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それからしばらくして、冬が訪れた。
この地方は、冬場雪の積雪が多い。
ただ俺の家と工場は、雪降ろしをしなくていい。建物に魔法で積もらないようにもしているし、建物自体の強度も上げている。ちょっとした地震にも、噴火が起きた場合の落石、ものすごい突風や嵐にしたって倒壊することはない。
でも、家の前なんかに積もる雪に関しては、雪かきをしないといけない。畑に関しては、全く見えない状態だ。
しかも、現在も進行形で雪が降り続いている。こんな日に誰か訪ねてきてもわからないだろう。っていうか、訪ねてくる人なんか考えられない。
だってそうだろ、畑なんか見えもしない、現在も降り続いている、辺境の開拓村の最奥地。誰がどう考えたって来るわけない。
何てことを考えながら雪かきを進めていた。
「・・・・・」
「ん?何か聞こえたか?」
「・・・・・」
「何か聞こえたような。風の音かな?」
「・・・ぁ、・・・ぇ、・・・ぃ。」
「やっぱり何か聞こえる。こっちか?」
「だ・・・ぁ、た・・・ぇ、お・・・ぃ。」
「ここか!ちょっと待ってろ。」
俺は、声が聞こえた辺りの雪を腕で掻き分け始めたのだが、周りの雪が崩れてきて、掻き分けても掻き分けても、一向に雪が減らないのである。
「た、た・・けて。」
「今助ける。」
俺は、風の魔法と火の魔法を組み合わせて、雪を退かしつつ溶かしていった。
積雪が1メートルほどあった下から、女性が1人出てきた。
ダークブラウンのショートの髪をした女性だ。
うつ伏せに倒れているため、顔が見えないんだが、その女性を急いで担ぎ上げ、家へと走った。
「母さん、行き倒れだ。雪の中に倒れていたから、すぐに風呂に入れて上げて。」
「な、何だってフォル?」
「だから、行き倒れだ。すぐに風呂に入れて上げてくれ。」
「わかったよ。ルシア、あんたの服と母さんの服で、サイズがちょうど良さそうなものを見繕っておきな。」
「頼んだよ母さん。俺は、体力を回復してもらうために、暖まるものでも作っておくから。」
「あいよ。」
母さんは、そのまま抱え上げて脱衣場に入っていった。
俺は、このところキッチンにオーブンを作っていたので、それを使用して、パンを焼くことにした。
パンは、天然酵母を使用して作っている。
初めてパンを焼き上げたとき、母さんとルシアはそれはそれは、驚いていた。真っ白な上に、ふかふかに柔らかく、食べると小麦の香りがして、ほんのりと甘い。
以前小麦を練って焼き上げてあるものは、ふっくらとしていない、木に巻き付けて焼き上げているものだったので、全くの別物である。
いつでも食べれるように、大量に焼き上げて倉庫に保存しているが、俺が準備する時には、必ず新しく焼き上げているので、焼き上げているときの香ばしい香りが辺りに広がっているのだ。
ただ、倒れていたのだから普通の食事は難しいと思うので、折角の焼きたてのパンだが、ちぎってミルクに浸し、ミルク粥を作っていった。
あとは、溶かしバターに小麦粉を入れ、少しずつ牛乳を入れてホワイトソースを作っていった。
テテトと、アカタケと、玉ねぎにファングボアの肉を煮込んで、その中に、ホワイトソースを入れて更に煮込み、塩コショウで味を整えた。
「あんちゃん、いい匂い。お腹すいた。」
「ちょっと待ってろ。ん?、そろそろ母さん、さっきの女性のこと終わったんじゃないか!着替え持っていったか?」
「あっ!いっけない、急いで持っていかなきゃ。」
ルシアは、ドタバタと脱衣場に服を持っていった。
ドアの向こう側から、
「やっと持ってきたね。さては、フォルが作っているだろう料理の匂いでも嗅いでて遅くなったんじゃないだろうね。」
さすが、母さん。わかってる。
「い、いや、母ちゃん。そんなわけないじゃない。」
「そうかい、まあいいよ。さ、早く服を渡しな。」
「どれがいいか、わからなかったから、ちょっと多目に持ってきたよ。」
「これは、ちょっととは言わないよ。」
ルシアは、どれだけの量を持っていったのだ。ここに居たときは、1つも持っていなかったから。
そうか、マジックバッグに入れて持っていったんだな。
まあ、脱衣場の話を聞いていても始まらないので、食卓の準備を始めた。
とりあえず、女性の分として、パン粥と具を入れていないホワイトシチューを、あと俺達3人分のパンとホワイトシチューを並べていった。
ほぼ並べ終わったところで。
((ガチャ))
「フォル、終わったよ。」
「あんちゃん、お腹すいた。食べていい?」
「ルシア、まだだ。」
「え~!」
「あ、ありがとうございました。助けていただいて。」
「まあ、困ったときはお互い様だろ。食事の準備調っているから、食べてよ。」
「そ、そんな、助けてもらったのに、しょ、食事までもいただいたら・・・」
「そんな状態で帰らせたら、助けた意味なくなるだろ、ほら、いいから椅子に座って食べて、足りなかったらおかわりあるから。」
「わ、わかりました、いただきます。」
((ズッ))
「ん?美味しい。すっごく優しい味。」
「あんちゃん、食べていい?」
「ああ、ルシア、待たせた。いいぞ食べて。」
母さんは、いつも通り落ち着いて食べてたけど、女性とルシアは、かけ込むように食べていた。
かなり多めに作っていたはずの料理は、パンも含めて平らげてしまった。
「あっ、ごめんなさい。助けてもらったのに自己紹介もしないで、ほ、本当にごめんなさい。」
「いいよ、お腹空いていたんでしょ。これだけ食べてもらえて、作った方としても嬉しかったですよ。」
彼女は、恥ずかしかったのか、顔を赤くして下を向いた。
「あ、で、ても、いえ、私は、エアラっていいます。18歳です。冒険者で、ソロで活動しています。ここの村長の所へ届け物の依頼を受けて、依頼は完了したんですが、この雪のせいで宿屋がうまってまして、村長がこちらの家であれば泊まれるんじゃないかと紹介されて向かっていたのですが、雪が強くなって前が見えなくなって、気がついたら体が動かなくて・・・」
「そうですか、それは大変でしたね。暫くは、雪の影響で帰ることは難しいでしょうから、それまでは泊まっていっていいですよ。」
「うん、エアラ姉ちゃん、泊まっていきなよ。」
「姉ちゃん?」
「うん、エアラ姉ちゃん。」
「すまない、ルシアは兄妹が俺しかいないから、姉に憧れていたんだよ。」
「いえ、別に大丈夫です。私、兄妹どころか親無しの孤児だったんで、ちっさいころ孤児院で育ててもらっていた頃、そう呼ばれていましたから、久々にそんなふうに呼ばれたから、ちょっと驚いただけです。でも、そのよばれかたは、その呼ばれかたは、なんだかちょっと嬉しいです。」
「そうなのか、嫌じゃなければいいんだ。」
「ええ、嫌ではないですよ。ルシアちゃん、よろしくね。」
「こちらこそエアラ姉ちゃん。」
期間限定ではあるが、家に家族が増えた瞬間であった。
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