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77 閑話 さぁ、開校します。皆で頑張りましょう!

 青く晴れた空。には少し雲が多いけれど、程々の陽射しの中で開校式と入学式が執り行われました。サルカンドとグランダイの学校から転校して来た生徒と、新入生とその親達が並ぶ中、ベルトラン校長の挨拶が始まりました。


 『花の香りに包まれた爽やかなこの場所で君達に出会えてとても嬉しく思っています。私達は一年の準備期間で様々な施設を作り、君達を迎え入れる事が出来ました。

 この学校は君達と同じ一年生です。初めての事ばかりで失敗も有るでしょう。でも、そうして君達と共に成長して行きます。君達も失敗を恐れずいろんな事を学んで行きましょう。

 サフラメント国の学校は、各領主によって教える内容が決められます。ですから、このヴェルム初等学校では、ヴェルムの産業を中心に、幅広い知識を教える事にしました。

 平日には基本的な知識を教え、休日に行われる職業学校では、ヴェルムの工房主が中心となって君達に技術を教えてくれる事になりました。

 職業学校は定員数が30人なので、年齢が上の者から希望者を受け入れる事にしました。一年を掛けて幾つもの工房の仕事を学び、将来に役立てて欲しいと思っています。』


 入学式はベルトラン校長の話から始まり、リストランテ前領主を始めとする来賓の話に引き継がれ、サルカンドから転入して来た生徒代表の宣誓で締める予定になっています。生徒も保護者も緊張した面持ちで話を聞いています。ヴェルム領主の親とは言え、公爵様と同じ空間に居るのは思いもよらぬプレッシャーでした。


 式が終われば、新校舎を始めとした教育施設の見学会が始まります。ベルトラン校長を先頭にヴェルム領主、来賓の方々と一緒に見学するのですが、皆、新しい施設の立派さに目を見開いています。


 キュラスとシャフェーの境の小高い丘に建つ真新しい校舎は大きく、何棟にも連なる校舎に驚く人も多かったのですが、一番驚かれたのは併設された寮に在る給食を作る大きな調理室でした。此処で作られた寮の朝食と夕飯は寮の食堂で食べますが、お昼の給食は調理室に取りに来た子供達によって各教室に運ばれる事になっています。


 『ヴェルムの初等学校では給食費のみで他は無償と聞いていましたが、こんなに本格的な調理室が有るのですか。』


 フェーブルから来た父親が驚いて呟きました。それを受けてか、シャフェーから来た父親も、


 『もしかして、税金が上がるのでしょうか?やっと貯えられるかと思ったのに、また、グランダイ時代の税額を払う事になるのか……』


 と顔色を悪くする者も出て来ました。サルカンドから転入して来た生徒は二段ベッドの寝室を見て、


 『サルカンドでは寮が無かったから親戚に泊めてもらっていたけど、こんな綺麗な部屋に住めるなんて羨ましいな。俺も此処に住みたかったなぁ父ちゃん!』


 と傍の父親に行って、


 『お前は普通に通えるから無理。』


 と軽くゲンコツをもらって、周囲から笑われていました。


 税金の話が聞こえていたハリシエダは、寮の更に奥に在る薬草園を指差して、


 『あの薬草園が見えますか?あの薬草園で育てている一部の薬草はとても高価な物です。ハイポーションに作成すれば価値は更に上がります。それと職業学校で作る物は商品として販売出来る品質の物を作る迄が目標なので、それを販売して学校運営の経費に充てる予定です。

 今の処、妻の寄付に負う処が大きいですが、ヴェルム領は黒字運営なので、必要以上に税金を徴収する事は有りませんから、安心して子供達を学校に通わせて下さい。』


 と宣言しました。一緒に施設案内をしていたベルトラン校長も、


 『ヴェルムの領主夫人の資産に頼ってばかりでは申し訳ないが、Sランク冒険者の彼女の存在は大きいです。学校運営が軌道に乗れば安心されるでしょうが、今は領主夫妻を信用して子供達を預けて下さい。』


 と笑って太鼓判を押してくれました。キュラスの職人達は領主夫人の事をよく知っているので、知り合いのシャフェーやフェーブルの職人達にも説明してくれています。


 『ビーズ工房や木工工房の話は皆さんも聞いていませんか?もしくは魔石工房の話なら知っているのでは?どれも領主夫人が関わっていて黒字運営の工房です。職業学校にも参加しているので、お子さんが技術を学び、職人となる事で更に発展すると考えています。

 ですから、増税なんて考えは不要です。』


 ベルトラン校長の力強い宣言で皆ホッと安心したようです。逆に領主は肩を落としたようで、リストランテ前領主に慰められているみたいですね。



 入学式と施設案内が終わり、フェーブルとシャフェーから来た、寮に入る子供達が荷物を持って集まってます。親達も寮の見学をしてホッとしたのか明るい顔で帰って行きます。


 『俺、自分だけのベッドなんて初めて。』

 『この布を引くと一人部屋みたいで、誰かの目が気にならない!』

 『狭いかもって思ったけど、意外と気持ち良い広さかも。』


 口々に感想を叫ぶ声が外にまで響いてます。楽しそうな声に寮監はホッとしました。8歳から11歳迄の子供達をまとめて育てて行くなんて経験は有りませんから、此方も手探りなのです。


 夕飯の前に、食堂に子供達を集めて、集団で生活する規則の話をして、時間を守る事と、危険な事をしない事、他人に不快な思いをさせない事の大切さを説いて約束させると、皆で夕飯を食べました。


 朝、鐘の音で時間が分かった子供達が一斉に食堂に集まり、各自配膳されたお盆を受け取って机に散らばります。


 『夕飯美味しくてお腹いっぱい食べたから朝はあまり食欲が出ないと思ってたけど…匂いだけでお腹空いて来た!』

 『お肉が沢山入ったスープが美味しい!…こんなに沢山食べても良いの?』


 フェーブルから来た農家の子供がお盆に乗った一人分の食事に驚いていました。兄弟の長男はグランダイの学校に行きましたが、次男の分のお金は無いからと家で働いてました。下の長女は長男が卒業したら家に戻るからと、グランダイの農家に働きに出される処でした。そんな時にヴェルムで学校が作られ、食費のみ納めれば良いと言われ、更に、物納でも大丈夫と言われたので、二人は入学出来たのでした。


 次男は職業学校の枠にも入れたので週末にフェーブルに帰る事なく寮で過ごす事になり、妹も兄が居るからと寮に残る事を決めました。更に食費は労働でも払えると知ったので、食堂の手伝いをさせてもらう事になりました。


 机や床を拭いたりする掃除や、野菜を洗ったりと簡単な手伝いで、家の手伝いより楽な仕事に驚きましたが、慣れて来たら徐々に仕事を増やすからと言われて納得しました。


 それに、お金に困っているのはこの兄弟だけでは無く、交代で仕事をするので、それぞれが得意な事を見つけて分担する決まりと言われて、更に驚きました。


 寮監からは勉強が第一で食費を払う仕事は余裕がある時にする物だ。と言われたのも嬉しいし、家ではした事のない調理を教わるのも楽しくて、大きくなったら此処で働きたいとまで思うようになりました。


 長期休暇で家に帰った兄妹は両親に学校や寮の事を色々と話しました。来年で卒業するのでグランダイの学校に残った長男は弟達の話を聞いて羨ましがっていたそうです。こうしてヴェルムの学校は静かに浸透して行きました。



 職業学校の開校で最初の指導者として魔石付与の話をしに来たエルーシャは、まず、魔力の話から始めました。平民には馴染みの薄い話だと思ったので最初に持って来たのです。


 『魔力が少ないと付与は出来ませんし、その属性が無いとやはり出来ません。ですから、私の工房にはそれなりに魔力の有る人が集まっています。

 では、魔力が少ない人はどうしているかと言うと、工具を使って魔石の加工をしています。魔石を磨いてアクセサリーに使える様にします。

 魔石を使ってお守りを作ったり、アクセサリーを作ったら、それに合う付与を掛けるのが付与師の仕事です。』


 エルーシャは工房で作っているアクセサリーなどを数点持って来て見せています。


 『先生、僕は魔力が有るかどうか判りません。魔力が無いとこの講義はいみが無いのですか?』


 不安げに手を上げて男の子が言いました。サルカンドから転入して来た子で、冒険者の活動を始めたばかりだそうです。スライムを倒しても魔石は手に入ります。なので、魔石の加工には興味があると張り切って来たのだそうです。


 『魔力は誰にでも有ると聞いた事は有ります。ただ、個人差が有って、出来る事と出来ない事が有るのは仕方ないですね。あなたがしたい事が出来るかどうか、魔力量の計測は教会で出来ます。

 私の娘は魔力量が少なくて付与師に成れませんでしたので、親の魔力量は引き継がれない可能性があります。逆に親に魔力が無くても子供には有るかもしれません。』


 付与は上級学校に行って教わらないと難しいので、此処では魔石の加工について話します。と前置きをして説明を始めました。


 実技の時にはマクラメを教えました。コレは紐を結んで作るので魔力には関係なく作れます。しかも、使う紐を変える事でお洒落にも作れるのです。


 『最初は結び易い太めの紐を使って練習して下さい。慣れたら段々細くしたり、素材を変えたりして作るとアクセサリーとして使える物が作れますよ。』


 錬金術で作るアクセサリーとは違って、無骨な物が多いマクラメですが、魔力を必要としないのがポイントです。半日程太めの紐で練習して、次の週末迄に其々が作品を数点作って来ると言う宿題を出して終わりました。


 寮生達は自習室に集まり、皆で相談して作ったらしいのですが、それを聞きつけたキュラスの生徒が放課後を利用して寮に集い、30人でまとまって宿題を仕上げていた。と寮監から報告が有り、ベルトラン校長は自主的な交流にとても満足されたとか。


 4回の講義が終わり、マクラメの作品が数百点出来ました。コレを販売して講習費を支払い、余剰分が出たら講師代として学校でプールされる事になっています。


 最初の講習は無事にプール分まで算出出来そうと報告があり、ベルトラン校長はホッとしました。


 2番目は木工工房からブリアさんが職人さんを3人連れてやって来ました。木工は加工にナイフを使うので気が抜けません。巫山戯て怪我をした。では済まないので、監視役に3人が来たそうです。


 既にカットされた板が箱に詰まってます。(流石にトレントでは有りません) 其々の大きさに分かれた箱から必要な枚数の板を取り、接着剤を塗って箱を作ります。仮止めされた板に釘を打って丈夫な作りにしたら、ヤスリで削って滑らかにして、模様を彫り、最後は色を塗って模様を描き込みます。


 既に加工された板を使っているので、接着剤を塗る工程迄は然程問題無かったのですが、釘を打つ段階で何人かが指を打ちそうになり、ヒヤッとさせられました。職業さんが差し出したのは先端に割れ目の入った細い板です。割れ目に釘を挟んで押さえると指を打たずに釘が綺麗に打てました。


 ヤスリで擦る事で板の断面が滑らかになり、手を傷付ける心配が無くなりました。此処までの作業で出来た箱は皆同じに見えました。そこで光るのが彫刻です。板に大雑把な絵を描き、特殊なナイフで彫ります。ナイフの数が少ないのと監視する職人さんが3人なので、3個の机に分かれての作業になりました。


 彫刻は1面だけなので、彫らない生徒は他の面の色付けを先にして、交代しながら作品を作って行きました。塗料は何種類も用意されて合ったので、楽しみながら色塗りをしています。30人いても其々個性が違うので同じ物は有りません。そうして、30個の色とりどりな小物入れが出来上がりました。


 此方もブリアさんの工房で売られたのですが、彫られた絵や彩りは其々違うものの、大きさは皆同じなので、商人さんが目を付けて購入されたそうです。彫り物は兎も角、丁寧な仕事だったので予想以上の値段で引き取られたそうで、追加の注文も入ったそうです。この収益も其々で分配する事になっています。当然ですが、プール分も無事に発生したそうです。


 次はシャフェーの服飾工房の番です。此方は無難にパッチワークを教材に用意して来ました。工房主がベルトラン校長と相談して、刺繍は難しいだろうから、端切れを縫い合わせて作る物にしたのだそうです。


 商品にしなくてはならないと言う制約があるので、中に花びらを詰めてポプリにするのと、袋を作るので悩んだそうです。ポプリに使うには花びらを乾燥させないといけないので、あらかじめ、香りの良い花を摘んでおいて下さいとお願いされたそうで、放課後に花摘みに出掛けたそうです。空き教室を使って乾燥させたので、良い香りが学校中に漂っていました。


 女の子を中心にパッチワークは制作され、其々30個ずつ、作品は出来ました。やはり個性的な彩りの商品が出来ました。最初は別々の販売を想定していたそうですが、セットにして販売してみたら好評で、半月もたたないで完売したと報告が有ったそうです。


 此方は販売の売価が上げられなかったので余剰金は無かったものの、無事に講習費は出せたそうで、ベルトラン校長はプール金に手を付けずに済んだとホッとされたそうです。

学校に関して、ミスティーヌは裏方にはこっそりと参加するけど、表立っては出ない予定なので、第三者の視点っぽくしてみました。

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