#9.異世界ニートと囚われの姫
「何で、こうなったんだ!?」
裕二は1人寂しく叫ぶ。なぜ裕二がこんなことを叫んでいるのか。それはここが牢屋だからだ。石でできた床や壁は冷たい風と相まって僕を震えさせる。どうやら裕二はリオとリアを不用意に連れまわした罪人ということで牢屋へ入れられているらしい。
ちなみに裕二の持ち物は牢屋へ入れられる前に没収された。裕二の王の力を使えばここを簡単に抜けること自体は可能ではあるが、リオとリアが裕二を助けに来ると言ってくれたので裕二は不用意に動かずに信じてじっとしていたほうが騒ぎにもならないで済むと考えて白い息を吐きながらじっと待つことにする。
「早く助けにきてくれないかなー。寒くて死にそう」
と裕二は牢屋の中で情けない呟きをしていた。
そのころリオとリアは王宮の謁見の間にて、父親で国王であるユグド・レグネス・ノーグランドと顔を合わせていた。ユグドは程よく筋肉のついた体で金色の刺繍の入った赤い服を着た口ひげの似合う茶髪で中年の男だ。その隣には王妃のラウラ・レグネス・ノーグランドが嬉しそうに微笑んでいる。ラウラはスタイルが良く美しい顔だちをした金髪の女性だ。ピンクのドレスを着ている。周りには貴族や大臣がずらりと並んでいる。ユグド王は2人と視線を合わせて言った。
「リオ、リア探したぞ。いきなり城からいなくなったものだからこちらは大騒ぎだ。2人にはこれからは公務に専念してもらうぞ。お前たちがいない間も仕事は増え続けたのだ。それとリオ、お前には縁談の話が来ている。我が国より北方にあるファルファナ皇国の第2皇子だ。数日後にこの城に来られるそうだから準備をしておきなさい」
「私は縁談なんてお断りよ!」
リオはきっぱりと断る。ラウラ王妃は驚いてユグド王の方を見つめている。周りの貴族や大臣がざわつき始める。リアはあまり驚かなかった。姉がそんな中身のない縁談を受け入れるはずがないとわかっていたからだ。だが貴族や大臣はどうやらリアが縁談を受けると思っていたようだ。ざわつき始めた貴族や大臣をユグド王が鎮める。そしてリアに言った。
「我が儘を言うでない。この国の未来に関わることかも知れんのだぞ」
「私は自分が好きな人と結婚したいの。だからその皇子との縁談は断ってちょうだい」
リオはユグド王に対して自分の意思を告げる。するとユグド王はリオの心を見透かすように言う。
「まさか、城下でお前と共にいた変わった服のあの男が好きなのか?」
それを聞いたリオの顔は赤くなる。そしてリオは無言で踵を返し謁見の間を出ていこうとする。
「あんなどこの馬の骨ともわからんひ弱そうな奴にお前をやるわけにはいかん!」
ユグド王はリオに言うがリオは何も言わず謁見の間を出て行った。リアは姉の後ろについて一緒に出て行った。王宮の少し暗めの廊下を歩きながらリオはイライラした口調で呟く。
「何なのよ。強制的に帰らせた上に、勝手に縁談まで取り付けて。私と裕二が付き合うのを認めないってあの人が決めることじゃないでしょうに。だいたいいつ私が裕二を好きって言ったのかしら」
「お姉ちゃん少し落ち着いて。部屋で一回休もう」
リアが姉をなんとかなだめて自分たちの部屋へ連れていく。そして部屋の前に来ると普段はいないはずの2人の騎士が扉の左右にずれて待ち構えている。
「あなたたち、なぜこんなところにいるのかしら?」
リオが不審そうに聞く。すると騎士の1人が答える。
「リオ様、リア様にはファルファナ皇国の皇子が到着するまでの数日間この部屋から基本的な外出を禁止するとの国王陛下からのお達しです」
「ふざけないで。そんなこと認めるわけないでしょ!」
リアが騎士に対して怒りの口調で言う。リアがやってられないといった風に別の部屋へ行こうとリオに言うが、リオはそれを引き留めて首を振って言う。
「残念なのだけれど、国王である父の命令ならここは従っておいたほうがよさそうよ」
そしてリオとリアは騎士に監視された自分たちの部屋へ入っていった。リアはリオが部屋に入るときに、
「裕二、私が絶対助けるから」
とリオが呟いたのをしっかりと聞いた。部屋は王宮というだけあってとても装飾が豪華な部屋だ。部屋には外に通じる場所がいくつか存在するがどこも見張られていて脱出などほぼ不可能に近かった。外からは食事を運んでくる給仕の者以外立ち入りすらできないらしい。しかし、2人の目には諦めの色など微塵もなかった。様々な脱出を試しているいる内に3日が過ぎた。
朝からまた脱出の方法を考えていると、部屋をノックする音が聞こえる。ドアを開けるとそこにいるのは部屋を見張っていた騎士だった。どうやらファルファナ皇国の皇子がこの王宮に到着したらしい。皇子を迎えるためにリオとリアはドレスに着替えさせられる。リオは黒、リアは赤の綺麗な装飾のついたドレスに身を包んだ。
2人は騎士に連れられ廊下を進み応接室へ向かう。応接室は2人の部屋よりも広く豪華な装飾が施された部屋だ。応接室に入ると父で国王であるユグドと向かい合って座っている丸々と太った男がファルファナ皇国の第2皇子らしい。いかにも性格の悪そうな男だと2人は思った。リオはユグドの隣に腰かけた。リアは部屋の端のほうに下がって不安そうに姉の姿を見ていた。
「わざわざ我が国にお越しいただきありがとうございます、ジャーバン殿下」
ユグド王は最初に挨拶を述べる。どうやらあの丸々とした皇子はジャーバンというらしい。
「ふん。本当は貴国のほうが我が国に来るべきところをこちらが来てやってるんだからな。さっさと式の日取りなどを決めないかね?」
とジャーバン皇子は傲慢な態度をとる。ユグド王の顔も自然と引き攣っていた。
リオとリアが自室から応接間へ向かう少し前まで遡る。そのころ裕二はあれから3日間牢屋の中で過ごし続けていた。裕二は助けがなかなか来ないことからおそらく何かがあったのだろうということを察していた。そろそろ牢屋からとっとと出ようかと考えていたころ牢屋の見張りの騎士2人からこんな声が聞こえてきた。
「リオ様がファルファナ皇国の第2皇子とご婚約されるらしいぞ」
「えっ!もうリオ様もご婚約されるようなお歳になられたのか」
「ただファルファナ皇国の第2皇子のジャーバンというやつは我が儘で女を弄ぶのが大好きなんだとか」
「なんで国王陛下はそんなやつのところへリオ様を嫁がせようとしてるんだ」
「おそらく周辺で力のある国の王家へ嫁がせて戦争のリスクを減らしたいんだろう」
「リオ様お可哀想に」
裕二は状況を理解した。裕二はリオがそんなやつのところへ嫁がせられるのがとにかく気に入らなかった。そんなところへリオを嫁がせていいわけないだろと裕二は呟いた。なので裕二はここから脱出してリオに会いに行くと決めた。騎士がいない間に王の力で筋力を底上げして格子を曲げて穴を作り牢屋から脱出する。見張りの騎士用の部屋に裕二の荷物が保管されていたため、それを回収する。
裕二が牢屋のある部屋から出ようとして扉を開けるとちょうど扉を開けようとした騎士が立っていて裕二を見て叫ぼうとしたためハンドガンを物質創造で作り出しゴム弾で気絶させる。しかしハンドガンの銃声を聞きつけた騎士がこちらへ走ってくるのが音で分かったので、適当な騎士に銃口をつきつけてリオとリアの場所を聞き出す。
我ながらやってることがそのまま強盗だなという自覚はあるがなんでこうなったかなと心の中で苦笑する。騎士からリオとリアがいる場所が応接室であることと、応接室への行き方を教わり裕二は騎士から逃げつつ応接室へ向かって王宮の広い廊下を駆けだした。応接室へ向かう途中何人もの騎士が裕二の前に立ちふさがって剣を向けてくるがハンドガンでゴム弾を発射して気絶させていく。
「ちょっとさすがにしつこすぎだろ! そろそろ勘弁してくれ」
と泣き言を言いながら裕二は走り続けた。
しばらく走ると応接室と思われる部屋の前に着いた。それまでに気づいたら騎士はあらかた気絶して倒れたようだ。裕二は扉を開けて中へ入った。するとリオが、
「あら、私まだあなたと結婚するとは一言も言っていないのだけれど」
と呆れ顔で言っていた。なんか修羅場になってるなと思いながらも皇子とリオの間に割って入る。
「貴様何者だ? このおれの邪魔をするやつは死罪だぞ!」
といかにも小物感のあるセリフを裕二に対して怒鳴る。
「裕二、あなたなんでここに?」
とリオが聞いてきたので、これまでの経緯を説明する。
「そうだったのね。助けるって約束してたのにごめんなさい」
「気にしないで。結局僕は牢屋から抜けてこれたんだし」
裕二は謝ってきたリオに言葉を返す。そして部屋の端にいたリアもこちらへ来て、
「助けに行けなくて悪かったわね」
と裕二に謝る。裕二はまた気にしないでと言葉を返す。裕二が部屋に入って来てから沈黙していたユグド王が口を開いた。
「私はユグド・レグネス・ノーグランド。この国の国王であり、リオとリアの父親だ」
ユグド王は真剣な表情を浮かべて挨拶をする。
「どうも。山野裕二といいます。リオとリアにはお世話になっております」
裕二は場をわきまえて丁寧に挨拶を返す。ユグド王は扉のほうを見て僕に問う。
「君を取り押さえようとした騎士達はどうした?」
「外で気絶してます。誰も殺してませんよ」
と裕二は答える。ユグド王は兵士を呼び廊下で倒れている兵士の様子を確かめさせる。兵士が無事を知らせてくれたところでユグド王が僕に問う。
「君はこの婚約を取りやめにしたいということだそうだが、もし取りやめたとしてそしたら娘の結婚相手はどうなる?君が責任をとってくれるのかね?」
「はい。とります」
「具体的には?」
そう聞かれたところで裕二は言葉が詰まる。正直途中から売り言葉に買い言葉だったので、具体的なことは何も考えていなかった。リオとリアが心配そうにこちらを見ている。裕二は正直に何も考えてなかったと謝ろうと考えて口に出す。
「僕が結婚してリオを幸せにします!」
何言っちゃってんの僕!? と裕二は頭の中で叫びまくる。リオは顔を真っ赤にして俯きながらも照れくさそうに言った。
「ありがとう裕二。すごく嬉しいわ」
その言葉を聞いて裕二の顔まで赤くなってきた。裕二が落ち着いたところでユグド王が言った。
「そうか。君にはこの王宮の騎士を殺さず制圧できるほどの実力もあり、覚悟もあるようだ。なにより娘が君のことをこんなにも想っている。ここまでくれば私も安心だ。正直最初にここに連れられてきたときの話を聞いて君を見下していたようだ。すまなかった。そして娘を頼む」
「いや、顔を上げてください。王様に頭を下げさせるわけにはいきませんよ」
と裕二はユグド王に顔を上げるよう促す。そのとき完全に空気と化していたジャーバン皇子が怒鳴り散らす。
「ふざけるなよ! 結婚したいっておれ好みの姫がいるっていうからわざわざ来たっていうのに、これはどういうことだ!」
そこでユグド王が1つ提案をしてきた。
「それではどちらが娘と結婚するかは決闘で決めるというのはどうだろう?決闘なら納得もいくし、娘を守れる強さを持っているのかもわかるではないか」
裕二は構わないと頷く。ジャーバン皇子はニヤニヤしながら頷く。
そして裕二達は決闘のために王宮にある騎士団の練兵所へ移動する。移動しながら裕二はあの戦うのには無縁そうなジャーバン皇子のニヤ二ヤ顔の理由について考えていた。
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