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第6話 恋愛感情と嫉妬

 

 僕と天上は人だかりが出来ているところに到着する。

 またこれか。多くの人に見れており、ただごとではない。

 だけど気のせいだろうか。視線が隣にいる天上に集まっている気がする。

 ま、まさかだよね。


「ちょ、ちょっとすみません!」


 嫌な予感がする。胸騒ぎがして僕は貼り紙が見える位置まで移動して行く。

 そこに書かれていた内容。

 僕は思わず二度見してしまう。


『天上翼さんへ あまり話せてなかったけど同じ小説を読んでいると知った時は嬉しかったな。でも、この際だからはっきり言うけど……天上さんの好きな人を奪ってごめんなさい。それを知った後、私は胸が苦しくなりました。これからはいい恋愛をして下さい。 早乙女美音より』


 な、なにこれ? すると天上も僕の隣まで来る。

 分かったのは天上と早乙女が同じ小説を読んでいるということ。

 天上に好きな人がいるということ。

 だけど、今までそんな素振りを見せてはこなかった。


「これは……私宛のようですけど」


「う、うん」


「どういうことなんでしょうか?」


 天上は何ともないようによそおっていた。だけど、僕には分かってしまう。

 何かを知っている。ほんの少しの変化を察する僕。

 人の気持ちは本当に些細なことで動くもの。

 もしかすると天上は自覚がなくて早乙女のことを苦しめていたということか?


「はいはい、二年F組のみんなは教室に戻ろう! こんなところで色々言ってたら迷惑だしな」


 神里がみんなを仕切って教室に引き返させる。

 またあれをやるという訳か。

 クラス会議というもの。これでまた分かってしまうかも知れない。

 クラスメイトの真の部分。


 天上の黒い一面を。


 ――――――


 ――――


 ――


「それじゃあ、また俺たちに何かを伝えているこの貼り紙について話し合おうか」


 気が付けば、貼り紙が貼られた後のこのクラスでの話し合い。

 担任の先生も時間をくれると言っており、習慣的なものとなっていた。

 まあ、先生からしたら早乙女のことが分かる訳だし断る理由もないか。


 ただ、ここまで先生は話し合いには一切参加してきてないが。


 とにかく、今回は天上について。

 まとめると恋愛関係の事柄か。正直に言うと、天上にはあまり関連性が見えない。

 すると、神里は黒板に貼ってある貼り紙の内容に触れる。


「まあ、もうこんな状況だし単刀直入に聞く……天上さん、君に好きな人っていたのか?」


 突拍子のない神里の質問にこの場はざわつく。

 本当に聞いちゃったよ。確かに状況は状況だけどさ。

 だけど、天上は席から立ち上がり無表情のまま口を開く。


「いるかいないかと聞かれたら前者になりますね」


「まあ、そう答えるよね」


「だけど、誰とは言えませんけど」


「それってよ」


 人である限り人を好きになる気持ちは当たり前。

 僕だってあの早乙女に好意は持っていたのは事実。

 あまりにも自分とはかけ離れているから気持ちは伝えなかったけど。


 誰かは流石に言えないだろうね。だけど、手を後ろに組みながら今度は宮晴が薄い笑いを浮かべながらこんなことを言ってくる。


「もしかすると、柴崎のことが好きだったんじゃねえか?」


「……」


「おやおや? 黙り込むってことは本当なのか?」


 宮晴の発言と天上の反応。二つのことで事態は急速に動く。

 天上が柴崎のことを? それは本当なのか?

 言っちゃ悪いけどタイプが正反対。

 明るくて、社交的な柴崎。引っ込み思案で自分の殻に閉じこもる天上。


 普通に考えたら関わることはない。


 でも、天上は自分の机をじっと見つめている。しばらく何も答えずに。

 ただ、間を取った後に天上はみんなと向き合う。


「そうですね、宮晴君の言う通り、私は……柴崎君のことが好きでした」


「え!? それは本当なのか?」


「……ほんとに誰からもモテるよね、悠馬って」


 包み隠さずとはっきりという天上。そこは本当に尊敬したいところだと思う。

 だけど、天上の流れの告白に誰よりも柴崎が反応を示す。

 連鎖するように榊原が柴崎のモテモテぶりに呆れていた。

 このようにうちのクラスの序列二位はこれが日常茶飯事。


 驚いているように見えるけど実際はそんなにだ。


 しかし、ここである不穏なことが言われる。

 神里は低く暗い声で天上にこう言い放つ。


「天上さんが早乙女さんに対して嫉妬していた、ということは考えられないか?」


「……っ! 嫉妬ですか?」


「普通に考えて、柴崎と早乙女さんは誰から見てもお似合いのカップル……それに二人の仲は全く問題がない」


「何が言いたいんですか? はっきりと言って下さい」


「この嫉妬の気持ちが働いて早乙女さんに嫌がらせをしてたという可能性はないか?」


 神里は冷静に分析して言っているが内容はとんでもないこと。

 ま、まさかそんなこと。だけど、思い当たる節はある。

 序列一位。何でも出来て可愛い彼女。

 だけど、その分目立って他の人の活躍の場や物を奪ってしまう。


 だとすると、神里の言っていることは信憑性がある。

 そして、早乙女にされた数々の嫌がらせ。


 ある日はノートやシャーペンがなくなったり。

 ある日はお金が財布から取られていたり。

 ある日は……と思い返すときりがない。


 しかし、早乙女には友達がいっぱいいる。信頼出来る人がたくさんいる。

 悲しむ早乙女を慰めたり、助けたりとフォローしあっていた。


 でも、これによってみんなの心には黒い雲として流れ込んできた。


 誰が早乙女にこんなことを。身の程をわきまえろ。

 犯人探しは続いたが結局見つからないでいた。


 今日のこれによって天上の犯人説が急上昇した。

 神里は真剣に言っている。同じクラスの人にも容赦はしないようだ。


「確かにその嫉妬の気持ちはあったかもしれません、だけど、そんなリスクのあることは私はしませんよ」


「と、言うと?」


「この間の羽黒君のようにそんなことがバレたら序列に響きます」


 何気ない天上の発言に健一がピクっとする。

 それもある。それに天上だって嫉妬だけで動くなんてことは考えられない。

 柴崎に対しての恋愛感情。突き動かす動機には少し弱い。

 神里も柴崎も榊原も。そして、宮晴も黙り込む。


 やっぱりただの思い込みだと僕も思う。

 柴崎のことが好きだというのは驚いたけど。

 何かべっと別の意味が込められている。

 僕は足りない頭でいろいろと考察する。

 しかしそんな時だった。


「翼ちゃん! もう嘘をつくのはやめようよ!」


「……!? か、楓ちゃん?」


 停滞する空気を切り裂くように。

 序列21位。長く寝癖のようにピョンと跳ねている金髪が特徴的な彼女。

 早瀬楓はやせかえでが天上に訴えかけてきた。

 彼女は普段は物静かで天上同様に読書が好きな女の子。

 外国人の親と日本人の親の元に生まれたハーフで顔立ちは早乙女に負けないぐらいに美人。


 ただ、こんなにも悲しそうな早瀬は初めて見る。


 混乱するこの教室。

 しかし、神里が席を立ちあがっている早瀬に問いかける。


「それはどういうことだ?」


「今まで言わなかったんだけど私見てしまったの」


「見てしまった?」


「……移動教室の時に、翼ちゃんが早乙女さんの机からお金やノートを取っているところを!」


「な!? な、何を言っているんですか?」


 う、嘘でしょ? 有り得ない。僕はそう強く思った。

 だけど早瀬が嘘をついているようには思えない。

 彼女はただ一点に天上を見つめている。その瞳に何も曇りはない。

 むしろ、曇りがあるのは天上の方だった。


「証拠も何もないのに決めつけるのはよくないですよ」


「翼ちゃん! 私は友達として言いたいの! そんなこと続けても何も意味はないよ」


「……っ! 序列が私よりも高いあなたに何が分かるって言うんですか?」


「おい、今の発言どういう意味だ?」


 場が凍り付く。天上は思わず口を塞ぐ。それは僕にも違和感だらけだった。

 今の天上の発言は致命的なミス。それは僕だけではなく神里。柴崎、榊原、宮晴にも分かってしまっただろう。

 この一言で天上翼にはやっぱり嫉妬で動いている人間だと言うこと。

 それが強く印象付けられてしまった。


「翼ちゃん、ボロがでたわね」


「……はぁ、せっかくバレずにやろうと思ったのに」


「天上さん?」


「普段も使いたくない敬語使ってキャラ作ってやったのにさ! んで、一位と付き合っている彼氏を奪えば序列も上がると思ったのに全て無駄かよ! ち、しくったな」


 どうなってんだよ。凶変する天上にクラス中は困惑している。

 早瀬は今にも泣きだしそうな表情で天上の本性に愕然としている。

 それは僕だって同じだ。あの日、あの時に話していた天上は嘘だって言うのか。

 すると、天上はメガネを外してそれを自分の足で踏みつける。

 それは粉々となって天上は自分の長い黒髪を手でかきあげた。


「それじゃあ、教えてやるよ……私が早乙女にしたことと私なりの考えを!」


 この日彼女は本性を現した。知りたくなかった本性を見てしまった。



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