第二話
「そういえば洞穴の入り口に積んでおいた薪が少し散らばっていたな…狸か狐でもいるのか。まぁ、薪も集まったし火起こして飯の準備をしよう」
手頃な石を積み上げてかまどを作り、薪を組み上げ火口を作り種火を落としてフーッと息を吹く。少しずつ細い枝に燃え移り、徐々に火は大きくなり太い薪に火が入り、立派な焚き火となる。クッカーで湯を沸かしコーヒーを入れしばらく火を眺めながらまったりとし、炭化が進んだ薪を集めて火の調整をする。料理向けの火の完成だ。今日の飯は麓のスーパーで買ってきた肉や野菜を焼く。手の混んだ料理もたまにするが、バイクでキャンプに行く場合は荷物を少しでも減らしたいので今回はお手軽料理。網の上で焼けたものから食う。さらにビールがたまらない。
腹が満たされ良い感じにほろ酔い気分で夜の帳が降りてきた頃、月が明るく湖面を照らす。遠くから梟の鳴く声や、割と近くからは狐の鳴き声が聞こえてくる。
「今日は満月か…満天の星空が見えるかと思ってたけど、これだけ月明かりがあると期待はできなさ
そうだな。でもこれはこれで月見酒が旨い。」
と日本酒を入れたスキットルを片手に酒をあおる。
しばらくぼーっと眺めていると風もないのに湖面に映る月が時折揺れる。
「酔いが回ってきたか、それとも日頃の疲れが来たのか…気のせいだろう。」
酒も飲み、冷えてきたのでもよおしてきたため用を足しに少し茂みへ向かう。すっきりしたところに茂みが揺れガサガサと音をたてる。サッとベルトに挿しているナイフに手をかけ警戒しながらライトを当てよく見てみるとそこには狐がいた。
「なんだ狐か…驚かしやがって。食い物ならやらんぞ、あっち行け。エキノコックスが感染る。」
シッシッと追い払うようにするが、大人の狐は人にはあまり警戒しないため寄ってくる。慌てて避けるようにしテントの方へ戻ろうとするが、先回りをされ道を塞がれる。どうしたものかと対峙していたらポケットにビーフジャーキーがあったため一つ投げてやった。狐は喜ぶ素振りを見せ、すぐに食べ終わると何かを合図するように、狐は歩きだした。今のうちに戻ろうとしたら狐は振り返り、ついてこいと言わんばかりの雰囲気で眺めてくる。怪訝な感じがしたが、気になるとやはり性格上どうしようもないのでついていくことにした。月明かりもあるため、割と夜道でも見えるため危険は少ない。しばらく狐に従いついていくとさっき薪拾い中に見つけた洞穴の前に着いた。中に入れと言わんばかりに首をクイっとしてくるため、狐につままれた気分でそのまま入ることにした。
洞穴を進み奥に進むにつれて段々と明るくなってくる。昼間みた源流と思われる泉に着くと、そこは月のあかりが湖から反射して水流を伝い、泉自体が青白く輝いており言葉を失うくらい幻想的な光景が広がっていた。あまりに感動したため放心状態で小一時間立ち尽くしていた。ふと我に返り、良いものが見れたなと満足気に帰ろうすると、ゴゴゴゴゴゴ…と地響きが鳴る。段々と揺れが大きくなりこのままではまずいと出口に向かって逃げようとするが狐に阻まれる。
「どけっ!おまえも一緒に生き埋めになるぞ!」
その刹那、轟音が鳴り響き洞穴が崩れ去る。出口の方は完全に埋まってしまった。泉の空間だけが不思議と何事もなく残り、完全に閉じ込められた状態だ。
「閉じ込められたな…私有地だから助けなんてまず期待出来ないし、誰にも伝えてないしスマホもテントに置いたままか。」
何かないかポケットを探ってみるが、あるのは少量のビーフジャーキーとスキットル。後は腰に挿したナイフだ。ライトはさっきの揺れの時に落としてしまったようだ。
ここで俺は死ぬのかと実感し始めた途端、生まれ変わったら次こそは順風満帆な人生を送りたいなとか、パソコンのデータ消去出来ないなとか頭をよぎっていた。
「ま、そんなことも死んだら関係ないか」
とどうでも良くなってきたので、不思議と落ち着いた。
改めて周囲の状況を確認してみると、青白く光った泉。そして隅でちんまりと座ったままの狐。
「この水飲めるのかな。水があれば多少は長らえる。」
少し手で掬って飲んでみる。
「問題なくいけるな。むしろ美味いレベルだ。」
とそこに狐も寄ってきて飲み始めた。その様子を眺めてまったりしているとふとしたことに気づいた。泉が青白く光ったままってことは水路がまだ繋がっているってことか。潜って進めば可能性が無くもない…でも結構な距離があるからあまり現実的じゃないな。でも可能性はゼロじゃない。透明度も高いし少し潜って様子を見てみよう。
軽く準備運動をしていざ泉の中へ入ると狐も一緒に飛び込んできた。すると突然泉は渦を巻き始め、為すすべもなく流れに飲み込まれて祠の方へ吸い込まれていく。だんだんと意識が遠くなっていき、ここで俺は気を失った。




