37 謁見からの〜
今日はハリシエダ様を連れて、王宮に行きます。事前に王妃様や王太子妃様と相談の結果、『ダンジョン踏破の報告には夫婦で来た方が都合が良い。』という事になりました。
拝謁の間には王様と王妃様の前にテーブルが置かれ、先に献上したパールの王冠とティアラが乗っています。お二人の脇に王太子様ご夫妻もいらっしゃいます。両側に大臣達も並ぶ中、私はハリシエダ様と二人で、ドラゴンの角で出来た宝冠とティアラを乗せたお盆?を持って入りました。
お盆を掲げながら跪くと、王様から声が掛かり、侍従の方に献上の品をお渡ししました。テーブルに揃えられた2組の冠とティアラの輝きが素晴らしく、見ている人の声を奪ってます。
王様に促され、『どちらもダンジョンの宝箱から出た女神様の贈り物で、所持するに相応しい方を考えるに、王家以外には有り得ないと思い、この度、献上させて頂きたくお持ちしました。』と、ドキドキしながらお伝えしました。
『ダンジョン探索の途中で、ランティス様より転移で王宮に招かれました。本来は30階層まで全て踏破してから献上に上がる予定でしたが、あまりの素晴らしさに一刻も早くお見せしたくてなり、パールの王冠とティアラを、王太子様ご夫妻に預けさせて頂きました。私の思い付きによりご迷惑をお掛けしたとランティス様より伝えられ、大変申し訳無く、反省しております。』
と謝罪をすると、王太子様が、王様に断りを入れて、
『私こそ、安易に受け取ってしまって、しかも、更に素晴らしい物が出るかもしれないから。との話しに、父には揃ってから伝えれば良いか。と、妃に預けて終わりにしてしまった。騒ぎになるまで価値に気付かず、申し訳なく思っている。母が、宝物庫に仕舞ってくれてホッとしましたよ。
それに、私の思いつきの依頼で長い事家を空けさせてしまい、済まなかったな。妃からも、新婚なのに。と叱られてしまったのだよ。』
と、私を庇う発言をして下さいます。…王妃様からの提案と言うか、王妃様の夢の中に女神様が入ってらして、今回のストーリーをお願いされたのだそうです。この話しを聞かされた時は驚きでしたよ。ハリシエダ様のやらかしの責任を女神様が取るにあたり、王家の力を借りた。という事ですよ。でも、30階層の宝物を用意したのは女神様でも、苦労したのは私だけなんですよね!そう思うと、ハリシエダ様って、ホントに女神様に愛されてますよね。…なんか、私はモヤモヤして来ました。
ランティス様のお陰で、『私は聖獣様の気まぐれで転移させてもらっている。』事になりました。最初はモリーノに転移してもらっていたので嘘ではありません。聖獣様が転移のスキルを持っている事は広く知られているので、今では『聖獣様のお気に入り』の方が話題に登ってます。
私は神殿にハリシエダ様と行きました。女神様に祈りを捧げると、何時もの空間に飛びました。女神様に頼んで、ハリシエダ様も呼んでもらいます。どうしても眼を瞑れない処まで気持ちが叫んでいるからです。二人と向き合い、
『ハリシエダ様を愛しているのは、女神様ですよね。なのに何故、私に押し付けるのですか?』
ハリシエダ様が、驚いて私を見ますが、私は女神様を睨んでいます。
『ミスティーヌは何故そう思うの?ミスティーヌはハリシエダを愛して無いの?』
『質問で返すのは、疾しい事が有るからですよね。私はダンジョン探索の途中から、微かに疑問に思っていた事がありました。私がこの世界で生きて行く目的ってなんだろう?私がこの世界でしたい事は何?そう考えた時、隣りにいて欲しい人って誰だろう?』
ハリシエダ様がそばに来て私を抱き締めます。離れない様に、離さない様に、抱き締めながら、
『ミスティーヌが私を必要としていないのは気が付いていた。と言うより、私を愛して欲しい!という私の願いで縛っているだけなのは分かっていた。でも、私はミスティーヌが必要なんだ!私はミスティーヌが居ない人生なんて考えられない!』
訴えてくる言葉は変わりません。でもね、根底が違う気がします。私は、私とハリシエダ様は心を女神様に操作されてたから。
『ミスティーヌ。私は何かを伝え間違ったのですね?私は何を間違えたのでしょうか。
私がミスティーヌにハリシエダを選んだのは、ミスティーヌが生きて行き易いと思ったからです。筆頭公爵家を後ろ盾として、自由に暮らせる様に選びました。ハリシエダ本人の成熟度に難があったので、苦労させて成長させました。今のハリシエダなら、ミスティーヌを護れる筈。
そこまでしたのに、ミスティーヌは私がハリシエダを押し付けた。と非難します。私こそ、何故?と聞きたい。』
女神様の眼に困惑と怒りが見えます。所詮、私に理解など出来ない物なのでしょう。
『私は女神様が選んで下さったのだから。とハリシエダ様を受け入れる努力をしました。他に好きな異性は居ませんし、多分、あの時まではハリシエダ様を好きだったと思います。半年前の披露宴を私が総て用意した位には。でも、あっさりと裏切られました。
そして、今回、献上の為に王宮に上がった時に気付いたのです。
女神様は私の為にダンジョンを整えた。とおっしゃってました。確かに宝箱から色々なお宝は頂きました。でも結果から見ればそれすらも、ハリシエダ様の為に使いましたよね?
女神様はハリシエダ様の為に大勢の記憶を操作し、王家を使い、私を使ってまで場を整えた。それは女神様が選んだハリシエダ様が私を裏切らなければ必要有りませんでしたよね?
ならば、女神様が私をハリシエダ様に選ばれなかったら、私はもっと自由気儘に過ごせたのでは有りませんか?私に苦労させる為に仕組んだなら何故?と考えれば答えが出ますよね?
女神様がお気に入りのハリシエダ様の為に!私の心を操ったのですよね。』
心が、壊れ掛けている気がしました。気付いてはいけない事に気付いた。そんな気がします。表情の消えた私の顔を見て、女神様の眼が驚いてます。なんで?
『ごめんなさい!ミスティーヌ!だって、ハリシエダは美形だし、優しいし、モテる要素に溢れているじゃない!ミスティーヌだって恋に落ちる。と思っていたのよ。え?好みじゃ無かったの?』
『私がミスティーヌの好みになれる様に努力する!私はミスティーヌしか要らないから、頑張る!ねぇ、私を見て。私はどうしたらミスティーヌの心を得られるの?』
そうでした。ハリシエダ様は何故か引かないのですよね。最初から真っ直ぐに私を欲してくれてました。女神様に操られていたのはハリシエダ様も一緒だったのですか。
『そっか。ハリシエダ様も女神様に心を操られているんですね。何も知らず、気付かなかった私はハリシエダ様を信じたかったのですね。でも、信じられなくて、辛くて、逃げたのですね。今も信じられなくて辛いけど、女神様に嫉妬するぐらいには好きだったのかも…?』
ずっとハリシエダ様の腕の中で、私はグルグルと回り続ける感情を考えました。女神様も
『やっぱり、ごめんなさい。って言うべきね。私がミスティーヌの為。って思ってした事だったけど、二人の心を操作した事は無いわ。ハリシエダがミスティーヌを好きなのはハリシエダの本心で、私は介入していないわ。本当よ。当然、ミスティーヌの心も操ったりしていない。
裏切られて傷付いたミスティーヌの心に寄り添えなかったのは、私の落ち度だわ。ダンジョンで苦労したのはミスティーヌだものね。記憶操作をハリシエダの為にしたつもりは無かったけど、結果的に得したのはハリシエダだものね。
ミスティーヌを傷付けてしまって本当にごめんなさいね。もう、ハリシエダと無理矢理くっつけようとはしないわ。
うーん。ミスティーヌへのご褒美は何が良いかしら?欲しい物は無い?』
私はハリシエダ様の腕から抜け出して、女神様に頭を下げます。
『私こそ、失礼致しました。まだ感情がグルグルしてますが、少しは冷静になって来ました。私は女神様に嫉妬したのでは無く、ハリシエダ様に嫉妬していたみたいです。半年前にお願いした時には私が頼んでも良いお返事を頂けなかった。と思ったみたいです。
大勢の方を操作して私の転移の記憶を消すのは、女神様でも簡単に行える事では無いと気づけませんでした。更に情報を上乗せして置き換えて頂き、ありがとうございました。
王宮で拝謁していた時には、周囲の貴族の方々のハリシエダ様への賞賛や同情ばかりに気がいってしまって、結果的に何故か変な方向に勘違いしてしまいました。失礼致しました。
女神様には頂くばかりであまりお返しが出来ていませんよ。甘やかし過ぎるのは私の為にならないと思います。私も女神様に甘やかされていた事実に、今、気が付きました。
不遜な態度を取ってしまい、申し訳有りませんでした。女神様の広い御心に救われました。ありがとうございます。
次は心を込めてアクセサリーを作って奉納に参ります。』
ホッとした顔の女神様に見送られて神殿に戻って来ました。ハリシエダ様が神妙な顔付きで私を見ています。
『私のこの気持ちは誰にも操作されていません。私の本心を信じてもらう為にも、一緒に暮らして下さい!まだ許して貰えないのは良く分かりました。と言うより、これから償いますから側に居て下さい。お願いします!辛いけど、白い結婚にも協力して、後半年は我慢しますから。半年後には認めてもらえるように頑張りますから側に居て下さい。お願いします。』
きっちり頭を下げてお願いされました。マジェンダ様にもお約束させられてますし、女神様にも謝罪されたので、取り敢えず、キュラスには戻る事にしました。ただ、『これ以上抱き付くならまた消えます。』と釘を刺しましたけど。
馬車でキュラスに帰る事になりましたが、神殿を出た処でマジェンダ様に捕まりました。
『王宮を出たら寄って下さい。と連絡した筈だったのに、伝言が間に合わなかったみたいでね。もしかしたら?と思って神殿に来てみたんだ。
母に直接苦情を言っても仕方ないからな、父を捕まえて聞いたから、お前達に聞かせてやろう。と待っていたんだ。夕飯を食べながらどうだ?今夜は泊まっていけば大丈夫だろう。』
仕事が早い!マジェンダ様の馬車に乗せられて邸に連れられました。
『父は知らなかったそうだが、執事が聞いていたよ。母が開いた茶会の席で、可愛い末っ子の結婚相手がSランクとは言え平民なの。とボヤいたのを聞きつけたのが例の三女で、昔からお慕いしておりましたのに。と媚を売って来たそうだ。伯爵夫人も娘が子爵夫人に成るのなら悪くない。と乗り気になって、女3人で悪巧みをしたらしい。
私から話しを聞いた父が怒ってな。今、追い出された母はナイジェルの処に行っているそうだよ。
父からミスティーヌに手紙を預かっている。ハリシエダには、三女を追い出した事を褒めてやれ!と伝言をもらったよ。良かったな。』
リストランテ公爵様は違う考えだったのですか。その場でお手紙を読ませて頂きましたが、ハリシエダ様の事を許せたなら、ダンジョンの話しをしがてら遊びに来る気は無いだろうか?と書かれてました。
『あー、処で。何時になったら兄様呼びに戻してもらえるのかな?最悪、ハリシエダを捨てたとしても、私を兄様と呼んでくれても良いのだが?』
と茶目っ気の有る笑顔で、マジェンダ義兄様がバクダンを落としました。
『マジェンダ兄様!さりげなく私を落としましたね!ミスティーヌ、簡単に私を捨てたりしないよね?過去の私が酷かったのは反省している。お願いだからこれから挽回させて!』
『ハリシエダ様がこんなに泣き虫だとは知りませんでした。ハリシエダ様って、こんな性格でしたか?私の知るハリシエダ様って、もう少し落ち着きがあったように思うのですが。それに、少し貴族的な傲慢が入ってましたよね?』
『ミスティーヌ。私の知るミスティーヌも、平民には似つかわしくない程、もっとお淑やか?な言い方をしていたと思ったぞ。そんなに直接的な言葉遣いもするんだな?(笑)』
あ!つい、本音が出てしまいました。マジェンダ義兄様が呆れてます。でも、もう良いですよね?多分、吹っ切れた気がします。リストランテ義父様に『半年後に、結論が出ましたら、その結果次第ではお伺いするかもしれません。』と伝言をお願いしました。




