68 みんなの歩み
カトリーヌとセドリックがまだ生後3ヶ月なので、今は子育てがメインの毎日を過ごしてますが、立ち上げて操業を開始したビーズ工房にだけは、時間を作って顔を出しています。ただ、ステンドグラスにのめり込んでいるとは言え、工房長も頑張ってくれていますから、そうそう頻繁に行かなくても済んでいるので助かっています。
因みに、シードビーズはマリレーヌがチームを纏めてくれて、基本ビーズと照らし合わせて品質も揃えてくれます。彼女は神経質な迄に真面目に取り組むので、工房長も舌を巻いています。細かい作業は追随を許しませんね。私は雑なので、無理。
蜻蛉玉は、基本的に同じ物が出来ないので、結構個性的な物が出来ています。なので、逆にリーダーは居ません。工房長が受注数を確認して割り振っている感じです。無事に仕事が成り立っているのですから、無理矢理リーダーを置く必要も無いですしね。
そうそう、ビーズ工房と銘打ってはいますが、元々はガラス工房を一軒、丸ごと引き抜いているので、元の職人さんは殆どがステンドグラスにのめり込んでいます。透明さを競っていただけより、カラフルな方が楽しいと満面の笑みを向けられました。なのでぱっと見は三種類の工房が集まっているかのような形態です。
私の体調が戻りつつある物の、乳児達や子供達からそんなに目は離せませんし、無理もしてはいけません。ただ、ビーズ工房の経営は領主夫人の仕事と言う括りになった為に、ハリシエダ様もダメとは言えないみたいで、モヤモヤしているみたいです。数日に1回1時間程度の視察なので、私からすれば心配の必要がないと思うのですがね。
『邸から工房まで、転移で移動しているとはいえ、何が起きるかは分からないのだから、愛するミスティーヌを私が心配するのは当然。』
と常に言われて苦笑しか出ません。信用が無いのではなく、愛情からなのは分かるので嬉しさは有るものの、まぁ、ハリシエダ様の愛情の押し付けは今更なので諦めてます。… 鬱陶しいと思う反面、嬉しくもある訳で。私もハリシエダ様に愛情を持っていない訳では無いのですけど、温度差は未だに残っているのですよね。少し複雑?
温度差の原因である、あの披露宴での暴露事件は女神様の支援もあって、一般的には無かった事に成っていますし、もうかなり昔の事でもあって私は許していますし、伝えても有るのです。
つまり、問題はその温度差をハリシエダ様がかなり気にしてしまって、更に溺愛?モードに入る事かな。時の積み重ねが累積されていると言ったら良いのか、一歩間違うと監禁されそうな狂気を感じ……る事なんですよね。今更かもと思いながら相談したら、
『ハリシエダ様はキチンと反省している上で、自分の気持ちを重視しているだけだから、本当に誠実なのだ。と肯定的に受け取るしかないだろう。この際、ミスティーヌの気持ちは諦めるしかないとも思うがな。
だいたい、ミスティーヌの家出が長過ぎたのがトラウマの原因じゃないのか?』
とアラン父様からお説教されてしまった事もあるので、素直じゃない私と遣り過ぎるハリシエダ様の攻防を止めるのは無理と諦めて、ストレスを溜めても私が引く方が楽な気がします。カヴィヨンとハリシエダ様のやり取りを見ていると、カヴィヨンの方が大人に見えて来て、そうなると、ハリシエダ様と張り合う私も……ね。反省。
そう言うわけであまり考えない様にはしているのですが、私の行動に規制が掛けられたり、束縛されるとねぇ。ストレスが溢れて来るので、何処かで吐き出したくなるので、程々に息抜きは必要でしょうね。
取り敢えずビーズ工房の経営が順調な事も有り、もう少しの間、私はオーナーとしてゆったりと構えさせてもらう事にして、何処で息抜きをしようかな。なんて、子供達の寝顔を見ながら思いました。
あっ!ハリシエダ様に、木工工房の話をして、そちらに興味を向けさせれば、私から目を離すかも。これは、カヴィヨンとも相談する必要がありますね。(笑) カヴィヨンは木工にもハマっていて、時折、フェンリル父と出掛けているらしいのです。誘われないハリシエダ様が拗ねて大変らしいけど。
手先の器用なカヴィヨンは、職人さんにも可愛がられているようで、先日は、荒削りしたお皿をもらい、丁寧にヤスリをかけてツルツルに仕上げて、絵を描いて仕上げて来ました。少し大きめの深皿なので、子供達3人でお茶を飲むときにクッキーを盛るのに丁度良いそうです。
更にクリスティとジャレットの尊敬を集めてしまい、それも、ハリシエダ様の嫉妬心をくすぐっている様なのですよね。(笑) ……ハリシエダ様の手先の不器用さって、もしかして、アネトール義母様の遺伝かしら?
珍しくエルーシャ義姉様がイスラールとイミエールを連れて、久し振りに邸まで会いに来てくれました。カヴィヨンが喜んで二人を庭に連れ出し、クリスティとジャレットも呼んで遊び始めたようです。カトリーヌとセドリックがお昼寝中なので、二人を起こさない様に外で遊ぶ事にしたようですね。
お陰でゆっくりとエルーシャ義姉様と話が出来そうです。難しい顔つきで座っていましたが、お茶を一口飲んで気を落ち着けたのか、おずおずと口を開きました。
『イルミナが私の工房を継ぎたいと言って、錬金術の勉強を頑張っているのは聞いているでしょう?
でも、学校に教えに来てくれている人とは方向が合わないみたいで、サミュエル義兄さんに弟子入り先の紹介を頼んだらしいの。
でも、イルミナはそれを私には内緒にしていたのよ。アニス義姉さんから、イルミナを他の工房に出すの?って質問が来て、私、初めて知ったのよ。
長男のイスラールが生まれたからって、イルミナを邪険にしたつもりは無いし、何時も助けられていて私は感謝しているのに。あの工房をイルミナが継ぐのは皆んな認めているのよ。それなのに他所の工房を探しているなんて……
思いもよらない話だから、私達も動揺してまだイルミナに何も聞けないでいるの。ねぇ、ミスティーヌさん、イルミナから何か聞いていないかしら?』
エルーシャ義姉様は本当に困った表情で、落ち込んだ様子です。私も初耳です。
『確か、折角の付与魔石なのに、マクラメのお守りはおしゃれじゃ無いから、可愛いアクセサリーを作って、若い子に人気の商品作りをしたい。って相談には来たわ。
錬金術を使って可愛いアクセサリーを作りたい。って言われたけど、私の錬金って、魔力任せで作っているから一般的じゃない事が多くてね。イルミナに教えたからって、同じように出来るのかしらって悩んでしまったの。
それにイルミナの相談から、私はイルミナは魔力不足なのでは?と思ったのよね。だから、錬金術に拘らないで、魔力を使わないワイヤーアクセを提案したんだけど。
それについてはイルミナから相談されていない?まだワイヤーの供給が始まっていないから、教えるのは来年になると思うんだけどって伝えたのよ。
イルミナは少し考えていて、私には自分からエルーシャ義姉様に話してみる。って言っていたんだけど。』
と、あの時の事を思い出しながら答えました。
『イルミナがそんな事を…… 以前、強請られて魔石の付与を教えた事があったの。あの子は簡単な生活魔法しか使えないから、属性付与は諦められたらしいんだけど。
祈りは私達しか成功していないのにね、属性が関係しない祈りの付与ならって思っていたらしくて、でも失敗しちゃったのよ。
それで付与魔法は諦めてしまって錬金術に進んだの。ただね、錬金術も実技の成績はそんなに良くないの。座学で点を稼いでいるみたい。
だから魔力が少ない事には気付いていると思うわ。私の工房にいる人は魔力が多めに有るから、付与や錬金術を仕事に出来ていると分かっているだろうし。
ワイヤーアクセ?って言った?魔力が必要ない事を提案されて、イルミナは自分の事を魔力無しって否定されたと思ったのかしら?だから、私には話してくれなかった?』
途中から独り言のように呟き出したエルーシャ義姉様を見ながら、私もイルミナについて考えてみました。
『私、錬金術の私の遣り方を質問された時に、魔力で駄目押しして作っているからイルミナには教えられないって、言ってしまったわ。それに、付与が出来なかった事と、思うように錬金も出来なかったという話から、たぶん魔力が足りないせいねと決めつけてしまったの。勿論イルミナには言ってないけど。
イルミナは私の対応でガッカリしてしまったのね。もしかしたら、魔力が少なくても、誰にでも作れる裏技のような錬金術を教えてもらえると思っていたのかも。
ごめんなさい。私の思い込みからの提案は、魔力で悩んでいるイルミナを傷付ける物だったのね。』
私は自分のビーズ工房の事で考えが偏り、魔力の有無でやり方を選べば良い。と単純に思い、相手が何を望んでいるか、何を悩んでいるのかを考えず、不注意に言葉を吐き出してしまった事に気が付きました。
イルミナに謝って、魔力の有無では無く、可愛いアクセサリーの作り方として、ビーズのワイヤーアクセを説明して、元々私が誰かに教えて作ってもらいたいと考えている物で、魔力の有無とは関係ないという事を正しく伝えなければ。と気付きました。
『私の想像でしか無いけれど、ビーズのワイヤーアクセ自体はイルミナのやりたい物に近いと思っているの。だからこそ提案したのよ。ただ魔力が要らないって事をマイナスに取られてしまうと、受け入れ難い提案だったのかも。
だから、今更私がそれを言っても、イルミナには素直に受け入れてもらえないかもしれないわね。
エルーシャ義姉様、ビーズのワイヤーアクセはイルミナを馬鹿にした提案ではなく、イルミナのやりたい事、可愛いアクセ作りに合った提案をしたつもりで、でも、イルミナをガッカリさせただけだったならごめんなさい。
とイルミナに伝えてもらえないかしら。』
私達が暗い顔で話し合っていると、庭から子供達の明るい声がしました。
『喉が渇いたので、お茶にしませんか?私が作ったお菓子を皆に振る舞いたいですが良いですか?』
とカヴィヨンが聞いてきます。クリスティとジャレットも声を揃えて、
『にぃにのクッキー、食べたいでしゅ。』
と可愛くおねだりします。それを聞いたイスラールとイミエールが、
『カヴィヨン様はお料理が出来るのですか?』
と驚いています。ふふふ。エルーシャ義姉様も驚いていますね。
『先日焼いたチョコクッキーの事かしら?カヴィヨンに渡してあるそれ以外のクッキーはたぶん、もう食べ終わってしまったでしょうからね。』
と笑いながらお茶の用意を頼み、用意してもらったお皿にチョコクッキーを1枚ずつと、カヴィヨンが料理長と焼いたそれ以外のクッキーを出していきます。私とエルーシャ義姉様のお皿には、私が焼いたシフォンケーキを載せました。
『子供達にはカヴィヨンと料理長の作ったクッキーにしたので、私達は、私の作ったシフォンケーキにしました。
料理長と一緒にカヴィヨンが粉を振るって作ったクッキーは、サクサクした食感がとても良い出来で、ハリシエダ様のお気に入りなんですよ。チョコチップはプルメリア産のカカオのレシピを使ってます。美味しいけど食べ過ぎに注意しなければいけないので、幼児は1日1枚しか食べない事にしています。』
と説明しながら子供達にクッキーの入ったお皿を渡します。カヴィヨンが、
『私はチョコが大好きな為につい食べ過ぎて鼻血を出してしまい、とても驚いた事が有りました。チョコは美味しいのですが、食べ過ぎると危険な食材なのです。
でも、一番大好きなお菓子には変わりないので、お母様に管理してもらって楽しんで食べています。』
と、チョコクッキーを手にイスラールとイミエールに教えています。あの時は料理長が一番焦っていましたわね〜(笑) 私が事前に注意しておいたのに、自分が大丈夫だったからと私に内緒で食べさせましたからね。
子供達のテーブルからは、カヴィヨンの作ったクッキーに対する賞賛の声が止まりませんね。ダブル双子に囲まれて嬉しそうです。と、その声が聞こえたのか、ハリシエダ様が来ました。
『そろそろ、私も呼んでもらえるのでは?と待っていましたが、待ち切れなくて。私にも美味しいお茶をお願いしても?』
と言いながらニコニコ顔で私の隣に座ります。子供達の視線を感じて、普通のクッキーとシフォンケーキを差し出すと、ちょっと残念な表情をされましたが良いんです。あのチョコチップは子供用のレシピですから。(笑)
イルミナ用に詰め合わせたお土産のクッキーを手に、エルーシャ義姉様達は帰って行きました。ゆっくりと話し合うそうです。イルミナがワイヤーアクセを作っても良いと納得したら連絡してもらう事になりました。




