負けヒロインは報われない
世の中のアニメには
「負けヒロイン」というものが存在するらしい。
文字通り恋に負けるヒロイン、決して叶わない恋をするキャラクターを指すのだとか…。
しかもその一途さや健気さからメインのヒロインよりも好きになるファンも少なくない。
けど、本当にそれでいいのか?
いやよくないだろ普通。
なんで叶わない恋をして悲しむ女の子を見なきゃならないんだ?
その負けヒロイン達もお前達ファンも本当にそれでいいのかよ。
…なんてことをこの前二次元好きの友人と話した時に思っていたわけだが。
「ちょっと。」
彼女達が幸せになる世界は果たしてあるのだろうか。
「ちょっと悠ってば!!無視すんなバカ!」
放課後の教室。
窓側の席でぼんやり考える俺の目の前に見慣れた黒髪のツインテールが揺れている。
こいつは相変わらずうるさいからこれ以上は多分無視できないだろう。
「はいはい、聞こえてるって。なんだよ?」
それに、まあ。
普通にこいつに失礼だし。
「だから、さっきからずーっと声掛けてんだけど!!早く帰らないとあんたのせいで ”あれ” が見れないじゃない!!」
「じゃあ先に一人で帰ればいいだろ?俺はマイペースに帰りたい。」
「そっそれは…っ、その。それじゃ意味ないじゃない。」
ムッとしながら睨み付けてくるこの女の子は俺、凪詰悠の幼なじみの杜咲千紗。家が近所で、今までもなにかとずっと一緒にいたからこいつとは仲もいい。
「お前ってさ、負けヒロインって知ってる?」
「はあっ!?」
俺からの突然の問いかけに彼女は驚いているようだし、なんだか気に食わない顔をしている。
「いや、お前ってアニメとか好きだろ。だから詳しいのかと思ってさ。」
「……知ってるけど。」
おいおいなんでこんなに機嫌悪そうなんだよ。
ってかよく考えたらこいつ…
「ツインテール」「ツンデレ」
めちゃくちゃ負けヒロイン要素あるんじゃないか…?
「お前、もしかして負けヒロインの素質あるん…痛っっ!!!」
言いかけた俺は(こいついわく)必殺技のほっぺたつねりによって黙らされることになる。
「うっさいわね!誰が負けヒロインよ!!」
なんだかわからんがこいつの地雷を踏んでしまったらしい。頬が痛い、そして若干涙目の様子を見ると流石に申し訳なくなる。
「わ、悪かったよ…そうだよな、お前だって報われないのは嫌だよな。お前も俺と同じ意見でよかったよ。」
「…ま、まあそりゃ。っていうか、あんたそんな言葉どこで覚えてきたわけ?」
不思議そうに俺の顔を覗き込むこいつは俺から見たらただの幼なじみにすぎないんだが。
多分、世間一般的に見たら
「可愛いんだろうな。」
「え!?ちょっ、ちょっと急になに言って…。」
かああっと頬を赤くしながら目を逸らした彼女に気付かないフリをしながら席を立った。
「…帰るんだろ。ほら、アニメ見れなくなるぞ。」
「わ、わかってるわよ!ていうか大体あんたがぼーっとしてたから遅れそうなんだからね!?」
「はいはい、ごめんな。ちゃんと一緒に見てやるから。」
「ふ、ふん。まあそれなら…許さなくもないけど。言っとくけどあんたと一緒に見たいとかそんなんじゃないから。」
いや、自分でそれ言っていいのかよ。
───負けヒロイン、か
こいつにはちゃんと報われて欲しいよな。
ちゃんと、俺以外の奴とさ。