表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

2:天に召されたい

 ジーナを助けてくれたイケメン骸骨さんは、帰るところがないらしい。

 いや、記憶喪失になっているので、正確にはどこに帰ればいいのか分からない、というべきか。


「でも、骸骨が帰るところって、普通に考えたらあの世だよな。天国と地獄だったら、俺は天国に行きたい……」


 骸骨さんは神妙な様子で考え込んでいる。


(まあ、そうだよね。こういう場合は、天に召されたいって思うよね……)


 悩んでいる骸骨さんの隣にちょこんと座ると、ジーナも一緒に頭を抱える。

 魔獣から守ってもらったし、彼には恩返しをしたいところだけど、一体何をしてあげたらいいのだろうか。


 ひゅう、と冬の冷たい風が吹く。

 太陽が少し雲に隠されて、徐々に寒さが増してきた。


「くしゅん!」


 冷たい風に震えたジーナがくしゃみをすると、骸骨さんがはっと気付いたように顔を上げた。


「大丈夫か、お嬢さん! くっ、このままでは風邪をひいてしまうな……そうだ、とりあえず俺のマントを羽織るといい」


 骸骨さんはマントをはずすと、それをジーナの肩にふわりとかけてくれた。

 ほんのりとした温かさと春の森のような香りに包まれて、ジーナの心臓がとくんと甘い音を立てる。


「あ……ありがとうございます。すごく、温かいです」

「それはよかった。しかし、いつまでもここにいるわけにはいかないな。お嬢さんだけでも、家に帰った方がよさそうだ」


 そう言われて、ジーナはぱちぱちと目を瞬かせた。


 聖女見習いのジーナが帰るのは、家ではなく神殿だ。

 見習いの少女はみんな、神殿に引き取られて、そこで育てられる決まりになっているから。


 そして、その神殿には「聖女」がいる。

 この王国に三人しかいない、貴重な聖女のひとりが。


 聖女は聖なる力が使える。

 怪我を治したり、呪いを解いたり、アンデッドを浄化したり――様々なことができる。

 ならば、骸骨を天国へ送ることだってできるに違いない。


 ジーナは遠慮がちに骸骨さんを見つめながら、口を開いた。


「あの、私は聖女見習いなので、神殿へ帰るんです。もしよかったら、その、貴方も一緒に来ませんか?」

「え?」


 ジーナの提案に、骸骨さんが困惑した声を出す。


「いやいや、俺、骨だぞ? 聖なる神殿に入れるわけが……」

「大丈夫です! 私がなんとかします!」


 このまま骸骨さんを置いていくなんてできないし、したくない。ジーナは骸骨さんの手をぎゅっと握り、「一緒に行きましょう?」とお願いした。

 すると、骸骨さんは少し考えた後、ゆっくりと頷いてくれた。


「お嬢さんが、そう言うなら」




 森に囲まれたダンジョンから神殿までは、歩いて一時間ほど。

 その道中、ジーナは改めて自己紹介をした。


「私、ジーナって言います。よろしくお願いします」

「ジーナか。可憐な名前だな……君にぴったりだ」

「あの、貴方のことは何と呼んだらいいですか?」

「好きに呼んでくれてかまわないぞ? どうせ名前は忘れたし」


 骸骨さんはそう言って、遠くの空を見つめた。その横顔がどことなく寂しそうに見えてしまい、ジーナの胸の奥がぎゅっとなる。


「じゃあ、スカルさんって呼んでもいいですか?」


 スカルというのは頭蓋骨(ずがいこつ)のことだ。

 なんというか、そのままのネーミングだけど受け入れてもらえるだろうか。


「スカル……今の俺にぴったりの名だな! ジーナは天才だ!」


 あっさり受け入れてもらえた。

 しかも、すごく気に入ったみたいだ。

 骸骨さん――いや、スカルは嬉しそうに何度も頷き、カタカタと骨を鳴らしている。


 ジーナは喜ぶスカルの隣を歩きながら、よかった、と笑みをこぼした。




 二人は森を抜け、ようやく神殿にたどり着いた。


 神殿は灰色の大きな壁で囲まれており、簡単には中が見えないようになっている。屋根の部分のみ、ちらりと確認できる程度だ。

 入口には銀色の装飾が施された白く大きな扉があり、そこを守るように数人の門番が控えている。


「門番さんに見つかると厄介なので、こっちへ」


 ジーナはスカルの手を取り、裏口へと導く。


 もうすぐ日も暮れるという時間。裏口に続く道は壁の影に入り、薄暗い闇に沈んでいた。

 ジーナは慣れた足取りで、その影の道をずんずん進んでいく。


 そうして裏口までたどり着くと、そこにある古ぼけた木製の扉をゆっくりと開けた。ギィと木のきしむ音が辺りに響く。

 ジーナは中をうかがって誰もいないことを確かめると、スカルを招き入れた。


(これで一安心。あ、でも暗くなる前に一度、聖女様にごあいさつをした方がいいかも)


 ジーナは夕焼け空を見上げながら、よしと気合いを入れる。

 そして、スカルの手を引きつつ、まっすぐに聖女の部屋を目指した。


 庭を抜け、神殿の建物内に足を踏み入れる。

 白い柱が何本も規則正しく並んでいて、少しまぶしい。

 広い廊下の壁には高価な絵画がいくつも飾られ、まるで貴族の屋敷のようだった。


 廊下の奥、一番広くて豪華な部屋。そこが聖女の住まう場所。

 けれど、目指すその場所に着く前に、ジーナは足を止めることになった。


 なぜなら、幸か不幸か、聖女その人が目の前の廊下を歩いていたから。


 聖女は正装である白のローブに身を包み、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

 二十代後半、金色の巻き髪をした派手美人。その強気な金の瞳が、ふとジーナの方を向く。


 と、その途端、聖女の顔が嫌そうに歪んだ。


「あら、役立たずのジーナ。相変わらず辛気臭い顔してるわね」

「せ、聖女様。あの、私……」

「……って、ちょっと! そこにいるの、骸骨? 嘘、信じられない! ジーナってば、頭おかしいんじゃないの?」


 聖女の鋭い声に、ジーナはびくりと体を震わせる。

 一方、聖女に指をさされたスカルはというと、ぱかっと口を開けて驚いていた。


 聖女はどんどん眉間の皺を深くし、ジーナを憎々しげに睨みつけてくる。

 かと思うと、そばに置いてあったつぼを手に取り、それを思いきり投げつけてきた。


「最悪! ダンジョンへ修行に行って、骸骨を拾ってくるとか聞いたことないわ! ああもう、気持ち悪い! 早くそれ、どこかに捨ててきなさいよ!」

誤字報告、ありがとうございます♪

助かりました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] せ、聖女としての台詞じゃねぇな(゜Д゜;) 聖なる力があっても性格がダメじゃ話にならんッ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ