55 平和な、何事も起きない日常
クリスティとジャレットが生まれて早くも半年が経ちました。カヴィヨンのおニーさまぶりが板について来たかなぁ〜と言う今日この頃です。クリスティは元気良く動き、活発な男の子になってますし、ジャレットは控え目な泣き声で、あまり自己主張をしない大人しい女の子と、二人に個性も出て来ました。
カヴィヨンは文字をかなり覚えたので、時折?というか頻繁にフェンリル母と一緒に来ては、お気に入りの絵本を弟妹に読み聞かせしてくれています。そこに時々、執務を抜け出したハリシエダ様が加わって、朗読劇になったりして盛り上がると、空気を読んだ侍従長のフェンリル父に連れ戻されたりしますが、私は微笑んで見守るだけです。…演者が足りない時はゲスト出演しますけどね(笑)
カヴィヨンの読んでる絵本の多くは、サリシン義父様がハリシエダ様に買い与えた物ですが、マジェンダ義兄様とクリミアナ義姉様からのプレゼントもあります。ユーリウス様やヴィクトリア様やレイチャイルド様のお気に入りもいろいろと頂きました。カヴィヨンの時よりも沢山頂いてます。
今、3人が着ている服もお下がりです。上質な布で作られているので着心地が良く、双子が特に喜ぶのですよ。クリスティのはカヴィヨンも着ていたので少しクタッとしてますが、ジャレットのは新品のような綺麗さで、ヴィクトリア様のお淑やかさが伝わるようです。…ジャレットの大人しさって、ヴィクトリア様譲り?
モリーノの餌付けに成功したサリシン義父様は、モリーノに頼んでリストランテとヴェルム、王都の3ヶ所を転移で行き来しては孫可愛がりに励んでいるようです。マジェンダ義兄様に公爵位を譲った上に、アネトール義母様をタルピナスに押し付けたので、少し自由な時間が出来たらしいのです。
でも、転移は秘匿事項の為、公には使えないそうです。まぁ、当然の事ですね。こっそり自慢するので、陛下が羨ましがっているとか。(笑) ランティス様はご両親の躾が素晴らしいので、誰かと転移はしないそうです。王太子様のお願いでも受け入れ無い生真面目さは親譲りなのでしょう。
それにしても、モリーノは私の守護聖獣だった筈ですがねぇ〜私、守護されていませんよね。どちらかと言わなくても、私がモリーノを守護してますよね。食事は殆ど私が用意していますし、成長する為に私の魔力を食べて影で眠っているし。
食事や睡眠の時以外は、結構頻繁にお菓子を貰いにサリシン義父様の処を訪れている様で、自由気ままに転移して遊び歩いていますね。まだまだ子供ですからね。(ため息) フェンリル母様に諌められていますが、まぁ、バレなければ問題無い…と思っているのでしょうけど?サリシン義父様に利用されているぐらいならお互い様で済んでいるのかな?と見ています。
元々はパール様に贈る為のお料理を入れて運んでいたマジックバッグですが、パール様がいない今、モリーノが自分専用で使っています。私や料理長から大量の食事やデザートなどを入れてもらっています。そこにサリシン義父様からの貢物も入れて有るみたいです。サリシン義父様の要望する処を回りながら、美味しいお菓子を集めているようですね。でも、あちこち?のお菓子があるみたいですが、タルピナスのお菓子は無いようですね。
…時々、王都で流行りのお菓子をカヴィヨンにも分けてくれて一緒に食べているみたい。ランティス様の処に遊びに行った際には、どうやら王宮でもねだっていると思って見ています。カヴィヨンと仲良しなのは嬉しいけど、精神年齢が一緒なのかな?
タルピナスは良く言えば、平和?長閑な農村地帯で、危険な魔獣が珍しくいないので、私はまだ行った事がありません。ナイジェル義兄様の義父であるタルピナス子爵様から何度かお誘いは有りましたが、アネトール義母様が送り込まれたので、私は行きそびれたままです。
私と出会う前に国中を彷徨いていたらしいモリーノなら、たぶん、転移出来るのかもしれませんが…私は時間をかけてまで、わざわざ馬車で行く必要を感じないのですよね。
それでも、気にはかけていたのですよ。タルピナス子爵様にも負い目が有りましたし。それがファイアタートルの取り扱いでは、私から見ても見放さざる終えないかな?と思いましたよ。
あの対応は領地を栄えさせる気が無いように思えましたからね。タルピナスには特出した魔獣がいた訳でも無い為、いきなりの大型魔獣で戸惑ったにしろ、あの対応は無いでしょう。これから討伐してアイテムを手に入れて領費を稼げ!と言われたなら兎も角、私が『アイテムを差し上げましょうか?』と提案したのに…
売り先を見つけるだけの仕事なのに、商業ギルドに丸投げした挙句、迷惑顔をされてはねぇ〜フォローの入れ処が有りません。言葉は悪いいのですが、ハズレくじを引いたタルピナス子爵様には何か埋め合わせをしたい。と思っていたので、レアアイテムの斡旋をしたのにねぇ〜。悪意でとられるとは想定外でした。
どうやらサリシン義父様も、アネトール義母様に育てられたナイジェル義兄様とは性格が合わない様で、タルピナスには行っていないようなのです。一時期はタルピナス子爵様に頼まれたのもあってか、ナイジェル義兄様にタルピナス領主としての仕事を仕込む為に、タルピナスからリストランテに呼び出して教育をしていたそうですが。その時はまだリストランテにいたアネトール義母様が、
『あなたはナイジェルに厳し過ぎるわ。』
などと口出しするので教育が滞り、更に学ぶ姿勢に熱意の見えないナイジェル義兄様の態度にも呆れてしまって匙を投げた。とハリシエダ様経由でお聞きした事がありました。…ハリシエダ様に女性をあてがった件でアネトール義母様をタルピナスに送ってからは、タルピナスと距離を置いた事でナイジェル義兄様達に対する興味?もすっかり離れたようです。
結局、中途半端になった領主教育を、タルピナス子爵様に差し戻して任せたそうですが、元々言う事を聞かないのでサリシン義父様が再教育する事になったくらいなので、しかも今ではアネトール義母様が付いている…うーん。どうしようも無くなるまで放っておくしかないのかな?でもファイアタートルの件で、既に詰んでいると私は見てますけど。
とは言え、ロヴェニア義姉様やカーチス君、ヘルツェリ君、クランセちゃんには一度会っておきたいとは思うのですが、あちらはタルピナスから出て来ないのですよね〜数年前にクリミアナ義姉様と開催したお披露目会にも、丁度妊娠中だったそうでタルピナス子爵しかいらっしゃいませんでしたし。ナイジェル義兄様もお留守番として来ませんでしたね。カーチス君ぐらいは顔繋ぎにタルピナス子爵様と一緒に来ても?と思っていたのですけど。
まぁ、今となっては、私が関わりたく無いのはアネトール義母様とその関係者なので、そう言う意味では会わない方がお互いの為かもしれません。クリミアナ義姉様のお話では、ロヴェニア義姉様はアネトール義母様とお話の合う方だそうで、ナイジェル義兄様との婚姻で、子爵令嬢から公爵家の一員と、自分の身分が上がったかのような事をおっしゃっていたそうです。クリミアナ様と張り合っていたのかしら?
クリミアナ義姉様から、『タルピナスが隣国との境に有るので、辺境伯の様な身分と勘違いをしているのかもしれませんわね?(笑)』と聞いた時には、流石にそれは無いと思いましたけど、本人を知らないので返しようがありませんでした。ただ、今はアネトール義母様が一緒に住んでいますので、どんな妄想を吹き込まれているのかは想像はしたくないですね。
さて。生後半年が過ぎ、双子も少し落ち着いて来ているので、かねてより計画していた木工工房を立ち上げる事になりました!…ハリシエダ様が(笑) 最初は、
『リーバスさんに職人と場所の依頼は出したから、後は支払いだけだね。ミスティーヌに出来るのだからと父から言われたけど、私にも簡単に出来そうだよ。』
と笑っていたようですけど、マジェンダ義兄様に何時の間にか釘を刺されていたそうです。建物に掛かる費用の見積もりだけでも意外とかかりますよね?更に職人となると持っているスキルで賃金が変わるのですから、人任せにして良いものではありませんよね?私の常識はハリシエダ様の非常識?
慌てて仕事の合間にギルド通いをして職人さんを集めていたそうです。だって、ハリシエダ様の個人資産ってそんなには無いのですよ。ほら、領費から領主に支払われる分って、私邸の維持費とか食費とかにも使うので、余った残りがお小遣い的な個人資産(笑) になる訳です。
幸い、公爵子息時代の資産が有ったのでなんとかなりましたが、一気に使い切って、足りなくなってしまう流れに焦ったそうです。…足りなさそうなら私が支払うつもりでしたが、ハリシエダ様のプライドを潰さずに済んで良かったです。
ギルドに所属していてSランクで活動していた私とは違い、木工工房を開くに当たって必要なので、ハリシエダ様は今回、初めて商業ギルドに登録しました。冒険者ギルドとは違い、扱う金額で等級が決まるそうなので、一応?Aランクだそうです。リーバスさんが言うには、
『領主に駆け出しのCランクなんて付けられません。支店を持っていないとは言え、Aランクが最低でも付きます。今回の工房は扱う素材がトレントなので、例え特例としても問題有りません。ミスティーヌ様が領主夫人として、末永く素材を提供して頂けるならば、Sランクも視野に入ります。』
と鼻高々です。あ、調べてもらったら、私はSランクでした(笑) ギルドに対する貢献度は凄まじい上に、Sランク冒険者を兼務していると、冒険者のランクに反映されるそうです。しかも、魔石工房を持っている私の実績からはSランクは当然だそうです。…商業ギルドでもいろんなアイテムを売りまくりましたからねぇ〜とは言え、私の場合はサミュエル兄様達家族のお陰ですから、私一人の功績では有りませんよ。私はアイテムを提供しただけです。
建物こそギルドに斡旋してもらいましたが、職人集めなど、ほぼハリシエダ様お一人で木工工房を立ち上げましたので、お祝いの準備を始めました。以前、クリミアナ義姉様に教えて頂いたお茶会の簡易夜会バージョンです。勿論、リストランテにこっそりと転移してはクリミアナ義姉様に相談を重ねて、ハリシエダ様の手を煩わせないように頑張りました。…招待するのはお互いの家族を始めとした身近な人ばかりです。…利益のお溢れに預かりたいだけのお貴族様は遠慮?
タルピナスを除いたハリシエダ様の家族と、私の家族。それに商業ギルドの関係者を集めたパーティーになりました。何故か?サリシン義父様が仕切っているので、身分は無礼講です。木工工房からは工房長を頼んだブリアさんが代表で来ました。ブリアさんはリーバスさんの伝手で来てもらった職人さんで、『トレントの扱いなら任せておけ!』とニッコニコでお酒を飲んでいました。…ドワーフみたい(笑)
『私の為に、皆様ありがとうございます。ミスティーヌのお陰で、領主として、工房を通してヴェルムを発展させて行けそうです。
トレントの特性を活かした家具や建物で、ヴェルムの名は更に上がると思います。エルーシャさんの魔石工房のように、ブリアさんの木工工房も発展してもらいたい。と希望します。
大好きなミスティーヌ、ありがとう!』
アレ?挨拶に立ったハリシエダ様ですが、もうお酒に飲まれています?
『ハリシエダがこんなに浮かれる姿を見せるのはミスティーヌのお陰だな。安心したよ。』
と笑うサリシン義父様に、アラン父様が、
『3人も子供を産んだのに、ミスティーヌはまだ落ち着きが足りませんからね〜。取り敢えず、トレントを狩り過ぎても安心出来る工房が出来て、ホッとしました。なんせ、気分次第で狩りまくる悪い癖がありますからね。ハリシエダ様、キチンと手綱を引いて下さいね!
ミスティーヌ、製品の売り込みぐらいならサミュエルに頼んでも良いからね。』
と、返し刀で?私とハリシエダ様に釘を刺します。数年前にはダンジョンに籠ってアイテム獲りまくって、アラン父様に投げまくりましたからね〜良い思い出?にするには、まだ月日が足りないようです。国外からも問い合わせがあったようですが、窓口が王都のギルドだったので、知らぬ存ぜぬで遣り過ごしましたけど。
『その節は大変ご迷惑をお掛けし、反省しております。』
即座に頭を下げるハリシエダ様。マジェンダ義兄様も苦笑して、
『ミスティーヌは普段優しいからなぁ。スイッチが入ると怖いんだよね。でも、クリミアナも子供達も良くしてもらうばかりで、スイッチの入れようが無いんだよねぇ(笑)』
とクリミアナ義姉様と笑ってます。言われてみれば、ハリシエダ様以外では有りませんね?女神様がおっしゃるように、ハリシエダ様が特別って事でしょうか?
『かーさま。モリーノが美味しいお菓子をくれたの。レイにーさま達と食べても良い?』
首を傾げてハリシエダ様を見つめていたら、カヴィヨンがお菓子を両手に持って来ました。これは、パール様にねだられて作ったケーキですね。あのマジックバッグに入れてあった物ならば問題無いでしょう。
『美味しい物はみんなで分け合うと、もっと美味しくなるんでしたね。良く覚えてましたね、カヴィヨンはお利口さんですね。』
と頭を撫でて返事をすると、嬉しそうに笑って、子供達のテーブルに戻って行きました。




