8 王都〜帰路に着きました
工房のアクセサリーが売られている王都の雑貨屋さんに来ました。回復と結界の付与魔石はサルカンドだけでの販売なので、此方の売りは『祈り』と名付けた付与魔石です。私が漠然とした感覚で付与して出来てしまったので、私が教えても、成功しているのは今のところエルーシャ姉様だけです。何となくこんな感じ⁉︎というイメージでしか教えられないので、説明が難しいのです。良くエルーシャ姉様は成功したなぁ〜って思ってます。効能は願望の発露です。感覚に作用するので純粋な⁉︎願いを持つ多くの少女達が『想いの石』と呼び、流行を作っているそうです。
面白いのはこの付与魔石。見える人と見えない人がいるのです。と言うのも、付与する前の魔石は誰にでも見えているのですが、付与した後の魔石は、私の工房内でしたら私とエルーシャ姉様にしか見えません。ダニエルさんには見えないそうなので、アクセサリーに加工する場合は私がします。つまり、殆どは魔石単体で出荷せざるを得ないので、ギルドに納品する場合は一つずつ個別に袋詰めします。でも、魔石は引き合う人に買って欲しいので、お店で販売する場合は区切った枠に綿を敷き、魔石の重みで凹むのを利用して展示して販売してます。直接袋に入れてもらって確認して会計します。袋に入れれば触って確認出来ますからね。自分で作った付与魔石ですがホントに不思議な現象です。
雑貨屋さんに入ると私と同じくらいの少女達が魔石に群れてました。この娘達は魔石が魔獣の生命の塊だと知っているのでしょうか?ふと、魔石を作っていた魔獣の姿を思い出してしまいました。私にはキチンと見えている魔石ですが、彼女達には見えない様で、『凹んでいるのに触れない〜‼︎』『ホントに在るの〜⁉︎』『触ってる感覚すら無いんだけど?』などと姦しいです。まぁ、楽しそうですから我慢しますか。そうそう、見えないと触っても解らないのだそうです。綿は何時もふわふわの物を使って貰っているので、凹んでいる処にちゃんと在るんですけどね。店員さんの一番気を使うのは、綿の上に魔石を置く時だそうです。袋から落としたら見つかりませんから。エルーシャ姉様が何度か呼ばれてましたよ。まぁ見えないって事は、貴女方には縁が無い。と言うだけの事ですよ。と姦しい子達の横をすり抜けながら思いました。
騒がしい処を離れ、私は文房具のコーナーに行き、ミラードへのお土産にノートを選びます。勉強に使える物ならサミュエル兄様もダメとは言わないと思うのです。男の子用にクールな碧い表紙を選んでみました。ペンとインクも青です。ピンクのペンなんて選んだらイルミナに取られちゃいますからね。イルミナへのお土産はサイトバル兄様と選ぶ予定です。私がイルミナへ、サイトバル兄様がエルーシャ姉様へ、お揃いのアクセサリーをお土産にしましょうね。と相談しています。綺麗な石の付いた髪飾りや、光沢の美しいリボン。大きな鳥の羽根の付いたブローチは帽子やバッグに付けても合いそうです。悩んでいる処に来たサイトバル兄様は違う店でも良いかい?と、私を連れ出しました。
市場には露店が立ち並び、両親と行商をしていた頃を思い出してしまいました。懐かしさと切なさに目の前が歪みましたが、サイトバル兄様に手を引いて貰っていたので迷う事なくその店に着きました。さっきの雑貨屋さんとは違い、大人向けのアクセサリーが多いのですが、エルーシャ姉様には此方の商品の方が圧倒的に似合いそうです。エルーシャ姉様の赤毛に良く似合いそうな華奢な金の髪飾りを指して、『此れをエルーシャに贈りたいんだけど、似たイメージでイルミナに似合いそうなのを探してもらえるかな?』と言うサイトバル兄様に、さっきの雑貨屋さんで見ていた髪飾りを思い出しながら、『確か、似たような模様の入った髪飾りが有ったと思う。』と、答えました。
サイトバル兄様が買った髪飾りを丁寧に包んで貰って、また雑貨屋さんに戻りました。銀色で翠色の石の付いた髪飾りがあり、色は違うけど、何となく似ているよね。と話し合ってイルミナへのお土産に決めました。
家族へのお土産は美味しい食べ物で決まりです。と言うより、年上に買うお土産は個人宛のアクセサリーとか、高価な物は買わないように釘を刺されているのです。まだ成人になりたての小娘ですからね。Aランクですけど。『サイトバル兄様が一緒でも関係ないのかな?』と聞くと、『俺は両親や兄に土産なんて買った事無いと思う。』と驚きの事実が判明しました!…そう言えば私もお土産でもらった物は珍しい⁉︎お菓子ぐらいしか思い出せませんでした。
私のマジックバッグは高性能だから。と言い訳しつつ、名物のお菓子などの食料品を買い込みました。それから食材と調味料ですね。流石に王都です。香辛料の種類が豊富です。調理された料理も沢山買い込みましたが、コレは私の野営用です。今回みたいに知り合いばかりなら簡単に調理も出来ますが、今後の依頼では誰と組むかなんて判りませんからね。周囲の目を気にして干し肉とパンだけで我慢する羽目にならないよう、保険のような物です。とは言え、食べる時は結界を貼ったテントの中で一人こっそりとになる事でしょうが。
しこたま買い込んで宿に帰ると、レインボーの皆さんが食堂で待ってました。帰路の相談ですね。ソルトンさんがギルドで報告した際に、当然のように帰りの護衛も頼まれてしまったそうです。帰路は直接リストレントの邸までになるそうで、私も一緒にリストレント経由でサルカンドに帰る事になりました。私を1人で帰したらアラン父様にどんな目に遭わされるか判らん!とサイトバル兄様が頷いてます。というより、私が一緒という事がメインらしいです。嫌な予感がしますね。
それとは別で、夕飯のオカズが一品増えるかどうかがソルトンさんの問題だそうで、私はいつの間に見られていたのだろう⁉︎と首を傾げながらカツを出しました。腑に落ちませんが昨夜の喜び方を思い出すに、何となくこの光景は予想がついた気がしました。
翌日、集合場所に行くと、王都からの帰還の一行にハリシエダ先生が増えてました。と言っても、王宮での文官のお仕事が有るので、お見送りだけだそうですが、マジェンダ公爵様がお兄様と伺ってしまい、絶対に距離を置くぞ‼︎と心に決めました。
サルカンドからは南門を通って王都に入りましたが、リストレントのマジェンダ公爵様のお邸に行くには西門からが良いそうで、違う門からの出発になりました。危うく、公爵家の馬車に乗せられそうになりましたが、そこはサクッと逃げて先頭に立ち、広範囲の索敵を掛けて進んだのですが。
最初の街までは問題有りませんでした。でも次の街を過ぎた林に彼らは潜んでました。王都から馬車で2日しか離れていないのに盗賊団が1件。当然⁉︎気付かれる前にスリープを掛けて全員捕縛しました。既にマジェンダ公爵様の領地に入っていた為、ついでにアジトも接収し、奴隷の様に虐げられていた人達を解放しました。レインボーの皆さんは公爵様の馬車の周辺の警護をしていただけで終わってしまい、58人もの盗賊達を兄様と一緒に縛り上げるだけの作業を延々として呆れてましたけど。基本的に魔獣にはウォーターボールで窒息死。人間にはスリープで安全捕獲。が私ですからね。兄様はもう諦めて見守ってくれてますよ。
公爵様が街長を呼び付けて縛り上げた盗賊団を引き渡しながら苦情を言ってますね。王都の近隣でこんな規模の盗賊団が居ては、王様から領地経営で文句を言われかねないですから。しかも、警ら隊の隊長は街長の嫡男だそうです。で、頭が言うには上納金を納める事で見逃していたらしい。大変な事態が発覚しましたけど、私には無関係です。
余計な⁉︎事態が起こり、1日多く護衛して無事に公爵邸に着きました。あの後の3日間は極普通の魔獣が出て来たぐらいでしたよ。ゴブリンやオークも群れ⁉︎程度しか居ませんでしたし、特に集落を発見したり、などは無く、平穏に依頼を完了しました。どちらかと言うと、邸に着いた後の引き留めがウザかったです。
リストランテのギルドに行き依頼完了の報告をして報酬を受け取り、サルカンドへの帰途に着く為の依頼を探していると、受付から呼び出されました。不審に思って兄様に一緒に行ってもらうと、指名依頼だと言うのです。私の所属はサルカンドなので、此処で依頼される謂れはない為、内容も聞かずにお断りすると、受付嬢が『何様だと思っているの‼︎』と叫びました。レインボーの皆さんも来てしまい、他の冒険者の視線も集まってます。受付嬢は威張って依頼票を差し出しますが、私はAランクですから、余程の相手でないと断れるのですけど。私が手にしないので代わりに兄様が読むと、例の街長の名前で、盗賊団の壊滅の依頼になっていました。期日が4日前で、公爵様がお叱りになった日付になってます。やはり馬鹿だったのですね。こんな偽装で何を誤魔化すつもりなのでしょうか?
騒ぎにギルマスが気付き部屋から出て来ました。呆れている私達を尻目に受付嬢が捲し立てているので、別室に連れて来られました。ギルマスが私に『事実か?』と聞くので、『私の言い分を信じてもらえるなら。』と前置きして、受付嬢に呼び付けられてからの一連の流れを話していると、ソルトンさんに連れられた執事さんが入って来ました。
盗賊団は既に、私の手に寄って壊滅されている事。マジェンダ公爵様も同行していてご存知な事。やらかしたのはその依頼票の街長の嫡男である事。を淡々と告げ、逆に受付嬢の身元を糾す執事さんの言葉に、ギルマスの顔がだんだん青くなっていきます。 私のランクがAである事も確認せず怒鳴りつけた受付嬢に、私とレインボーの皆さんは冷たい視線を浴びせてます。これ程長時間束縛された上にサルカンドではあり得ない態度を取られ続けているのです。私達が怒っても当然です!
結果、受付嬢は例の隊長の義妹で、一緒に甘い汁を啜っていたみたいです。このギルドにも機密漏洩の点では被害を与えていて、巻き添えで怪我した冒険者の存在が発覚しました。私の事も指名依頼で呼び出して痛めつけるつもりだったそうです。逆恨みも此処まで来ると言葉が有りませんね。
勿論、この受付嬢も牢屋に入れられ、余罪を洗い出して刑罰を受けさせる事になりました。執事さんに『本来なら口を挟むべきでは有りませんが、ミスティーヌさんは我が主人が依頼してお呼びした冒険者なので、この様な不快な思いを与えるなど言語道断です。我が主人にもお伝え致しますので、よくよく考えてご対処下さい。』と言われたギルマスはちょっとだけ可哀想になりました。
ギルマスにはさんざん謝罪されましたが、気分を損ねた私は依頼を受けずにサルカンドに帰る事にしました。レインボーの皆さんには私に気を遣わず受けて下さいね。と言ったのですが、『まぁ、途中で魔獣を倒しながら行くよ!』と明るく笑われてしまいました。はい。索敵は任せて下さい!
夜道を出発するのは流石に嫌だと思い、宿を探そうと相談していたら、執事さんに領主邸に連れて行かれました。マジェンダ公爵様方も心配なさっていて喜んで下さったので、甘えてしまいました。解体しておいたオーク肉でステーキを焼いてもらいましたが、火加減が絶妙でした!




