第四話
外に出てみると目の前には広大な土地に芝生や草むらが広がっており、遠くでは馬が駆けている。山から流れてきているだろう川もある。なんとも言えない雄大な景色が目に入ってきた。まるで北海道で見た田舎の牧歌的景色だ。感動に浸りながら眺めていると、川の縁に立っている人を見つけた。この身体感覚にまだ慣れていないため、ゆっくりと歩きながら彼女に近づいていくとだんだんとはっきりと見えてきた、背格好はやはり子供だ。金色に近い髪を結ったポニーテールがサラサラと風になびいている。服装は少し古ぼけた木綿のワンピースを着ている。こちらに気づいた様子で軽く手をあげながら近づいてくると話しかけてきた。
「やっと起きたんだ。その…色々と大丈夫?」
「ああ。色々と聞きたいことがあるんだが、君はあの時の狐なのか?」
「うん。お肉美味しかった。この姿は人に化けているわけでもなく、この世界にきて目が覚めたら人間?になってた。」
そう話しながら彼女はクルッと回ってみせる。ワンピースの裾が翻った瞬間にちらっと尻尾のようなものが見えた。
「そうか…」
ビーフジャーキーまでわかるってことは一緒に転移されたのは確定だな。というか尻尾があったように見えたがあれは問題ないんだろうか。それよりもまずはこの子との関係を決めておかないと後々めんどくさいことになりそうだ。
「色々理解できないことが多いんだが、この後はどうするんだ?」
「特に何も考えてない。ご飯食べられて生きていければ良い。」
「ひとつ提案があるんだが」
「なに?」
「俺と同じ場所で一緒に発見されたわけだから、あの爺さんは多分俺たちのことを兄妹か何かだと思っているはず。色々突っ込まれたら面倒なことになりそうだから俺とは兄妹ということにしておかないか?」
「わかった。それでいい。」
「色々聞かれたら基本的に俺が答えるから適当に相槌を打ってくれると助かる。」
「うん。」
「あと、尻尾は残ってるんだな。消せたりは出来るのか?」
「無理。動かすことは出来る。これはこういうものみたい。お爺さんがボソッと獣人の子かなって呟いてた。」
「獣人…そういう種族が元々存在している世界みたいだな。尻尾についてとやかく言われずに済むなら良かった。他の種族もいるかもしれないし、あの爺さんにこの世界のことをそれとなく聞いてみよう。」
まずは情報を集めないとこれからどうやって生きていくかの指標も立てられん。文明とか生活環境とかどうやって生きているとか…知りたいことは山ほどある。せっかく子供まで戻ったんだから、この世界では勝ち組にならないとな。効率よくミスなく最短距離で。…そういえばこの子の名前も聞いとくか。そもそも狐の時に名前持ってるのか?
「そういえば名前はあるのか?」
「ない。何かつけて。」
「だよな。」
その時、遠くにいた馬が一頭嘶きながらこちらに駆け寄ってきた。その時ふと一つの名前が浮かんだ。
「じゃあ【スズカ】はどうだ?」
「スズカ…うん。気に入った。」
「良かった。俺の名前は…」
「別に知らなくていい。お兄って呼ぶから。」
「そ、そうか。じゃあよろしくな。」
「よろしくね。お兄。」
「じゃあ爺さんのところに戻ろうか」
小屋に向かって二人で歩き出すと先程駆け寄ってきた馬もなぜか後ろからついてくる。気に入られたんだろうか。人に慣れている感じがするから乗馬用だろう、そのうち乗せてもらえないか交渉してみよう。
小屋の周りを見渡すと数頭分の馬の厩舎や軒下には藁や薪が積み上げられている。やはりここで飼っている馬なんだろうな。爺さんの小屋や厩舎を見る限り電気や水道も無さそうだ。加工物も主に木か布か金属だし機械文明も無しってとこだな。
ギィと音をたてながらドアを開ける。
「ただいま戻りました。」
「おう、少しは落ち着いたか。」
と老人はこちらを向き、椅子に腰掛けながら読んでいた本をテーブルに置く。
「はい、ありがとうございます。妹も少しずつ思い出してきたようで大丈夫そうです。」
「それはよかったのう。何もないがまぁゆっくりしてけ。」
「助けて頂いた上にこれ以上お世話になるわけには…。」
「何を言っておる。どうせ帰るところもないからあんなところで倒れておったんじゃろう。見慣れない服や金属も持っておったし、なにか訳ありなんじゃろ?なあに細かいことは聞きはせん。まだ子供なんだし、好きなだけおるがいい。老いぼれの相手になってくれればそれで充分じゃ。」
あまりの優しさに自然と涙が出た。こんなに人に優しくしてもらったのはいつぶりだろうか。
「ありがとうございます。それではお世話になります」
「うむ、よろしくな。儂はシンザという。そちらのお嬢さんは?」
「スズカです。よろしくおねがいします。」
「俺は…」
「おまえはボウズで良い!かっかっか」
「はぁ。ちなみに爺さんの他に住んでいる方は?」
「ばあさんがいたが、少し前に病気で先に逝きよったわ。」
棚に立て掛けてある肖像画?を見つめながら話した。
「そうでしたか…。ちなみにこの絵は爺さんが描いたんですか?」
「いや、娘が描いた絵じゃ。うまいもんじゃろう。」
たしかに上手だが、若干漫画っぽく描写されていてどことなくこの時代には違和感がある。
「へぇ…上手ですね。ちなみに娘さんはどちらに?」
「ここを出ていって2年ほど経つかのう。元気でやっておれば良いが。」
「娘さんもおばあさんもいなくなって独りだったんですね。」
「そうじゃが、お前たちがきたからまた張り合いができるわ。まだまだ長生きせんとな!」
こうして助けてもらった老人のところにしばらく厄介になることになった。娘さんのことについては、そのうちもう少し詳しく聞いてみよう。ある程度成長するまではこの世界の情報収集と鍛錬に励むとしよう。




