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#13.異世界ニートと初めての冒険

 丘の上から必死に走って来た傭兵は裕二達に大声で叫んだ。


「丘の反対側から盗賊が侵攻している!今は丘の反対側の見張りと馬車周辺の待機組で応戦している。今すぐ応援に駆けつけてくれ!」


 盗賊とかマジか。行きたくないなと裕二は思う。とにかく普通に怖い。


「なんですって! リア、裕二今すぐ行きましょ!」

「うん! お姉ちゃん」

「えっ! わ、わかった」


 裕二はリオに言われて思わず返事をしてしまった。裕二は諦めてリオとリアについてゆく。


 裕二達が丘の上の方まで着くと数人がところどころにひどい怪我をしている。その中で必死に動き回って回復魔法で治療しているバークと薬を配っている行商人の姿を見つける。リオとリアが行商人に状況を聞きに行っている間に裕二はバークから状況を聞く。


「バーク! 状況はどうなってんだ?」

「裕二さん!ご無事でしたか。状況は五分五分って感じです。普通の盗賊なら五分五分なんてことはないんですけど、どうやら盗賊の中に魔導士が紛れ込んでいるようでかなり苦戦しているようです」

「そうか。後、僕のリュックはどこ?」

「それならそこの岩の上に置いてあります」


 そう言ってバークはリュックのある方角を指さすと少し離れた場所の岩の上にリュックが置いてある。裕二はリュックを取って背中に担ぐ。そこへ行商人から話を聞き終えたリオとリアが戻ってくる。


「それじゃあ行ってくる」

「お気をつけて」


 そう言ってバークと別れて裕二達は傭兵と盗賊が戦っている方へ急いで丘を下っていく。すると傭兵と盗賊が戦っている様子が見えてきた。パッと見た感じ戦っている数は傭兵のほうが多いが魔法による一撃で戦線離脱する者がかなりの人数いることがわかる。傭兵達は魔法を防ぐ術を持っていないということだ。戦っている傭兵や盗賊は体のいたるところから血を流しているものまでいた。


 裕二はそれを見ただけで体が思うように動かなくなってしまった。自分が目の前で血を流している人のようになる恐怖や人をそうしてしまう恐怖で手足は震え心臓は破裂するのではないかというくらいに強く脈打つ。こんなのは無理だ、シャレにならない、逃げ出したい。裕二はそう思った。だが体相変わらず恐怖で思うように動かず自分の行動の選択権すらも奪われている。


 そのときそれを察したのかリアが裕二に温かみのある、だがどこか力強い声で言った。


「何ビビってんのよ。あの盗賊達そのうち私達のほうにも来るのよ。それなら今すぐに戦って傭兵の人達のことを助けるほうがずっといいじゃない。大丈夫よ。私とお姉ちゃんがいるんだから負けるはずがないじゃない!」


 言葉の最後にリアが裕二にニッと笑う。そのとき裕二の心の中の恐怖が少しずつだが確かに溶け始めた氷のようになくなっていくのを感じた。そして体が自由に動くようになったのを確認する。


「ありがとうリア。もう大丈夫だ。行こうか!!」


 リオとリアが頷く。そして裕二達は傭兵達と盗賊達が戦っているところへ飛び込んでいった。リオは主に魔法をメインにして少し離れた場所から支援をして裕二とリアが傭兵達と共に盗賊と戦うというフォーメーションだ。


 裕二は傭兵に教わったことを思い出しながら剣や時には水砲(ウォーターショット)風刃(ウィンドカッター)といった使える魔法も使って1人1人着実に片づけていく。


「火の玉よ!熱き炎で焼き尽くせ!火の玉(フレイムボール)!」


 リアは剣や裕二が見たことのない火属性魔法火の玉で盗賊を次々に倒していく。


「雷よ!我を守る盾と化せ!雷壁(プラズマウォール)!」


 リオも裕二が見たこともない雷属性魔法雷壁を展開させて敵からの魔法を防いでいる。リオが魔法で相手の魔法を受け止めてくれているためマシにはなったが、相手の魔導士はどうやら数人いるようで完璧には防ぎきれず少しずつこちらの人数が減っていく。


「このままでは押し切られる! 何かないのか?」


 そう言ったところで裕二は背中に担いでいるリュックを思い出す。正確には中に入っている魔法の書だ。

リュックを開くと中には魔法の書が入っていたどうやらバークはしっかりリュックにしまってくれたらしい。裕二は魔法の書をリュックから取り出した。


 そのとき裕二は盗賊の1人に接近されていることに気づく。裕二は突然のことで慌てて剣を落としてしまいピンチに陥る。それを見てチャンスだと思ったのか盗賊は裕二に襲いかかる。裕二は思わず手に持っている魔法の書を相手に向かって振り下ろす。振り下ろした魔法の書は盗賊の頭に直撃し、盗賊は気を失いその場で倒れた。


「魔法の書って超便利じゃん」


 裕二は思わず口に出す。このことをバークに話したら自分の物なのに怒られそうなので黙っておこう。このタイミングで裕二はあることを思い出し後悔した。そもそも"王の力"を使えば銃を使って戦えるのでこんなに苦労する必要はなかったのだ。いますぐに地面を転げまわりたくなったが気持ちを落ち着かせて、裕二は剣を拾って戦闘の起きている場所から少し離れる。そして魔法の書を開いてこの場を切り抜ける決定的な一撃と成り得る魔法を調べ始めた。急いでページをめくりながら魔法を探していく裕二の目にある魔法が目に留まった。


「これだ!これならいける!」


 だがこの魔法は範囲が広いため味方を範囲外に移動させないといけない。裕二は大声で叫んだ。


「何も言わずに今すぐリオのいる場所まで撤退してくれ!」


 しかし傭兵達は何を馬鹿なことをと言わんばかりにこちらの話に聞く耳を持たない。早く撤退してくれないとこっちも魔法が使えないのにと焦っている裕二の方へ走ってくる人物がいた。それは傭兵達のリーダーのリドルだった。裕二のいる場所までたどり着くとリドルは裕二に問いかける。


「さっきの撤退の命令だがあれはどういうことなんだ? 何か策があるのか」

「はい。ただそのためにはみんなに撤退してもらわないと巻き添えになるので......」

「なるほど。その策とやらであの盗賊達を倒せるのか?」

「全滅させられるはずです」

「そうか! 全滅か! ようしわかった。兄ちゃんの策とやらに乗ろうじゃねえか」

「ありがとうございます!」


リドルは大声で戦っている傭兵達に言った。


「全員あのリオって嬢ちゃんのところまで撤退だ!!」


 すると傭兵が一斉にリオの方まで撤退を始めた。

 裕二は自分のときは言うことに聞く耳を持たなかったのに傭兵全員を命令に従わせていてすごいなと素直にリドルを心の中で称賛する。


 全員の撤退が終わりリドルも頑張れよと言葉を残して撤退していった。裕二は魔法の書を片手に持つそして盗賊達を1人も逃がさないために急いで魔法を発動させた。


氷の牢獄(アイスプリズン)!!」


 裕二が魔法を発動させると盗賊全員が周辺の大地ごと凍り1つの巨大な氷の塊となった。撤退した傭兵達がいきなり氷漬けになった盗賊達を見て言葉を失っている。裕二は魔法の書をリュックに戻してリオ達のもとへ走って戻る。


 戻るとリオとリアが裕二を迎えてくれる。リオからは


「すごかったわ裕二!」


 リアからは


「まとめて氷漬けとか相変わらずとんでもないわね」


 とそれぞれから言われる。そして裕二はリドルに話しかける。


「もう終わりました」

「俺らが勝ったんだな」

「はい。僕達の勝ちです!」


 そう言うとリドルは大声で勝利を宣言する。


「俺達の勝ちだー!!」


「うぉぉぉーーーーーーー!!」


 勝利の宣言を聞いた傭兵達が歓喜の叫びをあげた。


「兄ちゃん確か裕二って名前だったな。裕二にリオとリアの嬢ちゃん達本当に助かった。傭兵全員を代表して礼を言う」

「いえ礼なんて......主に戦ったのは傭兵の皆さんなんですから」


 そう言うとリオが可笑しそうに笑みを浮かべながら裕二に鏡を手渡して言う。


「その顔では説得力がないわよ」


 手渡された鏡で自分の顔を見た裕二は自分の顔がニヤケていることに気づく。思わずリドルにすみませんと謝ると傭兵が裕二とリオのやりとりがよほど面白かったのか可笑しそうに笑い始める。


「説得力ないぞー」

「兄ちゃんしっかりー」


 といった感じの言葉も飛んでくる。裕二は恥ずかしくて顔が真っ赤になる。そのとき短時間にあまりに注目を浴び過ぎて精神的に負荷がかかったせいなのか、肉体的な疲労のせいなのか裕二の視界がぼやけ意識が遠くなっていく。そして裕二はそのまま地面に倒れた。


 薄れゆく意識のなかで裕二はみんなが周りに集まって何を言っているのかはわからないが声をかけてきているのを感じた。


「ちょっと疲れすぎたな。迷惑かけているだろうし後で謝らないと......」


 そう考えたところで裕二の意識は途切れる。




 「んっ。ここは......」


 裕二は目を覚ます。横を見るとリオとリアとリドルが座っていた。そのときリアが裕二が目覚めたことに気づく。


「あっ! お姉ちゃん、リドルさん。裕二が起きたみたい。裕二、あんた丘でいきなり倒れたからリドルさんにこの馬車の中まで担いで運んでもらったのよ。一応、本当に一応だけど心配したんだからね!」

「そっか。2人共心配してくれてありがとう。リドルさんもありがとうございます」


 裕二が礼を言うとリオは安心した表情で「よかったわ」と言って微笑み、リアはプイッとそっぽを向き、リドルは「おう」と笑って言った。


 その後裕二は傭兵達に迷惑をかけたと謝ってまわった。そしていきなりの盗賊からの襲撃もあったが出発の準備が出来たらしいということで裕二達は馬車に乗り込む。全員が乗り込むと馬車は再びガルードへ向かってゆっくりと動き出した。


 荷台の中で裕二は魔法の書を開いて役に立つような魔法を調べていた。派手でかっこよくて役に立ちそうなものから地味で役に立たなさそうなものまでたくさんの魔法について書かれている。裕二が魔法の書を読み始めてからかなり時間が経った頃、行商人から声がかかる。


「皆さんガルードの街が見えてきましたよ!」


 そう言われて裕二とリオとリア、それに一部の傭兵達が荷台から顔を出して外を見るとかなり前方に街らしき景色が徐々に見え始めてきた。裕二はRPGゲームで新しい街に着くときに似た喜びに胸を躍らせる。

 

 そして馬車はガルードの街へ入っていった。

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