#10.異世界ニートと皇子の決闘
裕二達は王宮にある騎士団の練兵所へやってきた。裕二とジャーバン皇子は練兵所の広場にて向かい合う。少し離れたところからリオとリアやユグド王とラウラ王妃、大臣達が裕二とジャーバン皇子を見ている。審判をする騎士が裕二とジャーバン皇子の中間に立って言う。
「ルールは相手に一撃与えたほうの勝ちとする。殺すことは禁止だ。両者問題ないな?」
裕二と皇子は頷く。そして騎士は裕二と皇子に木の剣を渡す。つまりこの木の剣を使って戦えということだろう。裕二は木の剣を前に持って構える。皇子は剣を持って見たことのない構えをとる。もしかして皇子って剣術とかできる人とかか?それともただのかっこつけか?できれば後者であれば助かるんだけど......と裕二は考える。そして皇子はこちらを見ながらニヤニヤしている。
「それでは始める。はじめ!!」
騎士の合図に合わせて決闘が始まった。皇子が素早くこちらへ近づき剣を横に振る。裕二は後ろに飛び攻撃を回避する。裕二は冷や汗をかきながら思ったことをついうっかり素直に言葉にする。
「デブのくせに思ったより素早いな。しかもやっぱり剣術できるやつだろあれ。道理でニヤニヤしてたわけだ」
その言葉を聞いた皇子の顔がみるみる内に赤くなっていく。どうやら相当お怒りのようだ。
「貴様ー!この私を愚弄するか!貴様は徹底的に追い詰めてから一撃を与えてやろう。貴様の怯えて許しを請う姿が目に映るようだ」
そういうテンプレセリフ言うと負けるフラグ立つぞーと正直に言葉にしてしまいそうになったがギリギリのところで言葉を飲み込んだ。さすがに同じ失敗はしたくない。さすがに剣の経験者に対してまともに剣でやりあってもまったく勝てる気がしないので、別の方法を考える。
「飛び道具でも使えればなー」
ふと裕二は呟いた。銃を使うことも考えたが、もし銃のようなこの世界の人が見たことのない武器を使って勝利しても結果に不満が出てきそうなので使えない。だが他の飛び道具が思いつかないでいると、どうやら考えるのに夢中になっていたようでもう眼前に皇子の剣が迫っていた。
裕二はその剣をギリギリかわす。攻撃に移ろうにもどうすればいいものかまったくわからず考えているとまた皇子の剣が迫ってくるのであまり考える余裕もない。その後も皇子の剣を自分の剣で受けたりかわしたり繰り返していた。
「フハハハハ! かわしているだけで勝てるわけがないだろう」
皇子は余裕の笑みを浮かべながら僕に向けて剣を振り回している。皇子の剣をかわしたときに裕二は後ろにバランスを崩し尻餅をつく。そこへ皇子の剣がこちらへ迫る。裕二は剣で皇子の剣を受けつつさっと何か役に立つものは無いかと急いで周りを見回すとリオがこちらへ向けて口をパクパクさせて何かを伝えようとしてるのが見えた。
裕二は皇子の剣にも集中しつつリオが僕に伝えようとしている言葉を読み取る。ま・ほ・う? 魔法!
「あっ! あるじゃん飛び道具」
裕二は思わず口に出す。そして皇子が斜め上から大きく剣を振りかぶろうとした瞬間、裕二は呪文を口にする。
「風よ、空を裂け! 風刃!」
裕二は風の刃で皇子の手から剣を落とさせるためにかなり弱めに風刃を使ったのだが、どうやら加減を間違えたらしい。風の刃は皇子の剣を落とさせるどころではなく皇子の剣の刃と柄を真っ二つにし、皇子の顔のすぐ側を通過するとそのまま騎士団の練兵所の壁を一部破壊してしまった。
皇子はポカンとした顔で座り込んだ。どうやら放心状態のようだ。裕二はやっちまったなーと思いながら周りを見回すと見ていたリオとリアやラウラ王妃、大臣達が大きく目を見開いている。そしてただ一人風刃を見ても顔をピクリとも動かさず、微動だにしなかったユグド王が覇気のある声で審判をしている騎士に言った。
「審判、判定を下せ」
「はっ、勝者山野裕二!」
裕二はホッと安堵のため息をつく。皇子のほうはお付の方々によって運ばれて行った。裕二がユグド王のほうに歩いて行くと大臣達が拍手で僕を迎える。そこへリオとリアがこちらへ走ってくる。そしてリオが裕二に寄りかかって言う。
「裕二、とてもかっこよかったわ。私を助けてくれて本当にありがとう」
裕二は照れながらリオの頭を優しく撫でて言った。
「まあ、その、なんだろう......仲間なんだし.......えーっと」
正直自分でも何言ってるかよく分かんなくなってきた。裕二が言葉を紡ごうと口をモゴモゴさせているとリアが後ろから裕二に抱き着いてきた。裕二は驚いて振り返ろうとしたが前にリオ、後ろにリアがくっついて動けないのでそのままの状態でリアに聞いた。
「ちょっ! いきなりどうしたんだ?」
「お姉ちゃんを助けてくれたご褒美よ。ありがたく私にくっつかれてなさい!」
どうやらこれはリアなりに裕二に感謝しているということなのだと思う。個人的には美少女2人にくっつかれるのは夢にまで見たハーレム状態というやつを体験しているかのようでとても嬉しいのだがどうにも少し離れているところで見ているユグド王、ラウラ王妃や大臣達が温かな目でこちらを見ているという状況がどうにも恥ずかしい。裕二は恥ずかしい気持ちを隠して作り笑いを浮かべる。
リオとリアにくっつかれるのはとても嬉しいのだがとにかく今は逃げ出したい気分だ。そこへユグド王が裕二に声をかける。
「裕二君だったかな。先程の決闘は実に見事であった! 話したいことは色々あるのだが疲れただろう。部屋を用意するからそこでしばらく休むといい。話はその後でも問題ないだろう?」
「はい。ありがとうございます」
裕二はユグド王にお礼を言って、リオとリアにはまた後でといったことを言ってから城のメイドさんに連れられて部屋に入った。相変わらず城の中はどこも豪華なようだ。但し牢屋は除くが。裕二はベッドに横になると疲れていたためすぐに眠ってしまった。
裕二は不思議な空間を歩いていた。どこを見渡しても真っ白な空間がただ広がっている。これは夢だなと裕二はすぐにわかった。とりあえず適当に真っ白な空間を歩いてみることにした。
だがどれだけ歩いても真っ白な空間が広がっているだけである。
「どこまで歩いても何もないな。普通の夢にしてはすごい疲労感があるんだが」
裕二はそう言いながらまた歩き始める。夢なら早く覚めてほしいものだと思う。しばらく歩いたところで裕二は休憩しようと思って座ろうとしたとき目の前にいくつもの火柱が現れる。
「うわっ! 休憩しようとしてたところでいきなり何なんだよ」
裕二はそう言いながら少し距離をとる。すると脳に直接声が響いてきた。
「汝、我らにより受け継がれし万能の力の器と成り得るか試させてもらおう」
そこまで言われたところで裕二は目が覚めた。なんだか妙な夢だったなと思った。裕二はなんだか甘くていい匂いがするということと手を誰かに掴まれていることに気づき、頭をその方向へ向けるとそこには穏やかに寝息をたてて眠っているリオの姿がそこにあった。
裕二はその時点で顔が真っ赤になり、どうなってんの? と心の中で疑問を叫びつつベッドから離れようとする。しかしリオが掴んでいた手を急に引いたためバランスを崩しベッドにまた倒れる。そのとき掴まれていた手がそこにあったものを掴む。
「ん? なんだこれ少し膨らんでで柔らかいな。これは一体......」
そう思って顔を上げると裕二の手はどうやらリオに掴まれてリオの胸元に置かれていたようだ。リオは「んっ」といった声を寝息に交じって出した。裕二は状況からどうやら自分が触っていたのがリオの胸だったことに気づく。裕二は急いでリオの掴んでいた手を外す。そのときリオが目覚めたようで、裕二は作り笑顔をつくる。
「リ、リオおはよう」
「? おはよう裕二」
何もおかしな点はないかのように挨拶を交わし起き上がるリオに裕二は思わず聞く。
「なんで僕の部屋で寝てるの?」
「あら、不味かったかしら?」
リオは別におかしなところなどあったのか?という風に小首をかしげてさえいる。なので裕二は何が不味いのかリオに説明しようと試みる。
「だから何が不味いのかというとね......」
「冗談よ。裕二の言いたいことはわかっているわ。何も言わずに勝手に部屋に入ってごめんなさいね。次からはあらかじめ先に言ってからにするわ」
「いやそういうことじゃ......」
と言ったところでリオは話題を変える。
「ところでこの寝巻どうかしら? 新しく買ったものなのだけれど」
リオに聞かれてさっとリオの着ている寝巻を見る。リオが着ているのは黒いネグリジェだ。リオの銀色の髪と相まってとても可愛いし似合っていると思う。
「すごく可愛いと思うよ」
「ふふ。そうかしら。今度からこれを寝巻にしようかしら」
リオが嬉しそうに言っていると誰かが部屋をノックしてきた。
「裕二様。お目覚めでしょうか?」
「あっはい。起きてます」
「ご朝食が出来上がりました。それと服のほうは今洗っておりますのでこちらをお使いください」
そう言ってメイドさんが中に入るとこちらを見て顔を真っ赤にして「失礼しました」と早口で言って服をおいて急いで部屋から出て行った。あれ何かおかしな点でもあったかな? と小首をかしげて裕二は周りを見渡すが特に何もない。するとリオがクスッと笑って言う。
「どうしたのかしらね?」
「さあ何かおかしなところでもあったかな?」
裕二はそう言いながらリオを見ているとやがて何がおかしかったのかようやく思い至る。1つの部屋に若い男女でベッドに入っているのを事情を知らずに見たら、いわゆるそういうことをしていたと見えるのだ。
「おかしなところバリバリあるじゃん!」
裕二はつい数分前の自分にツッコミを入れる。
「あら、気づいてしまったのね」
リオはそう言って小悪魔的な笑みを浮かべる。
「てか気づいてたのか。気づいてたなら早く言ってくれよ」
「だってそのほうが面白そうだったものだから」
「これ絶対城中に伝わるんじゃないの?」
「ええ。もちろんそうなるでしょうね」
そう言ってリオはベッドから出る。裕二が言葉発しようとしたところでリオは言った。
「今から着替えるから、こちらを見ないようにしてほしいのだけれど」
そう言われて裕二は言葉を発するのをあきらめて慌てて目をつぶって後ろを向く。それにしても朝からいろいろとあったな。そしてついリオの胸の感触を思い出して顔を真っ赤にしてしまう。
「もういいわよ。私は先にダイニングルームにいるから裕二も着替えてから来て」
リオはそう言って部屋から出て行った。そして裕二は目を開けてメイドさんの用意していた服に着替える。用意された服は貴族とかが着てそうないかにも高そうといった感じの服で正直そわそわして落ち着かない。服が戻ってくるまでの辛抱だと思って裕二は部屋を出てダイニングルームへ向かった。




