蟹とプロローグ
連載は不定期です。多分。
XMICH-M04 カルキノスはジークウェル第六帝国の試作魔素駆動人型完全自律式戦闘機である。
彼女ーー原型の機体が女性型だったため仮に彼女とするーーは第六帝国の次期主力人型自律式戦闘機の試作機のバリエーションの一つとして予算がつき開発された。
世界を巻き込む大戦の末期に他の形式の試作機と共に生まれた彼女は試作機にも関わらずーーあるいはだからこそーー幾らかの運用に関わる多少の試験を行なったのちある施設の防衛の命令が下され、その通りに配備された。
その3ヶ月後世界は滅んだ。
それが1762年127日21時間19分8秒前のことである。
時刻が0:00を数える。
それを人工知能の片隅で感じながら施設外の様子を監視し続ける。
風がそよぎ月が雑草を照らす様子を木に偽装された監視塔のカメラから見る。
この地下施設と人類との接触が途絶えて久しい。
第六帝国が、そして人類が滅んでいる確率はかなり高いだろう。
軍の情報共有ネットワークから受けた最後の報告は魔素融合弾頭搭載と思しき大陸間弾道弾の迎撃失敗の報告だ。戦前に予測された弾頭威力の数値からはそれ以外の結論は導き出せそうになかった。
(これ以上の検討は不要だな…)
思考を一つ閉鎖しながら監視映像を確認する。
その一つに異常を検知した。
緊急報告を出した偽装監視塔26号の映像を呼び出す。
映像に映っていたのは巨大な黒い毛皮を持った哺乳類。
(恐らくはオオカミ系の四足歩行魔獣か)
監視塔の各種センサー類の検出した数値、特に魔素の測定値が異常だった。
生物は多かれ少なかれ体内に魔素を保有し、利用している。が明らかに保有量が多すぎる。
魔素の影響を受けすぎた『魔獣』の類だろう。
魔素の危険擾乱地域、それも魔素融合弾頭搭載大陸間弾道弾の着弾地域近辺からやってきたのだろうか。
あそこまで魔素の影響を受けて強大化しているとなると地下施設入り口の防御壁が突破される可能性が7割を超える。
此処までの思考を僅かな時間で済ませると彼女は自身の兵装の状態を確認を開始する。
前回の出撃より18年3ヶ月14日1時間6分38秒ぶりに彼女は魔獣を討伐目標とした出撃を決定した。
この出撃でなにと出会うかまでは、人工知能も予想をつけていなかった。
こういうもので良いのですかね?