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アーベルトさんたちの引っ越しが終わり、雪の季節が過ぎて、しばらくしてからのこと。
ルドルフさんの宿屋にも冒険者たちがかなり泊まっているようだ。
(ゴンゴンゴン)
ん?玄関を叩く音がする。
「お~い、フォル坊。」
「は~い、ちょっと待ってください。」
俺はドアを開けて、迎え入れた。
「ルドルフさん、どうぞ。」
「おう、すまんだぎゃ。」
ルドルフさんと一緒にリビングに移動し、
「どうしました?」
「従業員が、足りないだぎゃ。」
「アーベルトさんに、頼んでなかったでしたっけ?」
「おう、アーベルトは今王都に戻っているだぎゃ、王都の店に荷物を届けにと、次の募集に対して選考してくるってな、今回の募集には、おらのところの従業員募集も含まれてるんだぎゃ。」
「それでは、アーベルトさんの帰りを待つしかないてしょ。」
「それぎゃあ、間に合わないたで、そこで、エレノに手伝ってほしだぎゃ。」
「それじゃあ、母さんにきいてもらえるといいんじゃないですか?」
「家長はフォル坊だぎゃ。まずは、フォル坊に頼むのが筋だぎゃ。」
「まあ、そうですね……。」
「フォル、話は聞こえてたよ。」
急にキッチンから母さんが、出てきた。
「ルドルフ、あたしで良ければ手伝うよ。フォル、工場はあの子達が頑張っているし、産まれた子達も手伝い出来るようになってるみたいだしね。」
産まれた子達というのは、ヒタムとムースのそれぞれの子供だ。
ムースだけでも20匹ほどいるのに、ヒタムに関しては、もう何匹いることやらわからない程産まれていた。
もう、それぞれが来て、2度目の冬を経過している、そうもう2年も経過しているのだ。
当然ながら、ムースや他のネズミも出産しており、ネズミだけで何匹いることかわからない。
蜘蛛に関しては、ヒタムしか出産していないが、1度の出産で数百匹産むので、把握出来ないでいる。
蜘蛛に関しては、8割は旅立ってしまうし、ネズミも伴侶を求めて半分くらいが旅立ってしまう。
しかも、いつの間にか旅立っているので、寂しい思いをするのだが、必ずムースとヒタムが俺に引っ付いて慰めてくれるのだ。
閑話休題
「まあ、母さんがよけ・・・。」
「エレノ、すまねえぎゃ。」
結局俺が、OKを出す前に2人で決めてしまった。
翌日から、母さんが手伝いに入るので、まだ慣れてないこともあり、俺もフォローとして手伝いに入ることにした。
その日の夕方、宿の食堂で
「あたたたた。」
急にかなりの食事をした、ボサボサ頭に、ひげがモジャモジャの山賊風の男が大きな声を上げて、テーブルに突っ伏した。
その様子をみて母さんが近づき、
「どうされましたか?」
「あたたたた、ここの料理食べたら腹が痛くなったんだ。あたたたた、ここの料理が悪かったんだ。」
「・・・・・」
「ここの料理が悪かったんだから、金を払わないぞ。宿代も無料にしろ。」
「なに言ってるんだい。ここの料理が悪いことあるかい、へっ?何かい?これだけ大量に食べといて、ここの料理が悪いだ?あんたなめてんのかい?」
「お、お前、客に向かってその口の聞き方はなんだ!」
「ちゃんと金を払おうとしないなら、客じゃないだろ、そんな文句は金を払ってからいいな!」
「お、俺を誰だか知らないのか?」
「知らないよ、誰だって構わないよ、ただの食い逃げだろ。」
「俺は、Cランクの冒険者のクーゾトだぞ。」
周りの客が、ガヤガヤしてきた。
「おい、あそこの暴れ牛のクーゾトだぞ。」
「ここでも、暴れるつもりなのか。」
「どこでも、誰にでも迷惑かけてるな。」
クーゾトは、周りの声が聞こえてきたので、周りをぐるっと見回した。
すると、周りは息を潜めるように、シンとした。
「ギルドのないここで、ランクがどうのなど知らないよ、金を払いなよ。」
「何?俺にかかればこんなところぶっ壊すのはわけねえんだぞ。」
「やっぱり食い逃げかい。」
「ふざけやがって。」
クーゾトは、母さんを殴り付けようと右腕を振り上げていた。
「っ?な、何?」
クーゾトは、振り上げていた腕を下ろすことは出来なかった。
ルドルフさんが、その腕を持っているのと、クーゾトの目の前には、ナイフを首もとに突きつけている俺がいたのだ。
「いい加減にしてもらいましょうか。」
俺が、低めの声で殺気を駄々漏れに威圧しているのだ。
「金を出すだぎゃ。」
ルドルフさんも、全然殺気を押さえてない。
「・・・・・」
クーゾトは、声が出せないでいるようだが、空いている左腕で懐をさがしているようだ。
すぐに、テーブルの上に出されたのは、銀貨1枚と、銅貨3枚だけだった。
「足りないだぎゃ。」
「こ、こ、こ、これだけしか、持ってないんです。」
「それじゃあ、荷物全部回収させて貰うぎゃ。」
クーゾトが持っていた、大剣と身に付けている防具、横に置いてあった革袋を母さんが直ぐに回収した。
「そ、それを持っていかれたら、冒険者かぎょ……。」
「もう、冒険者なんて出来るわけないだろ、犯罪者なんだから、王都に連れてってもらって犯罪奴隷になるんだよ。」
「ゆ、許してくれ、も、もうしないから。」
「いや、駄目だね。俺が許しでもしたら、繰り返すやつが出てくる。」
「そうだで、少なくどもギルドの名前を出したんだぎゃ、ギルドには報告が必要だで、まあ、冒険者資格剥奪で犯罪奴隷は確実だぎゃ。」
「まあ、ここには他の冒険者が来ていますから、緊急で依頼をしたいと思いますが、ルドルフさんどうでしょう?」
「フォル坊、それはいい考えだぎゃ。報酬はどうするんだぎゃ?」
「まあ、ギルドで受け取れるお金があるでしょうから、その全て報酬ってことでいいんじゃないですか。」
「そうだでな、それじゃあ今からここにいるやつで、王都までこいつの護送とギルドへの引き渡しを頼みたいんだぎゃ、誰か希望者はおるだぎゃ?」
「それであれば、我々『白雷龍の爪』が請け負ってもいいかな?」
声がした方向をみると、そこには獣人族の男性5人がいた。
熊系の獣人と、猫系の獣人2人と、犬系の獣人に、鳥の獣人だ。
「おっと、紹介が遅れたが、あっしは、このパーティーのリーダーのタンドだ。」
今自己紹介してくれたのが、鳥の獣人の彼だ。
羽の色は、茶色で羽先に普通の手がついている。
獣人は、足や腕などは状況に応じて変化させることができるタイプの人もいると聞いたことがある。
最初俺は、熊系の獣人がリーダーかと思っていた。
「依頼を受けてくれるのだぎゃ、ありがたいだ。それじゃあ頼むだぎゃ。」
ルドルフさんは、リーダーの自己紹介だけを受けてお願いしてしまったので、他のメンバーの名前を聞くことが出来なかった。
出来たら全員の名前をきいて、それぞれの毛をもふもふしたかったのに。
まあ、ルドルフさんの宿屋で起こったことだから、ルドルフさんに決定権があるから仕方ないと思った。
俺が残念そうにタンドさん達が出ていった扉を見ていた後ろで俺を見ていたエアラさんがいたことを気付かなかったんだ。




