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ファムファタルな君  作者: 一稀美
4/6

part4

おはようございます!

4話になります!

恋愛小説の何がいいって回りくどい表現が許されるところな気がします

言葉を楽しめるのが醍醐味ですよね♡♡

ところで最近暑すぎますね。夏だから当然でしたね。スイカが食べたいです。

おおおおすっごい人。人。久しぶりにこんな人ごみの中を歩いている気がする。

熱気あふれた人の中、慌ただしく流れる音楽、グッズを買うために出来てる長蛇の列、ほとんど知らない人がこぞって集まる集合写真。もうまさしくライブ会場!!!!!って感じが堪らない。身体が熱く疼いてくるのが分かる。とりあえず横断幕にバンドメンバーへのメッセージでも書きに行こう。

少し歩いて大きな横断幕の前で立ち止まる。幕はもう色とりどりのマーカーで書かれた文字でいっぱいだった。


これ誰が企画してるのかな。

メンバーはこのメッセージ全部読んでいるのかな。


そんなことを思う。いざペンを握ってみると書くことが思い浮かばないもんだ。もちろん大好きなバンド。

大好きです。最高です。今日を楽しみます。お陰で生きて来れました。ずっと応援しています。

頭の中に出てくるこんな文章達は全部間違いじゃない、俺の本心のはずなんだけど。なんか書くのが違うような気がしてしまう。ありきたりな言葉では表しきれない気持ちがあと一歩のところで出てこなくてもどかしくなる。ペンの先が布に当たっていて、じんわりと滲んでくる。

あ、やばっ。慌ててペンをのけたけどその黒いシミは取れなかった。申し訳なさとやっちまった感で俺はそそくさとその場を後にした。


何人かと初めましての挨拶をして、何人かと久しぶりの挨拶をして、皆と写真撮って。こうやって不特定多数と触れ合えるのもライブの醍醐味なんじゃないかと思う。普段は知らない人に声をかけるのも憚れるのにこういう時だけは自分でもびっくりするくらい社交的になれる。今の自分はここ最近の女々しさがどこかに行ってくれているみたいで嬉しくなった。この写真に写っている俺はどんな顔して笑っているのだろう?


遂に会場入り。席はまぁまぁ。むしろかなりいい方かもしれない。肉眼でステージを見ることが出来るレベル。

胸が高鳴る。胸が締め付けられる。暗闇を突き破るライトが交差しあう。遂に始まるんだ。

ピタッと止まるライト。浮かび上がる人影。湧き上がる歓声。マイクごしの息を吸う音。鳴りやむ歓声。

響き渡るボーカルの優しい歌声。


俺の恋の終わりを告げる始まりの音が鳴り響く。


最高だった。本当に本当に最高だった。俺は終始泣いていた。勘違いしないでほしいんだけど俺はこのバンドのライブで泣かなかった試しがないんだ。俺の薄っぺらい人生にも何回か訪れた絶望的な悲しみ。そのタイミングの全てにこのバンドの音楽が傍で寄り添ってくれていたから。登場と共に俺が泣いちゃうことは普通なんじゃないかなと思う。

この一カ月君のことが辛くてこのバンドを遠ざけていた自分に無償に腹が立った。

音楽というのは本当に凄いものだと改めて思う。心にスルッと入ってきて優しく包み込んでくれる。傷ついた心を舐めて奮い立たせてくれる。

俺を泣かせたあの曲達。君の好きな歌。イヤホン半分ずつにして聴いたあの歌。カラオケで一緒に歌ったあの歌。全部全部俺の大好きな曲。


音楽を一身に浴びた俺の気持ちはしっかりと成仏出来たようだ。

俺の大好きな君の笑顔がこの世のどこかで咲いているならそれも悪くないかな。また会えたらその時は友達として。俺ももっともっと幸せになるからね。

このバンドを好きになって良かった。


体感的には5分もなかった至福の一時はあるメンバーの「ありがとう!!」で締めくくられた。ありがとう。ありがとうはやっぱり素敵な言葉なのかもしれないなと思った。君の言った「ありがとう」を残酷に思った俺より今の俺は少し大人になれたのかもしれない。そう思えば「いつか」もそう悪い言葉じゃないのかもしれないような気がする。ライブが終わって余韻が残る体を無理やり持ち上げて急いで会場を出る。泣いて暴れて汗でぐちゃぐちゃになったTシャツを風になびかせながら走る。朝は書けなかった横断幕のある場所に。

「あの……!! まだ書いてもいいですか?」

「ギリギリセーフ。もうそろそろ渡そう思っていたの。」

横断幕を企画をしているらしい人はこんな遅くに書きに来た俺に驚きながらも、しまいかけたペンをそっと渡してくれる。

「もうあんまり書くところ残ってないけど大丈夫?」

「あぁ大丈夫です。ちょっと書けたら大丈夫なんで。この興奮を書きたくて。」

書くことはもう決まっている。たった二言だけ。少し震える手で自分の中で出来るだけ綺麗な文字で書く。


出会ってくれてありがとう。

幸せをありがとう。


とってもありきたりな言葉だと思う。あんなに普通なことを書く気がしなくて朝は断念したのに、今は何の躊躇いもなく書ける。美しいストレートな音楽が俺のくすんだ心の靄を取り払ってくれたみたいな清々しさがそこにあった。


この言葉を大好きなバンドメンバーに送る。

この言葉を大好きだった君に送る。


書き終わった文字を見てみると思った以上に汚い字だった。それもなんか俺らしくて笑ってしまった。

ゆっくりゆっくり人がごった返してる帰りの方角に歩き始める。まだ鼓膜がぶぉんぶぉんとしているのが心地よかった。もう今日から上を向いて歩くんだ、そう思って視線を地面から空にあげたらひと際輝くハーフムーンがこっちを見ていた。

やっぱりあの月は俺なんじゃないかな。

この前見た月は三日月で今日は半月。あぁほらちゃんとお俺の心は少しずつ形を取り戻しているんだ。いつか満月になる日まで気長に待ってあげよう。あ、俺も使った『いつか』。


その時俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。空耳かなって思う声が。

「ゆうはくん!!」

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