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#22.異世界ニートと火龍山<帰還>

 裕二達は来た道を戻るように火龍山(ひりゅうざん)を下り始めた。登っていた頃は狂暴だったモンスターも邪龍ブーネルを倒した影響なのかおとなしくなっており、スムーズに下ることができた。それでも山の中が暑いことに変わりはなく容赦なく裕二達の体力を消耗させていく。


「創造のリオと消滅のリアか......」


 山を下る途中に裕二はリオとリアに聞こえないくらいの声で呟いた。これまでに王の力によってリオから抽出されたのは「物質(マテリアル)創造(クリエイター)」、リアから抽出されたのは「物質(マテリアル)消滅(エクスキューション)(ゼロ)」である。リオからは創造の力、リアからは消滅の力というまるでほぼ逆の性質を持った能力があの姉妹から抽出されているのだ。これは実際の姉妹と何か関係があるのだろうか? と、裕二は考えながら歩いていた。


 裕二達が山を下り外に出た頃には空は温かなオレンジ色に染まっていた。裕二達はどうやら丸1日は山の中にいたということに気づき、我ながらに驚く。


「さて、村に戻ってディンゴさんや村の人達に安全を伝えに行かないといけないわね」

「そうよねお姉ちゃん。そしたらきっと村の人々大喜びしてくれるわ!」


 リオとリアがそれぞれ楽しそうに村の人々へ早く報告したいといったことを話している。裕二もその2人を見て、また村の人々が喜ぶ姿を想像して少し口元が綻ぶ。


 しばらく歩き火龍山と村を繋ぐ森を抜けると村の様子が見え始める。どうやら見た感じでは復興が進んでいるようだ。まだ村から少し距離があるが、村人達が忙しそうに村の復興のために働いているのが見えてくる。


 その後裕二達が村へ戻ると、それを見つけた村人達が裕二達に駆け寄ってくる。裕二はそれに驚いて慌て始める。リオは横で裕二の様子を見てため息をついてから裕二の耳元で言う。


「裕二、そんな慌てていないで伝えないといけないことがあるわよ」


 裕二はリオの一言で落ち着いて村人に言う。裕二はリオの言葉にハッとする。どうやら裕二は半分眠気で意識が飛びそうになっていたようだ。裕二がふと横にいるリオとリアを見ると2人も一見普通そうにも見えるが少し眠そうな感じであると裕二には理解できた。裕二はとりあえず早く休まないといけないと思いやるべきことをこなそうと心に決める。


「火龍山でこの前の火事の原因を取り除いたのでもう心配しないで大丈夫です」


 裕二が言い終わった後、村の人々はしばらくの間沈黙する。裕二は何か不味いこと言ったかな? と思っていたが


「......った......」

「やったーーーー! もう村があんなことになる心配がないんだ!」


 と、村の人々の1人が呟いたかと思うと他の村人達が喜びの歓声を上げる。それを見て裕二はホッとする。ちらりと横を見るとリオとリアも嬉しそうな顔をしていた。


「やったわね裕二。村の人々も喜んでいるわ」

「こういうのを見るとあの時戦ってよかったなって思えてくるよ」


 リオが嬉しそうに言った。それに裕二はスッキリとした表情で空を見上げながら言葉を返した。その時裕二達の周りにいた村人達の中を潜り抜けて裕二達の目の前に茶髪でピンクのフリル付きエプロンを着けたお姉さんが顔を出す。


「私ここにいる勇者様を村長のところへ案内しないといけないので」


 お姉さんは周りの村人達にそう言うと、周りの村人達はさっと道をあける。


「ゆ、勇者!? 僕達が?」


 裕二は自分達が勇者と呼ばれていることに思わず声を裏返らせながら言った。


「はい! この村を救ってくれた勇者様じゃないですか!」


 お姉さんは満面の笑みを浮かべて裕二に言った。裕二はもういいやと諦めてお姉さんについていく。裕二達が黙って歩いているとお姉さんが口を開いた。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私、フウラと言います。この村の役場で働いています」

「よろしくお願いします。フウラさん」


 裕二は自己紹介を聞いてからそう言って、フウラと握手を交わす。役所へ向かう途中きょろきょろと辺りを見回しているとこの前の火事でなくなった建物が修繕されたり、そこに新しい建物が建ったりと裕二達が火龍山へ入る前よりもあまりにも速く復興が進んでいる様に見えた。裕二はそれに違和感を覚え、フウラに聞く。


「フウラさん、僕達が昨日火龍山へ入ったときと比べるとあまりにも復興が速い気がするんですけど......」

「えっ? 何を言ってるんですか。勇者様方が火龍山へ入ったのは3日前ですよ」


 フウラは裕二の予想を超えることを言った。裕二はそんなまさかと思ったが、よく考えたら火龍山へ入ってから一睡もせず時間も見ずに戦っていたため実は3日経っていたのだということに気づく。そして道理で村に着いてから眠たいのかと裕二は納得する。


「これからは時間もよく見ないといけないわね」

「それにしても私達が3日もずっとあの山の中にいたなんてね」


 リオとリアはそれぞれに思ったことを口にする。

 そうしているうちに裕二達は村の役場へと到着する。そしてそのまま役場の中へ入り、ディンゴのいる部屋へと案内される。裕二達はそのまま部屋へ入ると部屋の奥で書類に埋もれるディンゴを見つける。


「村長さん、火龍山から戻った勇者様達を連れてきましたよ」

「おぉ。そうか。ありがとうよ。お前は元の仕事に戻っていいぞ」

「わかりました。それでは失礼します」


 フウラが裕二達を連れてきたと話すと、ディンゴはとても疲れ切った声で言葉を返した。そしてフウラはペコリとお辞儀をして部屋から出て行った。


「よく来てくれたな。とりあえず座ってくれ」


 ディンゴは疲れてやつれた顔に精一杯の笑顔を貼りつけて言った。裕二達はディンゴに言われて椅子に座る。


「ディンゴさん、すごくやつれている様に見えますけど大丈夫ですか?」


 裕二はディンゴに心配そうに聞いた。ディンゴは向かい合って椅子に座ると、疲労混じりのため息をついて言う。


「少なくとも大丈夫ではねぇな。街の復興の監督に資材の管理、調達やそれらに関わる書類の確認と承認とかその他諸々のせいでろくに眠れてねえからな。それはともかくとして火龍山で何があったのか説明してもらってもいいか?」

「わかりました。それではまず......」


 そして裕二はディンゴに火龍山での旅と真実の一部始終を話し始めた。





 「......です」


 裕二はディンゴに詳細に話し終えた。ディンゴは静かに話を聞いていたが裕二達が話し終えると何かを恐れるかの様に口元を震わせながら口を開く。


「じゃ、邪龍ブーネルだって.......。あの伝承の龍が実在するなんて! 何かの冗談だろう? それにあの邪龍を倒したあんた達は何者なんだ?」

「いや、本当のことです。そして僕達はただの冒険者ですよ」


 裕二はディンゴの言葉に冷静に答える。そして裕二はリオに聞く。


「ねえリオ。その邪龍ブーネルが出てくる伝承ってどういうものなの?」

「ノーグランド王国に古くから伝わる伝承よ。7体の光の龍と7体の闇の龍がいて、闇の龍は人々の街を壊したり人を殺したりと悪行を繰り返したため光の龍と勇者が闇の龍と戦い、その末に光の龍は闇の龍を倒したと言われているのよ。そしてあの私達が戦った邪龍ブーネルは闇の龍の1体とされているわ」


 リオは裕二にその伝承について簡単に説明した。だがそこで裕二はおかしいと思い首をかしげて言う。


「あれ? でもその話が本当なら何で邪龍ブーネルが生きているのさ?」

「それなのよ。何故大昔に滅びたはずの邪龍ブーネルが復活していたのか? それがわからないのよ」


 リオはそう言うと下を向いて考え始める。


「まあそれはともかくとしてだな、今回は本当に助かった。ありがとう」


 ディンゴは裕二達に頭を下げる。


「そんな、頭を上げてください。自分達の依頼をこなしてきただけですから」


 裕二は慌ててディンゴに頭を上げるように促した。そこでディンゴは頭を上げて裕二に聞く。


「それであんた達はこれからどうするんだ?」

「まだ考えてないんですけど......どうするリオ?」


 裕二はリオに話しかけるが、考え事に集中しているのか反応がない。そこで裕二はリオの肩をたたくとリオはようやく反応する。


「ごめんなさいね。考え事に集中し過ぎたわね。それでどうかしたのかしら?」

「あ、うん。これからどうするかって話なんだけどどうしようか?」


 裕二はリオにこれからについて相談する。リオはどうやら考えていたらしくすぐに口を開く。


「とりあえずガルードを経由してシャーロンに一度戻り、お父様に今回のことを報告するわ。他の龍も復活する可能性を考えると国として対策を練ってもらわないといけないわ」


 裕二とリア、ディンゴはリオの言葉に肯定の意味で頷く。


「その後についてはガルードへ行くのではなくしばらくシャーロンに滞在して、シャーロンのギルドで依頼を受けるのがいいかなと思っているのだけれど......どうかしら?」

「うん。僕はそれで問題ないと思うよ」

「そうね。私もお姉ちゃんに賛成」


 リオが話し終えると裕二とリアはそれを承諾する。ディンゴは2人の話を聞き終えると、少し残念そうに言う。


「そうか。もう行っちまうのか。せっかくだからこの村の復興した姿を見てもらえたらと思ってたんだがな」


 それを聞いて裕二はふと思いつき、リオとリアにひそひそと声を小さくして何かを話し始める。裕二が話終えるとリオは微笑んで裕二にひそひそと話す。ディンゴはそれが気になるといった顔でずっと裕二達のことをチラチラと見ていたディンゴはリオが話し終えたのを確認すると裕二に少し不機嫌そうな顔をして聞く。


「なんだよ。さっきから人の前で仲良くコソコソしやがってよ。それで何を話してたんだ? もしかして言えないやつか?」


 裕二はディンゴが少し不快になったことに気づいて、慌てて謝って何を話していたかの説明をする。


「すみません。実は明日1日だけ僕達も村の復興のお手伝いをさせてもらいたいなと思いまして」

「そんなこと考えてたのか! すまなかったそんなこと考えていたと知らず。だがあんた達はいいのか? さっきの話だと早くシャーロンに戻らないといけないんだろう?」


 ディンゴは裕二の言葉に驚きながら裕二に尋ねる。


「私達のことは別に構わないわ。この村のこと放っておけないわよ」


 ディンゴからの問いはリアが裕二に代わり答えた。ディンゴは頭を掻きながら言う。


「それならお言葉に甘えて明日1日よろしく頼む」


 その後裕二達は建て直された家の1つを使わせてもらえることになり、そこで一晩を過ごした。





 翌朝、裕二は起きて家の中を見て回るがリオもリアもいないのでおそらく村の手伝いに行ったのだろうと考えて、リュックの中からパンの入った袋を取り出してその中からいくつかパンを選んで食べ始めた。裕二はパンを食べながらリュックを見つめる。


「このリュック中身にかなりの荷物入れてるのに見た目に特に膨らんだ形とかないんだよな」


 そう言いながら裕二は口にパンを咥えたままリュックの中を覗き込む。だがどう見てもやはりリュックはただのリュックである。裕二は別にそれほど期待していたわけでもないのだが実際に確かめてみるとやはり少し残念だなと思いながらリュックを閉めようとしたとき、うっかり口に咥えていたパンをリュックの中に落としてしまう。


「あっヤバっ!」


 しかし裕二はそこで裕二は驚きの光景を目にする。リュックの中に落ちたパンが突然消失したのだ。リュックの中をどれだけ見てもパンは見つからない。そして裕二がリュックの中に手を突っ込むとリュックの中で裕二の手が突然消える。慌てて手を引っ込めると消えた手は元通りになった。


「どうなってんのこれ? 後でリオとリアにこのリュックを見てもらったほうがいいな」


 とりあえず裕二は口に咥えていたパンを諦めてリュックを閉める。そして村の復興の手伝いをするために裕二は外へ出た。

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