「賑わった町」【超ショートショート】
私の住むA町は、昼夜問わず毎日がお祭りのように賑わっていた。家に面している道路では、炎を振り回しながら踊る「ファイアーダンス」や、看板を持ちながら練り歩く売り子のような人が独特な掛け声を交わしながら通りすぎていく。それはまるで、三重の桑名石取祭のようなピカピカとした電飾やドッと沸き上がる闘志などが感じられるものであった。
私はこの雰囲気が大好きであった。皆の溢れ出る勇姿、今にも燃え盛りそうな松明の光が私の心を掴んでは離さない。
最近は国内の政治などの話題がマスメディアやソーシャルメディアから漏れ出ているせいで私もすっかり意気消沈していた。私はまだ幼いから政治のことは良く分からないけれど、何故か嫌な予感がするのだ。政治についての話を聞くと私の身体はいつからか嫌悪感や拒否反応を示すようになっていた。
父も母もそして一緒に住んでいる祖母でさえも、最近の家族会議は大体が政治についての話である。家族会議は全員参加が義務とされているため一応私も出席するが…とても退屈だ。
何もすることがない。政治に興味なんて全くない。まず小学生の私に意見を求めるという行為は限りなく愚行に近いのではなかろうか。まず、私には「せんきょけん」というものが無いらしく、政治への介入はほとんど出来ないらしい。なら、尚更私が出席する意味が失くなってしまうではないか。大人の良く口にする「意見を言うときは、しっかり考察や持論をもって意見を言うんだよ」というアドバイスも全て嘘だ。だって、私には意見を言うことのできる場所がこの国には存在しないのだから。
私は退屈だった。何物にも例えがたい虚無感が私を襲っていた。だから、私は楽しい方へと誘われるように歩き始めた。
私は家の中よりも幾分か賑わっている外へ通じる扉のある玄関へ歩みを進めた。そして、扉の錠を開けようとしたその時。
「駄目!」
と言ういつもより少し強い声を飛ばしながらリビングから走ってきた母が、私の左手を潰れてしまいそうなほどに強く掴んで引っ張った。
え?という疑問符が私の中を駆け巡る。
何故、止めるのだ。あれはこの地域で行われている祭りであるのに。皆が楽しそうにはしゃぎわめき散らしているのに。何故私は行ってはならないのだ。
私の中で浮かんだ疑問に応えるように母が口を開いた。
「あれはね、『デモ』っていうのよ」
母はそうとだけ言った。
あの時の私は幼かったため、母が口にした言葉の意味が分からなかった。だが、私の身体や脳が嫌な嫌悪感と拒否反応に包まれた感触だけは、大人になった今でも覚えている。