84 自領の運営に口は出しません。でも、発展させる案は考えます。
ハリシエダ様、ベルトラン様、リーバスさんの三人が集まって初等学校の副校長についての話し合いが持たれました。最初は先生の中から選ぶと言う話でしたが、ベルトラン様から、
『そもそも職業学校はミスティーヌ様とリーバスさんの指導で計画された物です。内容も職業体験が主な物ですから、商業ギルド主催として別系統の立ち位置でも問題無いと考えています。
私としては同じ生徒が同じ校舎を使っているだけです。初等学校と職業学校は違う体系の学校なのです。
ですから、副校長と言う名前では有りますが、職人サイドからと言うか、商業ギルドから責任者を出すべきでは無いでしょうか?』
と提案されてしまいました。キュラスの商業ギルドはヴェルム全体を纏めているので、副ギルマスが三人に増えましたが、人が増えたのも仕事が増えた為に必要に迫られて増員したので、余っている訳では有りません。ですが色々と説得された結果、
『ベルトラン様の考えは理に適っている話では有りますが、直ぐに対応は難しいですね。副ギルマス達と相談して話を進めてもかまいませんか?』
とリーバスさんが折れて話し合いは終わったそうです。ベルトラン様にしてみれば、領主の建てた建物だから兼用するだけ。と、自分が関わるとは思ってなかったでしょうし、大きく見れば統括はしよう。と落とし所を提示して下さった様です。元々、来年の新学期に合わせて発表する計画なので、今年中に決まれば良い話らしいです。
『やはり、話し合いにはミスティーヌも加わって欲しかったな。この夏の特別授業の件も有って、ベルトラン様はかなり疲れている様で、下手な事を提案したら、校長を辞めてしまうんじゃ無いかと冷や冷やしたよ。』
とハリシエダ様は苦笑していましたが、会議の内容を聞いて、今尚、見通しが甘いのは直っていないのですね。と思ってしまったのは内緒です。末っ子のハリシエダ様は義父様や義兄様に恵まれていますからね。本人は気にしていませんが、ナイジェル義兄様とは別の甘やかしを受けていた弊害でしょう。
『リーバスさんが何でも責任を持つのは望ましく無いと思います。ベルトラン様の様に職業学校に専任出来る方を副校長には探すべきだと思います。
今年お願いした工房の工房長方にも意見を聞いてみては如何でしょうか?ギルドの職員には無い見方も有るかと思いますよ。
初の試みなのですから、最初から正解に辿り着かなくても良しとしましょうよ。これからいろんな伝統を作っていけば良いと思います。』
と私の考えをハリシエダ様には伝えました。自領の学校を作るという事は、建物を建てました。終わり。では無く、その後の運営も携わる自覚を持って欲しかったのです。
今日は久し振りに孤児院を訪問して、孤児院の収入源にしているポプリなどの状況を視察します。………本音ですか?ワイヤー作成の為に器用な指先の持ち主を探す事です。
ジャレットがビーズ細工にハマった結果、子供でも綺麗に作れると証明されたので、一般にも浸透するだろうと言う意見がリーバスさんから出て、私の個人的な趣味の分野から離れて、新たな商業案件となり、一気にワイヤーの増産を望まれたのです。相談の結果、ギブソン鍛治工房にワイヤー専門の部門を作る事になりました。
でもキャリーとベンが指導する部門で、指導される立場に兄弟子達を引き込む事は難しいし、折角独占している分野なので、他所の工房から引き抜いてまで経験者を優先して雇い入れたくは有りません。と言う意見も出て、それならいっそのこと一から育てれば良い。と言う運びになりました。
では、急ぎ職人見習いを集めなきゃ。と言う話の流れから、私が孤児院に行く事になったのです。ギルドに募集を掛けると、鼻の良い人に嗅ぎ付かれる可能性があるので、ひっそりと探せないかなぁと思ったのでした。
『ミスティーヌ様、皆様、美味しいお土産を、ありがとうございます。』
可愛い声の集団に囲まれました。クッキーは私の子供達と焼いた果実入りの物です。甘い果実を干した物を使っているので、お砂糖控えめですが、美味しく出来ています。
『このクッキーは、ここに居るカヴィヨン達と一緒に作りました。ですから、あなた達でも頑張れば作る事は出来ますよ。』
とお話しすると、私達でも作れるのかなぁ〜。自分で作れたら何時でも食べられるね。等と言う声があちこちから聞こえました。うん。料理系に興味のある子は沢山いる様ですね。美味しい物は正義ですね。さて、楽しいおやつの時間が終わったので、次は作業の時間です。私はジャレットと一緒にビーズを持って、手芸のテーブルに付きましょう。
目的の子達にはベンが付いて、手先の器用さを要求される小物を作ってもらう事にしています。こちらはカヴィヨンが指揮して木材を使ったブローチの台を作ってもらう事になっています。ヤスリを掛けて滑らかにする工程の補佐にはクリスティが付いてます。
最終的には二つを合わせてアクセサリーにして、今度のバザーに出す商品を作ります。この孤児院は定番のポプリのお陰で女性客が多いのが評判なので、更に話題を売る事になるでしょう。
ポプリ用の巾着袋に花の刺繍を入れる子と、ジャレットや私とビーズ手芸をする子に分かれて作業が始まりました。4歳の子に真剣に教わる少女達が微笑ましいですね。私はワイヤーを捻り過ぎない事や、不用意に力を入れ過ぎて引っ張らない事を注意しながら、自分でもモチーフを作っています。
『ミスティーヌ様!今度は編み物を教えて下さいね。私、今度は編みぐるみに挑戦したいのです。』
暫くすると、刺繍をしているチームに居る少女から声が掛かりました。鈴は量産出来なかったので、ガラガラの様に音のする編みぐるみは数少ないものの、フワフワの編みぐるみはだいぶ普及している様です。お値段も鈴が入らなければ手頃になるので、お手伝いを頑張って貯めれば、子供のお小遣いでも買える設定になっています。
『編みぐるみは基本の形の編み方をマスターすれば、後は自分の工夫次第で色々な物が作れると思います。同じ事の繰り返しに慣れているあなた達には向いているかもしれませんね。』
と答えると、話しかけて来た女の子は少し考えた後で、
『決まった形を作らずに、自分の考えだけで違う形を作っても良いのですか?先生からは何時も、勝手に作らないで、決まった形で作る様にと言われています。』
と返事が来ました。
『今は無駄を出さない様に四角い巾着袋ばかりにポプリを詰めていますが、袋を花の形に縫ったり、動物の形にしても可愛いでしょう?匂い袋として引き出しに仕舞っておくだけで無く、持ち歩いても可愛い。しかも良い香りがする。となれば、もっと欲しがる人が増えると思いますよ。
先生には私からあなたの提案を話しておきますね。端切れが出てもパッチワークを作れば可愛いが増えますし、手間が掛かるという事は、その商品の価値が上がる事にも繋がります。とても良いアイデアを貰えました。
編みぐるみを作るのに慣れて、沢山作れる様になったら、編みぐるみの中にポプリを忍ばせるのも良いアイデアでしょうね。』
物作りの時間が終わり、孤児院の先生に子供達とこんな話をしたと伝えると、
『そんな発想は有りませんでしたよ!ポプリはこの四角い巾着袋に入れる物だとばかり思っていました。自分が思い付かないからと、子供達の考えを聞かないのは間違ってましたね。
あの、花の刺繍もお買い上げ頂いた方からの注文が有って始めた物です。私達では思い付きませんでした。』
と驚かれてしまい、指導する大人の頭の硬さ?に私の方こそ驚かされました。私が最初に四角い巾着袋の形にして教えたのは、教えるのに簡単で、布の無駄を省いて大量に作る目的が有ったからです。私が教えたからそれで作らなければいけないと考えていたなんて。創意工夫の大切さを教える必要が有るなんて思いも依りませんでした。
孤児院を出て工房に戻る馬車の中で、クリスティが、
『本当にカヴィヨンにいさまがすごすぎておどろきました。トレントではないからと言って、木片をさっさとだいざの形にととのえてしまったのです。本当に早くてきれいな仕上がりにはベンもおどろいていました。
そして、にいさまがはじめに作っただいざをお手本としてみんなで作ったのですよ。とても楽しかったです。』
と得意げに報告してくれました。恥ずかしそうにクリスティの頭を撫でるカヴィヨン。二人とも天使ですね。私がニコニコとして二人を見ていると、ジャレットが、
『わたしが作ったモチーフを、カヴィヨンにいさまが作ってくれただいざに付けたのよ。ね、かぁさま。』
『そうね。ブローチの見本にしましょう。と、作ってくれたのよね。ジャレットが作ってくれたから、孤児院の皆もきっと沢山ブローチを作って、バザーに出せると思うわ。
クリスティもカヴィヨンと一緒に台座を作ってくれたのでしょう?みんな頑張ってくれてありがとう。』
天使達三人にお礼を伝えると、三人ともとても良い笑顔を返してくれました。
深夜。家族が寝た後、何故か目が覚めてしまって、眠気が覚めてしまったので、そっとベットから私室に転移しました。
インベントリの整理方々、死蔵している前世の布やビーズを机に並べてみました。このままでは外に出せないのですが、新しい商品のヒントに繋がると思うので、色々と組み合わせを試す事にしましょう。
とは言え、物音に気付いて誰かが入って来たら困るので、結界を張って音を遮断します。コレで、音も光も廊下等に漏れません。入って来れるのはフェンリル母様位でしょう。
ビーズの箱を取り出します。雫型。ドロップビーズと言った方が可愛いかな。コレはまだ作っていない形ですね。コレが有ると可愛い指輪が作り易いのよね。あ、でもテグスが無い。まぁ、かなり細いワイヤーも作れる様になって来たから、代用は出来るかな。
少しだけワイヤーにビーズを通して指輪を編んでみる。懐かしいなぁ。6個のビーズを通して真ん中にビーズを一つ。これだけで可愛い花が一つ。連続して花だけで作るのも可愛いけど、一つだけにしてポイントで指輪にするのも可愛い。大人可愛いを目指すならコッチかな?
針に通した糸にビーズを拾い、フリンジみたいに布に縫い付けてみる。可愛い。取り敢えず人目にはつかない様にするけど、アクセントに散りばめた雫型のビーズは可愛い。やっぱり、マリレーヌに依頼しようかな。
モリーノの雫みたいな形のビーズを作って。と頼めばわかり易いかな?最初は蜻蛉玉の様に大きな一点物から初めて、最後にはビーズ並の大きさを大量生産してもらいたい。
20分程ビーズをからかって、布地に意識を移す。懐かしいキャラ生地。絶対に出せない(笑) この絵は何かと聞かれても説明出来ないし、この世界では模様のある布は珍しい。無い訳では無いけど、ちょっと…かなりお高い。技術力がいるから仕方ないし、登録されていると簡単には作れないし。まぁ、登録利用方法はその土地の商業ギルドにも依るんだけどね。
私はそこまで拘りが無いので布地に関しては情報を出していないけど、これだけ前世の布地を見ていると、何らかの情報発信をしても良いのかな?と考えてしまう。ヴェルムだけの織物とか、特産品を産み出すのは領主夫人の仕事としても良いかも。
布の模様はどれだったら未登録とか調べるのが面倒だけど、織り方ならどうかな?材料に拘るなら調べ易いかしら?柔な素材で作れば肌触りが良くなるわよね。この世界のガーゼって、織が粗いだけでガサつくから余り衣服に向かないのよね。赤ちゃんに使うなんて考えられないもの。
使う素材を選べば前世の物に近づけるかしら?コレはリーバスさんに丸投げしても許される案件よね?………探したら存在するかもしれないし。
今までで私が絶対知らない布で、私しか発想出来ないとか言われそうな前世のって、タオル地よね?そうそう、タオル地のガウンは前世での憧れの一つだったのよね。お風呂上がりに、素肌にガウン。大人のイメージ?私には敷居が高過ぎて使えないアイテムだったなぁ。(笑)
このフワフワのループ。編み物で表現したら伝わるかしら?説明する為には時間を作って試行錯誤して編むしか無いかな。棒針で編むのは得意じゃ無いけど、頑張るしかないよね。長期戦って事でのんびりトライしましょう。
『ミスティーヌ様。そろそろ寝室に戻られた方が良いですよ。ハリシエダ様が寝返りをうちました。』
フェンリル母様が呼びに来たので、今夜は此処までで寝ましょう。ハリシエダ様は未だに…なので、さっさと寝ちゃうに限ります。
読んで下さっている方、ご迷惑をお掛けしています。煮詰まってます。着地点を探して休眠しながらも続けていく予定です。思い出したら覗きに来て下さいませ。




