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4:骨と皮

 ジーナとスカルが神殿の隅にある小屋で同居生活を始めて、一週間後のこと。


「おはよう、ジーナ」

「おはようございます、スカルさん」


 スカルが鼻歌を歌いながら、机の上に朝食を並べている。

 パンとほかほかの野菜スープ。おいしそうな香りに、ジーナのお腹がきゅるると鳴った。


「朝ごはんの準備をしてくれて、ありがとうございます。助かります」

「どういたしまして。まあ、パンもスープも神殿から配られたものだし、俺はスープを温めただけなんだが」


 スカルはジーナの頭をぽんぽんとなでて、「早く食べるといい」と促してくれる。ジーナは素直にそれに従って、朝食をとりはじめた。


 ちなみに、スカルは飲んだり食べたりはしない。というか、できない。

 一度だけお茶を一緒に飲もうとしたことがあるのだけど、盛大に骨の間をお茶が通過していった。

 まあ、飲んだり食べたりしなくても、骸骨は一応生きていけるらしい。

 いや、生きてると言っていいのかは謎だけど。


 ジーナがもぐもぐとパンを頬張っていると、スカルがじっと見つめてきた。


「はあ……ごはんを食べているジーナ、すごく可愛い。なんでこんなに可愛いんだろうな。もうジーナが可愛すぎて、見ているだけで幸せな気持ちになる」

「ぶふっ」


 いきなりそんなこと言わないでほしい。

 恥ずかしくて、頬がじわじわと熱くなってきてしまう。


 スカルに見られていると思うと、なんだか必要以上に緊張してきて、とうとう食べる手が止まった。

 すると、すかさずスカルがジーナの前にパンを差し出してくる。


「ほら、ちゃんと食べないと、骨と皮の体になるぞ? はい、あーん」


(スカルさんは骨だけなのに! 皮すらないのに!)


 ジーナはそう心の中で叫びながらも、大人しく口を開けた。口の中に、スカルが差し出したパンがすっと入ってくる。

 ふんわりとした香ばしい匂いと、パンの優しい甘みが広がった。


「はあ……やっぱりジーナは可愛いな。良い子だ」


 一緒に暮らすようになって、スカルはいつもこんな感じで接してくる。

 とにかく過保護で、全力でジーナを甘やかそうとしてくるのだ。


 もう、本当に困る。でも、嬉しくて心がほわほわになる。

 ジーナは複雑な気持ちになりつつ、パンをもぐもぐと咀嚼(そしゃく)した。




 今日は、神殿内にある「祈りの間」の掃除を担当している日。

 修行や勉強はひとまず置いておき、ジーナはほうきと雑巾を持って祈りの間へと急ぐ。

 スカルもバケツを持って、手伝いに来てくれた。

 ひとりで掃除するのは大変なので、スカルがいてくれるとすごく助かる。


 祈りの間の中央には、カボチャくらいの大きさの透明な石が飾られていた。細かい紋様の描かれた台座の上に乗せられたその石は、誰でもすぐに触れられる状態になっている。


「この石はなんだ?」


 スカルがつんつんとその石をつつく。ジーナは雑巾を水で濡らし、ぎゅっと絞りながら答えた。


「聖石、という石です。聖なる力を持つ人を判別するのに使われるものなんですよ」


 ジーナは雑巾を置き、スカルの隣に立ってその石へと手を伸ばす。

 その細い指が石に触れた瞬間、透明だった石からほわりと白い光が生まれた。


「聖なる力を持つ人が触れると、こんな風に光ります。私はまだ見習いなので、こうして白く光らせることしかできないんですけど……修行をして聖なる力が強まると、これが虹色に光るようになるんです。そして、虹色に光らせることができるようになると、聖女として認められるんです」

「ほほう。すごいんだな、これ」

「見習いはみんな、この石のかけらを常に身につけておくことになっています。私はピアスにして耳につけているんですけど」


 紫色のふんわりとした髪をよけながら耳を見せると、スカルがぐっとのぞき込んできた。

 いや、これは近い。近すぎる。照れる。


「うわ、本当だ。ピアスが白く光ってるな……こんなピアスをしているなんて、全然気付かなかった」


 耳のすぐそばで聞こえるイケメンボイスに、心臓が跳ねる。

 ドキドキしていると、スカルの指先がジーナの耳にかすかに触れた。

 くすぐったくて、なんだか変な声が出そうになる。それをぐっとこらえて、ジーナは続けた。


「聖なる力は強い感情を抱くと強まると言われています。だから、いろんな修行をして感情を引き出していかないといけないんですけど、私はまだまだで。早くこのピアスを虹色に光らせることができるように、もっともっと頑張らないとって思っているところなんです」


 もじもじしながらそう言うと、スカルがぐりぐりと頭をなでてきた。


「ジーナは向上心があって偉いな。優しいし、可愛いし、素直だし、本当に素敵な女の子だ」


 さらりと褒められて、ジーナの全身がばふっと熱くなった。

 さっきよりも激しく、心臓が早鐘を打つ。


「そ、そんなことより、掃除しないと! 早く終わらせて、聖女様のところへ行きたいですし!」


 ジーナは照れをごまかすように、早口でそう言った。

 そう、スカルを天国に送ってもらえるよう、聖女に頼まないといけないのだ。

 聖女はいつも不機嫌で、何度会いに行っても追い返されてばかりなのだけど。


「……うーん、でも聖女のところから帰ってくるたび、ジーナは怪我をしているだろう」

「そうですけど……」


 スカルの言う通り、聖女がジーナを追い返す時には必ず何かを投げつけてくるので、いつもどこか怪我をしてしまう。

 でも、スカルが来る前からずっとこうだし、ジーナは特に気にしていない。


「大丈夫ですよ。スカルさんのためですもの、少しくらい怪我したってなんてことないです! 心配してくれて、ありがとうございます!」


 スカルにそう言って笑いかけた後、ジーナは雑巾で台座を丁寧に拭きはじめた。

 せっせと掃除をするジーナに、スカルが心配そうに語りかけてくる。


「あまり無理するなよ。ジーナが辛い思いをするなんて、俺は絶対嫌だからな」


 やっぱりスカルは過保護だ。そして、誰よりも優しい。


(待っててね、スカルさん。貴方のために、必ず聖女様を説得してみせるから)


 ぽかぽかと温かな胸に手を当てて、ジーナは決意を新たにした。




 その日の午後。

 掃除を終えたジーナは、聖女のもとを訪れた。

 もちろん、大切なスカルのことを頼むために。


 けれど――いつも通り断られ、文句を言われ、あげくの果てに冷たい水をかけられた。


 まだまだ、スカルが天に召される日は遠い。

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― 新着の感想 ―
[一言] スカルさん!!(*ノωノ) 包み隠さないのは骨だけにしてください!! 悶え死にます!!(*ノωノ) 人の最も強い感情。 それは愛と憎しみだぜジーナちゃん(ォィ
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