49 閑話
ガスパール(&オリハルト) 視点
サルカンドの学校で、私達がカシューに振り回される事に危機感を持った父に、王都の学校に移される事になったので、せめてもと父に頼み込んだのだが…ミスティーヌを王都の学校に連れて行けなかった。
卒業後、王宮で働いて人脈を繋いで、数年振りのサルカンドに期待をして戻ってみれば、ナント、ミスティーヌは既にハリシエダ様に取られていた。何でミスティーヌとハリシエダ様が?と父に聞けば、王都の学校を卒業したハリシエダ様が、何故かシニア先生の助手として1年間の期間限定で着任したそうだ。しかも、ハリシエダ様もカシューに絡まれるなど問題が起きたそうで、やりたい放題の問題児カシューに、父はまた悩まされたそうだ。
そして、問題児の片翼?を担わされたハリシエダ様は、卒業式後の学校の門の所で、ミスティーヌにプロポーズ事件を起こしたそうだ。
その場では父親のギルマスに断られたそうだが、数年後には何故かいつの間にか婚約が成立していたそうで、父もその経緯は知らないそうだが、漏れ聞こえる噂によるとミスティーヌがSランクに上がった事が原因らしい。
卒業式のプロポーズの時は公爵家の威光を持ち出さなかったので、ミスティーヌの父親のギルマスも断れたらしいのだが、ミスティーヌが成人し、Aランクの冒険者と言う地位を得た為、指名依頼を受けねばならなくなり、ハリシエダ様によって目を付けられていた公爵家に、遂には外堀を埋められて囲われたらしい。
平民の結婚は貴族と違って急がないらしいと聞いていたし、まだ10代だからとノンビリしてしまったのが敗因だったのだろうか。こんな事なら父にもっと情報をもらっておくべきだった。いや、私は父にミスティーヌとの婚約を頼んでおくべきだったのか。
伯爵家はオリハルト兄が貴族家から嫁をとって継ぐのだから、爵位を持てないであろう私はミスティーヌと結婚しても問題無かった筈なのだ。ミスティーヌの父親と仲の良い父だったら、私との婚約ぐらい結んでくれただろう。
それにしても、何故、ハリシエダ様はサルカンドの学校にきたのだろう?しかも、ミスティーヌが在籍した1年にだけ期限を区切って。学校で話しを聞いていた時には、ハリシエダ様は王宮に勤めると話していたのに。一人悶々と悩んでいると、
『しくじったよな。あの時ハリシエダ様に、ミスティーヌの話をしなきゃ良かったよな。』
と、オリハルト兄が話し掛けて来た。オリハルト兄もミスティーヌを気に入っていたのだったな。
『えっ?兄さんがハリシエダ様にミスティーヌの話しをしたのか?何故だ⁇』
と掴み掛からんばかりに言うと、
『いや、あの時意気揚々とミスティーヌを語ったのはガスパールの方だろう?ミスティーヌの付与魔法の事を自分の自慢話のように語って、ハリシエダ様の注意を引いていたじゃないか!』
と、呆れたように言い返された。なんの事だ?と記憶を辿ってみると、転校した当初、皆に珍しがられて持て囃されてた?頃の話だ。最初にハリシエダ様に声を掛けられた時の事を思い出した。
当時、王都で流行りの付与魔石の話しをしたのだ。魔石に珍しい魔法付与がしてあって、対象者にしか見えない。と言うお願い石の話しで、つい、付与繋がりでミスティーヌの事を話してしまったのだ。
たぶん、あの付与魔石がサルカンドから王都に運ばれている事を突き止めて、丁度サルカンドから転校したての私達に話し掛けたのだろう。………なってこった!私が二人を引き寄せたのか?
私の顔色がクルクルと変わるのを見ていたオリハルト兄は表情から何かを悟ったようで、
『私も願い石の話しを聞いた時はミスティーヌなら出来るだろう!と考えていたのだよ。本人は隠しているつもりのようだが、薬学といい錬金術といい、才能に溢れていたからね。
彼女が採取してくるアイテムや素材は貴重な物が多い。領政を運用する際にも大きな助けになる筈だ。と目を掛けてはいたのだがなぁ。父親同士が仲良いから、なんとなく、私達のどちらかと縁ずくと思い込んでいたのだが。甘かったな。
こんな事なら、王宮での人脈形成を考えずにさっさと帰って来て、ミスティーヌに告白しておけば良かった。今更だが反省しているよ。』
少し力を落とした表情で呟くオリハルト兄。私達は双子。趣味嗜好がとても良く似ている。やはり、オリハルト兄もミスティーヌを好きだったのだ。そして、同じ教育を受けていた弊害だな。同じ間違いをしていた訳か。逃した魚は大き過ぎた。…兄弟で取り合う事にならずに済んで良かったと思うしかないか。
その後、性懲りなく五月蝿く付き纏うカシュー対策に、父が用意した集団見合いのお茶会で何度か話す内に、オリハルト兄も私も、伴侶となってくれる女性を見つける事が出来た。政略結婚にも近いが、お互いの気持ちを交わしての婚約なので幸せと思えた。
オリハルト兄の披露宴で久し振りにハリシエダ様に会い、いろいろと話す事も出来た。今後も仲良く助け合う関係が作れたと思う。綺麗になったミスティーヌを見るのが少しだけ辛かったのは、気の所為だと思いたいな。
ブルタロス商会長 視点
だいたい、サルカンドの冒険者ギルドのギルマスが生意気なのだ。オークションで出たマジックバッグの足を辿るのにどれだけ苦労した事か!侯爵様の名を使ってやっと判明したのだ。わざわざ、私がサルカンドまで行って、冒険者ギルドにまで出向いたのに、
『此処は冒険者ギルドで商業ギルドでは無い。マジックバッグも冒険者用しか取り扱っていないし、それも今は在庫切れだ。』
なんて人を馬鹿にした返事しか返さなかった。
『冒険者ギルドであっても、マジックバッグならそこに有るだろう!アレを買いに来てやったのだ!』
と受付の後ろの棚を指差すと、
『アレはギルド所有の貸し出し用で売り物では無い。契約時間が過ぎると自動で返却される魔法が掛かっている。』
そんな珍しい魔法が普通に付いているなんて聞いた事が無い。更に価値が上がったが、誰が作ったのか聞いてもはぐらかすし、此処に戻ってしまう設定を変える方法が思いつかないので渋々諦めた。
ギルド内に居た冒険者が何か話したそうだったから、ギルドを出た所で捕まえ、小銭を掴ませたのだが、ギルマスの娘が作れるが嫁に行った。という事しか聞き出せなかった。嫁ぎ先もどうせ同じ平民だろうと思っていたのでそれ以上調べなかったのだ。
そんな時に、オリハルト様の婚姻を聞いた。あのギルマスの娘も同級生として呼ばれる事を掴んだので、私もサルカンド伯爵様にお祝いしたい。と席を用意させたのだが…
ギルマスのテーブルには娘の席が無かったのだ。各々に名前入りのブーケが置いてあるから間違いは無い。ならば嫁ぎ先に居るのだろうと思い、ギルマスを見張っていたのだが、披露宴に出される料理が美味過ぎる!素材が良過ぎるのだ!耳を澄ますと、素材となるワイバーンやレッドサーペントを獲って来たのがSランクの娘らしい。なるほど、この為に娘は披露宴に呼ばれたのだな。と納得した。
デザートを待つ頃になってギルマスのテーブルに着飾った女性が近づいて来た。様子を窺うとどうやら娘らしい。やっと来たか、と近付いてマジックバッグを買ってやるからと声を掛けてやったのに…
可笑しい。こんな筈では無かった。大金を積んでグランダイン侯爵様の後ろ盾を得た私は、下級貴族なんて気にする必要がない程の権力を持った筈だ。ましてやSランクとはいえ平民の冒険者なんて私に使われて光栄に思って当然なのだ!
それなのに、睨まれただけで相手にもされないなんて!怒りに任せて怒鳴ってしまったらサルカンド伯爵が気付いて来てしまった。取り繕うか、一瞬悩んだが、侯爵様の顔が浮かんだ。伯爵だって平民より私の方を取るだろうと思い直して別室に着いて行った。
Sランクの娘の結婚相手は公爵家の子息で、しかも本人が伯爵位を持っている。って、あり得ないだろう?
しかも、王太子妃様の専属扱いの身分で、グランダイン侯爵家と対立しているなんて、私の立場はどうなるのだ?王家の後ろ盾にたかが侯爵家では勝ち目が無い所では済まないのでは?
気付いた時にはサルカンドからの撤退を迫られていた。勿論、ヴェルム伯爵領には行商にすら入れない事になった。リストランテ領にも新規出店は認めないと言われた。既にある店舗までは言及されていないが、大丈夫だろうか?
旧タレイアに有る店舗が心配だ。ギルマスのバックスは金さえ掴ませれば見ない振りをしてくれるが、バレる前に荒稼ぎして店を畳まないと大変な事になる!取り敢えず、侯爵様に相談に伺わなくては!
…遅かった。侯爵様が動いて下さるから。と安心したのが間違いだった。バックスの奴は既に追い出されていて、グランダイン侯爵様に口利きを頼むと私に泣きついて来た。追い掛ける様に、ギルマスに就任したフォーラスから、フェーブルに在る支店の閉鎖撤退を表明された。領主案件だから決定は覆らない。という一方的な物だった。
私はサルカンドとフェーブルの2店舗を畳み、王都の本店に帰ると、グランダイン侯爵家から当主交代の知らせが届いていた。前侯爵がいろいろとやらかして王家から睨まれたので、と言葉を濁した経緯が書いてあって、トドメを刺したのが私の行いだと記してあった。
『王家の専属であるSランク保持者である、ヴェルム伯爵夫人に対する傍若無人な振る舞いをした、平民の一商会長の後押しをした行為が、当主交代の決めてとなった。』
私はもう終わりかもしれない。多分、終わりなのだろう…
女神様 視点
相変わらずミスティーヌの周りは騒がしい。
『自分の価値を安売りするから!』
と私が叱っても、
『女神様の買い被りですよ〜(笑)』
と取り合わない。でも、良いの。私もハリシエダも分かったから。そう、ミスティーヌに気づかれない様にザマァをする!
喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃ無いけど、人の良いミスティーヌは最終的に許しちゃう事が多いから、私達が気付いてお仕置きする事にしたの。やり過ぎは良くないけどね。
幸薄かったラメールの実家の男爵家は既に離散して追えないけど、グリードの実家のハザルはまだ商会を開いているわ。ミスティーヌが気にしないから放って置いたけど、どうしようかしらね?サルカンドとフェーブルの2店舗を潰した代わりに呼んであげても良いのだけれど。でも、跡継ぎがアレじゃね。二の舞は嫌だわ。仕方ないからハザルの頑張りに期待するぐらいかしら?
それよりもカヴィヨンが可愛くて!今はそちらに目が行くわ。フェンリル母もランティスから手が離れて寂しいのか、カヴィヨンにかまいっきりでミスティーヌが心配している位ね。(笑)自分が同じ頃には教わらなくても魔力操作していた事も忘れているし。
そう言えば、ダンジョンも少しずつ成長が早まっているみたい。ミスティーヌのタイムトライアル⁉︎ のせいで、活性化している上に、下層にも冒険者が潜る様になって来たから、相乗効果を産んでいるのよね。
後数年貯めれば、新しいダンジョンをキュラスに作れそうね。楽しみだわ。
モリーノ 視点
ミスティーヌの影に入って、ミスティーヌの魔力に包まれていると、ご飯を食べるのも忘れる位に満たされるのが分かる。フェンリル母様から聞いたのだけど、僕は本来なら両親の魔力に包まれて育つ筈だったんだって。
聖獣の魔力は人族よりも遥かに多いから普通は有り得ないのだけど、ミスティーヌは女神様の加護もあって聖獣よりも多い魔力を持っているみたい。その為、僕がミスティーヌの陰で魔力を吸収しても問題無いらしい。
だけど、最近、なんか違和感があって、ミスティーヌの魔力に不快感が混じる様になったので、パール様の洞窟に遊びに行ったんだ。パール様は洞窟の近くの丘に居て、広がる花畑を見ていた。…正確にはそのズッと先の方向だ。
『モリーノ、良く来たね丁度良かった。私ね、旅に出ようと思うの。多分、この先の何処かに、私の番がいるの。最近、夜、静かな時にね、何かが私を呼んでいる様な気がする事が多くてね。
だからね、今度の満月の夜。私は番を探しに旅立つわ。
番が見つかって、何処に住まうかはまだ分からないけど。戻れるなら、また、此処に戻りたいわ。
モリーノ、ミスティーヌをよろしくね。私が居なくても、フェンリル様方と良く相談して、ミスティーヌを、皆を守るのよ?』
僕はミスティーヌと契約しているから、今は番を感じないのかもしれない。パール様の様に、お互いが成熟しないと感じないのかも?
出発をミスティーヌに知らせるかを聞いたら、ソッと旅立ちたいと言われたので、ミスティーヌには何時もの様におやつやおやつやご飯をおねだりして沢山もらい、パール様にそっと渡した。
僕はミスティーヌの魔力に包まれて満たされているから泣かないよ?この魔力で成長して、ミスティーヌを助けるんだ!
だから、パール様。行ってらっしゃいませ。
読み返したら、聖獣と書いたつもりが魔獣になっていたり……少し訂正を入れました。




