#21.異世界ニートと火龍山での決戦
裕二達は山の中を抜け火龍山の山頂にたどり着く。山頂は高い場所のためか強風が吹き荒れている。リオはワンピースの裾を、リアはスカートの裾を押さえながら歩く。裕二達の目の前には火口があり、マグマと思われるものが今にも噴火しそうなぐらいグツグツと音を立てている。更にその向こうには禍々しい色をしたとてつもなく大きな龍が裕二達と火口を挟んで反対側で眠っていた。
「おそらくあの龍が村の火事の理由ね。あの龍がこの山に来たことにベビードラゴン達が怯えてパニックに陥った結果、山から降りてきて村を襲ったといったところかしら」
リオがあの禍々しい龍を見て推測する。
「えっ! ってことはあのやばそうな龍を倒さないと村は救えないってことだよね。ギルドとかで応援呼んできたほうがいいんじゃ......」
「ダメよ。今から呼びに行くのは時間がかかりすぎるわ。また村が襲われてしまえばもう本当の意味で全滅するわよ」
裕二の意見をリオが却下する。そうしている内に龍が目を覚まし立ち上がる。寝ている状態を見ても大きいのに立ち上がると更に大きく見える。そして火龍山の上空は黒く厚い雲に覆われ、激しく雷が鳴り始める。
「我を起こしたのは貴様らか人間! 我を邪龍ブーネルと知ってのことか! その罪貴様らの身をもって償え! 」
邪龍ブーネルは裕二達に大きな声で怒鳴る。その声の振動で周辺の岩がガタガタと音を立てている。そして邪龍ブーネルは大きな翼で飛翔し火口の真上まで来ると裕二達へ炎のブレスを発射してきた。裕二達は火口沿いを走り、ブレスを回避する。裕二は物質創造を使い小銃を生成しつつ、火口へ向けて足場を作り近距離で邪龍ブーネルの腹に小銃を発射する。
しかしさすがは邪龍といったところなのかライフルの激しい発射音は凄まじいが皮膚がとても固く小銃の弾は全て弾かれてしまった。続けてベビードラゴンのときと同じように氷の牢獄を同時展開する。
「氷の牢獄!」
それにより邪龍ブーネルの体が凍り付いてそのまま火口へ落ちていく。だが邪龍ブーネルはマグマに落ちるギリギリのところで、その氷からいとも簡単に脱出してみせた。そして邪龍ブーネルはまたしてもブレスを放つ。
「雷よ我が力となって放たれよ雷撃砲!」
「暗黒よ我が力となって放たれよ黒砲!」
そのブレスはリオとリアが魔法でなんとか相殺する。だが全力で魔法を放ち魔力を使い果たしたのかそこでリオとリアは膝をついてしまう。裕二が心配して生成した足場の上から2人に大丈夫か? と声をかけようとすると
「私達のことはいいから行って! 今がチャンスなんだからしっかりキメて来なさいよね。そ、その、信じてるから」
と、リアに言われ裕二は足場を生成しつつ邪龍ブーネルへ向かい走り出す。そのリアの言葉に反応するかのように裕二の頭の中に直接声が響く。
「"王の力"発動のトリガーを確認。リア・レグネス・ノーグランドより能力を抽出」
どうやらリアの言葉に対し王の力が発動し、新しい能力を手に入れることができるようだ。裕二が邪龍ブーネルのブレスをなんとか避けながらチラリと後ろを振り向くとリアの体から白い光が出てきてその光が裕二の体に吸い込まれる。だが、やはりリアも隣にいるリオも気づいていないようなのでどうや光が見えているのは裕二だけのようだ。そして裕二の体に光が吸い込まれるとまた裕二の頭の中に声が響く。
「能力の抽出を確認。能力"物質消滅・零"を王の力に付与。"物質消滅・零"は触れた対象を消滅させます」
「えっ? 何それ。滅茶苦茶チートじゃん」
裕二は新しい能力の内容に思わず呆けた顔で呟く。だがこの能力を使えばあの龍に触れるだけでこちらの勝ちということだと理解し、裕二は走る速度を上げる。
「グハハハ! 愚かな人間がまだ我に抗おうというのか! この我の全力の闇のブレスで粉々に吹き飛ばしてくれる!」
邪龍ブーネルがそう言うと口から今までの比ではない大きさで前までの炎とは違う禍々しい黒炎のブレスを放つ。ブレスは真っ直ぐ裕二へと向かっていくが裕二はそれでも速度を維持して走り続ける。
「「裕二ーーーーーーーーーっ!!」」
リオとリアは思わず大声で叫ぶ。そして禍々しい極大のブレスが裕二の体を粉々に吹き飛ば......さなかった。
「物質消滅・零!」
裕二がそう言って能力を発動するとブレスが裕二を巻き込んだ瞬間、禍々しい極大のブレスはまるで嘘のように綺麗さっぱり消え去った。
「「裕二!」」
裕二が無事であるのを確認したリオはまるで天使のような微笑みを浮かべながら裕二を見る。
「心配かけさせるんじゃないわよ。私がどれだけ心配したと思ってるのよ」
リアは目に涙を浮かべながらもリオに負けないぐらいの笑顔で言った。
「何なのだ! 我の全力のブレスを消したその力は!? 認めん! 我はそのような力など認めたりせんぞ!」
邪龍ブーネルはまた大声で怒鳴り先程と同様の黒炎のブレスを今度は連続で放つ。
「物質消滅・零!」
だがそのブレスは全てまたしても裕二の新たな能力「物質消滅・零」によって消滅する。そして裕二は勢いよく飛び出し、邪龍ブーネルの腹に手を触れる。
「これで終わりだー! 物質消滅・零!」
「グォォォォーーーーー!」
裕二が能力を発動すると裕二の手から発生した光が邪龍ブーネルを包み込み一瞬にして消え去った。それと同時に火龍山を覆っていた黒くて厚い雲がまるで嘘の様に晴れ、あれほど鳴っていた雷がピタリと止む。裕二は安堵のため息をつくと、自分で生成した足場を使いリオとリアのいる場所まで戻る。するとリオとリアが裕二の両腕に抱き着いてきた。裕二は顔を真っ赤にして半ばパニック状態になりながらリオとリアに聞く。
「ちょ、ちょっと? 2人共いきなりどうしたの!?」
「私達と、村を救ってくれた勇者へのせめてものお礼といったところかしらね」
リオが裕二の腕に抱き着きながら言う。
「勘違いしないでよね。ただ、私達を救ってくれたことについての、その、えっと......」
リアが裕二の腕に抱き着きながら言葉をつまらせる。
「リア大丈夫? 顔が赤いけど」
裕二が心配してリアに声をかける。
「あーーーーっ! わかったわよ! はっきり言うわよ!」
するとリアが突然大声を出したので裕二は驚く。リオはと言うとリアの態度がよほど面白かったのかクスクスと笑っている。
「裕二、私達を救ってくれてありがと。とてもかっこよかったわよ」
リアは最高の笑顔で裕二に言った。裕二はそれを聞いて照れくさそうな顔をする。
「さあ帰りましょう。村の人達にこのことを伝えないといけないわ」
そう言ってリオは裕二の腕から離れて歩き出す。
「さっさと行くわよ。裕二」
そう言ってリアも裕二の腕から離れて歩き出した。
「じゃあ村に帰ろうか!」
裕二もそう言って歩き出す。そして裕二達は火龍山を下り始めた。




