#23.異世界ニートと火龍山<復興>
裕二は外へ出るとまず何をすればいいのか聞くために、村役場にいるディンゴのもとへ向かうことにした。村役場へ向かう途中歩きながら周辺を見るとたくさんの人々が朝から汗を滴らせながら働いている。そしてその努力が反映されるかの様に村の復興はかなり進んでいた。
「この前まで瓦礫だらけだったのに随分変わったなぁ」
裕二はこの村に来たばかりのときを思い出し比較して少し嬉しそうに言った。村役場に着いた裕二は奥のディンゴがいる部屋へ入ると、相変わらずディンゴは大量の書類に埋もれながら書類を親の仇を見るような恨みの籠った目で睨みながら書類と格闘していた。裕二はディンゴの忙しそうなところを見て話しかけることをためらわれたが、このままでは自分が話しかける前に日が暮れてしまうなと思い話しかける。
「ディンゴさん、おはようございます。村の復興のお手伝いで僕は何をすればいいですか?」
「ああ、裕二か。それじゃあ村の南側の建物の修復を頼む」
ディンゴは裕二を見てから少し考える様子を見せてから言った。
「わかりました。それでは」
裕二はそう言って村役場を出てディンゴに言われた村の南側へ向かう。南側へ向かって歩いて行くと他の場所と違い瓦礫が積みあがっている場所が多く見える。つまり南側は復興が遅れているということで、裕二は何故自分が南側へ行くように言われたのかを理解する。それから更に南側へ歩くと何人かの人が集まって瓦礫の前で困っているのが見えてきた。裕二は何事だろう? と思いつつ集まっている人に話しかける。
「あの~僕はここで皆さんの手伝いをするように言われてきたんですけど何かあったんですか?」
「えっ! 勇者様が手伝ってくれるんですか! 実はこの瓦礫が重すぎて動かせないんですよ」
そう言ってその場にいた村の人々はすぐ側にある瓦礫の山を見る。先程までは少ししか見えていなかった瓦礫の山だが、正面から見ると巨大な瓦礫の山がそこにはあった。一瞬こんなの重機でもないと無理だろと裕二は思ったが、裕二には新しく手に入れた能力「物質消滅・零」があることを思い出す。
「わかりました。僕に任せてもらってもいいですか? 後、後ろ向いててください」
「お、おう」
裕二の自信に満ちた言葉に村人は訳もわからず頷き、後ろを向く。そして裕二は瓦礫の山に手を触れて能力を発動させる。
「物質消滅・零!」
すると裕二の目の前から大量の瓦礫で構成されていた瓦礫の山の1つが音も立てずにこの村から一瞬にして消えた。
「もうこちらを向いてもいいですよ!」
裕二は後ろを向いてもらっていた村人達に笑顔で言った。村人は言われた通りに振り向いた途端、驚きのほんの少しの間あまり口を開けてその場で固まる。そして村人達はふと我に返ると驚く程の勢いで裕二に近づき質問してきた。
「あの瓦礫をどうやってこの短時間で消したんだ? 教えてくれ!」
「すみません。これについては教えられないので......」
裕二は王の力のことを教えるわけにはいかないと思い、何とか村人達を説得しようとする。村人はなかなか納得してくれなかったが、結局村の南側の瓦礫を全て片づけるという条件で何も聞かないということで話が纏まった。
裕二は結局村の南側を歩き回り、目につく瓦礫をひたすら物質消滅・零で消していくという作業ゲーに等しい仕事をひたすらこなした。お昼になり村の南側の瓦礫をほとんど消し終えた裕二はようやく辛い仕事から解放された。仕事が終わった裕二は村から借りている家に戻り座って落ち着いてから呟く。
「ふぅ。まさかあんな作業ゲーみたいな仕事をさせられるとは。元の世界で働くほうがまだ楽かも」
そこへ村の復興の手伝いが一段落したのかリオとリアが帰ってきた。
「あら裕二、先に帰ってきてたのね。お疲れ様」
「リオもお疲れ様」
リオが裕二に労いの言葉をかける。裕二は壁にもたれながらリオに労いの言葉を返した。裕二はリオの隣で裕二を見ながらそわそわしているリアが目につきどうしたのかな? と気になりジッと見ているとその視線に気づいたリアは顔を赤くして裕二を睨んで言う。
「裕二、まさかと思うけどサボってたんじゃないでしょうね!」
「ええ! いやいやしっかり働いてたからね。村の南側の瓦礫とか全部消したし」
「ふーん。それならいいけど」
リアはそう言うとふんっとそっぽを向いて部屋の奥のほうへ行ってしまった。裕二は何か悪いことをしたかな? と思いながら首をかしげる。リオも部屋の奥のほうへ行こうとしたところでリュックのことを思い出し、急いでリオを引き留める。
「リオ、ちょっと待って!」
「どうかしたの?」
リオはこちらに振り向き不思議そうな顔をしている。
「このリュックを見て欲しいんだけど......」
裕二はそう言って朝起きた出来事を一から説明した。そして裕二は実際にリュックに手を突っ込んで見せようとしたが、手は消えなかった。
「あれ? おかしいなあ。朝は手が消えたりしてたのに......」
そう言いながら裕二は何でだろう? と考えながらひたすらリュックに手を出し入れしている。裕二の話を聞いたリオはハッと何かに気づき自信に満ちた声で裕二に言った。
「裕二、魔力を流しながら手をいれてみて。私の考えが正しければ反応があるはずよ」
「魔力? わかった」
裕二はそう言って手に魔力を纏った状態でリュックに手を入れる。すると朝のように手はリュックの底まで届く前に手が消えた。だが手の感覚はやはり健在だ。裕二のリュックの中で手を動かしていて、裕二の手があるのは明らかにリュックの中を超える広さのある空間であることに気づいた。その様子を見てリオはやっぱりと納得の表情をする。
「それで何かわかったの?」
「ええ。それは魔法道具よ。しかも最高位の魔法道具"神器"と呼ばれているものよ」
リオは驚かず冷静に言った。裕二は神器と聞いて少しテンションが上がる。理由は単純にかっこよくて強そうだからなのだが......。
「裕二、あなたこれをどこで手に入れたのかしら?」
リオは裕二の目をジッと見つめながら聞いた。裕二はリオにジッと見られて緊張しながらも、少し恥ずかしくなり目を逸らしながら言った。
「リオと出会う少し前にシャーロンの路地裏で拾ったんだ」
リオはそれを聞いて更に裕二の目をジッと見つめてきた。裕二は嘘はついてないとひたすら心の中で唱えた。実際リュックは神にもらった装備ではあるが、あの路地裏に落ちていたことは事実である。それに本当のことを言ってしまうと、裕二は自分が別の世界から来たことまで言わないといけなくなるのでリオには嘘はつかなかったが本当のことも言わなかった。そしてリオがしばらく裕二の目を見つめた後、裕二から目線を外して言った。
「そう......。それはそれとしてこの神器の能力はおそらくなのだけれど大量の物を保管して持ち運ぶことができるといった能力だと思うわ」
「う、うん。ありがとう」
裕二は緊張から解放されて慌てて返事をする。そしてリオも部屋の奥へと歩いて行った。裕二はその場で横になると心の中で「あの神リュックのこと1つも言ってないよね。今度会ったら文句言ってやる」と決意した。
「裕二! ご飯出来たわよ。早く来なさいよ!」
しばらくするとリアが大きめの声で裕二を呼ぶので裕二は急いで立ち上がりリアのいるであろう部屋の奥にある食卓へと向かう。ここでのんびりとしているとリアに怒られると考えると自然と歩く速度が速くなった。裕二が食卓へとたどり着くと椅子に座る。既に食卓にはリオとリアが席に着いていた。食卓の上にはたくさんの美味しそうな料理が並べられている。どうやら今日の昼食はリアの手作りのようだ。裕二達はリア手作りの昼食を食べ始めた。
「何これめちゃくちゃ美味い!」
「本当に!? よかった!」
裕二がおいしさのあまり思わず感嘆の声をあげる。まさかリアがここまで料理ができるとは知らなかったことからより驚いた。リアはそれが嬉しかったのかとても可愛らしい笑顔で嬉しそうに食べていた。
裕二は昼食を食べ終わると皿を片付けてまた村の復興の手伝いに戻ろうとリュックを持って外へ出て村の南側へと向かう。村の人々も昼の休憩が終わったのか少しずつそれぞれの持ち場に戻っていくのが見えた。裕二は村の南側の仕事を担当する村人から仕事を貰うために話しかける。
「あの~午後は何をすれば......」
「午後は建物の再建を手伝ってくれ」
村人は少し離れたところで建物を建てている村人を指差して言った。裕二はまだ建築中の建物を見ながらこれもっと早く建てられるんじゃないかなと思い建物を建てている村人達に話しかける。
「建物をもっと早く建てることできますけど......」
「瓦礫消してくれた勇者様じゃないか。もしできるならよろしく頼む」
村人達は期待に満ちた目で裕二を見ながらお願いする。
「わかりました。でも瓦礫のときと同じくこちらを見ないでくださいよ」
裕二はそう言って村人達に別の方角に向いてもらう。ここで裕二は「あれ? なんかデジャブな気がするんだけど......」と考えつつ王の力の能力を発動させる。
「物質創造!」
すると何もない場所から加工された木材と釘が出現する。更にリュックから魔法の書を取り出しサッとページをめくってから魔法を発動させる。
「念力操作」
魔法の効果によって木材が組み上げられ釘で固定されて気づくと家の原型ともいえそうな建物ができていた。後はドアや窓や内装を整えればすぐ完成しそうだ。
「皆さん、こっち向いてもいいですよ!」
裕二は笑顔で村人達に言った。村人達はやはり振り向いた途端、驚きのほんの少しの間あまり口を開けてその場で固まる。そして村人達は裕二に駆け寄って言った。
「頼む。村の南側の建築予定の更地で同じように建物を建ててくれないか?」
裕二はそれを聞いてやっぱりそうなるよな」と思いながらため息をついてから言った。
「わかりました。できる限り僕も頑張ります」
そして裕二は昼前と同様に村の南側を歩いて周ることになった。しかも街の南側で建築予定となっている更地に建物を建てながらである。
「物質創造!」
「念力操作!」
これを繰り返して日が暮れる前には裕二は村の南側の更地全てに建物を建て終えた。そして裕二は村人達にお礼の声を背中に滞在している家に戻った。
家に戻るとリオとリアが荷物をまとめていた。もう村を出るのかと思い、裕二はリオに聞く。
「あれ。もうこの村出るの?」
「そうよ。早くシャーロンに戻って今回のことを報告しないといけないもの」
リオは荷物を整理しながら言った。そして裕二も自分の荷物をまとめはじめた。
しばらくして裕二達は荷物をまとめ終えると村役場へ行きディンゴにもう出発するということを伝えに行った。するとディンゴは寂しそうな顔で言った。
「そうか......。もう行くのか。それならちょうどいい。今、村からシャーロンへの連絡と物資の補給のために馬車を出すんだが乗っていくか?」
「いいんですか?」
裕二はそんなことまでしてもらっていいのかな? と思いディンゴに聞く。
「当たり前だろ。あんた達には世話になりっぱなしだからな。せめてこれくらいはさせてくれ」
そして裕二達はディンゴと一緒に馬車まで移動して裕二達は馬車に乗り込む。
「また遊びに来てくれよ」
ディンゴは笑って言った。
「はい! もちろんです」
裕二もディンゴの言葉に笑顔で返す。そして裕二達はディンゴとその場にいた村人達に見送られながら火龍山の麓の村を出発した。村へ行くときは歩きだったためとても時間がかかったが、帰りは馬車なのでとても速く移動することができた。そして裕二達は途中でガルードへ立ち寄り依頼の達成を報告した。
「まさか本当にベビードラゴンを倒してしまわれるとは驚きました」
ギルドの受付のお姉さんは依頼達成の報告をするととても驚いていた。どうやら誰も裕二達がベビードラゴンを倒して戻ってくると思っていなかったようでギルドの中でかなり騒ぎになった。その騒ぎの中をこっそりと抜け出した裕二達はまた馬車に乗り、次はシャーロンへ向けて出発した。
裕二達が馬車で移動している時は運よく魔物とほとんど戦闘にならなかったおかげで裕二達が村を出た翌日の夕方にはシャーロンに到着することができた。




