#24.異世界ニートと緊急報告
いよいよ第3章始まります!
第2章より表現方法に変化を加えた部分もあり読みやすくなっていると思います。
それではお楽しみください!
【昨日:ノーグランド王国とある建物にて】
「や、やめろ! やめてくれぇ!」
「た、助けてくれ。何でもするから」
「うわぁぁぁぁぁ!」
これらの悲鳴は建物に訪れていた《冒険者》達のものである。暗闇に包まれたこの建物内は生きている冒険者の叫びと赤い血だまりに積み上げられた《冒険者》の無残な死体の山により阿鼻叫喚と化していた。必死に叫びながら逃げ回る冒険者の後ろにはそれを追う女が1人。
「さあもっと泣き叫べ! もっと踊るのじゃ!」
建物の中に艶のある愉快そうな女の声が響く。時間がたつにつれて《冒険者》達の必死の叫びが1つ、また1つと消えていく。
「おい! 後何人残っている? 生きているなら返事をしろ!」
生き残っている《冒険者》メイソン・グレイスが出せる限りの声を振り絞って叫ぶ。建物内でその声が反響するが、誰の返事も返ってこない。
「どうやらもう残っているのはお前さん1人のようじゃの」
先程よりも近い場所から楽しそうな声が響いてきた。自分しか生き残っておらず、生き残ることができる見込みも無いと確信したメイソンの顔は怒りと悲しみ、そして恐怖と絶望で大きく歪み全身から嫌な汗が吹き出る。
「くそっ! 俺はこんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」
メイソンは恐怖によって震える手で剣を構える。するととても滑稽なものを見たときのような笑い声が場違いなこの建物内に響く。ひとしきり笑い終えると姿を見せない女はまたしても愉快そうな声で言った。
「そのようなちっぽけな剣で妾を倒そうというのかのう?」
「うるせぇ! 姿見せて出て来い!」
メイソンのその声からは恐怖と焦りによる余裕のなさが窺えた。
「それではお主の期待に応えて姿を見せるとするかの」
女はそう言うと一瞬その青紫色の目をこの漆黒の暗闇で薄く光らせる。メイソンはその方向へ振り向くがそこには果てしない暗闇があるだけである。
「ここじゃよ」
不意にすぐ後ろから声をかけられたメイソンは持っている剣を思い切り後ろまで振り回すが、その剣はただ空を切っただけだった。
「グハッ!」
剣を振った刹那のことだった。女が指をパチンと鳴らす音と共に床や壁から無数の鋭い串が発生する。メイソンは串刺しにされ、大量の血を地面にぶちまけた。そこへ暗闇からカツッカツッとハイヒールの音が近づいてくる。メイソンは朦朧とする意識の中でその音の方角へ目を向ける。
するとそこには暗闇の中でも輝く金髪と青紫色の深い闇を映した目、そして真っ白な肌を持ち、抜群のスタイルに豊満な胸までもを備え持つ。まさに絶世の美女ともいえる様な美しい女が漆黒のドレスを纏い立っていた。
「お......おお! 女神よ。私に救いを......」
朦朧とした意識の中でメイソンはその女を女神だと思い、もはや死にゆくだけの体から最後の力を振り絞り救いを求めた。
「残念じゃが妾はお主にとっては女神というよりは死神のようじゃの」
女は残酷な笑みを浮かべてメイソンの救いを求める言葉を一刀両断に切り捨てると、その手から串を1本出現させるとそれをメイソンの心臓に突き刺し止めを刺す。メイソンが死んだことを確認すると女はもう一度指を鳴らし、床や壁から出現していた串を消す。するとメイソンの体が支えを失い床に落下した。
「さあ! 血の宴を始めようぞ!」
女は恍惚とした表情で高々と宣言するかのように言った。女は妖艶な笑みをその美しい顔に浮かべながら体中が穴だらけになって息絶えたメイソンの死体をずるずると引きずって歩いて行く。その後ろには本来なら残るはずである引きずっていったメイソンの血や血痕が1つとして残っていなかった。
【現在:ノーグランド王国 王宮 玉座の間にて】
「ふむ。なるほど。裕二君達の話はよくわかった。裕二君、リオ、リアよくやってくれた」
「ありがとうございます」
シャーロンに戻ってきた裕二達はそのままノーグランド王国の王宮へと向かいリオとリアの父であり、この国の国王であるユグド王に謁見して今回の火龍山での出来事を事細かに報告した。話を聞きながらユグド王や側にいた臣下の大臣達は未だ半信半疑といった感じではあったが、とりあえずは受け入れてもらえたようだ。
「それで国としては邪龍に対してどう対策を講じるの?」
リオは真剣な眼差しで玉座に座っているユグド王を見上げて言った。裕二とリアも真剣な眼差しで回答に半ば期待しつつユグド王を見上げた。ユグド王はチラリと大臣達を見るが困った顔をしている。ユグド王は1度ため息をつくと裕二達を見て申し訳なさそうに言った。
「すまないが対策を講じようにも情報が少なすぎる。今から文献を調べなおしても対策を講じるにはかなりの時間が必要だ。よって我が国としては現状では対策は講じられない。すまないな」
「......そうよね。私も焦り過ぎてしまったわ。困らせてしまってごめんなさい」
リオは申し訳なさそうにユグド王や大臣達に頭を下げて謝る。大臣達は大慌てでリオに頭を上げるように言った。
「リオ様どうか頭をお上げください。すぐに対策を講じられないのは我々の力不足のせいでありますから」
「悪いのは我々だ。どうか頭を上げてくれリオよ」
ユグド王がリオに頼むようにして言った。リオが頭を上げるとユグド王や大臣達はホッと胸を撫で下ろす。そこへリアが裕二達が気になっている疑問をユグド王にぶつける。
「でも準備ができたら対策を講じてくれるんでしょ?」
「もちろん対策は講じるが我が国に大きな被害が出ない限り、我が国は公には動かない」
ユグド王の回答は裕二達の期待していたものとは違うものだった。何故ならユグド王が言ったことは要するにノーグランド王国の街や村もしくは国民が被害にあった後、ようやくそこで国が動くということである。裕二は火龍山の麓の村が火に包まれている様子を思い出しそんな誰かの被害を容認するようなやり方でいいわけないだろと思い、ユグド王に意見しようする。
だがそのとき玉座の間の扉が開き1人の騎士が息を荒くして走ってくる。その場にいた全員が何かがあったのだろうと察し、ユグド王は威厳のある大きな声で用件を聞く。
「何事だ!!」
「ご報告いたします! 昨日ブランデル城へ探索に行ったベテラン冒険者の大規模グループが全滅したとのことです! よって冒険者ギルドよりノーグランド王国へのブランデル城の調査への協力を要請するとのことです」
騎士は息を切らしながらもユグド王と大臣に報告する。その驚きの報告内容に大臣達はざわつき始める。ユグド王は落ち着いた表情で騎士に聞く。
「それは本当なのか?」
「はい! 正式なギルドからの報告と要請であります」
そう言って騎士は書簡を大臣の1人に渡し中身を確認してもらう。大臣は書簡を確認すると少し険しい顔になりユグド王に言った。
「王よ。書簡は本物でありました。しかしどうされますか? 流石に最初からベテラン冒険者達が全滅したような場所に主力の騎士団を派遣するわけにはいきますまい」
「ふむ......。まさか......が目覚めたのか? とりあえず少数精鋭を派遣したいのだが、そのような人物はいるものか......?」
ユグド王は困ったような顔で言いながらこちらを見る。裕二は「いやいやいや。まさか僕に行けとか言うんじゃないよね。王様さっきブツブツと何かが目覚めたとかヤバそうなこと言ってたし。ベテラン冒険者が全滅したところに行ったりなんかしたら死んじゃうから!」と内心思ったが表面上は無表情で誤魔化す。そしてユグド王はわざとらしくひらめく素振りをしてからニヤリと笑うと言った。
「そういえば裕二君。君は1人で我が城の騎士を全員気絶させて無力化していたな」
「そういえばそんなことがありましたね。アハハ」
裕二は全身から嫌な汗を吹き出しながら作り笑いを浮かべて言った。裕二は「頼むから僕に行ってきてとか言わないでよ」と内心で神に祈る。といっても神というとあのチャラ神になってしまうので当てにならなさそうではあるが......。そしてそんな裕二の祈りもむなしく真面目な顔でユグド王は裕二に言った。
「裕二君達にブランデル城への調査を依頼したい。難易度に見合った報酬も用意しよう。やってくれるか?」
「............はい」
裕二は本音では断固拒否と言いたいところではあるが、ユグド王にはお世話になっているので断りづらい。結局裕二はユグド王からの依頼をうなだれながらも引き受けた。ユグド王は玉座の間から窓の外へ目を向けてから裕二達に言った。
「どうだ? 今日はもう遅いのだから城に泊まっていかないか?」
裕二は「この王様の近くにいたら緊張し過ぎで疲れるからな」と思い、断ろうと思ったが人の好意をどういう風に断ればいいものか? と思い返事に困る。隣にいたリオはそれを察してくれたのかユグド王に軽く微笑んでから言った。
「ありがたいけれど今回は遠慮しておくわね。私達は今すぐにブランデル城へ向かうわ」
「そうか......。では調査の件よろしく頼む」
ユグド王はそう言うと裕二達に深々と頭を下げる。大臣達は一冒険者である裕二に頭を下げるのはまずいと考えたようで急いでユグド王の頭を上げさせる。
城から出た裕二はリオに肝心な質問をする。
「ところでその......ブランデル城ってどこにあるの?」
「そう言うと思ってたわ。ブランデル城はシャーロンから北にある旧王都にある元王城よ」
リオは裕二の横を歩きながらクスッと笑って言った。裕二はユグド王が言っていた「......が目覚めたのか?」という言葉やベテラン冒険者達が全滅したという事実をふと思い出す。裕二はこれからのことに不安を抱えつつリオとリアと共に夜の灯り輝くシャーロンの大通りを抜け、ブランデル城へ向けて出発した。




