#26.異世界ニートとマーリン その1
【ノーグランド王国 交易都市ガムルダ 宿の一室】
現在裕二の部屋ではリアが裕二に対してとても申し訳なさそうに頭を下げていた。
「本当にごめん! その、思い切り殴っちゃって」
「いや、いいよ。僕もあれは仕方ないことだと思ってるから」
裕二はリアにそう言うと頭を上げさせる。リアはおずおずと顔を上げる。あそこまで謝らなくていいのに。そこへリオがコホンとわざとらしく咳をして話を切り替えた。リオは裕二にジト目を向けながら少しきつめの口調で裕二に問う。
「それでその女の子はいったい誰なのかしら?」
「実は......さっぱり僕にもわからないんだ」
裕二はそう言って、お手上げといった風に両手を上げる。リオは呆れながらため息をつくと、次に幼女の方へ視線を向ける。リオは表情を和らげて幼女に問う。
「それであなた名前は? どこから来たの?」
「............」
だが幼女はニコリとした表情を崩さず何も答えない。リオは何かを察したのか裕二に近づき、その耳元で言う。
「裕二、ちょっとあの娘にいろいろ聞いてみてくれないかしら? あの娘、おそらくなのだけど裕二の話なら聞いてくれると思うのよ」
「えっ! 何で僕? まあわかったけど」
裕二はリオの言葉に疑問を抱きつつもリオの言葉に従うことにする。これで反応なかったら本当に泣くからね! 裕二は幼女に精一杯の笑顔を作り話しかける。
「えっと。君、名前は?」
「私はマスターの物なのでマスターがお好きなようにつけてください」
「マ、マスター!? もしかしてそれって僕のこと?」
「はい! マスターはマスターです!」
幼女は先程よりも、より明るい笑顔で答えた。幼女にとって自分はマスターであるという事実に裕二は幼女に反応してもらえたことを喜ぶより先に困惑して少し体をぐらつかせる。マスター? 僕が? 裕二は次の質問をしようとする。とりあえず名前を考えないと呼びづらいな。裕二はその場で少し考え込む。そして裕二は幼女に1つ問いかける。
「それで君はいったい何者なの?」
「私はマスターの所有する【王の力】の1つ目の枷が解かれたことにより、この世に顕現することが可能になった【王の力】の意思とでもお考えください」
裕二の質問に幼女は礼儀正しい口調で答えていく。裕二は話の内容を頭の中でまとめて、幼女に確認する。
「つまりこの【王の力】の擬人化ってことでいいんだよね?」
「はい。簡単に言うとそういうことになりますね! 私の役目はマスターのサポートをすることです。戦闘に家事に夜のご奉仕まで何でも致しますので何かあればお申し付けください」
幼女は先程と変わらぬ明るい笑顔で言った。その瞬間裕二はリオとリアから冷たい視線を向けられる。いや何で僕なの!? 裕二はそう思いながら慌てて幼女に言う。
「い、いや夜のご奉仕まではしなくていいからね!」
「そうですか......。マスターと仲良くなるにはこれが1番だと思ったのですが......」
幼女は残念そうな顔で言った。いや夜のご奉仕以外に仲を深める手段は見つからなかったのかな? 裕二はそう思いながら幼女の名前について考える。
これはどうかな? しばらく考えた末に裕二はふと思いついた。そして裕二は幼女に言った。
「よし! 君の名前はマーリンでどうかな?」
マーリンという名前はあの世界的に有名な聖剣と王の伝説に出てくる。王を手助けした魔法使いの名前である。【王の力】の所有者である裕二をサポートするのが役目というのであればかなりピッタリな名前なのだろう。
「マーリン......。素晴らしい名前だと思います! これからはマーリンと名乗らせていただきますね!」
マーリンは裕二に付けられた名前を呟くととても嬉しそうに言った。心配だったけど喜んでもらえてよかった。裕二は内心でそう思いながらホッと安堵のため息をつく。そして裕二は裸の上から自分のフードパーカーを着ているマーリンに対して物質創造を使用してマーリンのために藤色のローブと青紫色の胸に赤いブローチの付いた服、そして同じ色のスカートを生成してマーリンに渡して言う。
「とりあえずこの服を着てよ。さすがにその僕のパーカーだけじゃ外出れないでしょ」
「了解しました。マスター」
マーリンはそう言うとその場で裕二のパーカーを脱ごうとする。裕二は慌ててマーリンを止めて言う。
「いやちょっと! 何やってんの!?」
「マスターが着替えるように仰ったので」
マーリンは何かおかしな点でもありますか? とでも言わんばかりに首をかしげる。
「とりあえず隣にあるリオとリアの部屋で着替えてきて」
裕二は手で頭を押さえながらマーリンに言った。マーリンはすぐに部屋を移動して着替えを始めた。
しばらくしてから着替えを終えたマーリンが部屋に戻ってきた。服は魔法使いを多少イメージして作ったものだがマーリンに中々に似合っている。
「マスター。どう......ですか?」
マーリンが少し顔に緊張を浮かべながら裕二に聞く。
「とても似合ってるよ。イメージしてた通りだよ」
「とっても......嬉しいです」
マーリンは頬を赤らめつつも優しい笑顔を浮かべて言った。裕二は一瞬ドキッとしたがここでドキッとしたらロリコンではないかという思考によって冷静になる。裕二が落ち着いたところでリアがマーリンに話しかける。
「それでマーリンは裕二のサポートが役目って言ってたけど、戦闘面ではどういったサポートができるの?」
「......」
マーリンは笑顔のまま何も答えない。その反応を見てリアの笑顔が引き攣り始める。あっ。これはヤバいな。裕二はマーリンに近づいてそっと耳打ちする。
「あの~。リオとリアとも仲良くしてほしいんだけど......」
「わかりました。マスターの命令であれば」
マーリンは裕二にそう言った後、リアの方を向いて言う。
「戦闘面のサポートはマスターと共に戦闘に参加することもできますし、魔法による支援など様々なことでお役に立てるかと」
そこへリオがマーリンに話しかけた。
「それならまずマーリンがどれほどの実力があるか見せてもらえるかしら」
「わかりました。それでは移動しましょうか」
マーリンは自信ありげにそれを承諾する。そして裕二達は宿から出てガムルダのギルドへと向かった。




