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黒鬼の旅  作者: 葉都綿毛
第三章 死面の篝火
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青い魚

灰銀色の髪が、ふわりと舞っている。

青銅色の目の奥、黄金の瞳孔が青柳を見据える。

花びらのような唇が、弧を描く。


美しい魔物の女が、そこにいた。



「ガラディー…、どうやっ、…どッ、こに、出口が?!」


と、抱きしめてくるガラディーの大きな胸に狼狽えながら、青柳は後ろに視線をやる。


(??!)


青柳を襲っていた黒い異形たちが、皆、動きを止めていた。

振り上げた槍の手も、こちらに向かって走る足もそのままに。

のっぺらぼうの黒い顔は、青柳の方を向いている。

けれど、青柳に向けて放っていた苛烈な殺気は消えていない。


「ふふ、ありますわ。どんなところにでも…。」


ガラディーは、青柳を腕の中から離し、赤い血で汚れた手を握りしめる。


「死は、どこにでも落ちているものですから。」

「え?」


女は、青柳の手を引いた。


赤く、鈍く光る地面を滑るように進んでいく。

そうすると、ガラディーの足先が触れる度に、赤い地面が黒くなり、その中を蔓のように青と緑の光が伸びていく。

沈んでいた真っ白な死体にも、青と緑の光の蔓は絡まっていく。


「わたくしは…、わたくしたちディポクシャジャラは、様々な者たちの死体を食べて生きています。ですから、死体の在処を見つけるのは得意なのです。

「…死体の在処…?…オレだって、獲物を狩って食べるぞ?それも死体だ。一緒だ。」

「わたくしたちは、わざわざ生きている者には手を出しません。あくまで、死に落ちて朽ち果てていくばかりの死体しか食べないのです。生者に手を出すのは禁忌なのです。」

「きんき…」

「手を出したら死刑、ですわ。」

「死刑ッ?!」

「ですから、ディポクシャジャラには皆、死体探知能力があるのです。」


それは、無い者は必然的に生者に手を出し消されてしまう。

淘汰の結果ではないか。


(怖い一族だな、でいぽくしゃじゃらっ!)


何でもかんでも、食べられるものなら食べるという出不精《引きこもり》な青柳の背中がぶるりと震える。


「あのジャージィカルの作った牢獄なら、死体などゴロゴロありそうで、侵入することなど容易いと、そう思っていたのですが、なかなか見つからなくて……」


振り返ったガラディーは、青銅色の目を細めて微笑みを浮かべていた。


「ですが、宝物にしている方がいて助かりましたわ。アオヤギもちょうどここに居ましたし。」

「宝物…?…って、?、…この死体たちが…?」

「ええ。」


辺りの赤い海の中に沈んだ白い死体を指し示す青柳に、ガラディーは頷く。


(この人たちは、アラキムに食われてるんじゃないのか?)


「とても、大切な方々なのでしょうね。ずっと、守ってきた…。」


ガラディーは、動かなくなった黒い異形を見て目を細めた。



「もう決して奪われたくはないと…」



(守ってって、)



黒い異形たちは、変わらず青柳に向かって殺気を放っている。



(そんなの)



--燃える里を背に、崖から落ちるは一人の女-ー



青柳は、黒い異形に向かって叫んだ。



「なんもしねーよッ!バー-カッ!バーカ!バカ野郎ッ!!」



黒い異形の殺気が更に増す。




「ふふ」




辺り一面に沈む真っ白な死体に、色が花咲いた。



白泥の髪が、銀色に、


白泥の身体が、褐色へ、



若い女、男、

小さな子供、

老いた人、



同じ色彩を身に纏う人間たちが姿を表した。



その姿は、ただ、ただ、眠っているかのよう。



(なッ、んだこれ?)



魂が、見当たらない。

だから違う。

それは違うのに、言葉が転がり落ちる。



「…生き返った?」

「いいえ。ただ、元死体喰らいの生き物の、得技ですわ。」

「…そっ、…か…。」

「さぁ、行きましょう、アオヤギ。」

「ッ?!」



女の白い腕が、青柳を引き込む。



闇が降り積もり、

咲き乱れる青と緑の光花の間、

落ちて眠る死体の沼へと--ー。



沈む青柳の視界に、黒い異形たちが、死体たちへと歩みを進める姿が見えた。








◆◆◆




緑色の瑪瑙めのうのような目が、茶色の雲が浮かぶ空を見上げた。



ひとつ、

またひとつと、

その視線は増えていく。




ひとところを見ていた。




黒白の人鳥の群れから、甲高い鳴き声がひとつ、つるりと上がった。



それを皮切りに、方々から上がる鳴き声。




◆◆◆













夜の沼底のようだった。


青柳は自分の手を引く者の姿に、目を凝らす。

黒い霧のようなものが幾重と重なり、視界が悪い。

前にはガラディーがいるはずなのに、人の姿とは違う灰銀色の何かが見える。


鱗だ。


(出会った時は、ワニってヤツの姿だった。それなのか?…けど、)


鳥の翼のようなものも見える。


獣のような毛並みもある。


(不思議な姿だ。)


上機嫌な風の、含み笑いが聞こえた。


(よく見えねェな。)


暗闇の中、灰銀色の長い尾がくねる。


(なんだか、視界が、)


ガラディーらしき者が、立ち止まる。

振り返ったようだ。


【…あら?!まあッ…たッ大変…、なんて大変…ッ】


大きな影から、野太い声が発された。


【かわいいですわッ!!】


(ん?)


その言葉に、青い小魚は、身体を左右に揺らしながら頭を上げた。















◆◆◆




皆が言った。




【イタぞ】




茶色の雲が浮かぶ空がグニャリと曲がる。




【あいつガ】




【いた】




黒い海が、生き物のように蠢いた。






【イたんシャガ】




◆◆◆


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