#12.異世界ニートと魔法の書
王宮を出た裕二達はシャーロンの街を歩きながらこれからの方針について話していた。色々話し合った結果このシャーロンを離れて東南にある街ガルードへ向かおうということになった。リアが言うにはガルードには初心者向けの魔物討伐の依頼などがたくさんあるということだ。
交通手段を徒歩しかもたない裕二達は行商人の馬車に乗せてもらうということになったので、早速街の外側にある馬車の繋ぎ場へ向かうことにする。その途中で裕二は不意にこの世界で空を飛んでいる人を見かけたのを思い出してリオに聞いてみる。
「この街で空を飛んでいる人をたまに見かけるんだけど、僕達は飛べないの?」
「無理よ。あれは魔法道具を使って飛んでいるから私達では飛べないわ」
「魔法道具? 」
「魔法道具というのは古代に存在した魔法文明の遺物で現代の技術では解明できない魔法が付与されているのよ。空を飛ぶような魔法道具はかなりの数が発掘されていてそれほど珍しいものではないから高値を払えば一般人でも購入できるけど、とても貴重な魔法道具になると王家の宝物庫に入ったりするわ」
リオは裕二にわかりやすく説明した。説明が終わったのと同じ頃に馬車の繋ぎ場が見えてきた。遠くからでも馬車がかなりの数あるのがわかる。馬車が1つの場所にあるとすごい光景だな。
裕二達は繋ぎ場に着くとガルードへ向かう馬車はないのかその場にいる行商人に聞くと、その行商人がこれからガルードへ向かうということだった。道中の護衛を引き受けてくれるなら運賃はタダでいいし少しばかりのお礼も用意してくれるということだったので、裕二達は護衛を引き受けることにした。
裕二達が荷台に乗り込むと馬車はゆっくりと動き始めた。荷台には裕二達とは別に傭兵と思われる人が10人程座っていた。傭兵達はそれぞれ鉄の防具を身に着け剣や槍を側において座っている。傭兵達は裕二に対してすごく好意的なのだが、正直人と話すのは苦手なのでずっと話しかけてくるタイプは正直苦手だ。裕二は傭兵の人達と控えめな程度に話をした。
そのときの話でわかったのはここからガルードへ向かう道中が最近盗賊が多く出没するということだ。とりあえず心に留めておくことにした。それから裕二が剣をまともに使えないということを話すと傭兵達に爆笑されたが、休憩の時に傭兵の1人が剣での戦闘の基礎を教えてくれるという話になったので後で教えてもらうことにする。
馬車に乗り始めてかなり時間が経ったころ1度馬を休憩させるということで裕二達は1度馬車を降りた。
どうやら広い丘の上のようだ。地面は草で緑色に染まっており見晴らしがいい。リオとリアは雇い主である行商人と何か話している。裕二は傭兵に剣での戦闘の基礎を教えてもらった。
「ちょっと危ないって! 命に関わるから!」
裕二はそう言いながら全力で避ける。
「ハハハハハ。危ないと思うならもっとうまく避けるなり剣で受け止めるなりしないと実戦なら死んじまうぜ」
傭兵はそう言いながら実戦で使うロングソードをブンブン振ってくる。その後は剣の使い方を教わった。結果裕二の剣の使い方は多少マシになったらしい。その後クタクタになって近くにある座るのにちょうどいい大きさの岩に腰かける。
あーマジで死ぬかと思った。疲れたので裕二は全身の力を抜いているとリオとリアが何かを持ってこちらへ走って来た。リオとリアがこちらに来て持っていた包みを開くと味の付いた肉とパン、そして水の入った水筒が中から出てきた。
「えっこんなのどうしたの?」
「さっき行商人の人と話をして安く売ってもらったのよ。さっきからボコボコされてて疲れているのだからこれ食べてこの後も頑張りましょ」
「ありがとう。すごく助かったよ」
リオは少し頬を緩めると周囲の見張りをするとかで去っていった。
「私は別にすることがなかったから仕方なく手に入れてあげたのよ。仕方なくよ!」
「う、うん。ありがとう。とても助かったよ」
リアは少し顔を赤くしながらプイッとリオの向かったほうへ去っていった。裕二はその後どうしようか迷ったときに王宮でラウラ王妃からもらった魔法の書を読んでみようとリュックから取り出した。魔法の書を開いてみたが、そもそも書いてある言語が違うため何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。
どうしようか迷いリオやリアに聞こうかと思ったが今は見張りをしているため邪魔をするわけにもいかないと思い、他に詳しそうな人はいないかと周囲を見渡すと傭兵のリーダーでリドルという壮年の筋骨隆々と言った感じの白髪の男が休憩しているのを見つける。とりあえず手掛かりでもと思い話しかけてみる。
「あのーちょっといいですか?」
「ん?おぉ旅の兄ちゃんかどうした?」
「この本を読みたいんですけど知らない言語で書かれているみたいで。何かいい方法はないですか? 」
「その本ちょっと俺に見せてもらってもいいか?」
「あっ、はい」
裕二が本を手渡すとリドルは本を開いてさっと読むとすぐに本を閉じた。そして本を裕二に返して言った。
「こいつは解析用の魔法道具か魔法がねえとまったく読めねえな」
「解析の魔法なんてあるんですか?」
「もちろんあるぜ! だが無属性持ちじゃないと使えねえんだよ。考古学者とかの人数が少ないのも無属性持ちが貴重だからさ。だからおとなしくどっかの専門職のやつにでも相談しな」
「あのー」
「他になんかあるのか?」
「いえそうではなくて僕無属性持ちなんですけど......」
「えっ! 兄ちゃん無属性持ちなのか!こいつは驚いたそれなら解析の魔法が使えるな。ちょっと待ってろ」
そう言うとリドルは大声で誰かを呼ぶ。すると少し離れたところで武器の手入れをしていた傭兵達の1人がこちらへ走って来た。その傭兵がリドルの隣まで来るとリドルは言った。
「こいつはバークって言うんだがいろんな魔法を調べるのが好きなやつなんだ。バーク、お前解析の魔法知ってたよな。あの兄ちゃん無属性持ちだから教えてあげてくれ」
「あっ、はい!」
リドルがバークと呼んだ男は髪がボサボサの茶髪で目の下に隈ができているが優しそうな目をした青年だ。裕二とバークは近くの岩に腰かけて裕二は魔法の書を開く。バークは裕二の開いた魔法の書を覗き込んでとても見入っている。裕二がバークの肩をツンとつつくとバークはハッと我に返り謝罪してくる。
「す、すいません! つい魔法関連のものを見ると我を忘れてしまって......」
「好きなこと関連になると我を忘れるのはよくわかるよ」
実際裕二も好きなゲームの話になると止まらないことがある。そのせいで学生時代に人から引かれたことが何度かあったなと裕二は振り返る。
「それでは解析魔法をお教えしますね。まず解析したい対象に触れます。そしてこう唱えます。万物の仕組みを我に示せ!万物理解! です」
「えっ。それ言うのか?」
「はい。そうですけど」
バークは不思議そうに小首をかしげる。なぜ裕二がその呪文を言わないといけないのかを確認したのかと言うと呪文の内容がちょっと恥ずかしくないか? と思ったからだ。これからもその解析魔法万物理解を使いたいときにこの呪文を言うのは想像するだけでゾッとする。だがバークが小首をかしげているところを見るとどうやらこの世界ではこんな厨ニっぽい呪文でも言うのは常識といった感じなのだろう。それでも裕二は聞いてみる。
「この呪文言わずに魔法を使う方法ってない?」
「一応ありますよ。その魔法の名前を言うだけで使えますけどただし相当魔法の素質がないとできないそうです」
「素質かー。自信ないけどやってみるかな。万物理解!」
すると魔法の書が青く光り始めた。
「うわ!びっくりした。でも一応呪文なしでもできるみたいだな」
「すごいです! 呪文なしで魔法を使うなんて!」
「いやー。そんなことはないよ」
おそらくこの魔法の素質とやらも"王の力"によるものではないかと思っているのでガチで謙遜しているつもりはないのだ。とりあえず万物理解で解析した本の中身を見てみた。どうやらこの本は存在する様々な魔法やその使い方が明記されている魔法辞典とでもいうべき物のようだ。王家の宝物庫に保管されていたことから貴重な物とはわかっていたがこんな便利アイテムだとは思っていなかった。
バークは解析が終わったこの魔法の書をすぐにでも読みたいと言わんばかりに鼻息を荒くし目を輝かせている。なので読み終わったらリュックに入れておいてとバークに伝えて少しの間魔法の書を見せてあげることにした。そして裕二はリオとリアにずっと見張りをやらせているのも申し訳ないので見張りを代わろうとリオとリアを探すと丘を少し下ったあたりで傭兵と話をしている。リオとリアを見つける。
「リオ、リアお疲れ様。見張りの役は僕が代わるから2人は休みなよ」
「ありがとう裕二。私達は休ませてもらうわ」
「その、ありがと」
リオとリアがそれぞれお礼を言って戻っていこうとしたときのことだった。傭兵が1人丘の上のほうから必死に走ってくるのが見える。どうやら何かがあったようだ。




