第9話 支えてくれる母親と解明
「あんたどうしたの? そんな暗い顔して」
「ん!? ううん! 別に何もないよ」
独特の匂いが鼻に目立つ中。
僕は病室で母さんとベッド越しで話していた。
小さい頃に僕の両親は離婚したらしい。
理由は僕が大きくなった頃に知らされたけど。
どうやら父さんが他の人とも付き合っていたらしい。つまりは不倫。
そして、子供まで作っていたらしく、母さんはそれを知って絶望したらしい。
愛している。一生君の側にいる。
それなのに、父さんは裏切った。
思い出せないけど、僕がお腹にいる時から父さんは恐らく。
そう考えると最低だな。そして、それと同時に発見された母さんの病気。
重い病気らしく、一日中寝たきりである。
親戚の家に僕は引き取られ、何不自由なく暮らしている。
だけど、病気を治すにはやはりお金がかなり必要らしい。
流石にそれは親戚に頼むわけにはいかない。
僕が頑張らないと。と思っていたけど現状はこれだ。
でも、母さんはいつも僕を元気づけてくれる。
自分のことで相当辛いはずなのに。
「ほら! ちゃんとしなさい! あんたまで元気なくなったらあたしまで暗くなるでしょ」
「う、うん、そうだね」
「……確かに、あんたの序列? だったけ? それは最下位かもしれないけど、あたしの中では一位だと思ってるんだから自信持ちなさい」
「あははは、慰めありがとう」
「結構本気だけど?」
このように、母さんは何気なく僕を励ましてくれる。
それが本当に心の支えとなっている。
父さんがいなくても母さんがいればそれでいい。
だけど、やっぱり僕がなんとかしないといけない事に変わりはない。
もっと自分を磨かないと。序列を上げて母さんに楽させてあげないとね。
しばらく近況などを話した後。僕は母さんの病室を後にした。
……あの事はまだ言わないとこう。余計な心配はかけたくないし。
早乙女の不登校。貼りだされる謎の貼り紙。僕たちに伝えてくるメッセージ。
やっぱり何かが繋がっているとしか考えられない。
僕はじっくりと考え込みながら歩いている時だった。
「あれ?」
母さんの病室から少し離れたところから見覚えの人が出てくる。
あれって……僕のクラスの人じゃないか!?
えっと、名前は。あ、そうそう! 烏丸哲弥君だったかな。
あまり関りがないから下の名前までは曖昧だけど、
彼は序列15位ぐらいだったかな? クールで群れるのを嫌うイメージがある。
黒髪短髪で隠れイケメンと言える部類だろう。
あまり話すところも見かけない。陸上部で結構な成績を残しているとのこと。
それにしても、烏丸君が病院に何のようだろう?
まさか重い病気? それはないか。
僕は彼の姿を確認しようとするともう何処にもなかった。
辺りを見渡しながら僕は烏丸君の出てった病室を確認する。
えっと……烏丸凛? あれ? これって。
「人の妹の病室で何ウロウロしてんだ」
「おわ! か、かかかかからららすすすまるくん?」
急に後ろから声をかけられ僕は思わず床に尻餅を着いてしまう。
幸いにも通路だからあまり人がいなかったけど恥をかいてしまう。
痛みと恥ずかしさで顔を若干赤面させながら僕は立ち上がる。
「驚きすぎだろ、というかお前……うちのクラスの奴か」
「国上昴……君だって僕のクラスの人じゃないか」
「まさかこんな場所で同じクラスメイトの奴に会ってしまうなんてな」
会ってしまう。あまり歓迎されてはいない。
まあ、あんなことがあった渦中だからね。
僕だってなるべく同じクラスメイトの人とは会いたくなかったよ。
お互いの間に無言の時間が続く。うう、気まず過ぎる。
な、何か話さないと。
「い、いい天気だね」
「曇ってるぞ」
「あ」
「……もういいだろ、お前も俺も何もなかった、会ってなかった、何も見ていなかった、これでいいだろ?」
これ以上の詮索は無駄だと判断したのか。烏丸君は僕を拒絶するように。
ただ、気になることはたくさんある。
烏丸君も何かを知っているような気がする。あくまで推測だけど。
そして、僕も諦めて烏丸君から離れようとした時だった。
――あ! と烏丸君のポケットから携帯が落ちてしまう。
幸いにもカバーがあったため割れることはなかった。
自分の前に滑ってくる携帯を僕は拾う。
ちらっと画面わ見ると……ん? と僕は思ってもう一度画面を見た。
これは……そうか、そういうことだったんだね。
見えたのはラポの画面。そして、そこにあった送り主。
僕のアカウントだった。
それを知った直後に烏丸君は僕から携帯を奪い取る。
「はぁ、気付かれてしまったか」
「君だったんだね、驚いたけどなんとなく口調とかで分かったかも」
「これで俺もお前を助けたから序列が下がるのか」
「ど、どうして! そんな酷いこと言うんだよ! それに僕が何も言わなければいいだけの話でしょ」
烏丸君は露骨に僕のことを見ながら頭を抱えていた。
だけど僕は少し怒った後にこう宣言した。
「健一や天上みたいなことは僕は絶対にしない! 他人を陥れて序列なんかあげたくないから」
「……珍しい考え方のいる奴もいるんだな」
「これが普通だと思うけど」
この序列システムが出来てからみんな序列を上げるために必死。
確かにとても重要なことだと思う。だけど、それだけが大切なことじゃないと思う。
母さんの言うことを聞いているとそう思う。
友達をもっと大切にしたり、仲間と苦しいことを乗り越えたりそういうことの方が大切じゃないのかな?
「普通が普通じゃなくなっている、それはこの二年F組を見て分かっただろ?」
「それは……」
「だけど、俺だって序列は上げたい、俺の目的のために」
「目的?」
烏丸君は烏丸凛とボードが掲げられている病室を見る。
そうか。烏丸君の家族も病気と言うことか。
だから烏丸君は……でも、考え方は他の人とは少し違うようだ。
目付きを穏やかにして僕は烏丸君の変化に気が付く。
すると、すっと病室前に移動して扉を静かに開ける。
「説明するから」
「え?」
「俺のこと教えてやるから、ラポのこととか黙っといてくれ」
「あ、う、うん! もちろんだよ」
意外な急展開。僕に届いた謎のラポ。それが同じクラスの烏丸君が送って来たなんてね。
でもこうやって烏丸君とちゃんと話すのは初めて。
せっかくのいい機会だ。もしかすると友達になれるかもしれない。
あわよくば一緒に乗り越えられる仲間になってくれるかも。
過渡な期待はしちゃいけないけど、やっぱりしてしまう。
しっかりと向き合わないと。烏丸君と。
自分のためにも。そして、早乙女のためにも。