74 カカオ騒動のその後
珍しく、ウォルトン陛下からお願いと言う名の極秘依頼が来ました。内緒でロレーヌ王妃様へ贈り物をしたいので、特別なチョコのお菓子を作って欲しいそうです。たぶん、キュラスのショコラ店の新作が簡単に手に入らないと溢す王妃様に喜んで欲しいので贈りたいのでしょうね。
依頼のお手紙はランティス様を経由してモリーノから渡されたのですが、ランティス様に連絡をお願いした為、ガウディ王太子様にバレてしまい、二人からのサプライズ企画にされてしまった。と残念そうに書かれた追伸に笑ってしまいました。女性陣には絶対秘密な為、聖獣様にも口止めをお願いしたのだそうですが、お二方からも新作チョコのオネダリをされたそうです。…… ランティス様は兎も角、モリーノは普段から食べていると思うのですが?
発表の場はプライベートな家族の団欒で、ガウディ王太子様のご家族もご相伴すると言う約束になったそうです。ご両親のみではズルいと割り込むなんて、プリシラ王太子妃様への愛が溢れると言うか、意外とちゃっかりなところもある様ですね。
まぁ、ガウディ王太子様に言わせれば、私はプリシラ王太子妃様の専属扱いで王家と繋がったのだし、ランティス様はガウディ王太子様の守護獣だから、それを忘れてもらっては困る。と言う主張だそうですけれど、凄くこじつけが酷い気がします。
さて、何を提案しましょうか?大人だけならお酒を入れたボンボンやケーキだったらフォンダンショコラも良いのですが、カーライト様とリヨン様もいらっしゃるので全年齢向けなら……クリームと混ぜて生チョコとか、キャラメリゼしたナッツに纏わせた物とか。何個か思い付く物もありますが、依頼品なのでレシピ毎渡す必要が有るので悩みます。
『その場で作りながら食べられて、楽しく美味しいチョコフォンデュのレシピにしましょう。簡単ではあるけれど持ち帰りの商品には難しく、お店の商品にはしずらいから丁度良いかも。チョコ専門のレストランを開いたら使おうと考えていたレシピだから、今のところ実現性は薄いですし。』
と、呟きながらチョコフォンデュのレシピを書き始めました。サプライズ用のフォンデュ用チョコレートは私が作って持って行く予定ですが、王宮で繰り返し食べるなら、レシピを望まれるでしょう。どの道、フォンデュするフルーツ等は厨房に用意してもらう予定です。
こっそり王宮に飛んでウォルトン陛下と相談した結果、一回限りの特別メニューとして価値を高めたいと言われ、レシピを厨房には持ち込まず、当日、私が部屋にセッティングする事になりました。フォンデュはチョコレートさえ私が用意してしまえばウォルトン陛下がサーブして振る舞える。と言う処が良いのだそうです。
当日、厨房で一口大にカットされた果物やパンケーキ、クッキーなどがテーブルに用意されると、お茶の用意されたカートを置いて、一旦、人払いをされました。
私が仕込んで置いたチョコフォンデュ鍋を取り出して、ウォルトン陛下とガウディ王太子様に説明すると、数個作って口にしたウォルトン陛下から、遣り方はマスターした。と了承が出て、一旦チョコフォンデュ鍋を布で覆って隠し、私と入れ替わりに再度、メイドがお茶の準備に入室して来ました。
侍女に連れられてロレーヌ王妃様と、カーライト様とリヨン様を連れたプリシラ王太子妃様がいらして、サプライズパーティーが始まりました。
『ロレーヌ、常日頃の感謝も込めて、新しいチョコレート料理を君に捧げよう。』
と言うウォルトン陛下の挨拶で、この世界初のチョコフォンデュパーティーが始まりました。ウォルトン陛下とガウディ王太子様がサーブしてご家族に振る舞うと、とても感激されたそうです。珍しいチョコレート料理な上に、今回のみで、まだレシピは出回らない。と聞かされて、最高に感謝されたと分厚い報告書?が来ました。(笑)
カーライト様とリヨン様には先端に少しだけチョコを付けた形で量を調節してもらうようにお願いしたので、『お祖母様やお母様はチョコが沢山付いていて狡い。』と拗ねられた。とあり、大人用と子供用に成分を変えた鍋に分ければ良かったと反省もしました。
因みにランティス様とモリーノは、私が試作している横で散々味見したので、パーティには不参加でした。私の隣りでちゃっかり試食しているので、陛下達との約束もキチンと果たされてます。
因みに深夜の厨房に結界を張り、一切香りを逃さなかったので、匂いが濃厚過ぎたのですよ。お二方共普段より大量に食べはしたものの、体調を崩す迄は食べていなかったので、私は気にしていなかったのです。ですから、後半で静かになったなぁと不思議に思っていた位でした。
つまり、決っして、食べ過ぎて気持ち悪くなったのでは無く、カカオの匂いがキツかったからでしょう。(笑) 幾ら聖獣様とは言え、食べ過ぎは身体に良く無いのです。
お二方が不参加になったので、王家の皆様にはチョコの取り分が増えて喜ばれたと思います。きっとね。
フォニウム様から相談が入りました。『のんびりゆったりな第二の人生を想定して領主を離れたのに、何故か領主時代よりも忙しく過ごしています。』と、苦情?から始まるお手紙に、私、何かしたかしら?と悩みつつ読んでいると、私が代理人をお願いしているカカオに関する相談でした。
王都のショコラ店のシェフの所為ですね。勉強不足から見当違いに育っているプライドの所為で、間違った努力しかしていない。その為にフォニウム様がとばっちりを受けているらしいです。ウォルトン陛下経由で似た様な愚痴を聞いたばかりです。
取り敢えず、リーバスさんを呼んで相談です。話してみるとフォニウム様はキエランさんやリーバスさんにも相談していたそうで、これまでも内緒で王家用のチョコを用意していたそうです。キュラスのショコラ店では、たとえ味は同じでも見た目がお洒落で、一目見て一般売りとは違いが分かる様に考えて作っているのだそうです。その創意工夫が王都の職人さんに足りない事なのだそうです。
リーバスさんに聞いた処、最初はクッキーだけでしたが、チョコの知名度が上がったのと、フォニウム様のお陰でカカオが仕入れ易くなったので、粒チョコも販売する事にしたそうです。また、子供用に小粒のチョコも売り出しているそうです。勿論、私の改良した子供用チョコのレシピも使っているので、安全且つお手頃価格で喜ばれている様です。
大人用の高級な大粒チョコと、子供用の小粒チョコ。一般売りは四角に切っただけですが、それでも庶民にはお高いお菓子です。フォニウム様が王家用に頼んだ裏メニュー品は更に…な商品で、デザインは王宮の料理長が考えたそうです。表には出せない品だから専属で一人が対応しているそうですが、何時か、王宮に取られそうですね(笑)。
フォニウム様が忙しくなってしまったのは、リーバスさんとキュラスの職人が善意で考えた裏商品の出来の良さに目を付けた、ウォルトン陛下とサリシン義父様の意向の所為らしいと分かりました。ただ、カカオのルートに付いてはもう私の手を離れている気がするので、今更私に訴えられても…と思わない訳では有りません。
『リーバスさん、カカオに関するプルメニアとの取り引きって、私が介入しなくても問題無いですよね?確かに、私の代行みたいな形で紹介はしましたけれど、もう、フォニウム様の手に移ってますよね?』
とフォニウム様の手紙を見せながら聞くと、
『そうですね。店側からの注文は全てフォニウム様を経由してプルメニアに渡っていますので、カカオに関してはミスティーヌ様が直接関わっている処はありませんね。
今、ミスティーヌ様が関わっているのは新作チョコのレシピです。キュラスで先行販売してリストランテとサルカンドにレシピを送らせて頂いてます。それを知ったプルメニアからの要請でレシピを流しているだけです。』
フォニウム様の手紙を読みながら何やら考えています。
『店を構えてカカオの卸し代行店と言う立ち位置に変わったようで、在庫管理が大変なようです。今迄の様に受注しているだけでは無いので、小売する分量が読めないから大変に感じているのでは無いでしょうか?
それと、裏で取り扱っているチョコの情報を秘匿する方が重荷に感じているのかもしれませんね。表向きはカカオの卸し販売のみですから。』
お店としての販売員は居るから、フォニウム様の仕事は今まで通りのカカオの仕入れです。ただ、仕入れ量が読めないと言う事でしょうか。それとも、新たに飛び込んだ王家用のチョコの取り扱いが問題に感じているのかも。と言う推察ですが、実際の現場を知らないので、
『カカオと輸入チョコの販売と、王家用の裏商品の二本立てだから疲れたのかしらね。でも、私に出来る事は無いと思うのですよ。
思わぬ看板を背負わされたフォニウム様への注目を逸らす為に、チョコ専門のカフェを王都に作る?でも、王都に作る必要性を感じないのですよね。わざわざしなくてもいい苦労はしたく無いし。』
と漏らすと、
『それでしたら、キュラスのショコラ店に併設して様子を見て、成功したらリストランテとサルカンドにも作る方が現実的と言うか、気持ちも込められて遣る気は出ますけど、値段設定を考えると田舎でショコラカフェの経営は難しいと思われますね。』
と呟く。やはり、リーバスさんも同じ意見ですね。つい苦笑してしまいました。
『あ、もしキュラスでショコラカフェを開いたら、プルメニアの商業ギルドにはショコラカフェのレシピとショコラカフェ店の概要を提供しても良いですね。と言うより、プルメニアにショコラカフェって無いのでしょうか?』
リーバスさんと話し合った結果、次回納品に来たフォニウム様を交えて、プルメニアの話を聞いた上で、今後の方針を決める事に成りました。…たぶん、王都には出店しないでしょうけど。
夕飯の時にこの話をすると、学校で手一杯になっているハリシエダ様から、
『チョコに関してはリーバスに一任したから、すっかり忘れていたよ。結局、ミスティーヌに投げちゃったし、カカオをフォニウム様が取り扱ってまとめている事も覚えて無かったくらいで、少し恥ずかしい。お店は人気で問題は無いと聞いていたから余計に忘れてたかな。』
と俯きがちに言われて落ち込んだように見えます。
『お店が出来上がってからは、レシピの事もあって私が相談にのってばかりでしたから仕方ないですよ。ハリシエダ様は学校設営が忙しくなっていましたし、私もレシピだけでショコラ店の経営に迄は口出ししていません。』
とフォローしながら、フォニウム様の関連でタルピナスに話が流れました。プルメニアとの境界にカカオ農園を造るとサリシン義父様は考えているのですよね。ハリシエダ様はどの位話を聞いているのでしょうか?
『ショコラのお店も父様が作っていたのですか?私は木工工房だけだと思っていました。』
カヴィヨンが目をキラキラして話に加わって来ました。チョコに関する話だと、子供達がワクワクして加わって来ますね。クリスティも、
『かぁさまがチョコを作っていりゅのに、とぉさまのおみしぇなのでしゅか?でも、とぉさま、クッキーも…』
と言った処でカヴィヨンに口を塞がれました(笑) ナイスフォローです!少し情けない表情になったハリシエダ様。
『美味しい物は皆んなを幸せにしてくれるだろう? 私は皆んなを幸せにしたいからお店を作ったのだよ。』
優しい顔で答えます。こんなハリシエダ様が私は好きなんですよね。クッキーはカヴィヨン兄様が作る物と思っているジャレットも、
『にーさまが作るクッキーが大好きでしゅ。でも、とぉさまが買ってくれりゅチョコも大好きでしゅ。』
とニコニコとハリシエダ様を見ます。あれ?思わぬ情報にハリシエダ様を見ると、しまった。と言う表情。まぁ、フェンリル母様がいますから食べ過ぎる事はないでしょう。そっかぁ、人気店と言う事を知っている訳は分かりました。
『父様のお土産は、一日、一粒と言う約束でフェンリル母様が管理してくれていますから、大丈夫です。』
とカヴィヨンのフォローが入ります。カヴィヨンは私に似ていると女神様には言われましたが、私はこんなにしっかりしていませんでしたよ。フェンリル母様とサリシン義父様の英才教育のお陰なのでしょうが、ドンドン子供っぽさが消えて行くようで、少しだけ心配になりました。




