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「な、なんじゃここは!?」
王女とミッシェルさんを連れて帰ってきたところなのだが、車の中で寝ていたこともあり、いきなり全く別の場所に来ているのだから、この反応もわからなくはないのだが。
お姫様とミッシェルさんは、固まって口を半開きにして、俺の家を見ていた。
少し落ち着いてきたのか、キリッとした顔つきになって、
「これは、どこぞの貴族の屋敷なのか?」
「お嬢様、わたくしここまで美しい造りの屋敷を見たことがありません。」
「やはり、どこぞの貴族の屋敷なのでは?」
「いえここは、俺の家と俺が建てた俺所有の建物ですが?」
「なに!?ここはおぬしの屋敷か!おぬしは人族の貴族なのか?」
「いえ、俺は平民ですよ。しかも、ちょっと前に村としては破棄されたところですしね。」
俺の言葉きき、更に驚きの表情になったが。
「破棄された!?ここはあきらかに村になっておるでないか!」
「建物はありますが、まだほとんど入居してないですよ。それにさっきも言いましたが、あくまでも俺の所有の家です。だからどこかの国に認められた村ではないですよ。」
「ここにある全部の建物がおぬしの所有とな!どういう生活をしているかきになるの。しばらくここで生活させてもらうぞ。」
「それであれば、あちらが宿屋になってますから、ぜひ泊まってください。」
「そうさせてもらうかの。の、ミッシェル。」
「そうですね、お嬢様。早速宿屋に手配して参ります。」
ミッシェルさんは、宿屋に駆けていった。
「あんちゃ~ん。」
ルシアがアーベルトさんの店の方から駆けてきた。
「おう、ルシア。」
「む?あんちゃん、その女性は何?彼女?」
ルシアがお姫様を睨みながら、聞いてきた。
「彼女のわけないだろ、この人は、魔人族のクラウン王国のお姫様だよ。」
あきれた顔をしてルシアに返事した。
「何でこんなところにお姫様がいるの?お姫様をお嫁さんにするの?」
「なんだおぬしは?いきなり失礼なやつだの!」
お姫様は、ちょっとムッとした顔をしてルシアを見ている。
「すいませんね、こいつは妹のルシアです。村から出たことがないので人との接し方がよくわかってないのですよ。」
ルシアは、頬を膨らまし、
「む~、ルシア悪くないもん。ここはルシアの家でもあるんだから、知らない人がいきなり来ていたら、警戒するでしょ。」
「いや、ルシアが警戒していたのは姫様じゃなかっただろ!俺に対して警戒していて、その延長上で姫様を敵対していたようにしか見えなかったぞ。」
「そんなことないもん。」
俺に言い返し、あさっての方を向いた。
「いや、そうしかない。」
「ルシアとやら、まあすこし譲ってわらわを警戒していたとして、なぜフォルに対してああいう質問をしたのだ?それに対してはどう申し開きをするのだ?」
「あんちゃんはルシアのあんちゃんだから、他の人にはあげないの!」
「まあ、フォルは一生おぬしの兄であるかとには変わりないから兄として他の人にとられるかとはないがな。まあ、将来フォルが嫁をとるときには、義理の姉がふえるはずだな。」
お姫様もあきれ顔してルシアへ諭すように伝えた。
「それは、わかってるも…。」
その時、ルシアの声を遮るように、大きな声が聞こえてきた。
「お嬢様~、宿お取りできましたよ~。」
ミッシェルさんが叫びながらルドルフさんの宿屋から駆け出してきた。
「おお、では早速宿を見てみようかの。あれもフォルの所有と言うからには、さぞや立派であろうぞ。」
「いやいやいや、そんなハードルを上げられても。普通ですよ、普通。」
「おぬしの普通がわからんし、目の前にある家がこれだけ立派なのだから、宿の方も期待できるだろ。」
「本当にそんなことないですって、貴賓室はあると思いますが、たぶん普通ですって。」
「ここで押し問答してても始まらないので、早速見に行くぞ。」
「それじゃあ、俺は作業があるんで、一旦失礼します。」
「わかったのじゃ、後でまた訪ねさせてもらうぞ。」
「ええ、わかりました。では、また後で。」
お姫様が、楽しそうな顔を見て、俺もなんだが嬉しくなったのだが、すでに興味が宿屋の貴賓室に集中してしまっているようで、少し小走り気味に、宿屋に向かっていった。
ルシアは、何か考えているようで、黙ったまま家に入っていった。
しばらくしてその日の夕方、
「フォル。フォ~ル!」
大きな声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえるので、2階の窓から外を見てみると、家の柵の外からお姫様が声を張り上げていた。
それをミッシェルさんが何か言っているようだったが、気にしていないようだ。
おっ、お姫様が俺に気がついたようで、
「フォル~!」
笑顔で俺に手を振ってきた。しかも、王族が普段振るようにではなく、大きく手を振っているのだ。
「お姫様、今から降りてきますから。」
俺も大きな声で返事をし、手も大きく振り返してから、1階へ降りていった。
「フォル、あの宿凄いの!なんじゃあのエレベーターとやらは、疲れもせず、気がついたら最上階についているとは、何度も乗ってしまったぞ。それにあのベッド、あれは布を使っておるの、魔人族でも布は少量生産出来ておるが、あの量を使ってベッドを作るなどと、聞いたことはない。食事はまだだが、これほどであれば、食事も楽しみだ。」
お姫様は、キラキラとした眼で、俺を真っ直ぐに見つめていた。
他にもまだまだ言いたいことはありそうだが、何を言えばいいのかお姫様にも収拾がついてないようだ。
ここまで喜んでくれれば俺としては嬉しい限りだし、お姫様が魔人族領に帰ってから、他の魔人族の国にでも宣伝してくれればルドルフさんの宿屋も発展するだろうし、アーベルトさんの店の取引も増えるんじゃないかとおもう。
「まあ、落ち着いて下さい。今日の夕飯はうちに来て下さい。折角来てもらった記念に、俺が料理を準備しますよ。」
お姫様は、目を見開いて俺を見て、
「なに!?本当か、これだけ作り上げているフォルが作る料理じゃと、ど、どんなものになるのか今から楽しみだ。」
「それでは、準備できたら声をかけますから、部屋で待っていて下さい。」
「待っておるぞ。」
お姫様は、ホクホクの顔で宿に戻っていった。
次回は、料理です。




