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1 静かなる決意

 3歳のお誕生日のお祝いに、最小サイズのマジックバッグをお祖父ちゃんから貰い、身の回りの品を詰め込み、両親と行商の旅に出たのが、あのお家を見た最後でした。


 お祖父ちゃんは大きな商会を営んでいて、長兄である伯父さんが跡を取っています。次男の伯父さんは支店を任されているのに、三男のお父さんへは新規開拓というか、行商人でもしろ。と1台の馬車を渡されたのみ。つまり、お父さんだけ実家と切り離されてしまって、与えられた馬車が全財産という事らしいです。


 上の2人の伯父達と違い、優し過ぎるお父さんはお祖父ちゃんの好みでは無かったらしく、父親からは、同じ息子なのに。という扱いをされていました。でも、孫の中で唯一の女の子の私には結構甘いお祖父ちゃんでしたので、たかが3歳のお誕生日プレゼントなのに、最小とは言えマジックバッグを贈られました。…しかも中には『絶対内緒よ。』とお祖母ちゃんからの生前分与分の財産入りで。


 切々と書かれたお手紙によると、お祖母ちゃんからすれば、我が強くて強欲な息子達より、優しい末っ子の方が可愛く、父親からのあからさまな仕打ちにも文句も言わずに従って、じっと耐えているお父さん達が可哀想に思えて、なんとかしてやりたい。と常々思っていたそうです。


 財産と一緒に入っていたお手紙には、『このお金は絶対誰にも内緒で、グリードの家族の幸せの為に遣いなさい。父や兄達から無心される事があっても絶対に渡してはいけないよ。グリードとラメールが今迄稼いで来てこの家に入れたお金の一部だから、これはグリード達の正当な稼ぎです。利益を全部渡せ。なんて言う方が間違いだよ。お前の兄達は家から金を持ち出す事はあっても、入れた事なんて無いんだから。よく覚えておきなさい。グリード達の人生はグリード達のものなんだよ。これからは自分達の為に生きなさい。』とお父さん達に向けて書いてありました。


 更にお手紙に拠ると、お祖父ちゃんは私可愛さで、私が産まれてから両親をあのお家に住まわせてくれたらしいです。お父さんの部屋が主屋に合ったにも関わらず、結婚した両親がお祖父ちゃんから与えられたのは使用人部屋の小さな1部屋で、流石にコレでは…と思われていたそうですが、直ぐに私が産まれて主屋へ移れたので、みんなホッとしたそうです。が、私がお祖母ちゃんにばかり懐いて、他の孫達のようにお祖父ちゃんに媚びを売らなかったのが面白く無かったらしく、可愛さ余って⁉︎追い出す事にしたようです。


 両親が仕事に出る度に何日もお祖母ちゃんの元に一人居るのは少し寂しかったので、両親と何時も一緒にいられて私は嬉しいから良いのですが、馬車が家と言うのは慣れる迄は中々に大変でした。馬の世話をするのも初めてでしたし、綺麗な水でしかも汲み易い川を見つけながらの旅は、水の有り難さを痛感しましたよ。お風呂に頻繁に入れ無い為に生活魔法を覚えられたのは嬉しかったけど。お母さんのしてくれるクリーンを真似したらすんなり出来ちゃって、お父さんはウチの子天才!って喜んでくれましたよ。


 街道の途中には野営地があって、野宿する事も多々あります。生活魔法が出来るようになったので、火を着けたり、水を出したり、お風呂代わりにクリーンで浄化したり、お手伝い出来る事が増えました。お母さんが見える処限定で薬草やジャムやオヤツになるベリー摘みをしたり、楽しみながらお手伝いも出来て勉強にもなるって良いですよね。マジックバッグの中に入れて置けばギルドに持って行き易いし、薬草を売ったお金でお砂糖を買ってもらって、ジャムを使って作る飴が大好きなんです。これって一石三鳥になるのかな?


 街や村に着いたら宿に泊まり、市で店を開きます。品物が売れたら工房等を訪ねて仕入れをして、次の街や村に向かいます。大きな道では定期的に領兵さんや冒険者さん達が討伐をしているから安心ですが、横道に外れると魔獣や盗賊が出るので危険です。なので、小さな村を訪ねる時は、ギルドで護衛を頼んでました。依頼料の分、値段は少し高くなりますが、そういう村に来る行商人は少ないので、そういう物としてお互い納得しての商売になるのだそうです。


 半年で一回り出来る位のルートを開拓し、2年程、順調に過ごしていました。私の5歳の誕生日を祝い、『ミストが7歳になったら学校に行く為に定住する場所を捜さなきゃね。』『そうだね。隣近所と仲良くなるには1年位は必要だからね。』などと話しをしながら楽しく行商の旅をしていました。


 5歳の誕生日は大きな街で迎えたので、贈り物に本を貰う事にしました。揺れる馬車の中では出来る事が少なく、今迄は毛糸の指編みの作品位しか作れませんでしたので、少しずつ文字を覚える事になったのです! 教会にも行って洗礼を受けました。水晶が光ったので祝福を受けた事は分かったのですが、スキルや加護と言った内容が神父様にも読めなかったのです。『うーむ。まあ、祝福はされたので、それで良いのではないかな?』と言われて終わりました。


 マジックバッグの中には実家から持ち出した絵本が数冊あるだけだったので、新しい本はとても嬉しいです。お金はお祖母ちゃんから貰った中から出しました。私が貰ったマジックバッグの中に入っていたけど、これは両親のお金です。お祖母ちゃんのお手紙を読んでもらった時に、お金はお父さんに渡しました。でも、お父さんはお祖母ちゃんの気持ちを優先したのか、マジックバッグの中に仕舞っちゃったのですよ。まあ、私が自分で使う事はまだ先だし、マジックバッグ毎お父さんに預けちゃえば問題無しですからね。結局、みんなの誕生日のお祝いとか、家族みんなが喜ぶ為に使おう。と決めたみたいです。


 本屋さんに行って気付いたのですが、今までに覚えた簡単な言葉だけで無く、全ての文字が読めるようになっていたのです! 驚いてお母さんにこっそり囁くと、『洗礼で受けた加護の力なのかもね⁉︎ レアスキルの中に言語理解というスキルが在るらしいの。今、お父さんに言うとここで大きな声で叫ばれそうね。知らない人にまでバレても良い事はないから、お父さんにはゆっくりと後で教えましょうね。』と良い笑顔でお母さんが答えてくれました。まぁ、レアなスキルなら秘密が一番かもね。


 私がお母さんと一緒に選んだ本は、植物図鑑と薬草図鑑(ポーション作成方法有り)と魔物図鑑と初級魔法の本です。いろいろとあって悩んだのですが、料理等はお母さんに教えてもらっているし、実益につながる本を選びました。私が選んだ本が絵本以外な上に高額な図鑑だったので、『この本を5歳の子に与えるのですか?』とお店の人に驚かれましたが、『大切なお金を使うのです。数年で不要になる絵本より、一生物の本でしょう。と、この子が真剣に考えた結果なのですよ。』とお母さんが笑顔で言うと、『親御さんの教えが良いのですね。』と店主さんから褒められました。


 買って貰った本は、お父さんのバッグの中に有るマジックバッグに仕舞い、今度はお母さんの買い物に行きました。ポーションを作る為の器材を買うのです。薬草として売るより高価で売れるし、需要があるのです。男爵家の5女だったお母さんは学校で薬学を学んでいたので、ポーションも作れるそうです。私が薬草摘みが出来るのも、お母さんが教えてくれたからなのです。『本を買ったので自信を持って作れるようになったから〜』と笑ってますが、ポーションの方が高額で売れるのだから、本当はもっと早くから作りたかったと思います。『実は、お母さんの実家は貧乏だったので、器材を持って来れなかったの。』と聞いたお父さんは、『それに気付かなかった。』と凄く悔しそうでした。男爵家の借金を返済する代わりに嫁いで来たので、お祖父ちゃんはお母さんをワザと酷く扱っていたそうです。だから、『私用の器材が欲しい。』とお父さんにも言えなかったのでしょう。『家を出てもう2年も経つのに…』とお父さんは呟いてました。


 落ち込んだお父さんを励まそうと『せっかくだからお父さんの物も何か買おうよ!』と言うと、鍛冶屋さんに連れて行かれました。私とお母さんに薬草採取用のナイフ。自分用にロングソード。冒険者さんが魔獣を倒す処を見て、護身用に欲しかったそうです。これまでは仲良くなった冒険者さんのを借りて教わっていたそうです。お父さんは『魔法の勉強をして来なかったので、これから護身術として剣技を学ぶつもりだ。』と打ち明けてくれました。


 馬車での旅に戻り、初級魔法をお母さんに教わりながら次の街を目指してます。生活魔法以外では新たに風魔法ウインドカッターを教わっていますが、高い処の木の実を採るのに便利です。狙った実だけを落とす為に制御が大変ですが、動かない物ならほぼ採れるようになりました。そして今日、一角兎を獲ってしまいました! 薬草採取していた処の風上から出て来たので、気配を消していた私に気付かなかったのです。きっちり頭を狙ってウォーターボールを放ち、一発で窒息させて仕留めました。毛皮は柔らかく、お肉が美味しい魔獣で、『庶民の味方』という別名を持つ位な魔獣です。私はまだ解体は出来無いので、前脚を肩に乗せておぶった格好で野営地に辿り着くと、私が襲われていると勘違いされて大変でした。ベースから飛び出して来てくれた冒険者さん達に、傷一つ無く綺麗な状態の訳を聞かれたので、『生活魔法の水魔法で顔を包んで窒息させた。』と教えると驚かれましたが、『今回はたまたま成功して助かったけど、次からは危ないから逃げなさいね!』と諭されてしまいました。勿論両親からもしっかりお説教と、うちの子凄い!の賛美を貰いましたよ。


 因みに、一角兎はEランクの魔獣で、スピードを乗せて角で突いてくる攻撃を避けられれば、力は弱い魔獣なので、1VS1ならFランクの冒険者でも倒せるそうです。でも、5歳の女の子には早かったみたい。しかも、お母さんから見える範囲内で採取活動する。というお約束を破って仕舞ったので深く反省中です。ショボン。


 夕飯に一角兎を食べてお片付けも終えたら、ポーション作成を教わる時間です!今夜から教えてくれる約束だったので、薬草を沢山集めようと張り切り過ぎて森の中に入ってしまった訳ですよ。馬車に乗っている時に薬草図鑑を良く読んで、レシピや手順は覚えてますが、実際に作るのは初めてなので、ドキドキしています。


 初級の体力回復ポーションから始めます。まず、クリーンを掛けて綺麗にした薬草を細かく刻み、容器に入れます。そこに水魔法で出した同量の水を入れ、更に魔力を注ぎます。火に掛けて煮詰めても出来るそうですが、お母さんの経験では魔力で圧縮した方が高い効能を得られたそうです。一瞬パァっと光り、液が透明になりました。お母さんがビックリしています。『まるで上級ポーションの様な透明度だわ。』と呟きながら瓶に移して、今夜の勉強は終わりました。煮詰めると緑色が濃くなり、苦味も強くなるそうです。体力回復ポーションは疲れた時に飲むそうです。試しに飲みましたが、爽やかな感じで飲みやすかったです。全然苦くありません。お母さんが出来栄えを誉めてくれるのを聞いたお父さんが、『今回のは売りに出さずに家族で飲もう!』と決めてしまい、マジックバッグにさっさと仕舞ってしまいました。


 最近の私の楽しみは、薬草図鑑と植物図鑑の暗記です。というか、鑑定のスキルが生えた様で、図鑑で覚えた物が色分けされて見える様になったのです。でも、お母さんに相談したら、スキルの生え方が普通ではないみたいなので、お父さんにもまだ秘密です。鑑定も持っている人がそんなに多くなく、洗礼で受けとる加護の、希望トップ5に入るスキルだそうです。修行して手に入るスキルも無い訳では有りませんが、鑑定のスキルを得られる修行なんて聞いた事が無いそうです。私の場合も、たぶん、洗礼の時に得ていたと思われますが、複数のスキルが付くのは珍しいとお母さんが話してくれました。『このスキルも家族以外には内緒にしましょう。』と言われました。

インベントリって欲しくありませんか? 時間停止機能付きで無制限に収納出来る空間。垂涎の的ですね。願う事で叶えられるなら、私はインベントリが欲しいです!

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