#28.異世界ニートとムザンカの森 その1
【ノーグランド王国 ムザンカの森】
裕二達はガムルダを出て東へ歩いて1時間程の距離にあるムザンカの森へ来ていた。ドライブベアー討伐の依頼をこなしながらマーリンの実力がどれほどのものなのかを測らないといけないため、裕二はギルドでは大口を叩いたものの心に不安を抱えながらも目の前に広がる大きな森を見ながらため息をつく。
「日が暮れてしまうと森の中は危険になってしまうのだから、早く始めましょう」
リオはそう言って森の中に足を踏み入れる。リアやマーリンもそれに続いて森の中に足を踏み入れていく。
「まあ......やるしかないよな」
裕二はそう呟いた後、リオ達に追いつくために少し速足で森の中へと入っていった。森の中は見たこともない植物が密集していた。植物が密集しているためとても視界が悪く、足場が悪いためとても動き辛い。この中でドライブベアーを探すのか。無理ゲーだと思いながらも裕二は草木を掻きわけてさらに進んでいった。歩いている途中で何匹かの動物に遭遇したがドライブベアーとは遭遇できなかった。
裕二達がしばらく森の中を歩いていくと丈の低い植物だけが密集した結果、視界が開けた場所に出てきた。何でここだけ丈の低い植物だけなんだろう? と裕二は考えながらその場で腰を下ろす。
「少しだけここで休憩をとりましょ」
リオはそう言って腰を下ろす。それに合わせてリアとマーリンも腰を下ろした。実際はそれほど進んだというわけではないのだが、草木を掻き分けたり足場が悪い中を歩いたりしていたため進んだ距離に対して疲労度が高い。裕二は休みながらこのあまりにも不自然なぐらいに開けているこの場所について考えていた。
裕二達が休んでいると少し離れた場所から『ドシンッ! ドシンッ!』ととても大きな生き物の足音が聞こえてきた。リオ達は立ち上がりその場で警戒する。それと同時に裕二はとある仮説にたどり着き、顔を少し青ざめる。
「みんな! 今すぐこの開けた場所から離れてくれ!」
裕二は必死な顔でそう言って走り出す。他の3人はどういうことかわからず少しの間困惑していたが、裕二の表情から何かあることを察してすぐに走り出した。だがそれも間に合わず裕二が恐れていたとある生き物がその視界に裕二達を捉える。
その生き物は太い4本の脚で巨体を支えている。そして長い鼻が特徴的な裕二のいた世界の動物、象にとても酷似していた。あえて違いを指摘するのであればその大きさだ。裕二が知っている象の2倍程の大きさの巨体であの邪龍ブーネルにすら匹敵しそうな程だ。
その動物は明らかに裕二達に怒りと敵意を剥き出しにしている。裕二がたどり着いた仮説とはこの場所が開けているのは、ここが何か巨大な生き物の住処であるためその生き物が意図的に開けた場所を作っているというものだった。そしてその仮説はどうやら悲しいことに大当たりのようだ。象は暴れながらこちらを攻撃しようとその太い足で踏みつけようとする。裕二達はそれを躱して各々が攻撃の姿勢をとる。
できれば『物質消滅・零』を使用して瞬殺といきたいところだが象があれだけ暴れていてはただ触れることすらも難しい。そのため裕二はまずあの象の足を止めるために他の3人に言う。
「あの動物の脚を止めるのを手伝ってほしい。脚さえ止められれば後は僕がなんとかする」
それを聞いた3人は裕二の考えを理解し頷く。リオとマーリンは象の脚を止めるためには強力な魔法が必要だと判断し、魔力を高める。
リアと裕二は象からの攻撃の矛先が裕二とリアに向くように象を攻撃しつつ象の周りを大きく移動する。裕二は『物質創造』を発動させて小銃を生成し、象へ向けて発射する。その発射音とともに無数の弾が象に向かう。だが象は少し苦しそうにするだけで全く致命傷には成り得なかった。
「それにしてもあの生き物にまったく攻撃通らなさすぎ!」
「まあこの小銃でも多分痛いぐらいの反応だったからなぁ。うわっ!」
しばらくしてリアと裕二が象の固さに対して文句を垂れ流しながら象の攻撃を躱していたとき、遂にその時がやってきた。
「マスター! 準備完了しました!」
「裕二、リア! 巻き込まれないように離れてちょうだい!」
マーリンとリオの呼びかけに応じてリアと裕二はその場を急いで離れる。そして生存本能から己の身の危険を感じたのか象はマーリンとリオへ向かって勢いのある突進を始める。そこへ魔力を高めた2人による魔法が発動される。
『『時をも止める聖氷我らが敵の全てを止めたまえ永遠なる聖氷!!』』
マーリンの水属性とリオの光属性を利用した複合魔法の詠唱により発動された魔法はあれほどの勢いのある突進をしていたはずの象だけをまるで周囲から象の時だけを切り離したかの如く止める。
「裕二! 今よ!」
裕二はリオの言葉を受けて走り出す。そして止まった象に片手で触れる。
『物質消滅・零』
裕二が落ち着いた様子で『物質消滅・零』を発動させると、目の前の静止している巨大な象は一瞬にしてその姿を消した。




