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36 和解〜女神様が動いたら…

 半年振りのキュラスの邸は、領事館としての区画は賑わっている物の、私邸の建屋はひっそりとしていました。フェンリル様に気付かれないと良いなぁ。と思いながら、私の私室として用意した部屋に入って見渡すと、掃除はしている様ですが、埃除けの布が被せられていて未使用感が醸し出されています。式の前に運び込んだ品物が無くなっていたり、誰かが使っていた様な形跡は見当たらない様です。部屋の管理をきっとフェンリル母様がしてくれているのでしょう。『この部屋にまた入るとは思わなかったなぁ。』と呟きながら、一通り確認して、部屋を後にしました。


 マジェンダ様を迎えに王都に行き、馬ごとキュラスの郊外に転移しました。マジェンダ様だけ邸に現れてはハリシエダ様に私が一緒だと気付かれるかもしれない。と言う心配からです。私はマントを身に付けて転移で向かい、マジェンダ様には馬で領事館に行ってもらいます。


 私はマジェンダ様を見送ると、少し待ってから転移でこっそりとハリシエダ様の執務室に向かいました。部屋に入って仕事をしている処を観察します。真摯に仕事に向き合っている姿は好感が持てるのですが…。ノックがして、マジェンダ様が執事のフェンリル様に案内されて入って来ます。そっと部屋に防音結界を張りました。


 『マジェンダ兄様!ご足労頂きましてありがとうございます。今日はどの様なご用事ですか?』


 疲れを滲ませた表情でハリシエダ様が聞いて来ます。訪問の目的を何も書かずに先触れの手紙を出したからか、何か警戒している様に感じます。マジェンダ様も推し量る様な顔付きで、


 『式から半年程過ぎた。ハリシエダの現状が知りたいと思って直接会いに来たんだよ。ミスティーヌに対して相変わらずなのか、考えを改めたのか。若しくは、半年後を待って、男爵の身分に戻って誰かを迎え入れ直すのかをね、ハリシエダから直接聞こうと思ったのだ。』


 私に頼まれた。とは言えないので、ストレートに私が頼んだまま話していますね。ハリシエダ様は質問の内容に驚いたかの様に、


 『私は今でも変わらずにミスティーヌの帰りを待っています!私がどれだけミスティーヌを愛しているか、マジェンダ兄様ならご存知でしょう?

 本音を聞きたいと言うなら言いますが、仕事も何もかも投げ出してミスティーヌを探しに行きたいですよ!もう、半年も会っていないんです。どれだけ私が辛いか誰も理解してくれないけど!

 でも。周囲から散々言われて、自分の仕出かした事が原因だと理解して反省したから!ミスティーヌに考え直してもらって、戻って来てもらえる様に、今は私の出来る仕事をして頑張っているのに。

 まさか、マジェンダ兄様まで私からミスティーヌを取り上げて、母様の様に、他の女を充てがおうと思っているのですか!?』


 被せる様に話し始め、段々と激昂して最後には泣き出してしまったハリシエダ様に驚きました。話しの内容にマジェンダ様も驚いたのか、


 『ハリシエダがミスティーヌを愛しているのを疑って悪かった。最近では仕事もキチンと熟していて、王太子様からも『見直した。』と話されているのを伝え聞いている。だから、頑張っているのも分かっているし、ミスティーヌとの仲を裂くつもりで来た訳では無いのだ。そこは安心してくれ。

 それより、母が女を寄越したとはどう言う事なのだ?何か勘違いが有った訳では無いのか?』


 と、やはり、最後の告白を問い質してます。私は気付かれたく無いので直接聞けないから助かりました。…ハリシエダ様の人気が高い事は昔から良く知ってます。婚約する前も、婚約してからはより一層風当たりが強かったですからね。相手は貴族令嬢が多かったので、私は逃げの一手でしたよ。


 『最近、変に私に纏い付く侍女がいると思って居たら、伯爵家の三女でした。ミスティーヌが居ない今、しかも私からは格上の伯爵家から、何故、侍女に成りに来たのか不思議に思って、採用した理由を侍女長に聞きに行きました。そうしたら、本家より紹介状を持たされており、私の母の名を持っていらしたので断れず雇う事にはなったが、私の専属扱いにした覚えは無い。と言われました。

 しかも、侍女としての仕事を言い付けてもまともに出来ず、挙げ句の果てに、他の侍女を捕まえて自分の世話を言い付けるそうで、侍女長から逆に苦情が来たのですよ。

 元々、私に専属の侍女なんて居なかったので、本人を捕まえて質すと、母様に、私の子を宿して正妻の座を奪ってみないか。と言われて送り込まれた。と言い出したのです!

 多分、真実なのだろうと判断したので、金銭的にも、無駄遣いをする余裕は無いし、仕事をしない者を雇いたくは無い。と手紙を付けて公爵家に送り返した‼︎ それ以来、母様と話していない!』


 段々と怒りが溢れて来たのか口調が荒くなるハリシエダ様。マジェンダ様も言葉が出ない様です。


 マントで隠れて聞いてましたが、うーん、私、戻らない方が良くない?家族関係が更に大変になりそうな予感がします。私はマジェンダ様の耳元で、


 『面倒になって来ましたので、やっぱり戻らない。半年待って平民に戻る。って選択肢が正しく無いですか?これ迄の私に対する態度から、義理のお母様に好かれているとは思っていませんでしたが、此処まで嫌がられているとは、流石に考えていませんでした。ショックですね。』


 と囁くと、マジェンダ様がハッとした顔で私の声がした方を向き、


 『ミスティーヌ、待ってくれ!ハリシエダ本人を見て判断する約束だろう!母は関係ない筈だ!』


 と叫ばれてしまったのでハリシエダ様にバレてしまい、私は渋々マントを脱ぎ、姿を現す事になりました。マジェンダ様の隣りに立っている私を見て、一瞬固まったハリシエダ様でしたが、次の瞬間、椅子から飛び跳ねる様に机を乗り越えて私を抱き締めました。アレ?もしかして捕まった?


 『ミスティーヌ!私が馬鹿でごめんなさい!甘えん坊な子供でごめんなさい!これから仕事もキチンとして、ミスティーヌの事も全力で守ります!私が愛するのはミスティーヌだけだから、お願い!もう居なくならないで!』


 『エッと、此処で、嫌です。って言っても良いのでしょうか?』


 マジェンダ様に『如何しましょう?』と話しを振ると、頭を抱えたマジェンダ様が、


 『取り敢えず、ハリシエダが落ち着く迄はこのまま抱き付かれていてくれた方が有り難いが、大丈夫か?それと、母に関しては私も動くから、母が原因でハリシエダを見捨てないで欲しい。』


 と言います。まるで母に見捨てられた子供の様に抱き付いて泣きじゃくるハリシエダ様の様子にドン引きの私達です。…私、ハリシエダ様のお母様に成ったつもりは無いのですが。


 『そろそろ、落ち着いて話せそうか?互いに話し合うべき事が山盛りなのは判るか?まず、一つずつ解決すべきだと思う。他人の極秘情報を軽々しく口にした結果が如何なるかは理解したな?』


 と、マジェンダ様が問い掛けると、私を抱き締めたままで、


 『取り返しが付かなくなるのは分かりました。自分で責任が取れない事の悲痛さは十二分に味わいました。この半年間、特に自分の仕出かした事の罪を理解してからは地獄でした。ミスティーヌが何処に居るのか判らないだけで無く、其処に居ると分かっても会えない。会わせてもらえない。』


 落ち込んだ声と表情は、私の知る、貴公子然としたハリシエダ様では有りません。精神的に苦労して、成熟した跡が見えます。


 『女神様の御力で多くの人の記憶から、転移の情報は消えました。それを踏まえて遣り直せるか見極めておいで。とハリシエダ様の元に送られて来ました。ハリシエダ様はSランクの平民でも良い。と言われましたが、義母様はそう思ってはいらっしゃいませんよね?それでも、私との縁を結び続ける気なのですか?私は領主夫人で居るよりも、平民のSランクの冒険者で居る方が合っていませんか?』


 と聞いてみました。マジェンダ様はSランク冒険者としての私でも味方をしてくれるそうです。まぁある意味、依頼者になりたい。と願われている様な物ですが。


 『私は妾候補の娘を送り込まれたと知った時から、母様とは距離を置いているよ。私にミスティーヌと誰かを天秤に掛けろ。なんて馬鹿げた事を言う人を相手にはしない。母だって私が婚約したのを良い事に、ミスティーヌに色々頼んでは喜んでいた癖に。

 私はミスティーヌだけが居てくれれば良いんだ。以前は間違えた言動をしたけど、もう間違えない!ミスティーヌが領主夫人を嫌がるなら、私が平民になる‼︎』


 冷静になって考えれば、どれだけ大変なのか?と思いますが、平民になって、どう生活するつもりなのでしょう?私に頼るようなら、元に戻っただけ。と判断しますが?


 『マジェンダ様、ニヤニヤ顔はお辞め下さい!私も抱き付かれたままで恥ずかしいです。ハリシエダ様から愛されているのは、なんとなく分かりました。信用はしていませんけど。やはり後半年、様子を見てから決めます。』


 『また、何処かに居なくなるの!?また会えなくなるのは堪えられないよ!』


 『ハリシエダ様、耳が痛いので抱きついたまま叫ばないで下さい。

 ダンジョンの30階層を踏破したので、王太子様ご夫妻に挨拶に行く約束なのです。それを以って、一旦、王太子様のご依頼を終了した。という形で此処に戻って来る事にしますよ。

 世間一般からは、私は王家から仕事を依頼されて家を留守にしている。と噂されているのです。ご存知では無かった様ですね?』


 ずっと腕の中に閉じ込められていて転移も出来ず、疲れて来ました。


 『誰も私にそんな話しはして来ないな。私には、奥様がいらっしゃらなくてお淋しいでしょう。としか誰も言わないし、挙げ句の果てには知らない女を押し付けられて…』


 マジェンダ様と一緒で、記憶操作されていないと、入って来ない情報が有る様です。抱き締める力が更に篭りましたよ。ハリシエダ様のストレスも溜まっていたみたいですね。マジェンダ様がソッと頭を撫でています。やっぱり、甘やかすのは止められないのですね!


 『でも、2ヶ月位前から、父様が以前の様に仕事を補佐してくれる様になったかな?ナイジェル兄様の教育が一段落したのかと思っていたけど。』


 多分、その頃に女神様の後始末?が終わったのでしょう。私もダンジョンに籠もりがちだったのであまり詳しくは知りませんが。


 『まぁ、何だな。ハリシエダは誠実さを強調して、ミスティーヌを口説き直すんだな。ミスティーヌも少しは歩み寄って、ハリシエダを信じて貰えると嬉しいのだが、此ればかりはハリシエダの頑張りに期待するよ。離れていては気付けない事も有るだろうから、今度は近くで監視して欲しいな。

 さて。そろそろ、夕飯の時間だし、ミスティーヌを離して貰えるかい?私も王都に帰らなければならないのでね。ミスティーヌが転移で送ってくれる約束なんだ。』


 マジェンダ様、転移を自慢しては不味いと思いますよ〜と顔を見ると、


 『そう言えば、マジェンダ兄様は何時からミスティーヌと会っていたのですか?私が会えなくて沈み込んでいたのをご存知でしたよね!マジェンダ兄様ばかりミスティーヌと会っていたなんて狡いです!皆で私の事だけ虐めていたんですか?』


 『つい、数日前だな。いきなり執務室に転移して来たのは。』


 自慢げにバラすマジェンダ様。あらあら、いじけちゃいましたよ〜。離れようとしないし、仕方ないので、王都までハリシエダ様も一緒に転移して、マジェンダ様を送り帰しました。


 その後でハリシエダ様をキュラスに送り、フェンリル様ご夫妻に見つかって夕飯を強請られ、4人で夕飯を食べました。当然、私が厨房を乗っ取って夕飯を作りましたよ。久し振りにダンジョン産の肉を大量に置いて来たので料理長に喜ばれましたね。


 翌日『王宮にダンジョン踏破の報告をしたり、アイテムの販売などの諸々を済ませるなどに数日掛かるとは思いますが、その後はキュラスに戻って来ます。』とハリシエダ様に約束して、サルカンドに飛びました。


 アラン父様に、今回の話しをしました。前回戻った時はダンジョンの話しをせずに、今まで見向きもしなかった手紙を読み出したので、何となく想像していたそうです。王太子様が私に依頼〜という話しは、ギルドに問い合わせも有ったので知っていたそうですが、アラン父様もサイトバル兄様も、ギルドを通さない依頼については判らない。と、あやふやな対応を取ってくれていたそうです。やっぱり、家族の愛情を感じます。信頼出来る。って、こう言う事ですよね。


 サイレントスパイダーの糸で編んだポシェットは、案の定、マリアナ母様の目に留まり、アニス義姉様とエルーシャ義姉様、それにイルミナちゃんに貰われて行きました。でも、イルミナちゃんのだけは空間拡張を付けていないので、オシャレポシェットとして使ってもらいましょう。と言っても、どのポシェットも気持ち広い程度の容量で留めてますが。


 素材としての糸は王都の職人さんからの希望が多く、半分を王都のオークションに掛けられる事に成ったそうです。私も使いたい素材なので量を出さなかったけど、充分ですよね?サルカンドとキュラスで残りを半分ずつ分けました。攻略難度が落ちれば、他のAランクやSランクの冒険者が採って来てくれる筈です。それ迄の辛抱ですよ。


 …サイトバル兄様に頼んで、一日だけパーティーを組んで26階層のボス部屋に行き、ゾンビドラゴンと、グールやゴーストを倒して来ました。『一旦仕込んだ宝箱は解除出来ないし、ミスティーヌ用に用意した魔獣だから、下手に他の冒険者にぶつけられない。』と女神様から泣きが入ったのです。私なら魔力任せにホーリーを撃てば簡単に倒せるけど、他に高位の聖魔法が使える冒険者なんて居ないですからね。宝箱から出て来た聖なるマントと指輪ですが、サイトバル兄様が貰うのを嫌がったので、インベントリの肥やしになるかも?アラン父様も要らない。って言うし…


 私がダンジョン下部のアイテムを放出したのに合わせる様に、サルカンドの教会に神託が降りたそうです。『ダンジョン下部のモンスターが増え過ぎるとスタンピートが始まってしまい、大変な事になります。其れを防ぐ為に、10階層から下のエリアを改変し、レベルを下げる事にしました。』と、冒険者ギルドを通して大々的に発表されたそうです。


 私を追いかけて入っていた冒険者達はセーフティルームに閉じ込められていたそうで、『やっと部屋を出られたと思ったら、入り口に転移させられていた!』と、グローリーのギルドに駆け込んだそうです。そこで神託を聞いて、慌てて準備をし直してダンジョンに戻ったそうです。

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