82 日常の一コマ お帰りなさい、女神様。
今日は久々に子供達を連れて教会に来ました。女神様に会えないとしても、定期的な子供達の成長の報告や奉納は欠かせません。今回はジャレットの作ったビーズ手芸に合わせてクリスティが台座になる櫛を作った簪の奉納です。花のモチーフを花束の様に纏めて、星型のモチーフをゆらゆらと下げたデザインになってます。
『女神様、子供達が一生懸命に作った簪です。喜んで頂けると嬉しいです。』
『めがみしゃま、かぁさまにおそわってつくったビーズのかんざしです。』
『だいざのくしはぼくがつくりました。がんばりました。じょうじゅにできたとおもいます。』
トレントとビーズで作られた簪がキラキラと輝いています。フッと真っ白な空間に皆で運ばれていました。
『久し振りね、ミスティーヌ。カヴィヨンも大きくなって!フェンリル母の言ってた通りね。子供達が増えているわ。クリスティとジャレットも大きくなったわね。こんなに素敵な簪が作れるなんて、凄いわ。』
女神様がキラキラと輝く簪をニコニコして見つめます。ソッと髪に刺して揺らしています。本当に、久し振りの女神様です。私は思わず涙ぐみながら子供達を前に並ばせました。最初に挨拶させたのは、
『歌が大好きなカトリーヌと、そのカトリーヌを大好きなセドリックです。女神様とお会いするのは初めてになります。』
二人が揃ってこんにちはと頭を下げます。クリスティとジャレットも記憶には残っていないらしく、カヴィヨンの両側で手を繋いで女神様を見ています。カヴィヨンに促されて3人で挨拶すると、
『カヴィヨンはすっかりお兄ちゃんになったわね。前回に会った時もミスティーヌとハリシエダに抱かれた二人の手を繋いでいたわね。』
とニコニコして子供達を見ている女神様は、子供達のおばぁちゃまにも見えて微笑ましいです。
『何年もお会いできなくて本当に寂しかったです。此方にいらっしゃれない程お忙しかったのですか?それは大変お疲れ様でした。
でも、フェンリル母様とはお忙しくてもお会いしていたのですよね。私はフェンリル母様から何も聞いてませんでしたので、ずっと寂しい思いを抱えていました。ちょっとだけ拗ねても良いですか?』
と上目遣いで笑いながら言うと、
『ごめんなさいね。ダンジョンを作るのに夢中になっていたの。やっと形が見えて来たから、久し振りにミスティーヌに会いに来たのよ。完成したら招待してあげるから楽しみにしていてね。それにフェンリル達に会ったのはつい最近の話よ。』
と笑って流されてしまいました。女神様がいらっしゃるので、インベントリからお茶やお菓子を出して、楽しいお茶会の始まりです。
『双子出産が続いたから子育てが大変で、久しくダンジョンや冒険者活動を遠ざかってしまいました。今は大人しくインベントリの整理方々マジックバッグなどの物作りをしています。
ジャレットも夢中になっているビーズ手芸に関してはビーズ工房を立ち上げました。ジャレットが手芸の才能を受け継いでくれたみたいで、既にかなりの腕前だと親バカしていますよ。
だってもう直ぐ5歳とは言え、この出来栄えは凄いでしょ。ゆっくり時間を掛けて丁寧に作るのがジャレットのいい処なのです。ビーズ手芸の様な細かい細工はせっかちな人には向かない様です。』
簪を手放さない女神様に言うと、盛んに頷いてくれます。
『それに、クリスティの作った台座も素敵でしょう。カヴィヨンの影響なんだけど、トレントを使って此処まで彫れるって、凄い才能だと思ってもおかしくないでしょう。まだ4歳なのよ?
カヴィヨンはすっかりお菓子作りにハマっていて、チョコクッキーは私より上手に作るわ。此処に出したクッキーはカヴィヨンの作なの。是非、味わって食べてね。』
既に2枚目を摘んでいた女神様はびっくりしながら私の子供自慢を聞いています。
『ミスティーヌが作ったのだと思って食べていたわ!カヴィヨン、とっても美味しいわ。ありがとう。』
『最近ではいろんなクッキーをリクエストされて作っています。最初は母様の真似で、料理長と一緒に作っていたのですが、今ではその料理長にも誉められていて、最近では年上の料理見習いに教えています。
トレントの細工もクリスティと一緒に彫ってますが、此方はまだまだで、職人さんに付いてもらっているクリスティと差が無いかなぁ?クリスティもとても丁寧に作るからね。』
にこにこしたままクリスティを見つめながらカヴィヨンが話すと、クリスティはキラッキラの笑顔で、
『そんなことないです!ニーさまのほうがすごいです!』
と答えます。あらあら、兄様大好きのクリスティですから、カヴィヨンのセリフに嬉しそうです。
『あのね、おうた、うたう?いい?』
大人しく話を聞いていたカトリーヌが私にこそっと聞いて来ました。この空間の澄んだ雰囲気に歌いたくなった様ですね。私もニッコリと頷いてカトリーヌを立たせてあげました。
子供の声なのに柔らかく響くカトリーヌの声が、空間に優しく広がっていきます。調子を取る様に揺れているセドリックの身体をそっと椅子から下ろしてカトリーヌに並ばせます。
『幼児の声とは思えない程の響きですね。どうやらカトリーヌには私以外の神様のご加護がついている様です。』
歌を邪魔しない様に女神様の声が脳に響きました。えっ?女神様以外に加護を付けられる神様って?サクラメントには女神様しか居ない筈なのに?伸びやかに歌うカトリーヌの歌声を聞きながら、私は混乱してしまいました。
『うーん、多分隣国のプルメリアの神様かしら?他国の民に関心が向くなんて滅多に有り得ない事だけど、眷属の聖獣を仲介すれば出来なくはないかな。本当に珍しい事ですけどね。(笑)』
『……フェニックス様がチョコレートを買いにいらした事が有りました。しかも超リピートされてますね。』
私小声で呟くと、
『たぶんその縁かもね。うふふ。素敵な事ね。』
嬉しそうな雰囲気が伝わって来るのでホッとします。テリトリーを侵されたと気分を悪くされたらどうしよう?と焦ってしまいましたよ。
心行くまで歌えたのかカトリーヌは満足そうです。女神様に誉められて嬉しそうです。それにしても、加護が付いていたなんて気づきませんでした。フェンリル母様も何も言っていなかったし。うーん、もしかして気付いてない?
『カトリーヌは女神様に今まで会えないまま過ごしていたから、他の神様の目に止まってしまったのでしょうか?
喜ばしい事なのでしょうけれど、会った事も無い私はどう御礼を伝えるべきか、悩ましいです。私、プルメリアに行く予定は今の処まだ無いのですけど、御礼を伝えるにはプルメリアの教会に行った方が良いですか?』
『そうねぇ。折角だから御礼を伝える事は大切だと思いますよ。私も私のミスティーヌの家族が認められるのは誇らしいですからね。機会が巡って来る筈ですから、その時に備えて用意する事は必要でしょうね。』
笑顔の女神様から助言を受けたので、その日の為に捧げ物を用意しましょう。チョコレートの縁で繋がっているのでしょうから、其処は外せませんね。
それと女神様からダンジョンを通じて沢山頂いてます素材で何か作りましょう。女神様も誇らしいと仰って下さっていますから、使っても良いでしょう。それに前世から持ち込んだ素材もまだ残っていますからね。
いつの日か捧げ物を用意して、御礼をお伝えしに行こうと心に書き留めて、女神様との語り合いに戻りました。
邸に戻ってフェンリル母様に女神様にお会い出来た事を伝えたのですが、
『それはたまたま女神様が私の故郷にダンジョンを作っていたから会えただけで、会おうと思って行った訳ではありませんよ。来年、カヴィヨンの入学を確認したら帰るつもりでいるので、その準備をしに戻った先にいらしたのです。
近況報告にミスティーヌとハリシエダの子供が増えているのを伝えたら、月日の流れの早さに驚いてましたよ。』
と何事もなく言って仕事に戻ってしまいました。
アクセサリーを作ろうかとインベントリの材料を探しながら、お隣りのプルメリアの神様の性別がどちらか聞くのを忘れていた事に気付きました。取り敢えず、ブレスレットやチョーカー、ペンダントに指輪。男性でも使いそうなアクセサリーをデザインしながら何種類か作りましょう。
プラチナやゴールド、シルバーなど、土台の金属は変わりませんし、宝石や魔石も使えますね。男性用ですからごっついイメージで作れば大丈夫でしょうか?チェーンも太くして、幅広い、厳つい感じで作っていきます。
まぁ、女神様の可能性も有るから、いつも通りの華奢なアクセサリーも作りますけど。普段作らないタイプなので却って創作意欲が湧く様です。
1時間程集中して錬金していると、可愛いノックの音が聞こえました。返事をすると、侍女に連れられてジャレットが入って来ました。ジャレットの目は机の上に広がっているアクセサリーに釘付けですね。
『かあさま、キラキラしてきれいです。かあさまはいろいろつくれてすごいです。』
ジャレットも作りたそうに見えるので、私はジャレット用にビーズとワイヤーを机の上に出して椅子をすすめます。まだ魔力の扱いが不十分ですから、錬金は教えられません。何時ものワイヤー手芸です。
『ジャレット、新しいお花の作り方を教えましょうか?それとも、ビーズドールを作って見せましょうか?』
お花のビーズはジャレットも工夫しているのですが、全く違う処までは行ってません。でも、新しいお花より、ビーズドールと言う新しい言葉に惹かれたようです。
親指の爪位のパールビーズが有ると丁度良いのですが、今回は小さめの蜻蛉玉を使います。ビーズで浮かせた前髪と脇の髪を作って蜻蛉玉に通し、更にビーズを数回蜻蛉玉に巻き付けて後ろ髪を作り、一旦手を止めてジャレットに渡して観察させます。
『かあさま、おはなもめもくちもないけど、おにんぎょうさんにみえるわ。』
私の手元をじっと見ていたので作り方は分かったみたいですが、じっくりと見ていますね。私は頭を受け取ると、ビーズで首を編み、両腕を付けました。そして胴を作り、脚を作ります。胴の部分のビーズを通して首元にワイヤーを戻すと、更にもう一本ワイヤーを足して服を編み付けます。
ジャレットの手のひらサイズのビーズドールが出来上がりました。手に刺さらない様にワイヤーを処理してジャレットに渡すと、宝物の様にソッと受け取ってくれました。
『かあさま、すごいです!まほうみたいです!ビーズがおにんぎょうになりました。』
ジャレットでも作れると思ったのですが、作る?と聞いたら、無理。と断られてしまいました。アレ?作る過程をずっと見ていたので、このまま作ると思ったのですが?
ジャレットの希望でこれ迄の花のモチーフとは全く違う花びらの作り方を教えて、一緒に薔薇を作りました。
『かあさま、これはワイヤーのねじりかたをまちがえると、ワイヤーがきれてしまうのね。かあさまが作るとかんたんそうに見えるわ。わたしにはむずかしいけど、がんばってきれいなはなをつくるわ。そうしたら、またトリアねぇさまにあげるの。』
大好きなヴィクトリアにあげる為に薔薇のモチーフを作り出したジャレットを応援しながら、私もビーズドールをもう一つ作ると、錬金術でアクセサリー作りを再開しました。
男性用として思いつくアクセサリーは付与魔石を使った護符系の物ばかりで、飾り立てる様な見た目ではありませんねぇ。なんと言うか、想像力が働かなくて楽しくありませんね。誰かに宛てて作るのとは違って自由度が高過ぎるのでしょうか?
気分転換を兼ねて違う物でも作ろうかと思ったのですが、ジャレットも流石に集中力が尽きた様なので、皆でお茶をする事にしました。
居間に向かうと珍しく誰も居ません。侍女に聞くと、カヴィヨンとクリスティはハリシエダ様に連れられて木工工房に行っているそうです。ジャレットが私の所に来たのは一緒に行くかを聞きに来たらしいのですが、私の作っているアクセサリーを見て忘れた様ですね。
呼びに行った筈なのに戻って来ないジャレットの様子を見にハリシエダ様がいらした様ですが、ビーズドールを作っていた私は全く気付きませんでした。
カトリーヌとセドリックは昼寝から覚めても良い時間なので、二人を起こしてもらってお茶にしましょう。私はミルクココアを作りに厨房に行く事にしました。ジャレットも一緒です。楽しそうにしてます。
料理長に牛乳とチョコを用意してもらい、カップの中に刻んだチョコを入れます。そこに熱湯をほんの少しだけ入れてチョコを溶かします。火傷に注意してソッとジャレットが掻き混ぜます。チョコが溶けて混ざったら温めた牛乳を少しずつ混ぜながら入れていきます。
出来上がったミルクココアをメイドにお願いしてジャレットと居間に戻ります。起こされたカトリーヌとセドリックは椅子に座って、侍女に絵本を読んでもらってました。二人は私を見上げると、
『いい、におい、します。』
と声を揃わせて言いました。匂いで分かった様で嬉しそうです。
『お待たせしましたね。ジャレット姉様が作ってくれたミルクココアですよ。クッキーと一緒に頂きましょうね。』
と二人の前に用意してもらうと、
『ねーたま、ありあと。』
とまた声を揃えて御礼を言ってカップに手を伸ばします。ジャレットも嬉しそうにカップを持って口にします。少し温めになったミルクココアは美味しく、プレーンクッキーによく合います。
ジャレットが新しく覚えた薔薇のビーズモチーフを見せて話しています。でもカトリーヌの視線はビーズドールに向いていますね。私はもう一つのビーズドールを出してカトリーヌに渡します。喜んで遊び出す二人を横目にセドリックを抱っこします。侍女に取ってもらった絵本を読んであげましょう。




