58 見学後の日常の些細な変化?/私で無くても良いじゃない?/八つ当たり気味なストレス解消…は自分に跳ね返る
ブリアさんが涙目になった気がしましたが、見なかった事にして、視察?を終えました。ハリシエダ様はカヴィヨンが木工工房に興味を持ってくれた事が嬉しかった様で、
『木工工房をカヴィヨンに継がせるなら、クリスティの為にも何か事業を起こさなくては……』
と気の早い事を呟いています。クリスティだけなのは、ジャレットは嫁に出すから? それとも気が付いていないのかしら? まぁ、その前に現実を見ていただかないと。と思ったので
『まだ、工房の仕事が軌道に乗った訳ではありませんので、確実に業績を積み上げるのが先では?』
と、嗜めてしまいましたよ。自分の工房が出来て、無事に運営が始まったとは言え、少し浮かれ過ぎだと思います。…お忘れのようですが、材料を提供しているのは私です(笑) 意地悪はしませんけどね。
ただ、私以外からも材料のトレントを入手する手立ては作っておかないと、カヴィヨンに継がせられませんよ?それとも、カヴィヨンを鍛えて自力でトレントを狩る力を付けさせたい?…訳は無いですよね?
楽しい工房視察が終わり、ハリシエダ様は領地経営の日常業務に戻っています。カヴィヨンは物作りの工程を知って、少し興奮気味にフェンリル母様に報告していたのが可愛かったですね。私も日常生活に戻って子供達を見ながら、インベントリの中のアイテムの整理や趣味の物作り、時々は真面目に領主夫人の仕事?に勤しんでいます。
変化と言えば、カヴィヨンが私の物作りに興味を示すようになった事でしょうか。と言っても、トレントを持っている私が何故木工作業はしないのか?という事ですよ。
『とーさまのこーぼーにトレントを渡しているのはかーさまなんですよね。ブリアさんにかーさまはトレントの加工も出来ると聞きました。でも、かーさまはおいしい食べ物やきれーな物しか作っていないのはなぜですか?もしかして、ぼくが見てない処で作っているのですか?』
私が料理した物は食べてますし、室内で出来る手芸は見ていますからの質問なのでしょう。
『カヴィヨン。私にも作れない物は沢山ありますよ。トレントを大雑把に切るぐらいなら出来ますが、精密に加工して作る事は無理です。…物凄く時間を掛ければ作れる物も有るかもしれませんが、必要に感じ無い事をしたいとは思わないでしょう?
想像してみて?カヴィヨンだって、今、遊びたい玩具を作るのに、この先何年も頑張れますか?』
私の出来ない発言がショックだったのか、目を丸くして驚いていますが、引き合いに出した自分で作る玩具の製作について考えた後、
『ぼく一人ではムリだと思うの。だって作り方を知らないし、それに時間がかかってしまって今遊べないなら、楽しく無いし、せっかく出来上がっても、大人になってたら、たぶん玩具ではつまらないです。』
せめて作る事を楽しめれば良いのですが、其処には考えが及ばないようですね。私達の会話を聞いていたフェンリル母様が話を受け取ってくれて、カヴィヨンの勉強の時間に突入しました。
『人には、得意不得意な事があるから皆で協力して生活しているのです。仮に、何でも出来る人が居たとしても、その誰か一人が総てを引き受けていたら、その人だけが大変でしょう?それに、その人が居なくなってしまったら、皆が困ります。』
と、少し難しい領主教育を掠めながら、工房で働いている職人さん達の存在意義や、必要性を教えています。…カヴィヨンは、私がインベントリから様々なアイテムを取り出したり、皆が欲しがるいろんな物を作っているので、何でも出来ると思っていた節があったみたいです。カヴィヨンがフェンリル母様に指摘されているのを隣りで聞きながら、私も自重を捜しに行かなくてはいけないと反省しました。
そんなある日、少し難しい顔をしたリーバスさんが訪ねて来ました。何でも、リーバスさんに預けているアイテムの中に、キエランさんが譲って欲しい物があったそうです。
『元を辿ると、カサワドの商業ギルドから、毛皮を出来るだけ譲ってもらえないか?と頼まれたそうなんです。防具工房から依頼を受けて、ギルマスは最初、地元の冒険者ギルドに納品を依頼したらしいのですが、期待した程集まらなかったようで、隣りのルガリアにも打診したそうです。
王都のギルドでトレントの噂を聞いて、ミスティーヌ様に辿り着いたらしいのですが、王都のギルドにヴェルムとは交渉してもらえない。と断られて、リストランテに泣きついたそうです。』
うーん。カサワド辺境伯家はアネトール義母様の実家という事もありますけど、個人的にカサワドは嫌いなのですよね。冒険者ギルドにはキメラの時に強請られて嫌な思いをさせられましたし、図々しい行商人も本店をカサワドに構えていました。正直な処、自己中で傍若無人なのがカサワドの気質だと思ってます。
『キエランさんにはお世話になっていますし、リーバスさんも不良在庫を一掃出来て良いのでしょうが、私個人の意思を反映して良いなら、カサワドと縁を繋げたく無いので取引はお断りしたいです。
カサワドならアイスウルフとかの魔獣もいますから、冒険者を増やしてそちらを狩って毛皮を手に入れる事に力を入れるのではいけないのですか?
それとも態々、私のアイテムを欲しがる特別な理由があるのでしょうか?』
キメラに付随する結婚前の私の情報なら兎も角、私と義母の確執を知らないキエランさんでは無いと思うのです。義母の実家がカサワドだという事で直結する私の感情を無視出来ると思えたのでしょうか?
『やっぱり、嫌ですよね。私もそう思ってお伺いを立てに来たのです。実はギルドを介してではなく、キエランさんのコネを頼りにした親戚の工房が代表して個人的に介入したらしく、キエランさんからは、無理だとは思うが…聞くだけでもお願い出来ないだろうか?と言われて来たのですよ。
因みに、カサワドの商業ギルドにはアネトール様との確執の情報は流れていないようで、アネトール様の息子の嫁だから快く譲ってくれるだろうと思われているようです。ただ、ギルマス同士より親戚の方がパイプが太いだろうからと捩じ込まれたようで、キエランさんも最初は断ったのですが、私の顔を潰さないで下さい。と泣きつかれて困ってしまっていますよ。』
間に入ったキエランさんの苦悩プラス、リーバスさんの苦悩。と言った処ですね。でもね、
『私、結婚前のサルカンドに所属していた頃に、カサワド領内でキメラを狩ってしまった事があったのです。そのキメラに関しては冒険者ギルドに不愉快な事をされたのですよね。
その時の話ですが、カサワドに向かう途中で、強盗に襲われていた行商人を助けたのですが、助けてもらったのは感謝するが護衛を依頼している訳でも無いから…と言い訳された上で、ゴミ紛いの物しか残って無かったのに、物で支給すると一方的に言われるなど不愉快な思いをさせられた事がありました。
更に、そして、極め付けがアネトール義母様でしょ。カサワドは私の逆鱗を逆撫でしかしない対象なんです。感情で対処してはいけないとは分かっていますし、キエランさんには申し訳ないのですが、やはり、私のアイテム以外からの対応をお願いします。』
リーバスさんは、カサワドに対して、義母以外にも地雷が有ったと知って驚いてました。幸い?キュラスの冒険者はサイトバル兄様がギルマスをしてから鍛えられて来ているので、Aランクも何人か育っていますし、サルカンドに至っては私以外にもSランクが出ています。なので、キエランさんにはキュラスとサルカンドの冒険者ギルドに依頼を出して、グローリーのダンジョンで狩って来てもらう事を提案しました。
リーバスさん経由で話を聞いたキエランさんは私の提案を受け入れてくれました。親戚の方にアラン父様とサイトバル兄様を紹介して橋渡しをし、最終的にはカサワドの商業ギルドから各ギルドに依頼したそうです。……この件を知ったカサワド辺境伯のお家で私の評判が悪くなったとしても、私は気にしません。義母が介入出来ない今となっては、リストランテ公爵家を通さなくては私に辿り着きませんからね。マジェンダ義兄様は私の味方です!あ、でも、サイトバル兄様やアラン父様から繋がる?
キエランさんの件は解決したものの、私としては後味の悪い結果になってしまい、ムシャクシャした思いを抱えながらアイテムを整理していると、インベントリの中からエンシェントドラゴンの魔石を見つけてしまいました。
直径20cm以上は有る大きさに、面白半分に結界の付与を掛けてみたら…魔力が呆れる程吸い取られてしまって、私ですら数回に分ける始末でしたよ!そのお陰で、サクラメント国の中央に設置すれば、国全体に結界が掛けられそうです。……ヴェルムの領内に仕掛ければ出来ますけど……私はしませんけどね。
作ってしまったものの、どうしようかな?と悩み、困った時の女神様。という事で久し振りに教会に来ました。礼拝所で何時ものように祈りを捧げます。
『久し振りね。ミスティーヌ。元気みたいだけど、とんでもない物を作ったようね。』
女神様が笑ってます。やっぱり見ていたのですね。
『チョット嫌な事があったので憂さ晴らしをしたら、作れちゃいました。けど、こんな物が必要な程、国同士の諍いは無いし、魔獣の被害もないのですよ。平和な今、どうしようかなぁと思って。
こっそりと王家の宝物庫に隠して来ようかとも思ったのですけど、以前やらかした結果、警備が厳重になっているので、忍び込めないのですよね〜』
私がヘニョンと呟くと、
『また、無欲と言うか、無責任と言うか。きっちりと売り付ければ良いじゃない(笑) 国の予算が無くなるかもしれないけど(笑)
うーん…………流石に所持者を選ばないと大変な事になるから、コレはダンジョンには置けないわ。私は預からない方が良い物ね。素直に王家に献上して来なさい。自分で渡して恩を売っておくのが一番良いわ。』
と笑います。それが嫌だから来たのに〜と恨めしく見つめると、
『仕方ないわね。数万歩譲って、神託を出してあげるわ。私の像の下にでも埋めて置きなさい。』
と苦笑いしています。だって、20cmは有る巨大な魔石自体もレアな上に、結界が付与されているなんて、個人が扱う物では無いです。国宝以外に扱えないですよね?それを下手に献上なんかして目立ちたくはありません。私が作ったなんてバレた日には何処に隠れたら良いのですか?
『ありがとうございます!流石は女神様です!よろしくお願い致します。』
満面の笑みでお礼を言いました。その後はカヴィヨンを始め、クリスティやジャレットの話で盛り上がって楽しく過ごしました。……魔石?王都の教会の女神像の下、50cm位の所に転移させて帰りました。
その夜、ウォルトン陛下とロレーヌ王妃の夢に女神様が現れ、魔石の存在を示されたそうです。翌日、王都の教会に職人が呼ばれ、教皇様も見守る中、床石を剥がして女神様の像の下を掘り起こすと、お告げ通りに結界の付与が付いた大きな魔石が発見されたそうです。
女神様のお力で、結界の範囲を決められる性能が追加されていたので、通常は王城と教会が入る範囲のみを護るそうです。危機の際には国中を護れますが、魔力が不足した時に補充するには何十人もの魔力が必要だと言われているそうです。……国中覆っても100年位は保つと思いますけどね?使い捨てじゃ無い処が女神様クオリティだそうです。翌晩女神様が私の夢に忍び込んでいらして笑ってました。
『折角ミスティーヌが作ったのに勿体無いじゃない?(笑) だから性能を上げたわよ。まぁ、当然ね!』
お礼として新作のお菓子を求められたので、今日は久し振りに厨房に籠っています。
『新作のお菓子が早く食べたいわねぇ〜。最近、新しい味に出会わないのよね〜。』
と呟く女神様の為に、最近手に入るようになった南国の材料を使ったケーキを作ります。どちらも薬草の扱いで入って来ましたが、味はチョコとコーヒーを思い出すのですよね。作るにあたって女神様に尋ねた処当たりでしたよ。この国の気候では難しかったので、隣国の熱帯域に生やしたそうです。
『かーさま、良い匂いがします!何を作ってますか?』
勉強をしている筈のカヴィヨンが厨房に駆け込んで来ました。カカオを使って作ったココアもチョコレートも甘い香りがしますから、お菓子には最適な材料ですけど、内緒で作るには香りが邪魔をしたようです。モリーノはとっくの昔に貼り付いてます。(笑)
『ファイアタートルの甲羅の件で知り合った隣国のギルドから、カカオとコーヒーを手に入れたの。コレは苦味が美味しい大人向けなんだけど、お砂糖やミルクを足す事で、カヴィヨンやモリーノでも食べられるかしら?
出来上がったら味見役をお願いしますね。』
と、二人をフェンリル母様に押し付けて、私はお菓子作りに戻りました。




