12 聖獣様は自由です
モリーノと一緒にテントに戻りました。夕飯は昨日のシチューがメインです。ドライフルーツ入りのパンを添えるとモリーノの目がキラキラします。ご飯を食べ終えたのでデザートに果物を飾った小さめのプリンアラモードを作りました。更にキラキラの増したお目々が愛らしいです!お腹いっぱいで眠そうなモリーノに、『結界を張っておくからテントで待っていて下さい。』とお願いして私は夜の採取に行きました。
満月の湖上に幻の花『望月華』が咲くそうで、今回の指名依頼はその花の採取です。何故、幻かと言うと、湖にはその花を大好物な主様と呼ばれる大きな魔獣が居て、採取の邪魔をするからです。舟を湖まで持ち運ぶのも大変なら、主様の攻撃を躱しながら望月華を摘むのはとても困難と言う事だそうです。私は魔法で湖面に浮かぶから舟の必要は無いですけど。湖の真上に満月がかかり湖底から茎が伸びて来て月の様な銀色の花が咲き始めました。マップで確認すると大きな赤い点が泳いでいるのが判ります。鑑定するとキングサーモンと出ました。味は…イマイチ⁉︎大味でお薦め出来ない(笑)と出ています。私の鑑定って‥‥つまり育ち過ぎたのですね。射程内に近寄った時にスリープを掛けたら簡単に眠ってくれたので、その隙に魔法で浮かんで湖上の花を摘み取りました。次々に咲いて来るので飽きる迄?摘んで岸に戻り、主様のスリープを解きました。夢から覚めた。と言わんばかりに花を食べ進んでいますね〜食いしん坊キングです。
マップを見たら月夜野草の反応が有ります。林の中を行くと群生地を見つけました。モルフォンの気配も無いので、喜んで採取します。気のせいか、黄色い花が光って見えます⁉︎ 兎も角、これで依頼品が揃いました。テントに戻り寝ましょう。
テントの結界に張った雷魔法のせいで?既にゴブリンが数体転がっています。どれだけ湧いて来るのでしょうか。もうGと言う表現で良いのでは?と思いますよ。面倒ですが余り見ていたく無いし、さっさと処理して結界に雷魔法を張り直し、モリーノの隣りで寝ました。
ペチペチと顔を叩かれて?目を覚ますとモリーノの顔のドアップが有りました!『甘いご飯食べたいから、お願い!』小首を傾げて朝から可愛いおねだりですが、デザートは食事の後です。でも、朝ですから中間を取ってパンケーキにしました。インベントリから取り出して、私の分にはウィンナーを挟み、モリーノにはジャムをたっぷり塗ります。飲み物として野菜スープとフルーツジュースを用意すると、迷う事なくジュースに飛び付くモリーノに癒され?ます。
テントを出ると流石にGは居ませんでしたが、グリズリーの子供⁉︎が一頭息絶えてました。インベントリに収納してテントの片付けを終わると今日の冒険の始まりです。モリーノの話しを聞きながら、昨日とは逆方向に湖の岸を探索して歩きます。折角ですからモリーノの雫石を全部確保してしまいましょう!と考えてます。モリーノは特性もあって宝石に詳しいので、湖底から漂い着いた宝石も見つけられました。水辺の薬草なども採取してインベントリに沢山仕舞います。岸部の綺麗な砂も沢山採取したので、今夜は錬金術を使って石英から瓶を作り、ポーションを作りましょう。
岸部から少し離れた、林との境目にテントを設営して竈門を作り、夕飯を作り始めました。昨夜はグリズリーが出たので、今回は広めの結界を二重に張りました。料理の匂いや煙は風魔法で遠くに飛ばしました。ランチは軽く済ませたので、夕飯はしっかり作りましょう。サーモンのクリームシチューが美味しく出来て、モリーノは大喜びで食べてます。カーバンクル様って、果物や木の実を食べるイメージでしたが、私の作る料理はどれも喜んでくれるので嬉しいですね。
モリーノにデザートを渡した時、マップに黄色い反応が近付いてくるのに気付きました。外側の結界に雷魔法を這わせて身構えてると、モリーノが『僕の友人が来たから、ちょっと話して来るね。』と結界の外に転移してしまいました。マップの表示が青くなり、モリーノが連れて来たのは大きな白蛇でした。あの大きさと言い、オーラ⁉︎の輝き方と言い、絶対にこの地の主様ですよね。頭の上にチョコンと乗っているモリーノは可愛いですが、白蛇様は大きくて、その赤い眼が私を睨んでるようで恐いです。と、私を見た白蛇様のマップ表示は真っ赤です!
『貴女がモリーノを魅了した人間なのね。モリーノを誑かすなんて、見かけに依らず悪人なのかしら?どんな目的でモリーノに近付いたの!』威圧と威嚇をダブルで掛けられました。二階建ての家程の大きさの白蛇様の威圧感は半端なく、二重結界の中に居ても恐いです。私が言葉を出せないで震えているのを見たモリーノが白蛇様の頭を叩いて怒ってます。『僕のミスティーヌを怖がらせないで!僕は誑かされて無いし、魅了にも掛かって無いでしょ!僕の話しをちゃんと聞いてたの⁉︎』叱られた白蛇様はみるみる小さくなって、美しい女性の姿に変わりました。
モリーノからきっかけになった美味しいご飯の話しを聞いた白蛇様は、『私も食べたくなった。』と言うのでデザートを渡しました。モリーノが一緒に『美味しいね。』と言いながら食べ終えると、白蛇様はコロッと態度を変えて、『私にも名前を付けて欲しい。』と言い出しました。でもね、私も学習するのです。私は白蛇様に直接には言わずにモリーノを通して、『パールと言う名前は如何でしょうか?』と伝えて貰いました。ふふん。私に紐付かなくて残念でしたね。だってパール様は真珠のように綺麗ですけど、恐いんですもの。
悔しそうに帰って行きましたけど、モリーノさえ居れば後は要らないと思うのです。パール様も聖獣様でしたけどね。因みに、パール様に拠るとキングサーモンは欲が強過ぎて魔獣扱いだそうです。つまり聖獣では無い。本当の主様では無いから退治しても問題ないそうです。
さて、テントの中に吊ったハンモックにモリーノを乗せて、私は瓶を作り始めます。インベントリを利用して砂の中から石英だけを取り出して瓶を作ります。蓋は何時だったか伐採した木が有るので其れをコルク代わりにしました。後は何時も通りに魔力任せでポーションを作って瓶に詰めました。
ハンモックから覗いていたモリーノが、『パールが呼んでる。』と言っていきなりテレポートしました。私の肩に飛び乗って転移したので、私も一緒に飛ばされました。一瞬で景色が変わり山の裾野の洞窟の前です。あっ!此処は10年位前に封印した洞窟でした。パールはサルカンドに近い場所に居場所を移そうと探していて、この洞窟を見つけたそうです。『此処は私が昔住んでいて、アラン父様に引き取られた時に魔石を使って封印したのよ。』と、私がそう伝えると『やっぱり。ここの封印、解いてくれる⁉︎ 私、此処に住みたいのよ。なんだか気持ち良い波動感じたのよ〜。ミスティーヌの魔力だったのね。』とパールが楽しそうに言ってきます。アラン父様に保護された時に封印したまま忘れてました。封印の魔石を外して中に入ると、壊れた馬車や食器、家具など懐かしい物が目に飛び込んで来ます。一つ一つインベントリに収納して、洞窟を綺麗にしてからパールに明け渡しました。
此処からサルカンドへは直ぐですが、テントは湖の側に出したままですし、モリーノに転移で戻ってもらいました。テントの中にはポーションの瓶が散らばっていて、コルクが外れて漏れている物も有ります。幸い割れた瓶は無かったのですが、私に有無を言わさずに転移した事は問題だと思いました。パールがなんと言って来たか知りませんが、私に聞いてから転移すべきだったと思うのです。
『モリーノ、このポーションが無かった為に助かる命が消えるかもしれない。って分かる?パールはあなたの友達だし、私が直接繋がらなかったからモリーノに伝言が入ったのは当然だけど。でも、今後も今回みたいな事が起こるようなら、私はモリーノと一緒には居られないわ。』今回はポーションが何本か無駄になっただけですが、次に何が犠牲になるかなんて分かりません。私だけの被害で済まなかったら⁉︎と思うとキツい言い方になってしまいました。
ショボンとしたモリーノは可哀想ですが、このまま連れ歩くのに不安を感じているのも確かです。ギルドに守護獣として登録してみますが、前例が有るのかすら私は知らないのです。あぁ、でも間違い無くSランクに成りますね。カーバンクル様を連れ歩くAランクじゃ横槍が入りまくりでしょうから。仕方ないです。
私もションボリしていると『次に飛ぶ時はミスティーヌにちゃんと聞くの!勝手に飛ばないから。ミスティーヌと一緒に居たいの!』涙目で訴えて来るモリーノ。テントの中の悲惨な⁉︎状況と、落ち込んでいる私を見て、自分のした事が悪かったと分かった様です。私もまだ未熟なので、『此れから一緒に成長しようね。私もモリーノに迷惑かけたく無いし、嫌われたく無いから、沢山話し合って分かり合っていこうね。』とモリーノを抱きしめながら言いました。
漏れたポーション瓶を片付けてクリーンを掛けて、テント内を掃除しました。瓶に残っていたポーションを飲んだモリーノは『此れ,美味しいから好き!』と、零れて染み込んでしまったポーションを残念がっています(笑)私はインベントリから新たに薬草を取り出してポーションを作り、インベントリに収納します。予定した量を作ったので寝ましょう。モリーノもハンモックで寝ています。
朝、多めにサンドイッチを作りました。ジャムサンドとフルーツサンドは主にモリーノが食べるでしょうから、ベーコンエッグやウィンナーを挟んだ物も作ります。飲み物は野菜スープだけにしました。…栄養面を考えたからですよ!
さぁ、テントを片付けてサルカンドに帰ります。来た時の道を辿り、モリーノと話しながらも、鑑定をマップに掛けたまま進むので、魔獣は狩り放題です。会いたく無いGも見つけたら始末して…その度にクリーンを掛けるのでモリーノが不思議がっています。『あのね、私の気持ちとしてやってるだけなの。私がGを嫌いだから。』と説明すると、頷いてくれました。
サルカンドに着いたら、アラン父様に相談するまで、モリーノをどうしようと悩んでいると、『僕はミスティーヌには見えているけど、他の人には見えないよ。だって許可していないもの。パールが最初から見えたのは、パールがミスティーヌを怒りの対象として認定したからだからね。』と教えてくれました。そう言えば、モリーノは最初からマップに反応していませんでした!安心してサルカンドに帰れます。
歩いているとマップに複数の反応があります。ソッと近付いて覗くと数人の冒険者でしょうか?グリズリーと闘っていますが、グリズリーの方が優勢に見えます。と、前衛の男性が投げ飛ばされて蹲ってしまいました。他のメンバーの顔色も悪いです。『手助けは要りますか?』と声を掛けると『お願いします!僕達が逃げるのを助けて下さい!』と返事が来ました。興奮しているグリズリーにスリープはかかり難いでしょうから、顔を水球で覆い窒息死させました。
彼らは私より2歳年上ですが、まだEランクのグループでした。取り敢えずポーションで体調を整えると近くの街に帰るそうです。依頼は薬草採取とボアで、ボアを追い掛けて深入りしてしまったと言う話しでした。林の出口まで見送って戻りました。『グリズリーは大きくて運べないし、倒したわけでも無いから、迷惑料としてもらって下さい。』と言われたので、私のインベントリの中です。
最初に野営した場所に着いたのでまたテントを張り、夕飯を作ってモリーノと食べました。その後モリーノと一緒に月夜野草の群生地に行くと、花は既に枯れていてモルフォンも居ませんでした。あの幻想的な景色をモリーノにも見せてあげたかったので残念です。種が出来ていたのを採取してテントに戻りました。