#18.異世界ニートと火龍山の火事 その2
裕二達が村の中央にある広場へ向かうと、村の住民達が集まり何かを話し合っているようだった。だが広場に集まっている人々の顔は深く沈んでいる。広場の隅では親を亡くしたと思われる子供がただひたすら泣いており、裕二は悲惨さの余り村の人に話しかけることが出来なくなってしまった。火事を消そうとしていたときはそれに対して必死だったため考える余裕がなかったが、火事が起きるというのはつまりたくさんの人が傷つくということだ。
そして火事が消し去り、悲しみに沈む人々を前にして裕二は
「この状況で一体僕は何を話しかければいいって言うんだ......」
と、眉間にしわを寄せて何かをこらえるようにただ一言ポツリと返答のない呟きをこぼすだけだった。普通に考えれば当然なのだろう。戦争のない平和な国日本からいきなり訳も分からず異世界に飛ばされてこんな日常とかけ離れた非日常を見せられた平和ボケしたニートである裕二にはこの目の前の状況に頭が追いついて来るのは難しいのだ。
そうした辛そうな顔をした裕二を見たリオは裕二の心境を悟ったのか代わりに村人の中心となって話をしている体格がずっしりとした初老の少し白髪の交じった髪をした男性に話しかける。
「少しよろしいかしら?」
「あぁ別に構わないがあんたらは何者だ?」
男性はずっしりとした太い声で聞く。
「私はリオと言います。そしてあそこにいるのが裕二と妹のリアと言って私達は冒険者です」
リオが紹介をするとリアがお辞儀をして反応する。裕二は軽くお辞儀をする。
「そうか! てことはあんたらがこの火事を消して怪我人を助けてくれたってことか。話は聞いているぜ。我々を救ってくれたこと、村を代表して感謝する。俺はディンゴだ。この街の村長をしている。」
そしてディンゴは握手を求め、リオはそれに応える。そしてリオはディンゴに何故このような火事が起きたのかという事の経緯を聞く。
「それで何故このようなことになったのかしら?」
「あぁ。それを話すのはいいんだが、こっちも皆に指示を出したりしなきゃいけないんだ。少し落ち着いてからでいいか? それにそこの裕二って奴は見るからに時間が必要そうだしな。落ち着いたらまた声をかけるからそれまではもう村ともいえねぇとこだがゆっくりしててくれ」
そう言われてリオは裕二の方を見る。そして
「わかったわ。私達もそのほうが助かるわ」
と、返事をする。その後村の人々は村長であるディンゴの指示に従い動き始めた。そしてしばらくすると先程までたくさんいた村の人々がほとんどいなくなった。あれだけ沈んだ顔をした村の人々をここまで動かすということはディンゴは相当人望が厚いのだろうとリオは考えながら裕二やリアと一緒に広場の隅の木の下で休憩をとることにした。リアは暗い顔の裕二に
「何暗い顔してんのよ! この状況にショックを受けるのはわかるけどいい加減しっかりしなさい!」
と、強い口調で言う。
「私、村の人達のお手伝いしてくるからお姉ちゃんは裕二の側にいて」
「ええ。わかったわ。行ってらっしゃい」
リアはリオとそう言葉を交わして広場から出て行った。そしてリオは隣に座っている裕二に、
「裕二、とてもショックだと思うけどその辛さを1人で抱え込んではダメよ。辛いときは私達に甘えてもいいのよ」
と、耳元で甘い声で囁く。そして最後に裕二にも聞き取れない程小さい声で何かを呟く。裕二がリオの方を向こうとしたとき、裕二の意識がぼんやりとし始め、そしてそのまま裕二は眠りについた。
それからかなり時間が経った頃、裕二が目を覚ました。目をこすりながら何があったのか思い出そうとする。どうやら夕方になってしまったらしい。そして裕二は頭に柔らかくて気持ちのいい感触を感じ、何だろうと考えていると次第に意識と視界が安定する。目の前にはスゥと寝息立てるリオの顔が見えた。このとき裕二は自分がどういう状況にあるのかを理解した。
つまり裕二は寝ている間リオにあの膝枕をしてもらっていたのだ。そう。あの膝枕だ。ラノベやアニメで主人公がヒロインにしてもらったりするアレだ。いつもならアニメやラノベを見ながら羨ましく思うものをまさか自分がしてもらえる日が来るとは! と裕二は感動しつつ自分には恐れ多いと思い、もうちょっとだけ膝枕された状態で寝ていたいという気持ちを頭の隅に追いやってすぐにリオの膝から頭を退ける。
裕二が頭を退けたところでリオが目を覚ました。
「ごめん。起こしてしまったね」
裕二は悪いことをしたなと思いリオに謝る。
「気にしなくても構わないわ。それで裕二はゆっくりと眠れたのかしら?」
「うん。ありがとう。とてもよく眠れたよ」
裕二はリオに対しお礼(主に膝枕の)を言う。そこへタイミングよくリアが走って戻ってくる。
「お姉ちゃん、ディンゴさんが話がしたいから来てくれって言ってたよ」
「わかったわ」
そう言ってリオは立ち上がる。リアは裕二の顔を見て
「もう大丈夫そうね。あんまり心配かけないでよね!」
そう言ってプイッとそっぽを向く。
「2人共心配かけて本当にごめん」
裕二は2人に謝る。
「裕二が元気になってくれたのだから裕二は気にしなくていいのよ。さあ行きましょ」
リオはそう言って微笑みながら裕二に手を差し出す。そのとき木の葉が風で揺れ、それによって揺れ動く木漏れ日が後ろからリオを照らしているためか裕二にはリオがいつもより更に一層綺麗に見えた。裕二は笑顔でリオの手を握って起き上がり3人でディンゴさんのいる場所へと向かった。




