第五十七話
挨拶とスズカとのトレーニングを終え、いい時間になったのでジンの家へと戻った。家が近くになるととてもいい匂いがする。夕暮れ時の住宅街を歩いている時のアレだ。食欲が刺激され、どこか懐かしい感覚になる現象。独り身が長くなると寂しい気持ちにも襲われるんだよな。さらにいつも自分で料理していると他人の手料理が食べたくなる衝動。そんな願いも叶わないから、わざわざ家から少し離れたところにあった個人経営の定食屋まで足を伸ばしてたまに食べに行ったっけな。定食屋チェーン店の味じゃなくて家庭の味って感じのところ。なんかいいよね。
そういえばこっちきてからリズさんの手料理が初になるのか。爺さんのところにいた時も俺が作っていたし。せっかく慣れ親しんできた味になってきたのに食べ納めか…旅始まったらまた俺が作るんだろうなぁ。リシュって料理出来るんだろうか。ちょっと想像つかないな。
そんなことを頭に巡らせながら家に入った。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。」
リシュが出迎えてくれた。ちょうど頭の中でリシュの料理姿を思い浮かべていたこともあり、じーっと見つめてみる。
「な、なによ?帰ってくるなり人の顔をじーっと見つめて。」
若干照れ気味に困った表情をしている。
「いや、なんでもない。」
「何なのまったく…。綺麗とかかわいいとか言ってくれたらいいのに。」
聞き取りづらい小声でボソッとなにか聞こえたがよくわからなかった。
「うん?なにか言った?」
「なんでもないですー。」
なにやら拗ね気味だ。
「もうみんな集まってるよ。もう少しで料理も出来上がるみたい。」
「そっか。リシュも挨拶とか準備は万端?」
「うん。大丈夫。」
「じゃあ今夜は思いっきり楽しんで別れを惜しむとしますかね。」
「ぷっ。何よそれ。前にも言ったけど程々にしておきなさいよ。二日酔いになっても知らないから。」
「その時は置いていってくれ。」
「だーめ。引きずってでも連れて行くから覚悟してね。」
「旅立つ日にその光景は流石に嫌なので自重します。」
「よろしい。」
「お兄とリシュ、いつからそんなに仲良くなったの。」
じと目でスズカがこちらを見ている。
「そんなことないぞ。」
「そんなことないわよ。」
「息ピッタリ。まあいいけど。」
俺とリシュは互いに顔を見合わせ押し黙る。
スズカはスタスタとどこかへ行こうとする。
「あ、今日は人が多いから外でやるの。家の裏に集合ね。」
「ん。わかった。」
「俺も一旦部屋に荷物置いてくるよ。」
「うん。置いたらすぐ来てね。」
「了解。」




