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3 あの日

 実家の商会とも付き合いの有る工房に用事が出来て、実家の支店の在る街に行きました。そこで伯父の任されている支店が危なそうだ。と言う噂を耳にしました。伯父が店のお金を使い込んで依頼を受けた品の確保が出来ず、貴族の怒りをかったらしいです。納品は実家が肩代わりをして済ませたものの、期日に間に合わず、その貴族の顔に泥を塗った為、お祖父ちゃん迄呼び出されて大騒ぎになったとか。私達親子が頑張っている3年の間に、伯父の身勝手さは更に悪化したようです。お父さんは工房の人に、『支店に近付かない方が身の為だ。』と言われてました。


 頼まれていた品物を受け取り馬車に戻ると、そこに伯父が居ました。『弟さんは立派になって…』などと、ワザワザ伯父の処まで教えに来てくれた人が居たそうで、『弟なんだから、兄の借金を肩代わりしろ!』とお金を奪いに来たようです。流石のお父さんもカチンと来たのか 、お祖母ちゃんに言われた通り、『自分は家を追い出された身だから、今は赤の他人だ。余分なお金は無いし、強請られる言われも無い。』と大声で言うと、伯父は真っ赤になって怒り、『お前は弟なんだから、黙って金を出せばいいんだ。俺に逆らうな!』と怒鳴り散らすので周りに野次馬が集まり、誰かが呼んだらしく、警ら隊迄来てしまいました。


 街を騒がせた。として詰め所に連れて行かれ、取調べを受け、話しを聞いた警ら隊に一方的に叱られた伯父は、『覚えていろ!』と捨て台詞を吐いて去って行きました。私達は伯父の報復を恐れ、さっさと街を離れました。


 其れから半年程過ぎた頃でしょうか。あの工房の有る街の近くの村に行商に立ち寄った帰りの事です。そんなに離れた場所でも無いし、通い慣れた道だからと護衛を頼みませんでした。山道に差し掛かり崖から落ちない様に気を付けながら馬を走らせていると、曲がり道の先に盗賊が隠れていて、馬車諸共崖から落とされてしまったのです。


 落ちて行く馬車の中で母に抱きしめられて庇われた私は、ほぼ無傷で助かりましたが、崖から落ちたショックからか、天寿を全うして亡くなった前世の記憶を思い出しました。孫に教わって読んでいた転生物のお話しを元に死ぬ時に神に願った事なども。前世の私は読書と手芸が趣味の普通の女性で、ただ、人より多くの物を愛するコレクターだったのです。文庫本などは売り払ったり、いろんなツテを使って寄贈しましたが、手芸関係の本や材料はまだ溜め込んだままだったのです。このまま遺して逝くと子供達や孫達に苦労を掛ける。『神様、お願いです。もし叶うのでしたら、私の私物をインベントリに仕舞って、ついでに知識等もこのまま引き継いで異世界転生させて下さいませ!』と祈ったのです。物欲魔人でしたから捨てられなかったのですが、子供達には『お母さんの宝物は私達にはゴミの山!』と常々叱られていたのですよ。病院で最期を迎えた時に弁天様がいらして、『物を大切にする貴女の話しをしたらね、お友達の処で受け入れて貰えそうだから送るわね。実は予定外の災害であなたのお家が崖崩れに巻き込まれてしまって、物が全部喪失状態になってしまったから、インベントリに収納出来たの。不幸中の幸いね。』とおっしゃっていらしたのでした。異世界の弁天様のご加護だから日本語表示だったのかも⁉︎ だから神父様に読み取れなかったのね。

 

 記憶が戻り、全属性の魔法に目覚めた私は、死んでしまった両親と馬、馬車等を全部インベントリに仕舞うと辺りを見渡し、近くの大岩に登って結界を張って隠れると、周囲に隠蔽を重ね掛けして、誰が探しに来るのか様子を伺う事にしました。


 ザワザワとした気配を感じていると、回り道をして降りて来た盗賊達が馬車を探しに来ました。先頭に居るのはナントあの伯父でした。やっぱり両親の財産を奪い、詰め所で受けた腹いせをするつもりだったようです。『金と品物を奪えればよかっただけだったのにこんな手間まで掛けさせて…』と盗賊達に言っている声がします。伯父は崖を見上げると、『落としたのがあの切っ先だからここら辺に落ちてる筈だ。さっさとさがせ。』と叫んでますが、見つかる筈は有りません。全部私のインベントリの中です。ザマァ。って言う処でしょうか。


 やっぱりな。という思いと共に、帰れる場所が無くなった。と思いました。祖父母は私の味方になってくれるかもしれませんが、最終的には伯父達に自由にされ、いいようにこき使われる未来しか思い浮かびません。最悪、何処かに養女の名義で売りつけられそうです。伯父はまだ『確かに落としたのだから、無い訳はない。もっと探せ!』と叫んでますが、幾ら叫んでも見つからないものは見つからないのです。日も傾き暗くなって来たので、伯父は盗賊達に怒鳴られながら帰って行きました。辺りが暗くなり鎮まり帰ったせいか、緊張し過ぎたせいか、何時の間にか眠ってしまいました。


 明るい朝日に起こされました。結界と隠蔽が途切れなかったので、魔獣に襲われる事なく無事に朝を迎えられたようです。両親を無くし、私の感情も死んだみたいです。多分、前世のおばあちゃんの記憶が私を支えて、現実と切り離してくれているようです。幸い、壊れた馬車の中に生活用品は揃ってます。軽く食事をして、気配察知を掛けながら森を抜け、小高い丘に着きました。この丘から見下ろす草原の風景がお母さんは好きでした。アースホールで深く穴を掘り、お父さんとお母さんを並べて寝かせました。近くで花を沢山詰んで二人の上に降らせ、その上から穴を埋めました。目印に石を積みました。その後ろに馬も同じように埋めました。賢くて優しい馬だったのに。そうして、気付くとレクイエムを歌っていました。泣きながら。


 次の街の近く迄、十数日を掛けて移動しました。常に隠蔽を掛け、寝る時は馬車を出して、結界と隠蔽を掛けて、兎に角、誰にも気付かれない事に気を遣いました。この街は伯父の支店の有る街とは別の領地になるので、時間はかかりましたが頑張って歩きました。でも街に入るには身分証が必要ですし、子供1人では問題が起こりそうです。木の陰から検閲している門番達を見つめ、私は街に入るのを諦め、付近の森を目指す事にしました。ここに辿り着くまで1人で暮らしてこれたからです。


 壊れたとはいえ馬車の中には3人分の生活用品が有ります。知識は前世の物が有りますし、お母さんの手伝いをしていたから料理のスキルも有ります。転生チート⁉︎のお陰で魔力はかなり有ります。山の裾野で洞窟を見つけ、入り口でよもぎに似た薬草と毒草を混ぜて燃やした煙を、風魔法で洞窟内に充満させて半日程結界を掛けて放置。煙が消えたのでクリーンを掛けて空気を浄化してから探索し、中で昇天された魔獣等をインベントリに仕舞うと、洞窟に結界と隠蔽を張りました。洞窟全体にクリーンを重ね掛けして清潔にし、馬車から生活用品を取り出して住居を整えました。両親を思い出すと泣きたくなりますが、頑張ります。幸い、インベントリの中は時間が止まるので、食料もまだ余裕が有りますので、今の内に川や森に罠を仕掛けてタンパク質を確保し、かつ、木の実などの森の幸や薬草を採取して、スローライフを楽しむ事にしましょう。


 洞窟の近くに見つけた川に罠を仕掛けて魚を獲り、森に小動物用の罠を仕掛けて一角兎などを獲る。午前中に罠を回って回収、仕掛けをし直して、午後は魚の処理や魔獣の解体をして皮などの加工をします。夜はインベントリから手芸材料を取り出して、アクセサリーを作ったり、バッグや服を作る。がルーティーンワークになりました。最初の解体は、前世で血を見るのが苦手だったから、気分が悪くならないか不安でしたが、意外と平気でした。土魔法で深く穴を掘り、血抜きをして、要らない内臓を捨てると、クリーンを掛けて埋めます。こうすると臭いが消えて他の大型魔獣を呼び寄せずに済むのです。証拠隠滅とも言いますが。私は私の居た形跡を残さない方が良い。と、なんとなく思ってしていました。予定以上に収穫された物とか、食べきれない場合はインベントリに収納すれば良いだけなので、隠蔽も掛けて、証拠隠滅も完璧。と、調子に乗っていたのかもしれません。


 森に住み着いて2年目を迎えた頃、仕掛け過ぎた罠が、この森を起点として狩りをしている冒険者達に発見されていた事に気付かなかったのです。『見た事の無い構造の罠が多数仕掛けられている。』『薬草や木の実が見つからなくなった。』等、街のギルドに報告が相次いだそうで、一角兎やボア、魚などの捕獲数が減った。とFクラスを始めとした冒険者の泣き言まで聞こえて来て、情報を整理すると、不審者が森に住み着いた。と考えるに至り、依頼未達成が問題となり、ギルドとしても放置するには不味い為に、とうとうギルマスが確認に乗り出したそうです。


 調子に乗って気配察知を怠っていた私は、仕掛けた罠が見える位置に隠れて待っていたギルマスに捕獲され、『一人で自立して生活している。』と説明するものの信じてもらえず、仕方なく洞窟に案内すると、更に驚かれました。歳を聞かれたので、『もうすぐ7歳になります。』と素直に答えました。『何故此処で1人暮らししているのか。』と聞かれたので、正直に伯父が盗賊を雇って両親を殺した時の話をすると、ギルマスは頭を抱えてしまいました。


 ギルマスはしばらく考え込んだ後、『せめて16歳を過ぎていたなら、成人しているからギルドに登録した上で、此処での1人暮らしもなんとか許容範囲に入ったンだけど、7歳では無理だ。親戚に頼れないって言ったが、学校はどうするつもりだったんだ? なぁ、俺の死んだ友人の娘を預かった事にして、俺の養女として街に届けを出してやるから、俺の家族になれ。うちは男しか産まれなかったから、ミストが養女になればウチのも喜ぶだろう。ただし、インベントリは内緒だ。俺以外には知られない方が良い。』と言われました。インベントリも話したくは無かったのですが、説明がつかないので諦めて話しただけです。内緒なのは私からお願いしたいぐらいです。それに私も学校には行きたかったので、『よろしくお願いします。』とギルマスに頭を下げました。


洞窟の中を片付け、必要な物をインベントリに仕舞い、洞窟に居た魔獣の魔石を使って封印すると、一連の行動を見ていたギルマスはまた頭を抱えてしまいましたが、『今更だ…』と呟くと、私を抱き上げて歩き出しました。川や森の中を回って、仕掛けて置いた罠とかかっていた獲物をインベントリに回収してから街に行きました。門ではギルマスが門番に説明してくれて無事に入れました。


 お家に着き、奥様に紹介されると、『たとえ隠し子だったとしても可愛いから許す!』と、物騒な発言があったものの、『以前、両親と共にこの街にも行商に来た事が有ります。』とその時の話しをすると、当時のお客様の1人であった事が分かり『あの可愛い子が…』と抱きしめられました。何時、伯父が私を見つけ出すか判らないので、私はギルマスの友人の娘として、ミスティーヌと改名しました。なので、愛称はミストのままです。長男の18歳の息子さんはギルドの職員をしていて、帰って来て話しを聞くなり、可愛いと抱っこされました。次男の15歳の息子さんは冒険者をしていて今はパーティーの仲間と護衛の仕事に出ているので、今日は会えないそうです。後日、帰宅したら私に出迎えられて、『家を間違えた⁉︎』と叫ばれてしまいました。


 因みに、ギルマスのアラン父様曰く。私は見た目5歳位にしか見えないそうで、森での1人暮らしなど以ての外だそうです。ちゃんと食べて暮らしていたのにな〜何故か身長が伸びなかったンです。前世もチビでしたが。マリアナ母様が言うには睡眠不足が原因らしく、アラン父様の家に住み出してからは夜更かし厳禁になりました。実家でお祖母ちゃんと暮らしていた頃のような生活に戻って、昼間はマリアナ母様とアラン父様の手伝いをしながら、近所の同じぐらいの子と遊ぶようになりました。でも、体力的にも差があり過ぎて、遠慮しながら付き合うのは疲れました。大人の中で暮らして来た弊害⁉︎なのか、同じぐらいの年齢の子との距離感がよく分からない子になっていたみたいです。というより、私と能力的に釣り合いが取れる子なんて居ないでしょう。


 川や森に仕掛けていた罠は、アラン父様に作り方と仕掛け方を教えた処、簡単な割りに効率が良いと誉められ、製法を登録してギルドで売る事になりました。私がギルドに登録する迄は製作者秘匿扱いだそうです。駆け出しの冒険者達が無茶しなくて済むと評判が良いそうです。

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