6 閑話 王都では〜ハリシエダの視点
王都に在る、とある雑貨屋さんに静かなブームが来ているそうです。今も、すれ違った少女達が声高に話しています。『ねぇ、ホントのホント。本当にご利益があるんだって! アレを身に付けて告白した隣りのクラスの子が付き合い始めた。って、ちゃんと想いが通じて付き合ってる。って話を聞いたし、その子以外にも願いが叶った話をいっぱい聞いてるよ⁉︎ だからねぇ、今から買いに行こうよう。』『いやいや、私、告白する予定なんて無いし、それに今は欲しい物が有って貯金してる処だから、よそ見させる様な誘惑しないで(笑)でも気にはなるから、お店には付き合うよ。』『相性が合わないと見つからないブレスレットも在るって噂もあるよ〜楽しみだよね!』『何それ⁉︎在るのに見えない。って事⁉︎エェーッ凄く興味出てきた!あ、でも買わないからね〜』
少し前から、サルカンドの冒険者達の間で、魔法が付与された魔石を装備に使っている。と言う話が王都の冒険者ギルドに届いた。そんな高価な装備を整えられる冒険者なんて羨ましいな。等と笑っていると、噂を聞いてサルカンドに行商に行った商人が、付与魔石の付いたブレスレットを購入して、自分で使っている。と驚きの報告が入った。なんと、籠める魔力の量で範囲が変わる『結界』が付与されている。と言うのだ。
確かに、魔石に魔法付与する事は可能ですが、その人の持っている魔法しか付与出来ません。という事は結界の魔法を使える者が居るのです。珍しい魔法の話に興味を惹かれ、私もサルカンドに行きたくなりましたが、観光で行く程の物がないと言われて、学生の私は諦めました。
そんな時です。下の学年に珍しく転入があり、更に今話題のサルカンドからだと言う。珍しい双子なのも有って、私の耳にもいろいろと噂が届いた。伯爵家の嫡男と次男だが、侯爵家に連なると言うだけの子爵家の娘を御せず、学園で平民を巻き込んで騒動を起こし、父親の力で王都の学園に逃げて来た。とか、みんないろいろと聞き出す様だ。そんな下らない話しはどうでもいいと、何時もなら気にしないのだが、サルカンドから来たとの事に私まで、つい声を掛けてしまった。
話題になっている付与魔法の付いた魔石の話しを聞くと、『付与魔法の授業の初日に回復の付与に1回で成功した平民が居て、騒ぎになった事があります。』と聞けた。その平民が気になって詳しく話しを聞くと、『ミスティーヌは冒険者ギルドのギルマスの娘で、平民ではありますが魔法に長けています。』『普段は大人しく読書が趣味なんです。』『魔力もありますし、知識も豊富で常に成績はトップです。』『冒険者の登録をしていてそちらの活動もしています。』『入学した年にポーションの作成で新常識の発見に貢献してました。』『とても可愛い子で、父上も気に入って一緒に転校させてくれる。と話していたのですが、私達の印象が問題で断られてしまったのです。』交互に話して来るが、弟はその子が好きらしい。『まったく、我が儘なカシューのせいで卒業する迄、サルカンドに立ち入れないのですよ。逆に、子爵家に申し入れたので、カシューが王都に来る事が有り得ないのは救いですけれど。』兄の方も問題を起こした娘には忌避感が現れているようだ。
いろいろ調べてから家に帰り、父上に卒業後1年だけサルカンドの学園に行きたい。と交渉しました。元々、城の文官を目指していたので、地方の学園で教鞭をとる事ぐらいは問題無いだろう。と判断したからです。交渉材料は彼らから聞いた、ミスティーヌの才能の話です。彼らの話を間に受けるなら、あの一大センセーショナルなポーションの発見は、ミスティーヌに拠る処が大きいにも関わらず、王都に上がったレポートにはサルカンドの学園の教師の名しか載っていなかったのです。また、回復魔法の遣い手なども報告が有っても良いのに、こちらも隠匿されてます。ギルマスの娘だから、圧力を掛けた人物は直ぐに想定されますが、尚のこと興味が惹かれます。
プレゼンは成功して、サルカンドに配属されました。公爵領であるリストレントの隣りだった事も幸いでした。実家まで馬で1日の距離なので、領地を治めている兄夫婦からも『何か有ったら直ぐに来い。無くても来るんだぞ!』と言われてしまいました。相変わらず心配性な兄上です。
学園の在る街で家を借り、侍従とメイドに世話をされながらの生活が始まりました。買い物に出た街は活気に溢れ、人も多いです。侍従と商業ギルドを訪れ、商品を見ていると、王都の雑貨屋で見かけたアクセサリーが種類も増えて置いてあります。職員が説明に寄って来たので話を聞くと、『この街の工房で作られていて、王都のギルドにも一部だけ卸していますが、回復や結界のブレスレットは冒険者ギルドとの約束が有り、此処でしか販売出来ません。また、転売を防ぐ為にシリアル番号を控えての限定販売になります。』と説明されました。持ち主に紐付ける事で転売を防ぐそうです。冒険者を危険から守る為に作った始まった事で、工房の話を聞こうとすると、『ギルドの直営工房の為お聞かせする事は有りません。』と断られてしまいました。
ミスティーヌは冒険者ギルドに所属して居て、ギルマスの娘との事なので、情報を得ようと冒険者ギルドに向かった。依頼票を見ると魔石の注文が目立つ。『ミスティーヌさーん』と呼ぶ声がしました。其方を見ると可愛い子が窓口へ向かっている。声も掛けられない位にドキドキしてしまった。結局、侍従と依頼票を見ただけで帰って来てしまった。
シニア先生から紹介されて教壇に立った。ミスティーヌは目の前に座って居る。ダントツに可愛らしい。自己紹介をして、授業の補佐に入ったのだが、騒がしく授業を邪魔する生徒が居る。私に婚約者がいるかどうかの話しなど授業とは無関係だし、そもそも、たかが子爵の娘に関係などある筈も無い。と無視するが、余りに五月蝿いのでシニア先生が怒ってしまった。彼女とお目付役だけで無く、私まで学長室に連れて行かれ、とばっちりを喰ったではないか!そうか。双子の言っていた迷惑な子爵娘とはコイツだったんだな!
私の授業態度まで制限されてしまい、ミスティーヌに近寄れなくなってガッカリしていたが、天は私に味方した。シニア先生が共同研究にのめり込んだ為、私が授業を引き受けたのだ。ミスティーヌと彼女の取り巻きの平民達は優秀で、教える為には王都の学園で学んだ事よりも、より深く私自身が学ぶ事になった。お陰でミスティーヌをデートに誘う暇が無い。と言うより、彼女達のガードが硬く授業以外の声を掛けられないのだ。仕方ないので、授業の開始に毎回、前回何処まで進んだかを聞く事にした。勿論、分かっているけれど、それぐらいの接触しか出来ないのだよ!
謹慎後、暫くは大人しかった子爵娘だが、まだ諦めて無い様で、廊下でよく体当たりを仕掛けてくる。だが、気配を隠す気が無い様でバレバレな為、初回以降は全て躱している。鬱陶しいので兄上に相談したら、ちょうど領地が隣りなので、子爵家の領地側への警備を弱め、尚且つ、魔獣を追い詰めても子爵家の領地に入ってしまったらそのまま逃す事にしたそうです。冒険者達も何故か子爵家の依頼を渋る様になり、依頼料の値上げで対応せざるを得ないので、領地経営が大変になったらしい。まぁ、あんな娘に育てているぐらいだから、親もそんなに優秀では無いのだろう。領地経営に失敗して取り上げられて仕舞えばいいのだ。
一目惚れした上に、学校で交流して、更に愛が深まってしまった。だが彼女が卒業して仕舞えば私は王都に帰り、城での勤務が始まってしまう。次はいつサルカンドに来れるか分からない。。しかも、個人的な繋がりがまだ無いのだ。卒業の日に私は覚悟を決めた。彼女を王都に連れて帰ろう!
式が厳かに終わり、彼女は親と一緒に帰ってしまう。今を逃す訳にいかない!私はサッと前に出ると跪き彼女の手を取った。『私と共に王都で暮らして欲しい。指輪の用意は間に合って無いが、王都の店で一緒に選ぶのも楽しいと思う。』と告げると、背中から『ミスティーヌさんは酷いですわ‼︎』と叫ぶ声が聞こえた。それを無視してミスティーヌに返事を促すと、横から『急いては事を仕損じる。と言います。こんな衆人環視の中での告白など、ミスティーヌに対する辱めと取らせて頂いても良いのですよ⁉︎』と背の高い美丈夫が言い放った。『アラン父様、ハリシエダ先生は公爵様ですよ。流石に言葉が過ぎます。それとハリシエダ先生も、この様な場所でして良い事と悪い事が有る事ぐらいお分かりになりますよね⁉︎』と冷静な声でミスティーヌに返答されてしまった。
何という事だ。彼女の父親の機嫌まで損ねてしまった様だ。取り敢えず保留してもらい、後日やり直しする事を願ったのだが、あの迷惑な子爵娘に邪魔され、彼女達は帰ってしまった。学長からは学園の顔に泥を塗る様な行動をして…と叱られ、何も出来ずに王都に帰る事になってしまった。
王都に帰る途中で兄の処に寄りミスティーヌの話をすると、魔法に長けていて有名な冒険者で実質S級と噂されていると言われた。学生という事もあって今までは見合わない級に甘んじているが、卒業したなら直ぐに上がるだろうから、抱え込みたい者は多く、家からも指名依頼の申し込みを掛けている処だ。と聞いて驚いた。魔法に優秀なのは授業態度から容易に想像つくが、狙っている者が多いなんて‼︎
兄に是が非でも抱え込んでくれる様に頼んで、私は力無く王都へ帰ったのだった。




