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そして、スカーレット様は傾国の美女(物理)になる。

主人愛がやばい、スカーレットの従者視点となります。


とにかく主人愛に溢れています。


5月26日 いくつかの文章を修正したり、書き加えたりしました。クロウの口調もほんの少しだけ変更を加えました。後半口調が崩壊していたので。書き加えたおかげで、クロウの主人愛度が上昇。大筋の話は変えていません。

以前の方がいい場合は修正前のを別にあげるので、感想で教えてください。



「スカーレット・サンダース!私、スチュアート・ストムはお前との婚約を破棄し、お前よりも王太子の婚約者に相応しく、美しいアンジェラ・フィーア男爵令嬢と婚姻を結ぶ!」


王宮のパーティーでそう宣言したのは、アホの極みこと、スチュアート・ストム王太子。


――まあ、もうじき、その王太子の地位を無くすことになるでしょうがね。


私は、今し方、婚約破棄をされたスカーレット・サンダース様―――ではなく、そのスカーレット様の従者のクロウと申します。


では、今、何が起こっているのかを私から説明致しましょう。


このストム王国の建国300周年を記念し、国の高位貴族のみを招いたパーティーが今宵、開催されることとなりました。ですが、そのおめでたい場で、頭がおめでたい(アホ)王太子……ゴホン、スチュアート王太子がスカーレット様との婚約破棄を宣言されました。


前述した通り、スカーレット・サンダース様は私の主人です。


そして、私は、スカーレット様の実家であるサンダース公爵家に仕えているのわけではありません。


あくまで、スカーレット様個人に仕えているのです。この点は知っておいてください。


スカーレット様は、腰ほどまである長い、ペールピンクの髪と、青い虹彩に瞳孔の周りにヘーゼル色が混ざった神秘的な目をお持ちです。


スカーレット様のような目は、前世では、アースアイと呼ばれていましたね。海の色と陸の色が入り混じっていて、地球(アース)のようにみえるから、そう呼ばれていたのだとか。


ここまで聴いていていて、何故、髪の色がペールピンクなのに、名前はスカーレット(赤色)なのかと気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか?


今はペールピンク、つまり淡い桃色のような色ですが、スカーレット様がお生まれになった時には、それはそれは、美しく、燃え上がるような赤い髪を持っていらしたそうですが、成長するにつれ、だんだんとその赤色も薄れていき、今のような髪になったのです。


スカーレット様がお生まれになったその場面に対面できなかったことを非常に残念に思います。


スカーレット様が生まれた時にはそれまで降っていた雨が止み、虹が現れ、まるで世界がスカーレット様の誕生を祝福しているようだったとスカーレット様の乳母がおっしゃっていました。あと数年早く生まれていれば、その場面に対面できたでしょうに……本当に残念です。


今からでも魔法で過去に戻って……いえ、そうしてしまうとスカーレット様と今まで過ごした時間が全てなかったことになってしまいますね。その問題についてはスカーレット様ご本人にお話しさせていただくことにしましょうか。


その稀有な色彩を持ったスカーレット様は、若い頃は絶世の美女と謳われ、今でもその魅力を失っていないサンダース公爵夫人とまるで人形かのように整っているサンダース公爵の美貌の良いところ取りをされたため、今では『美の女神の生まれ変わり』と言われるほど、美しい……この私の言葉では表現しきれないほど、魅力的な女性になられました。


私が、この人がお前の仕える主人だよ、と言われ、スカーレット様とご対面したとき、言葉を失ってしまいました。


『美』を体現しているスカーレット様をみて、『美しい』ということは何か、という人類が長年悩み続けたこの問いの結論に至りそうになりました。私個人としての結論は『美しい』とはスカーレット様ですけどね。


スカーレット様の隣に並んでも見苦しくならないように、私もある程度自分の見た目には気を使うようにしています。私の外見は世間では整っている方に入るようなのですが、その外見に惚れて、言い寄ってくる女性を見ても、何も感じなくなってしまいました。


スカーレット様を見てしまったら、他の女性に魅力がないように思えてしまうのは仕方のないことではないか。


ですが、私はスカーレット様に恋をしているわけではありません。私如きがスカーレット様を想うなんて……烏滸がましいことこの上ないでしょう。


スカーレット様について話していたら、キリが無いので、このあたりで軌道修正しましょうか。ちなみにスカーレット様について語れ、と言うのでしたら、私には何時間でも語り続けられる自信がありますよ?


今の状況は、でしたよね?


スチュアート王太子……もうアホに9文字も使うなんて勿体無いのですね。アホで良いでしょう……アホが婚約破棄を宣言して、その後に新しい婚約を宣言されたのは、分かりますよね?


そのお相手は、アンジェラ・フィーア男爵令嬢。スカーレット様とアホが通う学園で話題の男爵令嬢です。

彼女はフィーア男爵の落胤で、平民である母親と共に16の時まで平民として過ごしていたのですが、フィーア男爵の正妻が亡くなられたので、後妻になった母親と一緒に男爵家の後妻の娘として引き取られた、と私は聞いております。


柔らかいウエーブがかかった金の髪にぱっちりとした二重と大きめ瑠璃色の目。そして147cmという低めの身長が男の庇護欲をそそり、高嶺の花のスカーレット様とは別に、身近なアイドル的存在として、学園で注目を浴びているそうですね。


スカーレット様とアンジェラ・フィーア男爵令嬢のどちらが良いか……ですか?


そんなの……スカーレット様に決まっています。そもそも土俵が違うんです。アンジェラ・フィーア男爵令嬢が美女だとしたら、スカーレット様は女神、もしくはそれ以上なんです。


人間と神のどちらに勝敗があがるかなんて誰でも分かるでしょう?


例えるならば、プランクトン(男爵令嬢)シロナガスクジラ(スカーレット様)です。その二つの生物が同じ場所で戦うことは不可能で、既に戦う前から勝敗は決まってる、ということです。


プランクトン(男爵令嬢)シロナガスクジラ(スカーレット様)を選べる中で、アンジェラ・フィーア男爵令嬢を選んだアホ(スチュアート)は、アホとしか言いようがないですね。頭に何が詰まっているのでしょうか?空気でしょうか?


そのアンジェラ・フィーア男爵令嬢は今、アホの腕にしがみついて、目をうるうるとさせながら、体を震わせています。これが男の庇護欲をそそる、と。


それがどうした。


別にわざわざそんなもの(庇護欲)をそそられなくても、スカーレット様は魅力があるので関係ありません。アンジェラ・フィーア男爵令嬢が体を震わせていても、通知がきたスマホの真似ですか、ぐらいしか私は思いませんが。

ちなみに、アンジェラ・フィーア嬢。通知が来たスマホの真似をするんだったら、もっと小刻みに動いた方がいいですよ。クオリティーが低い。


そして、今、アンジェラ・フィーア男爵令嬢がスカーレット様の方へ、一歩、踏み出した。


「ス、ス、スカーレット様!」


アンジェラ・フィーア男爵令嬢はスカーレット様に怯えているかのように声を震わせ、スカーレット様の名前を呼んだ。

ビクビクしている様子も演技っぽくて、気に入らないですね。というか、演技が学芸会レベルで下手くそだと思うんですが。誰がそんなのに騙されるんでしょうかね?あ、1人いました。その横にいるアホとかでしょうか。


「何故、あんなことを私にしたのですか!」


涙を目に溜めながら彼女は言った。あんなこと、とは何のことを言っているのだろうか?


私はスカーレット様と四六時中一緒にいますが、一度たりともアンジェラ・フィーア男爵令嬢と接触したことはないですし。


遠くから問題を起こしているのを見かけたことがあるぐらいですかね。その時、アンジェラ・フィーア男爵令嬢はスカーレット様を睨みつけ、私と目が合うと、その庇護欲をそそる笑み、とやらを向けてたぐらいの記憶しか無いですね。


「平民の血が入っているから、といって、虐めたのは何故なのですか。か、階段から突き落としたり、魔法で危害を加えようとしたりしたのは、スカーレットさんですよね。」


アンジェラ・フィーア男爵令嬢が根も葉も無いことを口にした。そんなこと初めて聞きました。


スカーレット様がそんなくだらないことをすることがあるでしょうか?しかも、ただの男爵令嬢相手に。無い、絶対にありえない。天と地がひっくり返ってもありえないですね。


彼女は震えながら言っていますが、その口が一瞬、『計画通り』とでも言うように歪んだのを見ました。かなりゲスい顔でした。性格の悪さが滲み出ていますね。


アホの婚約破棄宣言からアンジェラ・フィーア男爵令嬢の発言から考えるに、アンジェラ・フィーア男爵令嬢はスカーレット様を断罪しようとしているのでしょう。しかも犯してもいない罪で。


そういえば、あのアホが婚約破棄など思いつくはずがないですね。アンジェラ・フィーア男爵令嬢の入れ知恵と考えれば納得がいきます。


私はスカーレット様を守り抜くことができないことを悔やみ、強く唇を噛みました。


今の状況から物的証拠もなしにスカーレット様を守り抜くのは厳しい。


拘束ぐらいはされてしまうのでは無いでしょうか。

そこから証拠を揃えて、スカーレット様の無実を証明し、解放してもらうのを最短でやっても、一度はスカーレット様が牢屋に入ることになってしまう。あんな空間にスカーレット様を入れていけるものですか!


スカーレット様は無表情のまま、無言を貫いている。


「でも、平民だから、貴族だから、なんて関係ない!皆、同じ人間なのに、そんなふうに差別する必要なんてないのに!」


彼女は涙を流しながら、語った。


取り巻きの男供は涙を流すアンジェラ・フィーア男爵令嬢に影響されたのか、より一層、憎悪のこもった視線をスカーレット様に向けた。


私はそれを睨み返してやった。


ーーあんなの、嘘泣きに決まっているでしょう。


貴族の令嬢は嘘泣きぐらい普通にできるでしょう。少なくとも、私が今まで出会った貴族はそんな腹芸の一つや二つは簡単にやってのけていました。その取り巻き達はそんなに信じやすくて将来この貴族社会でやっていけるのでしょうか?


それに、彼女が涙ながらに語ったのは理想論でもない、ただのお花畑思考でしょう。


皆んな同じ人間だから、差別なんてする必要がない、と彼女は言いましたが、貴族だから、平民だから、というのは差別ではない。ただの区別です。いわば、男と女を区別するようなものなのです。


差別と区別は全くの別物、ということをアンジェラ・フィーア男爵令嬢はわかっているのでしょうか?


『差別』はある基準に基づいて差をつけて区別すること、扱いに差をつけること。もしくは偏見や先入観などをもとに特定の人々に不当、不利益な扱いをすることで、『区別』はあるものとあるものの違いを認めて、それにより両者をはっきり分けることです。


この場合、アンジェラ・フィーア男爵令嬢は、後者の差別の意味をさしているのでしょうけど。現実が見えているのでしょうかね?


さらに、ここには高位貴族が集まっているのに、その場所で平民も貴族も同じだ、ということは自殺行為にも等しいのでは無いのでしょうか。


スカーレット様はそういう差別などはしていないし、そもそも、アンジェラ・フィーア男爵令嬢を虐めてすらいません。


本当に腹立たしいです。


私は不甲斐ない自分をただ悔やむしかありませんでした。


「あのさぁ、うるさいんだけど。」


アンジェラ・フィーア男爵令嬢のお花畑思考を熱心に語るのを止めたのは、スカーレット様でした。


私にはスカーレット様が相当怒っていらっしゃるのが感じ取れました。怒気を隠していないし、いつもの御嬢様言葉が取れているのです。


でも美しいのが、スカーレット様です。


「ハッ、やっと本性を表したな!」


スカーレット様を指差しながら、得意げにそう言ったのはアホ。


私は今日までにスカーレット様のために色々な力をつけてきました。学力も身につけたし、スカーレット様を守るために武術も学びました。


だけど、私は権力をつけなかったのです。後々面倒なことになるかと思い、そこだけは避けてきたのです。けれど、権力があったなら、私は裏から穏便に婚約破棄を進め、慰謝料も王室からぶん取れたのではないでしょうか。


もしくは、この場で堂々とアホを殴る。


危機管理が足りなかったのを犇犇(ひしひし)とこの身に感じています。


私さえ、ちゃんとしていれば……


「あー、もう、う・る・さ・い!」


すると、スカーレット様が声を荒げた。


「婚約破棄?大、大、大歓迎よ!最初っからこのアホ王太子とは婚約なんてしたくなかったし!けど、私に面倒なこと擦りつけるのはやめてよ。」


スカーレット様が捲したてる様子に呆然とする王太子とアンジェラ・フィーア男爵令嬢ペア、さらには会場の貴族達。


「なんだっけ、アンジェラ・フィーア男爵令嬢?私は貴方に虐めてなんかいないし、そもそも貴方自身に興味はないし、貴方がアホ王太子とどうなろうが、ど・う・で・も・い・い・の!」


スカーレット様は、その白く、細い、人差し指をアホ王太子ペアに向ける。


「……けれど、一つだけ許せないことがあるの。そのアホ王太子がアンジェラ・フィーア男爵令嬢とやらを美しいと言ったことよ!」


艶々としたペールピンクの髪がたなびいた。


お美しいですよ、スカーレット様。確かに、私もアンジェラ・フィーア男爵令嬢が美しいというのには納得できませんね。


スカーレット様に比べたら、羽虫、いや、それ以下です。


まだ、会場にいる他の貴族達の方が1y(ヨクト)(0.000000000000000000000001)ぐらいはましでしょうか。


「「なっ……」」


アホペアが絶句する。絶句するも何も……分かるでしょう?


「いい?美は外面だけじゃないのよ!内面もあるのよ!その令嬢は外見は中の上ぐらいだから、そこそこいいのに、内面の汚さがそれをプラマイゼロ、いいえ、マイナスにしているわ!」


その通りでございますスカーレット様!


私は心の中で涙を流し、拍手をした。


その点において、スカーレット様は外面は極上よりも上。そして、内面の美しさもプラスなので、プラスのプラス!


もはや、プラスよりも上の新しいものを生み出してしまいそうですね!


「それを心に留めておく必要があるわね。あと、婚約について異議を申し出たいなら、そこの裏にいる国王陛下に言ったらどう?」


スカーレット様がステージの幕の方へ顔を向けると、会場にいる者達も一斉にそこに視線を向けた。


すると、国王が幕の裏から現れた。


国王がこんなだから、アホがアホになるのも必然だったんじゃないかと思います。親が親なら子も子。


この国王、婚約破棄宣言からずっと聴いていたのに、幕の裏に隠れてただ観察して面白がってたんですよ?


それに、前にスカーレット様のお供で謁見についていった時もこんなでしたし。この国王はいわゆる、「面白ければなんでもいい」という思考の人、というのを今回確信しました。


「やあ?」


テヘペロという表情で国王が舞台に立つ。


プチッ


何かが切れる音が会場に響く。


私はスカーレット様の様子を見ると、さっきよりも機嫌が悪くなっているのが分かりました。きっと、さっきのは、スカーレット様の堪忍袋の尾が切れる音だったんでしょう。


けど、怒るスカーレット様もお美しいです!


「もう、いいよね?」


スカーレット様がそういうと、物凄い量の魔力が会場、この様子だと、この国中に充満したのを感じ取った。この均整のとれた黄金比の魔力の波長はスカーレット様のもの。


つまり、さっきの「いいよね」とは魔力の制御を切ってもいいよね?ということだったのですね。


実は、スカーレット様も私と同じようにこことは異なる世界からの転生者で、その時に神様に気に入られたのだそうで、『チート』を授かったのだとお聞きした。


その『チート』、というのが魔力。スカーレット様は膨大な魔力を保有していまして、年齢が上がるたびに増えているという天井知らずの魔力なんです。


魔王も敗北すると言われ、何人もの王国魔術師が集まって、10年程魔力を貯め続けてから、ようやく出来ると言われる異世界召喚もバンバン出来るぐらいの量を持っているのです。


その事実と公爵令嬢という身分が相まって、スカーレット様は王太子の婚約者にあてがわれることになったのです。


その大量の魔力をいつもスカーレット様は制御しているのですが、実は幼少期に一回だけ、怒り、魔力を解放したことがあります。


その時には、この国で前世でいえば、震度4程の地震が発生し、遠くの国でも震度1はあったそうです。


建物などの被害は甚大だったそうですが、死者は0。不思議なことに倒壊した建物の破片を浴びても、それほど重傷を負ったりする者はいなかったらしく、これもスカーレット様の魔力の影響だと、研究の結果判明したそうです。


実はこの時、スカーレット様がお怒りになられた理由は私が他の貴族の子息に馬鹿にされたからなのです。


スカーレット様に再度忠誠を誓った日として、その日のことはとても強く記憶に残っております。


それはさておき、実は、今、結構、大変な事態になっているのです。


幼少期の頃でも大規模の地震が起こったのに、それから10年以上経った今、スカーレット様の魔力がどうなっているのかは、スカーレット様ご本人も把握しきれていない部分もあります。


それを解放するとなると、どうなることか。


グラッと、会場全体が揺れた。物が降ってきたりすることはないが、立っていた者は尻餅をついたり、転んだりしていた。


この様子だと……


私はこの国が現在どうなっているかを把握するために、天眼魔法と呼ばれるものを使用した。天眼魔法は、魔法の目を作り出し、その魔法の目が見たものを共有することができる魔法です。


スカーレット様ほどではないですが、私にもそれなりの魔力はあるため、一通りの魔法は習得しています。


私は息をのんだ。


何故なら、


国が、浮いていたからだ。


国境の部分からすっぱりと切れていて、この国の土地だけが宙に浮いている。


これが、スカーレット様の魔法。


このままにしておくと、落ちてしまう人がいるかもしれないので、私はそっとこの国の周りにドーム状の結界を張りました。


「ねえ、今、私、機嫌悪いのよ。朝早く起きて、建国300年記念パーティーに来て。そしたら、婚約破棄だの、冤罪を擦りつけられてさ。それを止められる人物が幕の裏に隠れて、面白そうにこちらを見てるのも。」


スカーレット様は笑顔を作りながらそう言っていますが、目の奥が全く笑っていないのが分かります。


私に国王以上の権力があったなら、スカーレット様のお手を煩わせずにその悩みの種を始末()しますのに。


「今、私の魔力の制御が()()()()取れちゃって、この国は今、浮いてるのよね。宙に。今は感情の起伏が激しくてねぇ、ちょっと感情が揺れると……」


国が、傾いた。


物理的に。


ちなみに私は足元を魔法で固定し、スカーレット様の足元も固定していたので、転ぶことはありませんでしたが、他の者は会場の端まで転がっていったり、ドミノのような状態になっていました。


私の知るところではありませんね。国王やアホ王太子ペアも転んでいましたが、知りません。


私は自分の主をお守りするだけです。自分の身は自分でなんとかしてください。


しばらくすると、スカーレット様は国を元の水平な状態に戻した。


それの反動で反対側に転がる人もいますが、ご自分で頑張ってください。


結界をはっておいて良かったですね。出ないと、転がっていった大勢の国民が命を落とすことになっていたでしょうから。


スカーレット様の魔力には回復の波も入っているので、命を落とす怪我をする者は結界内でいないでしょうけど。


「国王様?」


スカーレットは国王の元へ歩いていくので、従者である私もついていきます。


「うわあぁぁぁ!」


国王の護衛と思われる男がスカーレット様に剣を向け、走ってきた。


スカーレット様に剣を向ける、だと?


私は自分の体を素早く動かし、スカーレット様の前に立つ。


剣の刃を掴み、剣を会場の隅に放り、彼の武装を強制的に解除させてから、私は彼を蹴り飛ばした。

怒りのあまり、勢いを殺さずにやってしまったが、スカーレット様の回復の魔力も満ちていることだし、死にはしないだろう。


反対側の壁にめり込んでしまっている彼を見つめながら、私は考えた。


それに、スカーレット様に無礼をはたらいた者をただ殺すような真似は私はしない。


ーーー生きたまま、地獄にも近い思いをさせてやる。


スカーレット様は振り返って、私に向かって微笑んだ。


「ありがとう、クロウ。」


ス、ス、スカーレット様が私に感謝のお言葉を………


今のはしっかり脳内に保存したので、あとでループ再生しましょうか。


「勿体無いお言葉、ありがとうございます。スカーレット様。」


私が返すと、スカーレット様はまた微笑んで、国王に向き直った。


その一方、私の脳内はパンク寸前だった。



――ス、ス、スカーレット様が私に2回も微笑んでくださった……


――この思いのまま天国に行きたいぐらいです。


――今日は一生の思い出にします!


――ところで他にスカーレット様の微笑みをみたやつはいますか?


――大半の人は気絶しているから、見ていないかと……あとは、国王ぐらいかと。


――抹殺しましょうか。


――いいですね。


――アイツは万死に値する。



頭の中で様々な私が会話していた。そろそろ現実に戻らないといけませんね。


スカーレット様が国王の胸ぐらを掴んでいます。


「さあ、この国を滅ぼすか、私に現在、領主不在のケルビン領を渡すか。お選びなさい?国王様。」


スカーレット様が魅惑的な笑みで国王に向かって言った。


ケルビン領はこの国の国境付近にある現在は領主不在の領。


スカーレット様がそこを要求するということは……


以前作っておいたものが役に立ちそうですね。


「……し、じゃあ、後者を選ぶよ。」


国王がそういった。さすがの国王も観念したようだ。


スカーレット様が国王の胸倉から手を離した。


そして、私はすかさず、ケルビン領の譲渡について書かれた契約書と羽根ペンとインクを出して国王に押し付ける。


いつ用意したのか、と?私はスカーレット様のための物なら、なんでも持っております。


それくらいのことができなくて、何故従者と名乗れましょうか?


私とスカーレット様、それと国王だけの空間に、カリカリと羽根ペンが紙をひっかく音だけが響いた。


「ほい。」


国王がサインされた契約書をスカーレット様に渡そうとしましたが、その前に私が受け取り、魔法でそのサインが本物か、契約書が書き換えられてないか、または何かの仕掛けがないかなどの確認をした。


結果、特になんの異常もありませんでした。


なので、私はスカーレット様に紙を手渡し、それを一瞥したスカーレット様は私に無言の合図を送りました。その合図を受け取った私は紙をロール状にまとめて、仕舞いました。


「じゃあ、行きましょうか。クロウ、エスコート頼める?」


スカーレット様が私に手を差し出す。エ、エスコート……


今日のスカーレット様は私の限界容量を超えています。


「はい。身にあまる栄誉でございます。スカーレット様。」


私は返事をして、スカーレット様の手を取った。


国王?別に私とスカーレット様に関係ないことなので、放置します。でも、嫌がらせに胃にジワジワと痛む軽い呪いでもかけておきましょうかね。


一旦、私とスカーレット様の体を魔法で浮かせてから、スカーレット様は国をゆっくり元の場所に戻しました。それに合わせて、私は結界を解除しました。


「ケルビン領に向かいましょう。」


スカーレット様の声と共に、私は転移魔法を発動して、ケルビン領――直に名前が変わるでしょうが――に転移した。









――後日、ケルビン領があったところに、(くれない)小国(しょうこく)というスカーレット様が君主の小さな国ができたのは、言うまでもないでしょうね。




登場人物紹介


・スカーレット・サンダース


クロウの主人。実は転生者。魔力チートあり。絶世の美女。紅小国の君主。乙女ゲームの悪役令嬢だが、シナリオは破壊済み。シナリオを破壊したため、本来ならば赤色だった髪の色が薄れてペールピンクに。


後に傾国の美女(物理)と呼ばれる。


・クロウ


スカーレットの従者。忠誠心は限界突破。スカーレット様のためなら、世界をも滅ぼせる。

ゲーム内では、隠しキャラだったりした。


転生者。チートなしだが、元々の素質やスカーレット様のために頑張ったのでスペックはかなり高い。


・アンジェラ・フィーア男爵令嬢


転生者で、本来虐めてくるはずの悪役令嬢であるスカーレットが虐めてこないため、陥れようとした。現在は幽閉されている。


・スチュアート・ストム王太子


メインヒーロー。現在は王太子の地位を剥奪され、幽閉されている。


アホ。


・国王


面白ければなんでもいい、という人。楽観主義。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ざまぁ対象者の肉体に、具体的なざまぁ無かった事。 [一言] 王子はどうでも良いけど、国王にとって恥ずかしいざまぁが有れば良かったかな、他人が困る事を面白がる人には特にね。
[一言] かつて傾国の美女(物理的)が出た小説が有っただろうか?(笑)
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