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ファムファタルな君  作者: 一稀美
3/6

part3

こんばんは!!!

最初はスパン良く出せるんですけどねぇ私!

今回は間延びしないようにします。

このお話には大事な存在として音楽があります。そしてその音楽を奏でるバンドがいます。

どのバンドを思い浮かべるかは自由です。皆さんの恋に寄り添ってくれるバンドを思い浮かべてください!

ちなみに私はRADWIMPSを思い浮かべてますけど。ただ好きなだけですよ!

午前2時。思い出に浸りながらセンチメンタルな夜を過ごす。明日このバンドのライブがあるんだ。

時計に目をやる。あ、そっか。日が変わってるんだ。ライブがあるのは正しくは今日。そんなことを考えながらもう一度イヤホンを耳にさす。スマホを操作してこのバンドの曲をランダムに流れるように設定する。

いくら彼女との日々を思い出すからって流石にライブ当日も聴かずに過ごすなんて。そんなことはちょっと俺的に許されないことな気がした。そんなことするのはアーティストへの侮辱になるような気がしたし、ライブ前に曲を一通り聴いていくのは俺の中でマナーだと思っているから。それに第一俺は今日のライブでこの恋心を葬ってあげようと思っているのだ。いつまでも逃げて希望だけをこっそり持ち続けるなんてことはせずに、楽しかった幸せな思い出として。このライブを、俺の淡い恋心のお葬式の場にしてあげようと思う。このバンドのライブで出会った君との恋を締めくくるのは、このバンドのライブ。それが正解な気がして仕方なかった。

今やっと。君と別れて初めて一曲丸々聴くことが出来た。あぁやっぱいいなぁこのバンド。最高だなぁ。大好きだなぁ。一カ月ぶりの大好きなバンドの音楽がじわじわ俺の耳から体に染み渡る。今日で最後だから。この音楽を聴いて君のことを想って苦しくなるなんて今日で最後だから。そう思いながらゆっくりと瞳を瞑る。

ぼんやりと、君がそっけなく俺を突き放した時の顔が脳裏によぎる。初めて見る大人びた冷たそうな表情の奥に泣きそうな瞳を隠し持った君の顔を俺は思い出す。



「ゆうはくん?」

「ん?」

「私達さもうお家デートこれで最後にしよっか。」

「ん?」

「もう今日で最後にしようかなって。」

お家デート。回数を重ねていくうちにいつからか俺たちはお家デートが多くなった。君はこんなことを俺の部屋から出る少し前に言った。

「どうかした?これからいそがしい?」

本当はこの言葉の意味を俺はちゃんと理解していた。心の奥底ではいつか言われるんじゃないかと覚悟をしていたはずだ。それに気付かない振りして、ベットの上で毛布にくるまったまま敢えて的はずれなことを言ってみる。

「ううん、そろそろ終わるべきかなって思って。彼氏にも悪いし。」

彼氏……。いつぶりだろう君から彼氏と言うワードを聞くのは。俺はいつの間にか時間とともに彼氏という存在が無くなって次にその椅子に座れるのは俺だと決め込んでいた。そうに違いないと信じていた。

「あ……。」

「めっちゃ楽しかったよ最近!もう私は大丈夫!」

え?どういうこと?俺は大丈夫じゃないよ?彼氏とは別れてなかったの?これから俺達どうするの?

聞きたいことはいっぱいあったはずなのに。君があまりにも何事もなくしれっと言うから俺は何も言えなかった。子どものように泣きながら縋り付きたい気持ちがいっぱいなくせにそんなことするのは恥ずかしいというしょうもない背伸びをした自分がいた。

「ん……と。ご飯とかはまた行ったりはぁ?」

毛布から顔だけ出して聞いてみる。

「うん!もちろん!いつか、また行こ!」

君はこの時初めて『いつか』って言ったんだ。『また今度』でもなければ『次は』でもない、いつ訪れるか分からない『いつか』。

嫌な生ぬるい空気が二人の間を流れる。それでも君はいつもと同じように小さく鼻歌を歌ったりしていた。それが悔しくて悔しくて悲しかった。あぁ俺は本当にただの遊び相手だったんだな。そう認めるしかなく目の奥が痛くなるのもまた惨めだった。


彼女の突然の別れ宣言の後もいつもと変わらず駅まで彼女を送る。いつもと同じように並んで歩いて君はいつもと同じように俺の手を握っていた。全てがいつも通りなのにいつもとは全然違う気持ち。

「ありがと!送ってくれて!」

「どーいたしまして。」

「おぉっあと3分で電車きちゃう!」

「気をつけて帰ってね。またね。」

敢えてまたね、なんて言ってみたりする俺。もうこの辺から既に君の顔を見れていなかった。瞳に映るのは無機質に冷たそうなコンクリート。

「ゆうはくん。」

「ん?」

「ありがとう。」

ありがとうは時として残酷な言葉だと思う。ありもしない意味を含んでしまう言葉。今までありがとう、そんな風には聞こえちゃう言葉。

「……。」

何も言えない俺の手を彼女はきつく握る。女の子にしてはおおきいと思っていた彼女の手が実はとても小さかったことに気がついた。微かに震えていることには気付けなかった。

「じゃぁね!行くね?」

「……ん、じゃぁね!気をつけて!」

俺は顔を上げる。最後にちゃんと君の顔を見るために。最高にかっこつけた顔を作って笑ってあげるために。


俺の目に映った君の瞳は揺れていた。揺れた瞳を持つ彼女の顔は初めて見る本当にお姉さんの顔だった。

俺は多分すごく子どもなんだと思う。余裕な振りをした彼女の痛みに気付いていなかった。自分の弱い所を隠すので精一杯だったんだろう。君の心に触れた時に君の覚悟にも触れた。

君は俺と本当にサヨナラをするつもりだ。

呼び止めようとした俺の前を彼女が舞う。行き場をなくした右手は寂しげに宙をさまよっていた。


「ばーいばい!!」

気付いた時は君はもう改札の向こう側にいて、こっちに向かって大きく手を振っていた。遠すぎて君が泣いていたのか笑っていたのかが見えなかったけど俺の視界はぼやけていた。


もうどうやって帰ってきたかは覚えていない。フラフラ何も考えられない頭を無理やり起こして体を引きずるように帰ってきたのだろう。もうどうしようもないか、そんな想いが頭を支配していた気がする。

ガチャ。

家のドアを開ける。1歩踏み入れると広がる君の香り。幾度となく一緒に過ごした小さな箱の中には君の形跡で溢れていた。ふたつ並んだ缶酎ハイ。その1つは半分くらい残っているはず。君はまるまる全部なんて飲めないから。食べかけのポテトチップス。味は決まってのり塩。部屋の隅っこに綺麗に畳んである君が着てた俺の服。あまり好きじゃない味の歯磨き粉。2人分のシーツのシワ。2人で見ていたライブDVDの特典写真集が出しっぱなし。床に落ちてる2人で見に行った映画の半券。全部が愛の残骸。全部が思い出の残骸。

俺は泣いていた。泣いて泣いて泣き崩れていた。20歳になって恥ずかしい。分かってるけどそんなことを気にせず泣いてちゃんと伝えれば良かった。君が好きだ、君がいないとダメだ。伝えて繋ぎ止めていれば良かった。それがどんな形でも。君がもう二度と来ない部屋でその事に気付くのは遅すぎたんだ。


その晩冷たい部屋の中で俺は彼女にLINEを送った。

「すきだよ。」

たった一言。君の既読はすぐついた。けど返事は来なかった。

1週間後思い立ったように来た返事には一言と笑顔の絵文字。

「ありがとう^^」



気がつけば朝だ。体を駆け巡る音楽は俺に思い出の徘徊と自己陶酔をもたらしそのまま夢の世界に誘ってくれていたようだ。

布団の中で両手を伸ばす。ライブに行こう。僕達の大好きなバンドのライブに。


さぁいざライブTシャツという喪服を体にまとい会場へ。

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