17 閑話 それぞれの思い
<王都の商業ギルドのギルマス>
王都の商業ギルドでは付与魔石販売のコーナーが連日商人で溢れています。半年の期間限定ですが毎日数個ずつ、回復と結界の魔石が売られているからです。当然登録制で一度購入した人は買えませんが、毎朝抽選が有るので、商店主は従業員を使って並ばせているのです。余りにも列が長くなって苦情が来てからは各店から2名迄にしましたが。私としては半年で各300個売るので、こんな騒ぎになるとは思ってませんでした。問題は半年経つと契約が切れて、その後の見込みが立っていない。という事です。魔術学校に掛け合ってはみるものの、回復のスキル持ちは教会に取られ、結界のスキル持ちはまだ見つからないそうです。…見つかってもお貴族様の可能性が高いので、ギルド専属の付与魔術士に抱え込める確率も低いのですが。
たまたま、ミスティーヌさんはサルカンドの冒険者ギルドのアランギルマスの娘だから、教会にも取られず、本人がSランクになったから貴族にも囲い込まれずに済んでますが。ただ、元はアランギルマスが亡くなった親友の娘を引き取ったと聞いてます。でも、その親友とやらがはっきりしないのです。最初は冒険者仲間かと噂されてましたが、どうやら商人らしいのです。行商に行く商人から伝え聞いた話しですが、サルカンドの露店商に依ると、ミスティーヌさんも小さい頃は親に付いて行商の手伝いをして旅していたらしいのです。
王都にハザル商会という老舗があるのですが、8年程前でしょうか?支店を任されていた次男の素行が悪く、盗賊と繋がっていた事が発覚して捕まりました。その数年前から行商に出ている三男家族との音信が途絶えた。とギルドに報告が有り、捕まった次男を問い質した処、盗賊を使って馬車毎崖から落としたが、その後は見つからなかった。と白状した話しは伝え聞きました。商会長のハザル氏に聞くと、三男の嫁は男爵家からもらい、孫娘は生きていればミスティーヌさんと同じぐらいの年で魔力持ちだったそうです。次男のしでかした事件の話しを聞いた男爵家からは『娘を返せ!孫に会わせろ!』となじられて大変だった。と聞きました。孫娘の名前はミストちゃんだそうで、ハザル氏はミスティーヌさんに会ってみたいが、妻の体調が悪くて予定がつかない。とか嘆いていました。
まぁ、ミスティーヌさんがハザル氏の孫娘だったとしても、今更王都の商業ギルドには移らないでしょうし、サルカンドの冒険者ギルドが黙っていないでしょうから、私は貝になります。頼まれてもいないのに火中の栗に手を出すバカはギルマスなんて務まらないものです。
<ハリシエダ様>
王太子の結婚式の準備で文官の私は招待状の配布やら、式次第の会議やらに振り回され、ヘトヘトです。式当日に祝いに参加した兄夫婦から、会場を飾った花をミスティーヌさんが採取して来たと聞き、更に、大部分をミスティーヌさんから買い入れて王家に贈った。と聞きました。そして、その貢献を持ってSランクになったと。本人が望まないので、結婚式の騒ぎの裏でこっそりと授与式が執り行われたそうです。マジェンダ兄は結婚式に出る必要が有ったので、次兄を行かせた。と聞き、『私が行きたかった!』と訴えると、『ハリシエダは王太子の結婚式で無理だったろうし、私の名代だからな。』と切られてしまいました。
マジェンダ兄様はミスティーヌさんの専属を本人の了承無しで実質もぎ取ってくれた。と言っても公爵家を敵に回す貴族は、同じ公爵家か王家ぐらいだからこそ、本人無視でも成り立つんだけど。でも、今回Sランクに上がった事で私は焦っています。あんなに可愛くて力のある平民。貴族から見れば美味しすぎます。うちは兄様が頑張ってくれて公爵家筆頭ですが、上には王家がいます。王に知られて愛妾に召し出せなんて王命が来る前に私の正妻に決めなければなりません!兄様からも応援されてますので、やっともらえた休暇でサルカンドに行きます!半年前とは違い、実質、私の立場の方が低いのですが、私の想いは変わりません!状況を説明し、真摯に愛を訴えればミスティーヌさんも私を選んでくれる…事を願います。Sランクでも王家には逆らえないので、最悪の事態を語って、せめて、仮婚約だけでも決めなければいけないのです!
早馬を出してアランさんには会う約束を取り付けてあります。1年程師弟関係は有ったので、そこに儚い望みを掛けています。私の片想いでしたが、愛は伝えて有りますから、彼女の視界に入りたいのです。私は筆頭公爵家に生まれましたが、私自身は爵位は持っていません。最終的には爵位を取るつもりですが、ミスティーヌさんが平民の身分のままが良い。と言うなら、貴族籍を抜ける事も考えてます。…兄様には許してもらえないかもしれませんが、私にはミスティーヌさんが一番なのです。
<アラン父様>
とうとうSランクに上がってしまった。神に愛されてる容姿と才能。見た目より年齢は上だったが見た目通りの危うさに、山で見つけた時、絶対手綱を付けなきゃ不味いと思って抱え込んだ俺ってエライ。両親を一気に亡くし、しかもそれが伯父の仕業で、その為に家に帰らない決心をして独りで生活する事を決めたなんて、不幸の塊のような過去を聞いたら!俺が守らなきゃ!と確信したんだよな。あの歳で魔法を使い熟し、しかもインベントリ持ちだなんて、貴族や悪い奴にでも知られたら道具として使い潰されるのがオチだ。そんなの許されない。と憤った事を覚えている。
俺のそんな思いも知らず、ミスティーヌは素直に育った。周囲の思惑を擦り抜けて自分の思うままに行動するのに、みんな、そんなものか⁉︎なんて済ましてしまう。天然の天才なのか?と笑ってしまった。でも、聖獣様には流石に肝を冷やした。なんてものに目を付けられたんだ‼︎でも、幸いSランクに昇格した。王家に見つからなきゃ平気だろう。と、秘匿を約束させた。カーバンクルのモリーノ様も普段、人目の有る時は姿を現さない。と仰るし、それを信じるしかない。
まぁ、俺のフォローのお陰も有るんだけど。結構やらかしている筈だけど、何故だろう?目を付けられる事なく来ている。と、気を抜いたのが悪かったのか、公爵家の三男から早馬が来た。嫁にくれ⁉︎だって⁉︎ 卒業式の時に躱して逃げられた。と思っていたのに。でも、王族の妾にはさせないぞ!と言う気持ちは同意出来る。うーん、ミスティーヌ次第と返事はしたが、どうするかな? サミュエルと、一番可愛がってるサイトバルにも話しておかないと後が大変だな。
<エルーシャ姉様>
最初はミスティーヌの才能隠しで始めた魔石の工房だったけど、今では商業ギルドと冒険者ギルドからの期待が大きくなり過ぎて、一部からは憧れの職場と言われています。と言っても、有名になったのはミスティーヌの友人達のお陰なんですけど。
工房はサリーナの双子の兄のダニエル以外、女性ばかりで、代表は私です。ダニエルは唯一の男性で、設立時のメンバーのせいか、陰で、工房を仕切っていると思わせていたようです。私にも内緒で滅茶苦茶な受注を取って来て、ミスティーヌに叱られてしまいました。怒ったミスティーヌは商業ギルドなどの外部団体にも、代表は私。と宣言して来たそうで、ダニエルが腐らないかちょっと心配。ダニエルは彫金専門だから魔石工房の中では異色だし。2対1と5対1では辛いかな?
でも、イージャがね、『ダニエルを好きになっちゃった。』ってサリーナに相談しているの。カリヤとルナールが『せっかく家族がいるのだから、先に味方に付けなきゃ‼︎』って入れ知恵をしたんですって!(笑) サリーナは、『ダニエル兄さんはモテた事ないから、気持ちを伝えたら喜ぶと思うよ。』って後押ししてます。サリーナはソルトンさんが好きなんだけど、中々会えないから伝えられないし、ケイトとコルディがいるから諦めているみたい。私から見たら絶対サリーナの方が良いから、今度、サイトバルに聞いてみようかな?
<ラキアさん>
ミストちゃんがSランクかぁ。早いもんだねぇ〜…って、早過ぎだよ‼︎ まったくギルマスに連れられて、ギルマスの後ろからちょこって顔出して、『薬草の買い取りをお願いします。』って高品質の薬草を出した時には、『ギルマス!こんな小さな子を連れ出したんですか‼︎』ってギルマスに食ってかかったのが、つい昨日にように思えるのに。…でも、見た目はそんなに変わらないかも(笑)
サイトバルにくっついて週末冒険者になったかと思えば、ギルマスやサミュエルさんまで採取に付き合って、毎週末草原や森に行ってたミストちゃん。一角兎を獲らせたらダントツの捕獲数を誇っていて、ギルマスが何時も苦笑していた。『あの子は魔力が多過ぎて成長が遅いから見た目は小さいけど魔法は大人顔負けだからさ。一角兎なんて危険は無いんだよ。』って。
そうは言っても、依頼を受けて出掛ければ、帰って来る迄は心配してしまう。でも、他の冒険者と違ってミストはお金の為に依頼を受けてはいない。彼女のカード残高は凄い金額が貯まっている。私は疑問に思って聞いてみたら、『将来の為に貯金しているの。』とニコニコと答えが返って来ましたけど、子供のセリフじゃないわよね⁉︎
一応、学生って事でDランクでずっといたけど、Sランクでおかしくない実力を持っていて、たぶん、サイトバルさんがAランクなのはミストのお陰じゃないかな?と思う。レインボーのメンバーと比較しても頭一つ抜けているから。ミストはインベントリ持ちだから、魔獣討伐の量的制限が掛からない。つまり、取り放題だから、レベルが上がり易い。ミストの護衛で付いて行ってる。って事になってるけど、ホントは逆かも?と私は思っています。
卒業してAランクに上がったせいで指名依頼が何件も入ったけど、ナント!筆頭公爵家から護衛依頼が来ました。『流石に外せません!』とギルマスを説得して受けたけど、やっぱりやらかして来ました。スリープって上位魔法だし、個々に掛けるのが基本で、範囲指定で掛けられる魔法じゃない‼︎って声を大にして叫びたかったよ。そして、望月華は大量に摘める花では有りません。百歩譲って、月夜野草と月光草は採れるかもしれないけど、それにしたって取り過ぎ。ミストちゃんはインベントリが有るから可能だけど、高性能のマジックバッグでも無きゃ萎れてしまって、依頼失敗になるのだ。王都のギルドに連絡して、王都まで運んでもらう事にした…マジックバッグに入れたフリをして。
そして目出たく⁉︎ Sランクをもらって帰って来ました。素直に昇格したなんて、私が知らない処で何かやらかしているに違いないけど、ギルマスも不振な態度をとっているから、私は気付かない振りをしましょう。精神的にその方が健康的だと思うので。
誰の事か判らないみたいなので、付け足してみました。




